【1マルーン、すみれの花、3ブレーブス】
【1マルーン、すみれの花、3ブレーブス、共通する人物の生家跡方面に向かえ】
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《2017年4月15日(土曜日)AM9:16》
「あ、ゴメン……それはムリだわ」
「え?」
中村と友だちになりたいと告げた西田だったが、中村からの予想外の答えに西田はショックで立ちすくんでしまった。
すると、西田の様子を察した中村が慌ててフォローするように
「あっ、あぁ別に西田だからイヤってわけじゃなくてその……オレは誰とも友だちになりたくないんだよ……友だちいらねーんだわ……悪いな」
今まで明るく振舞っていて『推理・クイズ研究会』の中で唯一問題がなさそうに見えた中村だったが、実は彼にも心の中に抱える「闇」があった。
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中村は1年生のときサッカー部に所属していた。すでに1年でレギュラーの座を獲得していて友人も多く、付き合っている彼女もいて何もかもが完璧な高校生活を送っていたのだが……。
当時、同じサッカー部だった親友に彼女を奪われてしまった。どちらも信頼していたので裏切られた気持ちがとても強く……以来彼は、他人とはうわべだけの付き合いにとどめて友だちはつくらないと決めていた。
サッカー部は退部したが、必ずどこかの部活動に所属しなければならない校則のため、この学校で一番部員数の少ない『推理・クイズ研究会』に入ったのだ。
今までサッカー部のレギュラーだった中村が突然、『推理・クイズ研究会』に転部したので不審に思った顧問の国母先生は幾度となく彼に聞いてみた。
普段は明るく振舞う中村だったが、「友だち」という話になると一気に口が硬くなる。それでも、ようやく事の真相を聞き出せた国母先生は中村にこう言った。
「その友だちとは縁を切ったの~?」
「うん……でも中学からずっと一緒だったから正直これでいいのかって……」
「いいんじゃないの~?」
「えっ?」
縁を切ってもいい……予想外のことを言われて中村は驚いた。
「自分以外の人ってDNAが違うんだから考え方や価値観が違って当然よ~、そんな中でお互いがプラスになれる存在だけが友だちでいいんじゃない~?」
「お互いが……プラス?」
「そっ、逆に自分にとってマイナスになるんなら付き合わなければいいのよ~、あっでもね、友だちだって人間なんだから必ずしも全てがプラスの存在ってワケにはいかないわよ~」
「何それ? 難しそうじゃん!」
「まぁトータルでプラスになればいいんじゃない~? だから、友だちの言うことを100パー信じる必要ないわよ~、信じたらただのイエスマンであって友だちじゃないわよ~」
「えぇっ、じゃあどうすりゃいいんだよ?」
「最終的な判断は自分でするのよ! 良い悪い、できるできない、わかるわからない……自分に素直になって正しいと思ったことを選択すれば後悔しないし~友だちのせいにすることもないわよ~」
「自分に素直……か」
「そっ、だから君がその友だちと縁を切ったのも素直な気持ちで判断したんだからそれでいいのよ~! それに、だますよりだまされる方がよっぽどいいのよ~だって、だます人は信用を失うけど~だまされた人は教訓を得るのよ~」
「えー!? いや……こっちも失ったものが大きいんですけど……」
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(プラスとかマイナスとか……友だち付き合いに損得勘定もどうかと思うが……)
国母先生からのアドバイスに正直、半信半疑の中村だったがその後、国母先生から「無理して友だちをつくる必要はない」とも言われた彼は、西田から友だちになりたいと告げられてもすぐにOKを出せないでいた。
「まぁとりあえず今日は同じ『プレイヤー』だから協力していこうぜ」
「う……うん……」
中村に友だちになることを拒否され落ち込んでしまった西田だったが、「協力していこう」という中村の言葉に今日だけは頑張ろうと考えるようになった。
2人は「謎解き」モードに戻った。この問題には3つの「キーワード」があるので、まずはこれが何を意味するかを考えた。
「マルーンって……何だ?」
「すみれの……花?」
「ブレーブスって……あぁ、さっぱりわかんねー!」
2人はお手上げ状態だった。今まではネットの力を借りずに解決してきたが、今度ばかりはネットの検索に頼ることにした。だが……
「小豆色? 逃亡奴隷?」
「スミレ科スミレ属の植物……うん、だよね?」
「アトランタ・ブレーブス? それ韮崎とどんな関係が?」
2人とも検索が苦手であった。
「うわぁ、万策尽きたー!」
2人が困っていると、
〝ピコンッ〟
彼らのスマホにメッセージが届いた。
『どうかな? ちょっと難し過ぎたかな?』
国母先生からのメッセージだった。
『難しすぎるよぉー』
すかさず、中村が返信した。
『じゃあ君たちにだけ特別にヒント! 山城君にはナイショだよ』
『1、今日君たちは何に乗って来た?』
『花は……〈咲く〉よね?』
『3、大リーグじゃないよ』
立て続けにヒントが送られてきた。
『ありがとうございます! 頑張ってみます』
中村がそう返信すると再び
〝ピコンッ〟
とメッセージが届いた。
『ありがとう。いつもありがとう』
「はぁ? 何だこれ?」
最後のメッセージが謎すぎたので、不安になった中村は西田にこのメッセージを見せた。すると西田は
「あっ……これ、『まいにち、修造!』だ」
「えっ、それって松岡修造のカレンダーか?」
「うん……家のトイレにずっと掛けてある。この言葉……今朝見た気がする。確か15日の言葉だよこれ」
「何でその言葉が?」
「松岡修造……何か関係あるのかな?」
「ま、まぁとりあえず巨にゅ……国母先生からもらったヒント使ってみよう」
2人は手分けして、問題のキーワードとヒントを「AND検索」してみた。2人が乗ってきたのは電車なので[マルーン 電車]で検索して
「阪急マルーン」
続けて[すみれの花 咲く]と検索して
「すみれの花咲く頃」
という宝塚歌劇団を代表する曲、さらに[ブレーブス 日本のプロ野球]で
「オリックス・バファローズ」と「阪急ブレーブス」
がヒットした。
「何コレ……阪急と宝塚って関係あるんだ」
「オリックスって……前は阪急だったんだね」
「でも……これに共通する人物って?」
キーワードは解読できたが、共通する……しかも韮崎に関連する「人物」がわからずじまいだった。すると西田が、
「あっそうだ……一応、松岡修造も調べてみようよ」
2人は最後の望みをかけて[松岡修造]で検索してみた。
「うわぁ、この人……テレビに出てくる暑苦しいだけの人かと思っていたら、すごい家系なんだな……あっ、阪急グループや宝塚の関係者もいる……山梨県知事をやってた人もいるんだ」
「でも……何人もいるからこの中から探さないと」
「そうだな……誰なんだろう」
「あっ、そういえば……ずっと気になっていたんだけど」
「何が?」
「この問題文、マルーンとブレーブスには数字が書いてあるんだけど、すみれの花は書いていない……何でだろう?」
「あぁそういえば……たぶん入れ忘れ……いや、ちょっと待てよ!」
と言って中村は、ネットで調べた松岡修造の関連人物の一覧を見直した。そして
「これだ! この人だよ、『小林一三』だ!」
「小林……一三?」
「あぁ、さっき関連人物の中に数字の名前の人がいて気になってたんだ。で、西田に指摘された数字を見てみたら『1』と『3』だったんだよ! これを漢数字に直すと『一』『三』、つまり小林一三だ!」
2人は「小林一三」について調べてみた。
「すげぇ……この人、阪急や宝塚の創業者なんだ」
「東宝もそうなんだ……あ、生家跡があったよ」
西田が地図アプリを使って生家跡を探した。
「えっどこ?」
「すぐ近く……この道を真っすぐ!」
すでに丁字路の横断歩道を渡っていた2人は、近くにある写真館なのか喫茶店なのかわからない店の前を通って西方向へ進んだ。
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中村と西田が小林一三の生家跡を目指して歩き出し、しばらく経った後、
「どうもありがとうございました……また帰りに寄らせていただきます」
店の老婦人にお礼を言って、山城は開店前の書店を後にした。まだ時間はたっぷりあると思った彼は、問題が送られてきた後もじっくりお目当てのラノベを物色していて、帰りに一気に買おうとしていたのだ。
時間がたっぷりある……と思った理由は
(何だこれ……ラッキー問題じゃないか!)
問題文を見るなりすぐに「小林一三」だとわかったからだ。
(山梨の偉人なんだから知ってて当然だろう……知らないヤツはバカだ)
そう思った彼も、さすがに生家跡の場所まではわからなかったのでスマホで[小林一三 生家跡]と検索して場所を特定した。
書店の角をそのまま右折し、進行方向から見て右側の歩道を、生家跡の方向に山城は歩き出したがしばらくすると、
〝ピコンッ〟
と、スマホにメッセージが届いた。
(何だ? もう次の問題か?)
それは国母先生からのメッセージだったが、問題文ではなかった。
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生家跡は「本町通り」と呼ばれている通り沿いにあった。ここは旧甲州街道で、今でも通りの東側には当時の面影を残す建物や名称が残っている。
小林一三は「布屋」という商家で生まれた。甲州街道沿いに家があったというのも納得できる。現在この地には「にらさき文化村」という施設があり、道路わきには「小林一三翁生家跡」と刻まれた石碑がひっそりと立っていた。
生家跡に到着した中村と西田にも国母先生からのメッセージが届いていた。
『お疲れさま! ねぇみんな、この辺で休憩しない?』
『休憩?』
『そっ、君たちが今いる場所のもう少し先に和菓子屋さんがあるから、そこで大福を3人分買って食べていってね! お金は後で私が出すから』
『大福限定ですか?』
『大福限定だよ~! そしたらそのまま今歩いている道を、次の問題が送られるまで真っすぐ進んでね!』
買う物を指定されるなんて不思議に思ったが、2人はそのメッセージに従った。
しばらく進むとその和菓子屋があった。「うさぎや」という名の店だったが、店の前の様子に2人は驚いた。
「うわっ! 行列つくってるじゃん!」
店の前には入れない客が順番待ちをしていた。どうやらここは人気店らしい。
「ど……どうするの?」
「うーん、まぁ巨乳が買えって言ってんだから並ぶしかねーだろ? おごってくれるって言ってるし……」
「えっ!? きょっ……巨にゅ……」
西田は顔を真っ赤にして慌てふためいた。
「何だよ、国母のあだ名知らんのか? 高校の男子みんな陰で『巨乳』って呼んでるぜ! みんなでアイツが何カップか推理するのが流行ってんだぜ!」
「えっ……えぇっ……?」
しばらく待ってから店内に入ることができた。店内には大福以外にも草餅や道明寺という桜餅、そしてあんドーナツまであった。
国母先生から「大福」を指定されたが、別にどれを買ってもいいだろうと思った中村はショーケースの前で迷っていた。すると隣で買い物をしていた老人が
「なんでぇーぼおんとう! 初めて来ただけぇ?」
「あっ、はい……」
「じゃあまずは大福食えし! ここの大福は美味いだよ」
「えっ、あ……はぁ」
2人は地元の常連と思われる老人の勢いに圧倒され、言われた通り「大福」を買うことにした。
「あの……すみません、大福を2個……」
どうせ山城は別行動で、食べることはないだろうと考えた中村は大福を2個注文しようとした。
すると、中村の服を引っ張る者がいた……西田だ。
「ダメ……ちゃんと3人分買わないと……」
「えっ、アイツどーせ来ねーよ」
「ううん……」
西田は中村の目を真っすぐ見つめた。中村は納得のいかない気持ちだったが、西田の表情を見て
(わかったよ……信じてみるか)
そう思い直した。
「すみません……やっぱ3個ください」
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中村と西田が大福を買う少し前……2人に少し遅れを取ったが、山城も「うさぎや」の近くまでやって来た。
(大福か……甘い物は嫌いじゃないし……買ってみるか)
山城は大福をおごってくれるという話にまんざらでもない様子だったが、店の前に差し掛かったとき表情が一変した。
(うわっ、並んでいるじゃないか……しかもアイツらまで……)
店の前には店内に入れない客で行列ができており、中村と西田も並んでいた。
(バカバカしい、並んでまで買うほどの物か? 時間のムダだ!)
山城は超合理的主義者だ。例えどんなに魅力的な物であっても、並ぶという時間を無駄にする行為が許せなかったのである。
山城は道路に背を向けて並んでいる2人を無視してそのまま歩き続けた。
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大福を3個買った中村と西田は、「市役所東」の丁字路をそのまま突き進んだ。山城はもう少し先にいた。
〝ピコンッ〟
すると、国母先生からメッセージが送られてきた。
【○○○(●○○)(○○●)を←(●○○)真ん中×の通りに進め】
「何だよコレ……暗号?」
最後までお読みいただきありがとうございました。
次の話は9時53分頃投稿予定です。