迫る忍
彼らは吹雪の中にいた。森の中とはいえ、空から雪風に吹かれる。
「どんどん寒くなってる」
「しょうがないよ、北都だもん」
「西都で毛皮や食料を買っておいて良かった」
「西都の人、優しかったよね」
「・・・そうだな」
シュヴァインと西都で別れて1週間。ライセたちは森の中の獣道を北上していた。極力見つからないためである。
しかし、その背後をつける剣士が──抜刀と共に、土を蹴った。抜いた刀の切先はライセの背中を向いている。
その剣士──否、その忍は矢の如く飛んで、ライセの心を打刀で貫いた。アカリがそれに気がついたのは数歩先に進んだ頃。振り返ると血を吐いて彼が倒れていた。
「ライセお兄──」
忍は少女の背後に回り、その口を塞ぐ。構えた刀は彼女の喉。だが、それが復讐の才に火をつけた。ライセが黒く発火する。忍はとっさに彼女を捨てて距離を取った。
だけでなく、そのまま森のどこかへ消えてしまった。
黒炎が消え、癒えたライセが出てくる。だが彼の唇からは血が流れていた。噛みしめる悔しさだった。
「背後から音もなく来て、一瞬で消えた・・・」
「・・・早く行こうお兄ちゃん」
「アカリ、俺の前を」
「う、うん」
「あいつはきっと、また来る」
────数日後 紅の城
紅の君はまた1人でお茶を飲んでいた。だが向かい合う席にはちゃんとティーカップが置かれている。
カップに注がれた血のような液体。その水面がわずかに揺れると、彼女は持っていたカップを置いた。対面の席には忍が座っていた。
「お帰りサクラ・・・首はないのね」
「申し訳ありません」
「オシオキね」
彼女が失敗したことを喜ぶように、笑みを浮かべる。
「やはりあれは不死身でした」
紅の君のいたずらな笑みは、その一言で消え去る。彼女はサクラを睨みつけた。
「それが、復讐者の才?」
「他にも炎を操っていました。黒炎です」
「黒炎......」
「北都ではジェーミャが準備しています」
「あの子じゃダメ。権蔵も行かせなさい」
「しかし、王宮の花が」
「守りはあなた1人いれば、十分でしょう?」
「今のところは──」
紅はお菓子を取り、彼女に手渡した。次いで手を取り、指を取り、談笑する。気がつけば、彼女の顔に笑みが戻っていた。
「2人きりよ?難しい話はしたくないわ」
まだ口元を隠す忍の布に紅い爪がひっかかる。
紅の君と忍の関係はご想像にお任せします