居合
侍は刀を握りしめた。だが抜くことはない。そのまま屈み、低姿勢のまま固まる。この姿勢が何を意味するか、知っていればそう簡単には近づかない。
もちろんライセは居合を知っているわけではない。しかしその構えに何か策があることを感じていた。
「アカリ!」
「うん! 爆発の印!」
アカリが飛ばした紙飛行機は吹雪に左右されず、真っすぐ飛んでいく。しかし速度はない。数メートルの猶予があった侍にとって、それを防ぐのは容易。
印を載せた紙飛行機は侍の手前で真っ二つ。印が発動したのはそれが地面に散った後。雪の上で爆発した。
それを見たアカリは首をかしげる。
「今のおかしいよ」
「おかしい?」
「印は何かに触れた瞬間に発動するの」
「じゃあ、真っ二つになった瞬間に爆発するのか」
「なのに地面に落ちてから印が発動した」
「やっぱりあいつの構えは何かがある」
侍は目を閉じたまま刀を握り続ける。
「不死身なのであろう?ずいぶん慎重だな」
「死ぬのは痛いんだよ」
俺は不死身ではない。復讐のために蘇るだけだ。それがいつまで続くのか分からない。もし俺の復讐の炎が弱かったら、復讐の才は力を貸してくれないんじゃないか。そんな不安がある。
「私の印の紙飛行機をたくさん飛ばせば、きっと隙が作れる」
「その瞬間に俺があいつを──」
ライセに刀が降りかかる。二人が話しているその隙を侍は逃さなかった。