街の救世主
紅が宮殿でお茶を楽しんでいた頃、ライセとアカリたちはまた1つの街を騎士から解放していた。
街から街へ移動する度に騎士を倒している彼らを、止められる者は残っていない。市民たちにも自分たちの味方である彼を拒否する動きはない。
彼らに囲まれて感謝の言葉をかけられるライセは、民のアイドルのようである。
「ありがとうライセさん」
「あなたが本当の騎士だ!」
「ライセお兄ちゃん、ぼくも今度あそんでよ!」
自由と食料と娯楽を授けてくれるライセを『復讐者』などと呼ぶ者もいない。彼は市民からすれば『救世主』なのだから。
市民からの礼だろうか、空き家で昼食をとる彼らの食卓は以前より豊かになっている。
「順調だねお兄ちゃん!」
「・・・ああ」
「食欲ないの?」
ハンバーガーを両手に持ってむさぼるアカリの前で、ライセはポテトをつまんで眺めていた。
「いや、そうじゃないけど」
「どうしたの?」
「──怖いんだ。上手く行き過ぎているから」
「お兄ちゃんが最強だからだよ!」
「・・・次の街は西で一番の街だよな」
「うん! 王都、北都にならぶ西都は三大都市の1つだよ」
「金城みたいな首長がいるのかな」
「うん。多分ね」
「アカリは考えないのか?もし俺が負けたら・・・って」
両手に持っていたそれを置いて、アカリは咀嚼を続ける。塊のまま飲みこむと、決めていた答えを伝えた。
「考えないよ! お兄ちゃんの才はすごいから!」
「アカリは本当に前向きだね」
「もちろん! 私の名前の由来、忘れたの?」
ライセにようやく笑顔が戻ったとき、ガシャンと窓ガラスが砕けた。即座にアカリを抱いて壁際に張り付くライセ。部屋の中に投げ込まれたものを見て、とっさにアカリの目を手で隠した。
それは、先ほどまで話していた市民の体の一部であった。
「出てこい復讐者。出て来なければ今と同じものが辺りに散乱するぞ」
「ハズれたち何人助かるかな~」
外から聞こえたのは瓜二つの少年たちの声。