上級騎士殺し
両手で斧を構え、赤い鎧が振り返る。
「いいかお前ら。あいつは俺が斬る」
騎士たちは黙って上級騎士を見守る。彼が他の騎士たちより一回り大きいのは鎧のせいか、体格のせいか。それとも両方か。自身の身長ほどあろうかという斧を持つ騎士を前に、ライセの足が重くなる。
「どんな屈強な強者かと思えば、まるで盗賊のような装備だ」
「あ、ああ。俺は盗賊だ。盗賊の才がある」
「才を明らかにするとは、よほどの自信があるらしい」
ライセは知らなかったが才を明らかにすることはこの国で、自分の強さを教えるのと同義。故に、普通は手の内を隠す。とはいえ、ライセの才は盗賊ではないが。
「では、参るぞ!!」
斧を槍のように構え、騎士はライセに突っ込む。一方ライセは動かない。いつかのように剣で不意打ち──ライセの顔が真っ青に染まる。
「な、なんでっ」
「取った!!」
ライセの体が突きあげられた。斧に腹を刺され、そのまま腹を切り上げられる。あまりにも一瞬のダメージに悲鳴すら反応できない。ライセは自分の物とは思えぬ出血と垂れる臓を見て、死を感じていた。
「あ、あか、り」
「ふん、こんな雑魚にやられるとは一般騎士たちは鍛錬が足りんな」
「お、お兄ちゃん!!」
「子供を斬るのは心が苦しい──と、思ったときもあったよ。今じゃボーナスに感じるがな!」
地に伏せたライセはアカリに逃げるよう促すが、指先がわずかに動くのみ。血が滴る斧がアカリに近づいていくのを黙って見て────
────僕は、僕はまた、また失うのか!? ライトのように? ・・・嫌だ。それだけは絶対嫌だ。もう二度と王国に、騎士に、誰も殺させない!!
「な、なんだ!?」
赤い騎士は振り返った。そこでは黒い風がライセを包み、彼の体を治癒していた。そして彼の手には今度こそ、剣があった。
「き、貴様・・・盗賊ではないのか?」
「なるほどね。これはなかなかクセがあるスキルだ」
ライセはもはや彼と話さない。湧き上がる復讐の力に恐れを忘れていた。
「おもしろい!不死身の才か?」
「いや──」
ライセは剣を二本投擲した。矢のごとく放たれたが騎士は斧で身を防ぐ。が、次に斧を構えたとき目の前に剣を二本持ったライセが立っていた。
「復讐の才だ」
「早い!?」
せっかく相手が手の内を明かしたというのに、騎士は聞いていなかった。それもそうだろう。ライセの剣は鎧の隙間から、騎士の首を狙っていたのだから。
「お前も赤くなれよ」
斧を握りなおしたとき、騎士の首には剣が二本貫通していた。そしてトドメの三本目。それは正面から頭を狙った。騎士のかぶとは真っ赤な噴水を上げ、己の身を輝かせる。
赤い鎧はその場に崩れ落ちる。それでもまだ、騎士は生きていた。ライセは彼の頭に触れると、騎士は口を開いた。
「ま、まて・・・」
「命乞いか?」
「復讐の才とは・・・なんだ」
「何人殺したんだ?」
「は、はぁ・・・」
「何人子供を殺した?」
「・・・あと、1人だった」
「なにがだ?」
「あと1人で100人に──」
「お兄ちゃん!!」
騎士は再び斧を握りしめた。常人ならとっくに息絶えているだろうが、彼はまだ戦うつもりで──いたのだろう。騎士の頭に触れていたライセの手から剣が生える。それは同時に騎士の息の根を止めた。
それを見ていた騎士たちはライセに襲い掛かる。同時に4人。まさにこの斧を一振りできれば、一掃できるだろう。
そんなライセのイメージに才は応える。彼の手は斧を生成した。今地に落ちているその斧とまったく同じデザインである。それを見た騎士たちは戸惑うが、急に足は止められない。ライセが斧を振りかぶる間、彼らはそれの範囲内に入ってしまった。
「へえ、復讐の才はほんとになんでもできるんだな」
振り下ろされた斧は騎士たちの胴を両断していく。4人目の腹を割ったとき、ライセは斧を投げ捨てた。
「つか・・・れた」
「お兄ちゃん? お兄ちゃん!」
倒れかけたライセの体をなんとかアカリが受け止める。地面の冷たさではなく、温もりを感じたライセはそのまま目を閉じた。
私は手から石油か半導体を生み出せる才がほしいです