紅の城
紅色の宮殿は巨大な花のようであった。血で塗ったような椿である。その宮殿へ続く道はたった1つ。それ以外は針葉樹の森。その森を宮殿から眺めているのは、この国で紅殿下と呼ばれる彼女──紅の君。
ティーカップを手に、晴天を見上げた彼女は微笑んだ。しかしその笑みを見る者はいない。後ろの部屋で待つ彼らは、彼女がこんな表情をするなんて思わないだろう。王国の危機を楽しんでいるのは、彼女は内緒にしておきたかった。
「──楽しそうですね」
「・・・あら、いたの?」
1人、忍のように紅の前へ現れると、彼女へ膝をつく。紅はそれがここへ来ることを知っていたように目の前の椅子を指さし、座るよう促す。二本の剣を気にかけながら、忍──彼女は腰を下ろした。だが、すでに目線はドーナツに向いている。
「金城が陥落しました」
「でしょうね」
「少しは警戒したらどうですか?」
「王都に来るかしら?その、例の復讐者って人は」
「騎士、上級騎士を殺し、首長クラスも殺ったならいずれ──」
彼女がドーナツを手にした時、紅はその手を握った。
「あなた、行きたそうね」
「────いいえ」
「そう?」
彼女は紅の手をそっと解くと、その指にドーナツをかける。すると紅も自らの指も同じ輪に入れた。指と指が押し合った時、両者はふふっと微笑む。
「私が行ったら、あなたがこの宮殿で退屈になりますから」
「それもそうね」
2人はドーナツを半分にして食べた。そうしてしばし紅茶を楽しんだ後、2人で待ち人がいる部屋へ移動した。そこは楕円のテーブルが置かれた広間で、おそらく騎士であろう者たちが囲んでいた。おそらくと、言ったのは鎧を着ないと騎士に見えない者たちばかりだったからだ。
しかしそれは決して彼らが騎士見習いというわけではない。まるでサーカスの団員のようにそれぞれが個性あるユニークな風貌だったからである。
「サクラちゃんまた殿下と飲んでたの?」
「ちゃんをつけるな」
「で? 殿下はどうするって?」
「・・・さあ?」
少女と青年の間に座ったサクラは、中央の玉座に座る紅を見つめていた。
権力者は孤独なイメージです