忠義
殺す──と言った侍だが、獲物はまだ抜かなかった。
「俺を殺すためにずっと待っていたのか?」
「昨日から待っていた」
「そ、そうか」
「昨日から待っていた」
侍は二度言った。
「・・・寒さの中待たされたから、殺意がわいたのか?」
「それは──────否定はしない」
ライセは力と気が抜けた。アカリもぽかんと、口を開けている。
「なあ、あんた。俺を殺すつもりがあるのか?」
「殺したいから殺すのではござらん。仕事だから斬る。それだけのこと」
「俺と、似てるな」
自分の空の両手を見て、ライセはつぶやいた。
「刀を振るって幾星霜。其方には四回勝てるであろう。しかし、五回目でこちらの負けだ」
「俺の才を知っているのか!?」
ライセはようやく一歩踏み出して相手に寄ろうとした。微動だにしない相手は「不死身であろう」と答える。出かけていたライセの足は引っ込んだ。
「・・・そうだ。だから、諦めてどいてくれ」
「北都の首長、ジェーミャの命はどうでも良い」
「なら──」
「だが、殿下は別。あの方には恩がある」
「それならいずれ、俺はあんたを殺さないといけない」
「ここまで話せたのに残念であったな」
「ああ、寒い中待ってくれたのにな」
ライセの手が発火する。黒い渦はいつでも剣を生み出せる。
「殿下は仰った。お主を殺して北都を守れと」
「だが俺は不死身だぞ」
「左様。故に、こちらはここを一歩も動かん」
侍は刀を握りしめた。