黄金の才
「っははは」
乾いた笑いが燃える空気の中から聞こえてくる。10時間前までそこにあった金の城はすでに台座まで溶けており、陽の光を見ることはもうないだろう。
「ふっはははは! 貴様か! 貴様が騎士殺しか!」
ライセを見つけた男は切れていた息を笑いで整えた。王冠をかぶり、金の鎧を身に着けた金城フトシはライセを見つけた。彼の鎧は怪我どころか、汚れもない。まるで生まれたて。
「じゃあ、あんたが金城フトシ?」
「いったいどんな屈強な男、どんな冷酷な魔術師かと思えばなんだ! こんな奴であったか!」
「・・・こんな、奴?」
「なんだその黒いローブは。貴様のような貧しいやつの制服か?」
「殺す!!」
炎の熱が自らにも移っていただろうか。黒炎から剣に持ち替えたライセは頭に上る血の勢いで、男に突っ込む。
「珍しい才だな。だが、私の才の方が上だ!!」
金城は燃えカスを握りしめるとその手のまま、ライセの剣にぶつけた。金属音が響くとき、苦い顔をしたのは剣が砕けたライセの方であった。一方剣を砕いた金城の拳は、金に包まれていた。
「ふはははは! そんな鈍らで金に勝つなど・・・お前、何笑ってやがる」
「考えてたんだ。あんたの能力」
「ああ?」
「この城を見た時から絶対そうだと思ってた」
「貴様、絶望して笑うしかないのか?」
「違う違う。普通過ぎてつまらない。つまらなすぎて苦笑いするしかないよ」
「おのれ・・・王金の才をなめるな!」
「能力の答え合わせをしたからもう剣は使わないよ?悪いね」
「答え合わせだ!?」
金城は砕けた剣の破片を拾うと、それを握りしめてライセに放つ。さながら金の弾丸。その、粗く鋭利な金の破片はライセの黒炎の燃料と化した。
金城は即座に台座の瓦礫の後ろへ隠れるが、炎は初めからそこを狙っていた。金城が台座を黄金化するも、自信の鎧から熱を感じていた。己の黄金は特別だと思っていた。ただの金ではないと思っていた。だが、鎧越しに感じる熱に冷や汗が出る。
「全部燃やすよ。あんたも、あんたの城も」
台座が溶けると次に金城の鎧が赤く光る。そして蒸発した騎士たち同様、彼の肉体にも溶けた鎧が張り付く。喉が壊れるほど叫んだつもりでも、声が出ない。彼の喉は焼けていた。
「普通じゃつまらないか」
台座が焼失し、残りは金城のみになったところでライセは炎を止めた。まだ息がある金城に近づくと、それを虫を見る様に観察する。その目には好奇心も慈悲もない──無である。
「鈍らで終わらせてやるよ」
生み出した剣が月光を反射する。丸裸と言っても良い金城にライセは剣を落とした。鈍い音が土に落ちる。ただの塊が2つに分裂した。
去り際、ライセの目にキラリと反射する物が映った。それを拾い、煤を払うと腕に通した。
「・・・不思議だ。あんたの王冠だけは全く溶けてない。城と同じで力を使うところ、間違えたんじゃないの?少しでも民に回しておけばさ、あんたはまだこれを、被っていたかもしれないのに」