弱い兄
姉弟が勝ち誇って笑う視線の先には、渦巻く風に切り刻まれるライセ。衣服と髪の毛が削れ、後は肉が削れるのを待つだけ──
「ライセお兄ちゃん!!」
現れたアカリの声と共に、紙飛行機が2人へ投げつけられる。姉弟はつい、それを手でキャッチした。「なにかしら」とリトが傾げた時それは、爆発した。だが火力がない。正確には破裂といったほうが良かったかもしれない。
2人にかすり傷を負わせる程度では、ライセを救えない。だがアカリはこのまま何もせず、自分の大切な人が血を流すのを見ていられなかった。たとえ自分が殺されようとも。
「・・・おもしろい技を使うのねあなた」
「むっかつく。これってなんの才?」
「これは才じゃないわ。錬金術師の印よ」
「いんって?」
「まあ、魔術みたいなものね」
「才がなくても使える魔術か~。でもしょぼい」
「そりゃそうよ。学べば誰でも身に着けられる技なんて、生まれながらの才には及ばないわ」
アカリに近づく姉は握っていた槍を指さす。白い輪に包まれたそれはもう1つ増えた。握られた槍が少女に向けられる瞬間を、死に際のライセは見ていた。
強者が弱者へ武器を向ける光景がライセの記憶を掘り起こす。自分がもう二度と見ないと決めたその光景を。
「残念ね。家で大人しくしていれば、将来は王国のための錬金術師になれたのに」
「い、嫌だ!!」
「大丈夫。頭を一刺しして終わるから」
アカリのおびえる声、リトの嬉々とした声が、まだ灯っている復讐の炎に油をそそぐ。
復讐の才、それは──復讐のために必要なものを与える才である。復讐のためにもしも新しい体が必要なら、才はそれに応えるだろう。