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【飛び立つ白いハトを見て微笑む場所】

 


【赤い大地から青空へ飛び立つ白いハトを見て微笑む場所に行け】



 ※※※※※※※



 《2017年4月15日(土曜日)AM8:12》



「西田、一緒に行こうぜ!」

「う……うん」


 中村と西田は一緒に行動することにした。だが……


「何だこれ?」


 2人はお互いのスマホ画面を見て困惑した。それは彼らが所属する『推理・クイズ研究会』の顧問、国母先生から送られてきたメッセージだった。


「赤い大地? 白いハト? 微笑む場所? 全然わかんねー!」


 韮崎駅周辺……どこを見渡しても「赤い大地」などはない。もしかしたら近くにキジバトくらいはいそうだが、手品で出てくるような「白いハト」などおそらくここで1日中見張っていても現れてこないであろう。


「そもそも赤い大地って……そんなもんあるワケねーじゃん!」


 中村は完全に詰んだような顔をしたが、ふと思い出したように


「あっ、そうだ! 赤い地面って言えば陸上のトラックじゃん! だとしたら答えは韮崎中央公園だ」

「……え?」

「ヴァンフォーレ甲府の練習グラウンドの隣に陸上競技場があるんだよ! 陸上のトラックって赤っぽいじゃん! だから韮崎中央公園で白いハトを探せばいいんじゃねーの?」


 中村は自信満々に語りだした。だが……


(それ、たぶん間違っているよ……)


 西田は中村の答えに疑問を持っていた。それは西田に、何となく思い当たるフシがあったからだ。だが口下手で臆病な彼は、中村の間違いを指摘できないでいた。


「じゃあ行こうぜ! 中央公園……ちょっと遠いけど」


 中村は歩き出そうとした。ここから中央公園までは少し距離があり、しかも七里岩という台地を上らなければならないので一度間違えると大変なことになる。西田は何とかして中村を止めたかったが……彼に話しかける勇気がなかった。


(どうしよう……このままじゃ……)


 そのとき西田は、国母先生から言われた言葉を思い出した。



 ※※※※※※※



 それは前日のこと……「宝探しゲーム」のイベントを前に、他の2人と上手くやっていけるか不安になった西田は、国母先生に相談していた。

 実はこの『推理・クイズ研究会』、名前だけは御大層だが活動実績は全くと言っていいほど無く、部員3人は話し合いどころか顔もほとんど合わせたこともないくらいコミュニケーションがとれていなかったのだ。


 山城は他人と迎合するタイプではない。中村は、必ずどこかの部に所属しなければならない校則のため籍だけ置いている状態……全員バラバラだった。

 西田は「友だち」が欲しいのだが、ただでさえ普通の人ともコミュニケーションがとれない性格……こんなクセの強い部員と仲良くなれるのか不安でいた。


 そこで、明日のイベントでどうやったら2人と友だちになれるのかと国母先生に相談したのだが、そこで意外な答えが返ってきた。


「西田君は()()友だちが欲しいの~?」

「……え?」


 まさか友だちが欲しい「理由」なんて聞かれると思わなかったので、西田は頭が真っ白になった。


「え……あの……それは……」

「理由もわからないのに欲しいって……なんかおかしくない~?」

「それは……みんな……友だちがいるから……ボクも……」


「友だちって『自慢する物(ステータス)』じゃないのよ~!」


「……え?」

「西田君があの2人と友だちになるってことは~、当然あの2人も西田君と友だちになるってことなの~。西田君は~、あの2人が()()だから友だちになりたいんでしょ~? ってことはあの2人にとっても西田君が()()()()()にならなきゃダメなの……西田君が必要な存在じゃなければ~、あの2人にとって何のメリットもないんだから君と友だちになる意味ないよね~?」


「必要な……存……在?」

「そっ、理由は色々あると思うの~。同じ趣味がある、同じ目標がある、一緒にいて楽しい……いずれにしても必要な存在よね~? だから君はあの2人にとって必要なこと、役に立つことをすればいいのよ~、明日は頑張ってね~!」



 ※※※※※※※



(そうだ、ボクは中村君の役に立たなくちゃ……)


 西田は勇気を振り絞って、中央公園に向かって歩き出した中村に声を掛けた。


「そっ……それ、たぶん……違う……と……思う……」

「……はぁ!?」


 中村は振り向くと同時に、西田に間違いだと指摘されたことに対して少しムッとした表情になった。


「違うって……何がだよ?」

「そ……それ、たぶん……ヨーカドーのマーク……」

「は?」


 ヨーカドーとはもちろんスーパーマーケットの「イトーヨーカドー」のことだ。だがどこを見回してもイトーヨーカドーらしき建物は見当たらない。しかも……


「おいおい、ヨーカドーって言ったら昭和町じゃん! それにヨーカドーのマークってセブンイレブンみたいなマークじゃないか! ハトじゃねーよ」


 そう……2017年当時、イトーヨーカドーはセブン&アイHDという会社の共通ロゴに置き換わっており、店舗の大型看板はハトのマークではなかったのだ。


 すると西田はスマホを取り出し


「あっ……で、でもここに……」


 西田が見せたのはイトーヨーカドーのデジタルチラシだ。画面を拡大するとそこにはセブン&アイと書かれたロゴ以外に赤と青、2色の間に浮き出た白いハトが描かれたマークがあった。


「あっ! 確かに……赤(大地)と青(空)、そして白いハトだ!」


 西田のスマホを見て中村は驚きの声を上げた。


「確かにそうだ! 西田、やるじゃん!」


 中村に「やるじゃん」と言われ西田は少しうれしくなった。


「でもさぁ、それが韮崎と何の関係があるんだ? だってヨーカドーって言ったら昭和(町)じゃねーか」

「そ……それは……」


 その理由は西田にもわからなかった。


「それに……微笑む場所って?」

「……」


 2人はふりだしに戻った感覚になった。駅前広場からタクシー乗り場のある歩道を、脇に咲いている桜の花には目もくれずトボトボ歩いていた。

 すると彼らの目の前に、2階建てにも3階建てにも見える、韮崎駅の駅舎よりも大きな白いビルが見えてきた。そしてその右上には……


「ニコリ」


 という看板が掲げられていた。


「何? これ? ヘンな名前」

「ニコ……リ」

「もしかしてさぁー、『微笑む』って……ニッコリ笑うってことなのかなぁー? ニッコリ……ニコリ……」

「そ……そう……かも?」


「そうだよ! ここだよ! ニコリだニコリだー!」


 2人はイトーヨーカドーのマークの謎などすっかり忘れ、ニコリとほほ笑みながら横断歩道を渡ってそのビルに向かって行った。



 ※※※※※※※



 一方その頃、山城はバス乗り場のある歩道をスマホを見ながら歩いていた。ロータリーを挟んで、中村や西田とは反対側の場所だ。


 彼は「赤い大地から青空へ飛び立つ白いハト」の文章でイトーヨーカドーのマークだとすぐにわかった。そこで、[イトーヨーカドー 韮崎]と検索をした。


 山城は成績が常に学年トップの秀才だ。だが彼は、勉強でも何でもわからないことがあるとネットの検索機能を使う。

 一見、考える能力が欠如しているように思えるが、彼は「調べる時間がもったいない」という持論を曲げない……そう、彼は超合理的主義者なのだ。


 このイベントもムダな時間だと思っているが、部活動なので推薦入試に有利と考え渋々参加している。

 なので人付き合いは「時間と労力のムダ」と考えており、彼は友だちがいないという以前に友だちをつくりたくない性格だ。


 彼にとって信用できるのは自分自身とインターネットだけである。


 検索をすると、一番上に「ルネス」という言葉が出てきた。


(ルネス? なんだこれは……)


 読み進めていくと、「ルネス」とはかつて韮崎市にあったショッピングセンターのことで、イトーヨーカドーが核店舗であったと記載されていた。


(ビンゴ!)


 イトーヨーカドーのマークと、ここ韮崎に存在していたという整合性がとれたことで山城はほくそ笑んだ。さらに読み進めると、ルネスは閉店して現在は「韮崎市民交流センター ニコリ」という施設になっていると記されてあった。山城はすぐに地図アプリを開き場所を確認した。


(何だ……すぐ目の前じゃないか)


 山城は顔を上げると目の前にある白いビルを見た。それは中村と西田が向かったビルと同じ建物だ。山城はバス乗り場のある歩道を目的地の「ニコリ」に向かって無表情で歩き出した。

 しばらくすると、目の前に地下道の入口が現れた。建物はすぐ目の前だが横断歩道はない。どうやらその地下道をくぐっていかないと向こう側に行けないようだ。


(クソッ、何て非合理的なんだ! 車なんか全然走っていないのに……)


 山城はイラ立っていた。ここ韮崎駅周辺は、駅前であっても交通量は少ない。自動車などめったに通らない目の前にある場所に、わざわざ地下道を通っていくなどという行為は超合理的主義者の彼にとって屈辱以外の何モノでもなかった。

 こんな物、無視して道路を横断してやろう……と歩道の前に掛けられた低い位置にあるチェーンを乗り越えようとした山城だったが、すぐに思い直した。

 彼の左側に交番があり、ロータリーの駐車場にパトカーが停まっていたのだ。


(仕方ない、地下道を使うか……)


 明らかに不機嫌そうな態度で山城は地下道の階段を下りた。超合理的主義者の彼はトラブルに巻き込まれるのも非合理的と思っていたのである。



 ※※※※※※※



 地下道を通り、山城がムスッとした顔をして「ニコリ」の前にやって来た。まだ中村と西田はいなかった。彼らは「韮崎中央公園ではないか?」というやり取りで少し時間が掛かっていたからだ。


 やがて2人が横断歩道を渡ってやって来た。山城は


(何だ、こんな所に着くのに時間が掛かって……やっぱこいつらバカだなぁ)


 と、完全に見下した態度だった。


 中村・西田のペアと山城はそれぞれ建物の両端で立っていて、お互いの存在には気付いたが表情は見えない位置にいた。そして3人が揃ったところで


 〝ピコンッ〟


 3人のスマホに次の「謎解き」が来た。



【太平洋の向こうにあるビルの前の通りを突き当りまでまっすぐ進め】



(……は?)


 3人は再び、謎の暗号と対峙することになった。

最後までお読みいただきありがとうございました。


次の話は8時45分頃投稿予定です。

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