吹雪の中で待つ者
もはや自分たちを追って来る騎士はいない。上級騎士がライセの相手にならなくなったのはいつの頃だったか。彼を追うのは才アリの中でも、紅の君に認められた者。もうじきライセの視界に入る彼もまた、刺客の1人。
ライセたちは知らないが先ほどの忍も含めて彼らは、王宮の花と呼ばれる騎士たち。王宮の花は紅の君が最も信頼し、才に長けた騎士である。紅の君にとってライセの脅威はそこまで来ている。
それでも彼女が今も茶を飲んでいるのは、未だかつて王宮の花が散ったことがないからである。
「アカリ」
ライセは名前を呼んだだけだが、彼女は「一緒に行く」と答えた。彼女にも森を出た先にいる騎士が目に入っていた。
森を出たところには大木の壁と門がある。その門の前に立つのは騎士・・・いや、風になびく和装と腰に差している獲物からして、侍のように見える。あぐらをかいて座っているが、隙は感じられない。
その侍、性別はおそらく男だろう。年齢は分からないが、髭や肌を見るにライセより大人なのは間違いない。
ライセたちが森から出て来ると、待っていたと言わんばかりにその侍は立ち上がった。武器を構えない彼を見て、ライセはまず声をかけた。
「見慣れない格好だな。鎧を着ないのか」
「──あれは不自由だからな」
「どいてくれないか。その先に用がある」
「聞こう」
本当に相手が聞く姿勢でいるとは思わなかった。問答無用で斬りかかって来る。そう思っていたライセはアカリと目を合わせ、首をかしげた。
「俺は北都の首長を殺しに来た」
それに対しても侍の反応はなかった。本当にただ聞いただけである。
「では、俺の用も聞いてくれないか」
「・・・聞こうか」
侍はようやく刀を握る。
「お前を殺すために来た」
動かない彼は居合切りの構えを見せた。
和装なんて絶対寒いです。