謎の黒騎士
「よっ!誠、今日は何もない様だな」
「兄さんこそ原稿間に合ったのかよ」
「ああ、実は俺、東西新聞が出している雑誌でしばらくルポルタージュを書くことになったんだ。テーマは少年犯罪のこと」
「兄さんが少年犯罪のことをテーマに書くなんて珍しいじゃないか。どうしたんだよ」
「お前が最近子供たちの犯罪にすごく心を痛めているから、少しは俺も子供たちの置かれている立場を、もっと社会に訴えようと思ってね」
夕闇が迫る四月のある日、二人の男が白金台駅の近くを歩いている。それぞれ年齢は五十代前半で、一人は真っ白なコットンのシャツにブルーのチノパンを合わせており、ブルーのジャケットを上から羽織っている。もう一人の男は、黒っぽいグレーのスーツにクリーム色のワイシャツと紺のネクタイを合わせている。
この二人の名前は黒田一郎と黒田誠。一郎の方が誠より二歳年上だ。一郎の仕事はフリーのジャーナリストで、取材の為に家にいないことが多い。しかし、五年前一郎が書いた記事がきっかけで、ある大物政治家の悪事が暴かれたことがありマスコミの間では一目おかれているのだ。誠は警視庁広域捜査課の課長で位は警部だが、自らも事件現場に赴き陣頭指揮をとる事が多い。二人とも家は離れているものの白金台界隈に住んでいる。
その時後ろから、
「お父さん、おじさん、ただいま!」
と真っ赤なスカーフがアクセントになっている紺に白いラインのセーラー服姿の少女が、誠の背中をぽんぽんとたたいてきた。
「おっ、かおりじゃないか。おかえり」
誠は優しく言った。
少女は誠の娘の黒田かおりで、城北学園大学付属高校の三年生だ。今どきの高校生らしく少し赤みがかったオレンジ色の口紅をつけ、髪をポニーテールにしている。
「そういえば小夜ちゃんはどうした?」
「そうね、もうそろそろ帰ってくる頃なのに」
一郎とかおりが駅の方を見やると、
「バンドの練習で少し遅くなるって。あ、小夜子が帰ってきたら外で食事しようか」
と誠が答えた。
「そうだね。どうかお父さんに急な呼び出しが入りませんように」
かおりはそう言ってお祈りのしぐさをして見せた。
「まったくかおりは大げさなんだから」
「なに言っているのよ!お父さんに何かあったら困るのは私たちなんだからね」
デコピンでつっこむ誠にかおりはローファーで足を踏みつける。
「痛い痛い、やめろってもう」
誠は苦笑いしながら逃げ回っていた。
その頃、城北学園大学の近くの貸しスタジオでは、かおりの姉の黒田小夜子が、仲間と自分たちのバンド「フラッシュ」の練習に打ち込んでいた。
希望がなかなか見つからない荒んだ大都会
何を信じればいいのかわからないけれど
それでも僕らは歩き続ける 今この時を
小夜子の力強いボーカルが響く中、エレキギターとキーボードが優しくハーモニーを奏で、ドラムが命の音の如くリズムを刻む。小夜子は城北学園大学社会学部の二年生で、ミディアムボブをさりげなくカラーリングし、カルバンクラインの白いTシャツにデニムシャツとブーツカットのジーンズを合わせている。
やがてドラムの音が止まり、
「そろそろ上がりにしよう」
とドラムパートの男の声が響く。
「お疲れ」
小夜子はボルヴィックを一口飲みながらバッグを取りにいく。ちょうどその時小夜子の携帯電話の着うたが鳴った。
「もしもし」小夜子はバッグを肩にかけながら電話に出る。
「あ、お姉ちゃん。練習終わったの?」
かおりの声が聞こえてきた。
「今終わったわ。どうしたの?」
「お父さんが外で食事したいって。急いで帰ってきて」
「じゃあお父さんと一緒にアミューズの前で待ってて。七時には何とか行けると思うから」
「オッケー、じゃ七時にね」
小夜子はかおりが電話を切ったのを確認して自分の携帯電話の電源を切ると、愛用している白いバンディットに乗り込み、一度家に戻った。そして小さな白い革のポシェットに荷物を入れ替えると、アミューズショッピングセンターに向かった。
時を同じくして、大手町にある東西新聞社の社会部では、一人の新聞記者が最近御茶ノ水の東光大学病院で起きているある事件についての記事を書いていた。がっちりとした体格を包むベージュのジャケットが若々しいムードを漂わせ、きりっとしたりりしい目元が男らしさを際立たせている。彼の名は黒木哲夫といい、元は将来を嘱望された警察官であったが、ある事件がきっかけで辞職し、新聞記者になったという異色の経歴の持ち主である。
「ややこしいことになってきたな。この事件にはきっと何か大きな裏がありそうだ。東光大学病院……あれほど立派な設備を持っているところで、どうしてこんな事件が起こるんだろう。きっと何かあるぞ」
パソコンに向かって記事を編集しながら、哲夫はつぶやいていた。
「哲夫」その時哲夫の上司で社会部長の木下俊一が声をかけてきた。「東光大学病院の件だが、また一人患者が亡くなったらしい」
「なんだって!」
「どうやらお前が前からにらんでいた通り、この事件にはとんでもない裏がありそうだ。急いで病院に向かってくれ。それから黒田にもこの件については取材させるから」
俊一が言った。俊一と哲夫は大学時代のサークル仲間であるため、気軽にお互いを名前で呼んでいる。
「俊一、実は俺も同じこと考えていたよ」
哲夫が言った。
「場合によってはお前の相棒にもこっちから何か頼むかもな。そういえばフィリピンの現地ルポはまとまったか?」
俊一が聞く。
「ああ、もう少しのところまできたぜ。竜治にも助けてもらったからね。じゃあ行ってくるよ」
哲夫はそう言って社会部の部屋を飛び出すと、シルバーのセフィーロに乗り込み、東光大学病院に向かった。
夜七時過ぎ、誠と一郎、かおりは、小夜子と合流していた。辺りはすっかり暗くなり、白金台駅前は家路を急ぐ人々でごった返している。
「遅くなってごめんね。荷物の整理に時間がかかっちゃった」
小夜子が白いスニーカーの紐を直す。
「お腹すいたよぉ。何食べる?」
かおりは待ちくたびれたのか、ベンチにしゃがみこんでしまった。その様子はいかにも退屈そうである。
「チャイナルージュに行くか?」誠が聞く。「今から買い物して帰ってからご飯作りとなると遅くなるだろうから」
「いいよ」小夜子が指でオーケーサインを作った。かおりと一郎もこっくりとうなずき歩き出そうとした。とその時一郎の携帯電話が鳴った。
「おっとっと」一郎はあわててジャケットから携帯電話を取り出す。「もしもし」
「一郎か、俺だ。黒木だ」
哲夫の落ち着きのある低く太い声が返ってきた。
「哲ちゃんか、どうしたんだ」
「取材で今東光大学病院にいる。例の事件でまた患者が死んだらしいんだ」
「なんだって!」
「俺の職場の俊一から言われて今取材しているけど、もし忙しくなければこっちの方も協力してくれないか。二本立てになってしまって、申し訳ないが」
「その事件のことは俺も何となく気になっていたんだ。もちろん手伝うよ」
哲夫の申し訳なさそうな口ぶりに、一郎は気にするそぶりを見せずに答えた。
「十時までには家に帰れると思うから、その時までにファックスを入れてくれないか」
「了解、じゃあ後でな」
哲夫が電話を切った。
その様子をうかがっていた誠が、
「どうした、兄さん」
と聞いた。一郎は、
「哲ちゃんからの電話だ。……誠、東光大学病院での一連の事件では何か動きがあるのか」
と聞き返した。
「ああ、新薬の副作用か何かで、何人か患者が死亡してしまった話のことか。また何かあったんだな」
「また一人、患者が亡くなった」
「なにっ!」
「それで、哲ちゃんと共同で仕事をすることになったんだ。詳しいことはこれからだが」
「ということは、哲ちゃんは今現場の方か」
「ああ」
その時、「お父さん、おじさん、早く行こうってば」かおりがふてくされるように誠と一郎のいる辺りをうろつく。誠は、
「ごめんごめん」
と言ってアミューズに入ると、エレベータ乗り場を探し、ボタンを押した。
アミューズは地下一階地上六階建てのショッピングセンターで、小夜子たちが行くチャイナルージュは六階にある。四川料理が特に評判がいいが、中華ならなんでもござれのお店で、比較的リーズナブルなことから夜はいつもにぎわっている。店内に入ると、小夜子たちは思い思いに好きなものを注文した。
「こうやって皆そろって外で食事するのも久しぶりだな」
誠がしみじみと言う。
「お父さんが忙しくて三人そろって晩ご飯も久しぶりだもんね。今日はお父さんに思い切り御馳走して貰おうっと」
小夜子がちゃめっけたっぷりに言った。小夜子とかおりは五年前に母親を亡くしており、普段は二人で協力して炊事をしている。だがついつい簡単なメニューで済ませてしまいがちになるため、父である誠が忙しくない時には研究がてら外で食事をすることも多く、小夜子はほっとできるためひそかに楽しみにしているのだ。
「そうそう、こういう時じゃないとおいしいご飯は食べられないからねぇ」
かおりが茶化すように言った。
「こら、お姉ちゃんも頑張って作っているのに失礼なんだから」小夜子が軽くかおりのローファーを踏みつける。「スクランブルエッグ作った時に牛乳入れ過ぎて、ぐちゃぐちゃにしたのはだぁれ?」
「しまった。それを言われると弱いや」
かおりが舌をぺろりと出した。その時、
「お待たせしました」
とウェイターが手慣れた様子で料理を運んできた。
「うわ、豪華だな」
一郎は目を丸くした。一郎はテレビ局記者時代にあまりに多忙だったため未だに独身であり、料理は得意だが手の込んだ本格的なものを作るのは少し苦手なのだ。
「ああ、やっぱりここのはおいしいわ」
チャーシュー麺が大好きな小夜子が、麺を一口食べて言った。小夜子はチャイナルージュに入るとよくチャーシュー麺を注文するが、チャーシューがおいしく、特にお気に入りなのだ。
「小夜ちゃん、バンドの方はどうだい?」
チンジャオロース定食を頼んでいた一郎が聞くと、
「十月の学園祭に向けてかなり忙しいわ。スタミナ付けておかないと勉強やバイトとの両立も大変よ」と小夜子が言った。「ゼミの宿題もかなりレベルが高いし、レポート作るのも大変なんだから」
「お姉ちゃんがバンドのことですっかり入れ込んじゃっているから、最近私はお父さんが忙しくない時以外は学校終わった後も一人なんだよね。さびしいったらありゃしない」
エビチャーハンを頼んでいたかおりが割り込む。
「そういうかおりもダンスのレッスンは厳しいんじゃない?」
「うん、かなり高度な振り付けも出てくるようになった。先生は優しいけどレッスン中はすごく厳しい。レッスンの後のスムージーはとびきりおいしいけどね」
「二人とも充実しているようだな」一郎が優しく笑う。「夢中になれることがあるのはいいことだ」
「でも最近中高生の犯罪が増えているのが気になるんだよ。近所の子供たちに声をかけても話しかけてくれないし、学校も荒れるばかりで活気がないとも聞くから」誠が心配そうに言った。「俺が駆け出しだったころ、不良と呼ばれる子供たちは結構いたけど、殺人事件を起こすような子はいなかった。立ち直って元気にしている奴もたくさん知っているから…。どうしてこんなにおかしくなっちゃったのかな?」
「夢のない世の中だからってこともあるぜ。なんでもお金お金ばっかりだからさ。それに悪い大人が世の中にうようよしているから、目標にしたい大人が見つからないんだよ」
一郎が答える。
「せめて学校に行くのが楽しいという子供たちが増えれば、また違うんだろうな」
誠はそう言うと卵スープを一口すすった。
「哲ちゃんもそれは言っているね。あいつは武道も得意だから、ナイフを持つ子供たちが問題になった時もすごく心配していたし」
一郎も同感と言いたげな言葉を返した。
「黒木さんも大活躍ね。国内だけじゃなく海外も飛び回っているんだから」
小夜子が言った。小夜子は父の友人でもある哲夫をとても尊敬しており、かおり共々本当の娘のように可愛がられているのだ。
「ベトナムのレポートもすごく考えさせられたわ。ベトナム戦争って私たちが生まれる前の出来事だけど、アメリカ軍が散布した枯葉剤の影響で、いまだに奇形のハンデのある赤ちゃんが生まれる話には胸が痛くなったわ」
「哲ちゃんは、海外取材の時には現地で今何が起きていて何が問題になっているかを徹底的に取材するからね。現地の人とも積極的にコミュニケーションを取るし。俺も見習わないと」
一郎が言った。
東光大学病院。ここは高度先進医療やスポーツ医学に力を入れていることで全国的に有名な総合病院である。お茶の水駅からも近く、特に心臓血管外科のスタッフの充実ぶりが目立っている。その内科病棟では、肝細胞がんの患者への対応に医師と看護師が追われていた。一人の内科医が看護師とともに病室に向かい、輸液とともに抗がん剤を患者に投与していく。
一方ナースステーションでは、患者からのナースコールが鳴り、看護士があわてて別の病室に飛び込む。そこでは抗がん剤の副作用に苦しむ患者がうめき声をあげている。
「ゼトラマックスは正しく他と併用されているのか」
「はい、ですが患者さんには強すぎるようで」
「おかしいな。よくある副作用はともかく、普通の抗がん剤ではありえない副作用があるとでも言うのか。いったいどうなっているんだ」
あわてて駆けつけた医師が看護師に事情を聴いている。
東光大学病院ではここ一カ月の間抗がん剤がらみの死亡事故が相次ぎ、緊急対策チームを立ち上げたばかりである。だが中々原因がつかめず、現場の対応は後手になっていた。
「薬剤部の調査データはまだなのか」
「はい、現在原因は調査中です」
「まったく…以前からあの薬の投与には相当なリスクがあると聞いていたが、ここにきて急に何件も出てくるなんておかしいよ。副作用のチェックは相当厳しくしているのに」
医師と看護師は静かに病室を出て行った。
一時間後、食事を終えた小夜子たちは一郎が運転するネイビーのスカイラインに乗り、家路につく途中だった。小夜子たちの家は白金台駅から南へ約二キロ下ったところにある。車なら十分ほどの距離だ。ところが夜八時になり交通量もかなり減ってくる中、一郎が運転しているスカイラインにピタリと張り付く車に誠が気づいた。
「兄さん、後ろの車気をつけて」
「わかった」
誠の言葉にうなずく一郎。その目がとらえたバックミラーには黒塗りの車が映っていた。交差点が近づき、一郎は信号を右折する。ところが、スカイラインをはさみうちにするように前後から黒塗りの車が体当たりしてきた。回避しようとハンドルを切った一郎だが間に合わず、スカイラインはヘッドライトのあたりをめちゃめちゃにされ、ボンネットのエンジンルームまで破壊されてしまった。
かおりが泣き叫ぶ。その時、
「このままじゃみんな死ぬぞ、脱出だ!」
と誠が叫んで助手席のドアを開けた。一郎とかおり、小夜子もドアを開けて外に出る。そして四人が駆け出した瞬間、大爆発とともにスカイラインは炎に包まれた。そして黒いスーツの男たちが四人に襲いかかってきた。
「小夜子、かおり、早く逃げろ」
誠が男の一人を投げ飛ばしながら言った。
小夜子はかおりと家を目指して走り出す。小夜子たちの家は、交差点を右折して六百メートルほど先だ。しかしかおりが道路のでこぼこに足を取られ転んだところに、男たちの影が迫っていた。小夜子はかおりのそばに戻ると合気道の小手返しを男の一人に浴びせ、もう一人を四方投げで投げ飛ばした。かおりも男の股間に蹴りを入れる。そこへ誠と一郎が追い付いてきた。が、別の車から男たちのリーダーらしい者が現れた。
「お前に動かれちゃ困るんだ。黒田一郎!」
その男は低くはっきりとした口調で言った。
「お前さんが探りを入れている東光大学病院の事件には、我々の秘密が絡んでいるのでね、マスコミに出されたらまずいし、秘密を知られてもまずいのですよ」
「なにっ!」
一郎と誠はさっと身構えた。
「どこで俺の名を知ったか知らないが、例え貴方達が俺を殺しても何の得にもならないぞ」
一郎は毅然として言った。その言葉には、一人のジャーナリストとしての誇りと、自分なりに悪と戦う思いがにじみ出ていた。「それに私の弟は刑事だ。ここで事を起こしたら、皆さんは即刻現行犯逮捕ですよ」
「何だと!証拠を見せろ」
別の男が怒鳴ると、
「警視庁広域捜査課警部、黒田だ。すでに皆さんの一部は器物損壊の現行犯ですよ!」
と誠が警察手帳を見せた。その目はすっかり刑事の真剣な目に変わっていた。
「我々の邪魔をするのならこうしてやる。女だろうとかまわん、やっちまえ!」
リーダーの男が言った次の瞬間、男たちが一斉に銃を発射してきた。必死になって誠と一郎が、小夜子とかおりをかばいながらそれをよけるが、一郎をかばった誠が腹部を撃たれてしまった。
「誠!」
とっさに傷ついた誠をガードしようと一郎がすかさず飛び込むが、肩口と腹部を撃たれてしまった。
「お父さん!」
「おじさん!」
小夜子とかおりは、父と伯父を助けようと、男たちに応戦しながら駆け寄ろうとした。が、その時かおりががっしりした体格の男に投げ飛ばされてしまい、気を失ってしまった。
「かおり!」
小夜子はかおりを助けようとしたが、その背後から右肩目がけて2発撃たれてしまい、その後腹部を撃たれてしまった。
「うっ!」
小夜子は膝をついたがすぐに立ち上がって、男たちに膝蹴りを入れたが、苦しそうに倒れ込んだ。
「小夜子!」
誠が体を起こそうとしながら、苦しそうに言った。
「かおり…」
小夜子はかすれた声で言って、うつ伏してしまった。しかし、意識が薄らいでいく中、小夜子は地面を這ってかおりの方へ向かおうとした。
その様子を見ていた男たちは、かおりを自分たちの車に連れ込んだ後、
「お前の娘はもらっていくぜ、刑事さん」
「まあ三人ともこのままだとお陀仏だろうけどな」
と言った後、
「ハハハハ…」
と不気味に笑った。
「ちくしょう!」
一郎が苦しそうに言いながら誠を気遣っていた。そして急いで自分の携帯電話を取り出し、一一九番しようとボタンをプッシュした。スーツが血で染まっていたが、一郎は必死に力を振り絞っていた、何とか皆を助けなくては。生きて帰って、あの男たちのしていることが何なのかを突き止めなければ。一郎はその思いから、残った力を振り絞って立ち上がった。
その時だった。
「うあっ!」
闇夜を切り裂く稲妻の如く、黒いブーメランが宙を待った。その瞬間男たちの一人が、肩口をブーメランで斬りつけられて倒れ込んだ。
そして、低く太い男の声が響いた。
「そこまでだ、お前たち!」
次の瞬間、全身を黒豹の姿を模したメタルアーマーに包んだ戦士らしき者が、闇夜に舞うつむじ風のように物陰から姿を見せざま、男たちに飛びかかった。巴投げで男の一人を投げ飛ばし、黒のアーマーの戦士は再びブーメランを右手に構える。
「何者だ!」
リーダーの男が怒鳴る。
「俺か…『黒の疾風・ダークパンサー』とだけ言っておこうか」
「邪魔をする気か!」
「お前たちが何を企んでいるかは知らないが、これ以上勝手なことはさせないぞ!」
黒のアーマーの男=ダークパンサーは言った。仮面の部分が静かに光を反射する。それは男たちを威嚇するのに十分だった。
「やっちまえ!」
リーダー格の男が怒鳴り、配下の男たちが飛びかかった。
ダークパンサーはさっと身を翻すと、
「おとなしく帰るんだな!」
と光線銃・ワルサースナイパーを男たちに向けて次々と発射した。
「うあぁぁぁっ!」
男たちが光弾のダメージで次々と倒れていった。その体は電気ショックと超音波のダメージで身動きがとれなくなっている。
その後、ダークパンサーはそばに倒れている小夜子を見つけて脈を診た後、誠と一郎の元に走った。そして少し低めの声で、
「しっかりしろ」
と一郎に声をかけた。一郎は、
「今、救急車を呼んだ。後を…」
と言って意識を失った。
「わかった」
ダークパンサーはしっかりうなずいた。そして救急車が三台同時に来たところで、小夜子、誠、一郎を救急隊に預け、どこへともなく去っていった。




