剣の舞
全身に鎧をまとった二刀流の騎士は、剣を納めた。すでに黒炎をまとっていたライセだが「なぜだ!!」と、吠えて攻撃はしない。相手の騎士が会話を望んだので、仕方なくライセもその手を下ろす。
「私もだ。やっと、やっと貴様を殺せる」
「はは、そうだな。お前はあの時、俺を殺し損ねた。そのせいで王国は都を失った! 騎士を失った! 俺は王国からすべてを奪う!」
「それが弟への弔いか?」
「違う。これは俺たちの復讐だ!」
ライセは黒炎を放った。渦を巻きながら騎士に食らいつく。その炎の大蛇の中をライセも突き進む。対する騎士は剣をふるって風を放つ。炎は風の刃で勢いを失う。だが、飛び出したライセは両手を向ける。その両手からは更に剣が飛び出す。ライセは騎士にふりかぶった。双剣がそれを受け止める。
「私と剣で戦うとは・・・」
「お前の才は察している。風の才だろう。だからこうして剣を封じて──」
騎士の剣技は見えなかった。同じ時間の中で動いているとは思えない速さ。まさに神速。金属音が二度鳴ると、ライセの手から剣が消えていた。
「残念だ。少しは強くなったと思ったのに」
そして今度は弾けるような音が二度鳴った。騎士が剣を止めた時、ライセの腕がその場に落ちていた。
「やはり貴様らは──弱い兄弟だ」
「・・・ば、ばけものめ」
「首をはねても蘇る貴様の方がよほどバケモノだよ」
騎士はアカリの方に向かって行く。もちろん騎士はこのシチュエーションを望んでいた。いつかのように、ライセの悲劇を再現しようとしたのだった。
「今度は順番を逆にしてやる。まずはその子供。そして次にお前──」
「俺が何度、腕を斬られて来たと思ってんだ!!」
ライセの黒炎は二手に分かれて騎士を挟む。とっさに回避した騎士はライセに迫った。だが、無限に沸く黒炎の檻からの脱獄は容易くはない。
「殺す順番を逆にしたんじゃないのか?」
「その力を殿下に返せ!!」
「力? この力はライトが俺に与えたものだ!」
「違う!貴様に力を与えたのは賢者の石そのものだ。貴様の弟が、そう願ったからたまたま、お前に才が授けられた。王国中の悲劇だよ!」
「・・・悲劇? 悲劇を作ってるやつが何言って──」
黒炎の中から一閃、剣が放たれた。それはライセの腹に命中し、彼を吹き飛ばす。次に彼が目を開けた時は、自身に馬乗りになる騎士の顔があった。
「罪人は苦しんで死ね」
「・・・死ねたら死んでやるよ」
騎士の剣は彼の肉体で舞を踊った。鮮血を浴びながら、剣は彼が彼でなくなるまで、刻み続けた。