プロローグ:無能、転生しました。
この作品は不定期に投稿されていきます。
異世界に転生したら、なんかすごいスキルやら道具が貰えてそれで無双ができたり、なぜか一部分野だけ異様に頭の悪い異世界人に元の世界の常識を教えただけで滅茶苦茶に称えられたり、不思議とかわいい女の子が周りに集まってきて、勝手にハーレムが出来上がったりするものだと思っていた。
でも、それはただの都合のいい妄想で、現実問題としてそんなことは起こりえない。
ましてや引きこもりで頭も運動能力も顔も酷い俺がそんな好都合な妄想を一度死んだだけで叶えようというのがおかしな話だったのかもな。
でも。そんな俺がたった今この世界を、異世界を崩壊の危機から救ってしまった。
親も、教師も、同級生も、上司も、同僚も、みんな俺を無能だと蔑み、俺もそれを認めざるを得なかった。そんな俺が。
──はじめから──
ゲームでまず最初に選ぶ選択肢。人によってはこれを何度も選び、終わらない冒険に飛び込んでいく。
現実にもこの選択肢があればなぁと何度も思った。セーブしてリセットしてロードして...そんなことができればもっと良い。人生がやり直せればきっと。きっと今のような、何の意味もない人生にはしなかったはずだ。中高ではいじめられ、結局不登校に、何とか立ち直りバイトを始めるも仕事を全く覚えられずいつも店長に怒鳴られ、同僚には笑われた。辛すぎてすぐにやめた。誰も引き止めなかった。
自室に引きこもり、掲示板や動画サイトを眺め、貴重な時間を浪費する。
「今日こそ死のう。」やっと決心できた。
そう心に決めてからは早かった。二年ぶりだったか。外に出てホームセンターで切れにくそうなロープを吟味し、購入した。やっと解放されるのだ。
だが、人生何があるか分かったものじゃないんだな。
帰り道にある河で子供がおぼれているのを発見してしまった。
周りには人も家もない。今から通報しても間に合うようには思えない。
俺が助けるしかないが、あいにく泳げない。どうすればいいんだと半分パニックになりかけたが、すぐ手にぶら下げた袋に気が付いた。
ロープ!
俺は腕にロープを巻き付けるともう片方の端をおぼれる子供めがけて投げた。
運よく子供の目の前にロープが落ちる。
「捕まれ!!!」
久々に大声をあげた。
子供が両手でロープをつかんだのを確認した俺は精一杯の力でロープを引っ張った。
重い。手や腕が締め付けられて痛い。毛穴や背中からひりひりとした汗が噴き出てくる。
だが、何とか子供は川岸にたどり着いた。
六月になり、そろそろ暑さを感じる季節になってきたが、濡れたままではさすがに寒いだろうと思い、着ていたシャツを脱いでそれで体を軽く拭いてやった。臭いかもしれないが我慢してくれ。
しばらくして一応救助後に呼んでいた救急車がやってきた。
過剰かもしれないが、溺れていたのだから心配だった。
救急隊員は俺の勇気を褒めてくれた。子供は俺に何度もお礼を言ってくれた。
…生きようと、心の底から思えた。
だが本当に人生は何があるかわからない。
俺は次の日にあっさりと死んだ。
人生をやり直そうと職業安定所へ向かう途中、信号を無視して突っ込んでくるトラックに俺は気がつかなかった。
俺の人生はあっけなく幕を閉じた。やり直せると思った矢先だった。
悔しい、こんなところで終わりたくない。俺はやり直せたんだ!
「やり直してみる?『はじめから』?」
どこまでも暗い闇の中。頭の中で声が響いた。
「君の強い思い。それを叶えてあげる。」
ここがあの世なのだろうか。声の主は誰なのだろうか。神様とか?
「やり直したい。」答え自体は聞かれるまでもない。
「じゃあ、はじめからやり直そうか。」神と思しき声は優しい声で返す。
その言葉を最後にまた意識が途絶えた。
────ここは?どこだろうか。
狭い。薄暗く...液体の中に浮いてる?でも不思議ととても安心する。
突如声が響く。
「〇△□。」と男の声。
「ウフフ。×▽◎。」と女の声。
へ?英語とかそんな感じ?聞いたことない言語なんですがそれは。
どこか外国とかにいるのか?
だがまぁ、親密そうに話してるな。
すごく温かい雰囲気が語気から感じられる。推測するに新婚夫婦ってところか?
…新婚の夫婦であるとして、なぜそんな二人の会話が響いてくるんだろうか。
女性の声の方なんて全身に響いてくる。
『はじめから』…か。 ん?
まさか。まさかまさかまさか!!!!!?????
『はじめから』ってそういうことなのか!?