強く────なった兄
────兄さん。兄さん?
「・・・ライト? ライトなのか!?」
兄さんの体、もう治ってるみたいだよ。
「ライトなんだろ?あの時お前が僕に才をくれたんだ」
僕たちの最期を思い出したんだね。
「うん。あの時のようにアカリ・・・あの少女が殺される」
でも今の兄さんなら助けれるでしょう?
「────そうだね。復讐の才は、そのための力だから」
行ってらっしゃいお兄ちゃん
「ああ、今度は助けてやらないとな」
ライセを刻んでいた風が止んだ。ライセを磔にしていた槍が消えた。そこには黒煙が昇っている。中から現れたのはライセ。
彼は黒い衣を身に着けて、両手は黒炎で燃えている。しかしそれに気がつく者はいない。ライセは両手の火力を上げながら姉弟に近づく。
「リトお姉ぢゃーん!!」
ただ事ではない弟の呼び声。もはや叫び声に近いそれに反応したラトは振り返る。そこではライセに首を掴まれたまま、弟が焼けていた。まだ手足がじたばた暴れるそれを、ライセは離さない。
先ほど自身がコピーしたラトはすでに散っている。今燃えているのは本物の弟。
才ありとはいえ、彼らは未熟な子供。生まれて初めて味わう絶望と恐怖。ああ、こんな恐ろしいことを自分たちはしていたのかと、初めて知ったその感情は後悔である。
「あなたのほうが、あくまじゃないの」
ライセに掴まれたまま動かなくなった弟を見て、姉の足が崩れる。
何を思ったか、彼女は自分に指をさして光の輪で包んだ。だが、尻を落として失禁した少女が隣に現れただけである。
もし走れれば時間稼ぎになったかもしれないが、手足が垂れて炭になっていく弟から、姉は目を離せなかった。
悪魔はすぐそこまでやってきている。ライセは炭と化したラトを捨て、剣を2本生成した。
「お前の才はなんだったんだ?」
「かがみのさい」
「鏡の才?」
「しろいひかりはかがみなの。あれにうつったものを、そのまましゅつげんさせてるだけ」
「鏡に何を映すか次第では最強だな。それこそ俺をコピーして──」
「す、するわ! あなたの力になる! 私の才があればあなたは王国に勝てる!」
「だろうね。だから残念だよ」
「・・・え、なんで?」
ライセを見上げた彼女は、問いの答えを聞けなかった。否、もしも首だけになっても聞こえるなら舞い上がった空中で聞いていたかもしれない。
「俺は救世主じゃない、復讐者だから──お前たち姉弟を許さないと決めたんだ」
再び物陰に隠れていたアカリの元へその頭は転がって来た。涙を流していた頭を見て、アカリはしばらくライセの前に出られなかった。
数日後、双子の亡骸は騎士によって回収された。その騎士たちはライセの次なる目的地──西都から派遣されていた。
次回から3章に入ります。これまで通りの部分もありつつ、新しい雰囲気を届けられると思います。