ランチの続き
ライセが肉片になったとき騎士は剣を拭いていた。アカリは鞄を漁ってなんとかしようとしたが、剣を向けられて両手を上げた。
「安心しろ。錬金術師は国の財産だ。殺しはしない」
「ライセお兄ちゃんは死なないよ! 何度も何度も立ち上がって、最後はあなたにも勝つ!」
「今のうちにこの場を去りなさい。騎士たちは貴様に危害を加え──」
「いい! ここにいる!」
「いいわ。悲劇の目撃者になりなさい」
周囲を囲んでいた騎士たちが壁に寄っていく。何者かが部屋の奥から現れた。真紅の花がそこに咲いていた。返り血に染まったようなドレス。血の海を渡って来たかのようなハイヒール。紅の君、紅殿下の登場である。
「遅かったわねサクラ。手こずったの?」
「細かい方が消化に良いかと思いまして」
二刀流の騎士、サクラは兜を取るとライセだった肉片を指さした。
「そういえばジェーミャは?」
「処分しました」
「それでいいわ。一時的でも復讐者と手を組んだんですからね」
「はい。彼女も覚悟の上でしょう」
「じゃあ、才をいただこうかしら」
肉片の上に立った紅殿下、彼女は両手を広げた。彼女の手が赤く光ると、肉片から何かが浮き出て来た。それは泡のような光。白い光。才の光だった。彼女の手にその光が吸収されていく。それを全身で味わうかのように、紅殿下の体が震える。
「そう、復讐の才って言うのね」
「復讐の才?固有のものですか」
「ええ。誰かに移植されたとしても、その真価を発揮するのは難しいでしょうね」
このままライセの才は紅殿下に吸収される。アカリはそれを分かっていても黙って見ているしかなかった。だが、彼女の視線の中に、突如大剣が出現した。
「ガッハハ!」という笑い声と共に、それは別の空間からワープしてきた大剣。たった一振りで、紅殿下たちを何歩も後退させた。
「この大剣は!?」
「変人が来たわよ」
「お邪魔します殿下」岩のような大剣、いや、岩の柱を背負った大男が、数名の騎士と共に現れた。
「──そう言って本当に邪魔をするのはね、あなたくらいよ、シュヴァイン」
「シュヴァイン殿、あなたには西都の守護が命じられていたはず! なぜここに!」
彼は返事としてその岩柱を投擲した。柱の先には紅の君。直撃すれば即死だが、瞬時にサクラが割って入る。二本の剣で巨木の如き柱を、粉砕した。
岩の大剣をもってしても、双剣の壁を超えることはできなかった。だが、シュヴァインは満足気に微笑む。
「ライセを──救いにきた」
彼の周りの騎士が前に出る。紅の花と二本の剣に彼らは立ち向かう。