冷酷の才
「お前らはライセと、そこの嬢ちゃんを守ってな」シュヴァインは自身の部下に命じた。シュヴァインの兵がその通りに動くのを見て、王宮の騎士たちは一歩引いた。その鍛えられた肉体もそうだが、その統率力に差を感じた。
「シュヴァイン殿、あなたは今、そこの復讐者を〝救いにきた〟と言いましたか?」
「・・・ああそうだ。ちょうどいいタイミングだからな、俺もこいつに乗っかるとするぜ!」
「つまり、私を裏切るのね?サクラ、やってしまいなさい」
二刀流の剣士は躊躇した。素手の相手に、様子を伺っている。それを見かねた紅の姫はサクラの肩に手を置いた。
「これで勝ちなさい」直後サクラの体が赤く光る。それに包まれた剣士は頷き、刀を抜いた。
「西都首長、シュヴァイン──お覚悟!!」
「くっ!」
双剣はシュヴァインの腕に迎えられた。盾にしたその皮膚は火花を散らしている。
「これが鋼の肉体ですか・・・でも!! 私は今! 勝たなくてはいけない!」剣士は右手を上に、左手を下に剣を構えた。そしてそれを交差させる。
「紅の君の力を授けられた私が!! 負けるわけにはいかないのです!!」その剣は男の肉体に傷をつけた。だがシュヴァインは血を流していない。その拳を今度は武器に使った。近距離から丸太のような拳が迫る。
「ずいぶんと殿下が好きなんだな!!」
「今やあの方に応えられるのは私だけ!!」サクラの剣技は守っても一級品だった。拳を受け流し──
「もういいわ、サクラ」その声で2人の戦闘が止まる。時が止まったわけではないが、2人とも反射的に耳を傾けた。
「あなたの才じゃ相性が悪いみたい。私が戦うわ」
「・・・紅の君自らお相手してくださるとは、光栄だ」
「シュヴァイン。あんたの才は、私がもらうわ」
「ではお望みのままに、拳ごとくれてやります」紅殿下は動かなかった。何もする素振りがない。見守るサクラも手助けしようと動くが、殿下が手を突き出したのを見て足を止めた。
「こんな感じかしら」紅殿下の手のひらに、シュヴァインの鉄拳が触れた時、その拳は凍結し始めた。冷気は腕を伝い、シュヴァインの半身を凍らせた。紅殿下は接合部分を折ると、シュヴァインの体がよろめく。
「こ、氷の才?」
「ジェーミャの才よ。才の名前は知らないけど、あの子もだいぶ便利なものを持っていたのね」息を吐いた王妃は椅子を欲した。1人の騎士を呼びつけると、それに椅子になるように促す。するとそれも凍らせてしまった。
「こういう使い方も出来ていいわね」
そんな紅殿下を止める者はもういない。シュヴァインは膝をついている。そこにはサクラが向かう。とっさに彼の兵士たち立ちはだかった。彼を想っての行動だが、それは自爆のようなものだった。
「安心しろ。すぐにお前らの主君も送ってやる」
サクラの剣が舞った。彼女の剣に兵士たちも反応して剣をぶつける。だが、すぐに来る2本目が兵士の命を刈っていく。二刀流の騎士は苦労なく、シュヴァインに近づいた。
「シュヴァイン殿、今度こそ、お覚悟を!!」
冷酷の才:能力者の冷酷さに比例して凍結効果を発揮する