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【○○○(●○○)(○○●)を←】

 


【○○○(●○○)(○○●)を←(●○○)真ん中×の通りに進め】



 ※※※※※※※



 《2017年4月15日(土曜日)AM9:53》



「何だこれは!?」


 ここまで順調に問題をクリアしてきた山城から思わず声が漏れた。


 いつもなら問題に書かれている「言葉」をスマホで「検索」して答えを導き出すのだが、今回はほぼ全て記号……これでは検索しようにもできないのだ。


(これはたぶん信号じゃないのかな? 信号を3基越えろってことか?)


 黒丸が1つあるカッコで囲まれた記号の組み合わせは信号機だと推測した。つまりこれは道順を表しているのだ……と。だが、


(左の3つの丸は何だ?)


 一番左にある白丸の意味がわからなかった。


(おそらく……現在地ってことかな? 3つの丸……つまり今回参加してる3人のメンバーを表してるんだろう。そうだ! つまりここから2つ目の信号、一ツ谷の交差点までまで行けばいいんだ!)


 スマホの地図アプリを見ながら山城は次の目標を決めた。だが……


(でもおかしいな……その先で左折は不自然だ。無理に行こうとすると元に戻ってしまう……何か変だな?)


 何か腑に落ちないものを感じていた。


(ま、いいか! 何か裏があるんだろう……向こうに着いたら考えればいい)


 山城は、名前のない丁字路を道なりに真っすぐ進んでいった。



 ……だが彼は、これが国母先生による「罠」だとは気付いていなかった。



 ※※※※※※※



「これ……たぶん信号機だよな? でも……この白丸……どういう意味なんだ?」


 一方の中村と西田も同じ考えだった。やはり一番左側の3つの丸の意味がわからなくて苦戦していた。すると西田が、


「あ……あれ……山城君じゃない?」


 国母先生に言われた通り、和菓子屋「うさぎや」で大福を買った後、本町通りをそのまま西方向へ進みながら次の問題を解いていた。名前のない丁字路に差し掛かったとき、右側の歩道を真っすぐ進む山城の後ろ姿が見えたのだ。


「やっぱり……山城君が行くってことはそっちが正解だよきっと……」


 2人とも「2つ目の信号を左」だと思ったがどこか不安だった。そこへ学年トップの秀才、山城が真っすぐ進んで行ったので西田はそれが正解だと信じ込んだ。


 だが、中村は疑問に思っていた。左の3つの丸が解決していないと……。そして以前、国母先生と話していたことも思い出していた。


 ――他人(友だち)は必ずしもプラスの存在ではない。


 ――自分に素直になって正しいことを選択する……。


 自分に素直になって考えていた中村は、この推理に納得していなかった。中村は真っすぐだと信じて疑わない西田にこう尋ねた。


「なぁ西田……山城の考えが正しいと思うか?」

「えっ? そ……そりゃ山城君頭いいし……」

「でもアイツの答えがすべて正しいワケじゃないよな?」

「う……うん、まぁ……そりゃそうだけど……」


 西田はトーンダウンしてきた。


「先入観だけで信じてるとオレみたいに大失敗するぞ! もう一度、ちゃんと自分たちで考えてみようぜ」

「う、うん……え? 大失敗って?」


 2人は名前のない丁字路の手前で立ち止まると、もう一度問題を整理した。


「カッコに囲まれた3つの丸は信号機で間違いないと思う。しかもよく見ると1つ目と3つ目が左側、2つ目が右側を指している……」

「これって……信号機の色だよね?」


 2人は、丁字路にある信号機を眺めていた。


「そうだよな、1つ目と3つ目は青、2つ目は赤の位置だ! つまり、青はそのまま進んで赤は止まる……矢印は左を差しているからこの信号は止まって左折……」

「ま……まぁそれは何となくわかるけど……問題は……」


「左の3つの丸!」

「それって……3人の現在地じゃ……」

「あぁ、オレも最初そう思った。クイズ研のメンバー3人だと……でもおかしくないか? もし人間だったら丸の記号じゃなくて人型の絵文字でもいいだろ?」

「あっ……」


 人型の絵文字……中村の一言で西田も納得した。確かに絵文字が使えるスマホなのにわざわざ人を丸の記号で表現するのは不自然だ。


「じゃあこれは一体何?」

「色は……たぶん白だよな? 白くて丸いモノって……」


 白くて丸いという言葉が出た瞬間、西田は中村が持っているレジ袋を見て気が付いた。中村もその西田の表情を見てわかった。



「「大福だ!!」」



 2人は、さっき買った大福だと確信した。


「ってことは……さっきの()()()()()()()()()の信号ってことじゃない?」

「そういえば……オレたちが和菓子屋を過ぎて、最初の信号を越えたタイミングで問題文が送られてきたよな……つまり」

「問題文が送られた場所から2つ目(の信号)だと……アウト!」

「そっかぁー! それであの巨乳、オレたちに大福買えって言ったんだー!」


 そう、これは国母先生による「ひっかけ問題」……3人が和菓子屋を出て最初の信号がある「市役所東」の丁字路を過ぎたところで次の問題文を送信したのだ。

 一番左にある「○○○」が大福……つまり和菓子屋だと気が付けば正解する仕掛けだ。3人に「大福買って」と言ったのもねぎらいの言葉ではなく、次の問題のヒントだったのだ。これは知識を一切使わない、柔軟な発想が試される問題だ。


「ってことはさぁ、和菓子屋からここまで信号(交差点)いくつあったっけ?」

「確か……1つだけだったと思う」

「じゃあ、ここが2つ目の信号……ここを左折すりゃいいじゃん!」

「そうか……これが正解だ」


 西田の表情がぱぁっと明るくなった。中村もテンションが上がり


「イェーイ!」


 と西田にハイタッチを要求した。西田は一瞬戸惑ったが素直に応じた。中村とハイタッチした西田はとても嬉しそうな表情をしていた。だが……


「ってことは……間違ってるよね?」

「ああ……本来ならムカつく野郎だから『ざまぁ』って言ってやりたいけど……」

「3人そろわないと……次の問題こないよね?」


 この「宝探しゲーム」のイベントで、問題文が出題されるタイミングについて事前に説明はなかったが、これまで4問出されて何となくパターンは読めていた。

 彼らが所属する『推理・クイズ研究会』の顧問、国母先生はメンバー3人の位置情報をGPSアプリを使って把握している。今までの問題は全て、3人全員が正解の目的地にそろった時点で送信されていたのだ。


「どうする? 待つの?」

「何かアイツ、プライド高そうだから間違いに気付いたらキレて帰りそうだな」

「中村くん……何かソレ……フラグになりそうで怖い」

「ははっ、そうだな……まっ仕方ねぇ、待ってやるか!」


 2人は丁字路近くの自販機で飲み物を買い、大福を食べながら山城が戻ってくるのを待つことにした。



 ※※※※※※※



「何か……遠いな、次のポイントは……」


 和菓子屋から数えて2つ目の信号を通り過ぎたが、まだ間違いに気付いていない山城はひたすら次の「一ツ谷交差点」の信号を目指して歩いていた。

 本来の正解、左折するはずの信号を過ぎるとそこから次の信号がある場所まで距離にして800メートル以上……商店らしい建物は無く住宅が続く道路の、向かって右側の歩道を自分が正解だと信じて疑わずに歩いていた。


 だが、そこから七里岩と呼ばれている台地に上る分かれ道の手前まで来たとき


 〝ブゥウウウウン!〟


 突然、山城のスマホのバイブが震え、続けて着信音が鳴った。


「はい」


 山城はスマホを耳に当てた。電話の着信音が鳴っていたのだ。


『あっもしもし山城く~ん?』


 声の主は国母先生だった。


「何ですか?」

『今、電話大丈夫~? あのね~今、君が歩いている場所……間違ってるよ~!』


 国母先生は3人の位置情報を把握している。間違った方向に山城は進んでいったがすぐには止めなかった。


「はぁ? 何でですか? 僕の答えが間違っているっていうんですか!?」


 山城は超完璧主義者だが同時にプライドも高い。他人に間違いを指摘されるのを非常に嫌う性格だ。


『ふーん、じゃあ、左の丸3つって何だと思った?』

「あれはクイズ研のメンバー……つまり現在地って意味じゃないんですか?」

『ブッブー! はずれ~!』

「えぇっ!?」

『人だったらさぁ、絵文字使うよ~! 何でわざわざ()()丸にしたと思う?』


 山城はしばらく考えたあと、ある答えに気が付いた。


「まさか……大福?」

『せいか~い! つまり和菓子屋から数えて2つ目の信号でした~!』

「そっそんなの……わかるワケないでしょ! 何でアレが大福なんですか!?」

『そ~お? でも中村君と西田君はわかったみたいよ~?』

「なっ!?」


 国母先生の、人を馬鹿にしたようなしゃべり方にイラっとした山城だったが、中村と西田……このイベントに関して下に見ていた2人が正解していたことにショックを受けた。すると、


「あぁそうですか! じゃあ僕は甲府に帰ります!」

『ん~? どういうことかな~?』

「リタイアですよ! 僕は間違ったんだからゲームオーバーでしょ? そもそも初めっからこんなバカバカしいことに付き合いたくなかったんですよ!」

『ふ~ん……じゃあ、負けを認めるんだ~』

「みっ認めるも何も……初めっから勝負なんてしてるつもりないですけどっ……まっまぁ、勝ち負けだって言うんならどうぞ勝手に負けだろうが何だろうが言っていればいいじゃないですか!」


『あっそぉ~、君はプライドが高いって思っていたんだけど~、そんな簡単に負けを認めるなんて……案外ないのね~プライド!』

「……!?」


 痛いところを突かれて山城はぐうの音も出なかった。


『山城く~ん!』

「は……はい……」

『君はさぁ~、自分のことをプライドが高い超合理的主義者だって言ってるみたいだけどぉ~』

「……」


『それってさぁ~結局、ただイヤなこと、面倒くさいことから逃げてるだけなんじゃないのぉ~?』

「はぁ!? 逃げる? 何でそうなるんですか!?」

『確かにさぁ~、世の中全てが正解じゃないから~、正直ムダだなぁって思うことはあるよぉ~』

「そうでしょ! そんなのに関わっても何も得るものはないです!」

『ん~? そんなことないよ~』

「えっ?」


『世の中に無駄なモノなんてないよ~、むしろ不正解や回り道から学ぶことの方が多いのよ~』

「そんなバカな! 正解だけを追い求めればいいんですよ! プ……プロセスなんてどうでもいいんです!」


 来た道を引きかえし歩きながら反論する山城だったが、明らかに動揺していた。


『そっかな~、人間って楽しい記憶よりもイヤな記憶の方が残りやすいそうよ~、だから間違いや失敗を経験することはとても大切なことなんだよ~』

「……」

『あっそうそう! 山城君が道を間違えたのがわかったのに~、何ですぐに教えなかったかわかる~?』

「……嫌がらせですか? それともミスをあざ笑ってるんですか?」


『君に~、回り道の素晴らしさを教えるためで~す!』

「何ですかそれ! ふざけないでください!」

『ふざけてなんかないわよ~、戻っている間……自分自身についてじっくり考えなさい! 君にその時間を確保してやったのよ~。あっそれと……もう君は次の問題が出されるタイミングに気付いているよね~?』

「……」


『あの2人、正解の信号機のところで君を待っているよ~』


「!?」


 山城はその言葉を聞くと全身がビクッとなった。


『あとはどうするか……君自身で考えてね~! じゃ、が~んばってね~!』


 と言うと国母先生は電話を切った。



 ※※※※※※※



(何で待ってるんだよ……時間のムダだ!)


 山城は間違えて通って来た道を引きかえして歩いていた。だが、その歩き方は1歩1歩……次第に早くなり、気が付いたら走っていた。


(バカじゃないのかアイツら……とっとと行けばいいのに)


 勉強はできるが、運動はそこまで得意ではない山城が全力で走っていた。それは決して、自分のためでも合理的な考えでもなかった。


 本来の正解である、名前のない丁字路に着いた。肩で息を切らせていた山城に


「おうっ、案外戻ってくるの早かったな!? 待ってたぞ!」


 声を掛けたのは中村だった。


「お……おまえらバカじゃないのか!? こんな所でずっと待ってるなんて」

「えっでも山城が来なけりゃ次の問題送られてこねーし」

「だからって……僕がそのまま戻らなかったらどうするんだよ!?」

「まぁオマエじゃ途中で気が付いて戻って来るだろって信じてたよ! もし気が付かなくても巨乳(国母先生)が教えてくれるだろって……」

「だっだからって……そんな……」


 すると、山城と中村の会話に割って入るように西田が話しかけた。


「あ……あの、山城くん……これ……大福」

「えっ?」

「山城くん……向こう側歩いてて食べてなさそうだったから……」

「何で!? 別に買う必要ないのに!」



「だって……同じ……同じクイズ研の仲間……だよ……だから……」



「だから……って……」


 山城は言葉を詰まらせた。


「ま、それ以上なんもねーよ!」


 と中村は照れを隠すように言った。


 西田が差し出した大福が入った袋を、山城は震える手で受け取った。そして……


「あ……ありがとう。そして……ごめん」


 山城の口から合理的ではない言葉がでてきた。


「え? 別に謝ることねーだろ?」

「いやだって……2人を待たせたし……悪いと思って……」

「そんな気持ちなんか全力で走ってきたオマエ見てりゃわかるよ! それよりも、それ食ったら次の目的地に行くぞ! まだこの問題途中なんだし……」

「あ、あぁ……」


 袋の中には大福と、2人が自販機で買ったお茶が入っていた。山城は大福を一口食べると、中村が聞いてきた。


「どうだ! 美味(うめ)ぇよな?」

「あ……あぁ、美味い……」


 山城は目に涙を浮かべながら、大福を食べ終えた。



 ※※※※※※※



「さて、目的地まで一気に行くか!」


 3人は道路に向かって左側の歩道を進んだ。問題文にあった3つ目の信号機が目の前に見える。左側に見える大きな建物は韮崎市役所だ。


「ねぇ、さっき地図アプリで見たら市役所の東側に『さくら』っていう吉田のうどんが食べられる店があるみたいだよ」

「マジかよ? 最近、富士吉田以外で吉田のうどん増えたな……寄ってみるか?」

「えっ中村くん、さっきソバ食べたんじゃなかったっけ?」


 中村と西田はすっかり仲良くなっていた。いつの間にか口下手の西田が、本人も気付かないうちに中村と話しているときだけは少し饒舌にさえなっていた。


 少し坂を上ると次の信号が目の前に迫ってきた。「武田橋北詰交差点」、交差する道路は国道20号線だ。


「さてと、交差点をどっちに行けばいいんだ? 真ん中バツって……」


 中村が迷っていると、山城がポツリと


「一休さんだろ?」

「えっ?」


 すると西田が


「あっ! 橋だ……」

「橋? 何で?」

「この()()渡るべからず……」

「その話なら知ってる! 『(はし)』がダメなら真ん中を通ればいいって……あっ!」


 ようやく中村も気が付いた。


「そう、逆に真ん中がバツだから『(はし)』を渡れってことだろ」

「すっ……すごいよ山城くん」

「瞬殺かよ……すげぇなオマエ」


 3人は橋を渡ることにした……だが、


「あれ? こっち側に歩道ねーじゃん!」


 彼らは左側の歩道を歩いていたが、目的地である橋「武田橋」の歩道は向かって右側だけにしかなかった。


「何てことだ! 信号1回分無駄になった」

「えー、でも一休さんだから一休みでいいんじゃない?」

「そもそも山城が来たときに見つけやすいように左側にいたんじゃねーかよ」

「そっそんなの……別に待ってくれなんて言ってないしおまえらが勝手に……」

「あっそーかい! じゃあそのまま気が付かずに駅まで歩いて行けよ」

「ちょっと……2人ともケンカはやめて!」


 武田橋の歩道で揉めだした3人の元に……


 〝ピコンッ〟


 まるでけんかを止めるかのようなタイミングで次の問題が届いた。


 中村がスマホを見ると



【△が48、□が74、×が14……誰?】



「何だこりゃ!? こんなのわかんねーよ!」


 でも、学年トップの山城ならわかるかもしれない……そう思った中村だったが、


「はぁ? こんなのわかるワケないだろ!?」

「えぇっ……どういうことこれ?」


 山城と西田も問題を見て絶叫した。そう、この問題は「これだけでは」解けない問題だったのである。


 3人は橋の上で動きが止まってしまった。


最後までお読みいただきありがとうございました。


次の話は10時44分頃投稿予定です。

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