復讐のはじまり
夜、肌寒さで目が覚めた時、彼は土の上にいた。彼らは森の中に捨てられていた。起き上がったライセは老婆の遺体には目も触れず、後ろを振り返った。
「ライト・・・」
そこには頭と体が転がっていた。その頭を強く抱えたライセは涙だけを流す。声はせき止めた。それでも溢れるものなら土に顔を埋めた。
「なあ、ライト。お前は言ったな、僕の人生を生きてほしいって。だから僕は生きるよ。僕の人生を。お前がいない僕の人生を。復讐の人生を──まずはあの二刀流の剣士を殺してやる!」
***1***
────ライセは次の日、木の家へ来ていた。自身が割った窓がまだ修理されていないことにため息をついたが、あの時のように中へ入った。そこで今度は黒い衣服を盗んだ。
「魔術士みたいだな。まあ、僕に才はないけど」
その時、外から助けを求める悲鳴が聞こえた。ライセが反応して、すぐに小屋から出たのはその悲鳴が少女の声だったからである。
その声を目指して走ると、そこには1人の騎士が少女を肩に担いでいた。ライセはその赤髪の少女と目が合った。
「助けてお兄ちゃん!!」
その声に足が止まったのは騎士も同じであった。少女をかついだまま振り返った騎士は剣を片手で握り、ライセに向ける。
「貴様、才ありか?」
「・・・ああ、俺は魔術士だ」
「なら王国の人間だろ? どういうことかわかるよな?」
「その子が何かしたのか」
「こいつの両親はな、王国に納品予定の大事な物を盗賊に盗まれたんだよ」
「・・・ただの宝石だろ」
「それがどうも違うらしいぞ。なんと賢者の石らしい」
「そんなもの、あるわけない」
「俺もそう思ってる。だが、王国が特級騎士を派遣したくらいだ」
「なるほど、宝石にそこまでしないってことか」
「けど、結局見つからなくてな。今さっき特級騎士様自ら、こいつの両親を処刑したのよ」
「・・・っ」
「どうした震えて? 寒いのか?」
ライセの脳内に死の間際の記憶が蘇る。2つの剣で刺され、弟が死ぬ瞬間。その怒り、復讐心がライセの体から黒いエネルギーとなって、漏れ出していた。その正体は『復讐の才』。
「な、なんだその黒いのは!」
「──そうか、復讐のための人生には、復讐のための才が与えられるのか!!」
「お、お兄ちゃん?」
「今助けてやるからな」
騎士はパニックになった。目の前の黒い渦を見て、恐怖のあまり剣をふるった。だが、ライセの手にも剣があった。闇の中から抜かれた剣に、騎士の腕がはねられる。
「お、おまえ、いつのまに、剣を・・・」
「いつだろうな。欲しいと思ったら手に握っていたよ」
「ち、ちくしょう。ふいうちしやがって」
騎士は残りの片腕で落ちた剣を拾おうと試みる。しかしその時気が付いた。自分がいつ少女を手離したのかと。
考えて、考えて、いつまで経っても剣を拾えない訳を理解した。少女は彼の腕がはねられとき、すでにライセに抱えられていたのだ。
「あ、ありがとうお兄ちゃん」
「今片づけるからな。見ちゃだめだぞ」
赤髪を黒い手でなでると、ライセの手はもう1本の剣を生成した。それを握りしめ、腰が抜けた騎士へ向かう。騎士からすれば彼の歩数が処刑へのカウントダウン。
「な、何者だ。その剣の腕がありながら魔術士などありえん!」
「俺もびっくりだよ。初めて剣を握ったのに、なんでか体が教えてくれるんだ」
「な、なにを言って」
「これが才能なんだろうな。別に知らなくてもできるんだ」
「さ、才能・・・」
「ところで騎士、お前の才能はなんだ?」
「か、下級騎士の俺に才能なんてあるわけ──」
「そうか。生まれ変わったら授かれると良いな」
鎧を断ち、骨を断つ。騎士が死ぬと、ライセの剣は黒い塵となって消滅した。
「お兄ちゃん強いんだね」
「僕の名前はライセ。小林ライセ」
「私は川野アカリ」
「大丈夫?その・・・辛かったね」
「うん。でも、泣かないって決めてるの」
「泣いても良いんだよ。子供じゃないか」
「ママとパパと約束したの。どんな時も明るくいるんだって」
「名前に込められた願いかな」
「そうかも。だから私、もう明るくならないといけない」
「これからどうするの?」
「・・・わからない。わからないけど私──誰も殺されない世界に住みたい」
ライセがアカリと旅をするには、それが十分な言葉だった。弟との記憶に重ねながら、ライセはアカリの手を握った。
アカリは作中の良心のような、そんなイメージです