序・『盗賊王』の最期
新参者です。
習作として完成させることを目標に書いてみました。
一応、第一部的な所までは完成しており、それ以降はこれから書きます。
直接的な描写はありませんが主人公の言動が言動なので念の為R-15とさせていただきます。
投稿自体が初なもので何かミスがあるかもしれませんが、何かありましたらご指摘いただければ…
お前が女であるなら問おう。チ●コが欲しいと思ったことはあるか? 俺はある。
何? それはどういう意味かだと? ふむ、確かに語弊が生じる聞き方だった。だが俺のこの問いは、言葉通りに受け取ってくれて構わない。
決して男が欲しいとか、そういう玩具が欲しいとかいう意味ではない。『体の一部』として欲しいと思ったことはあるかと聞いている。
俺は欲しい。今最も求めていると言っても過言ではない。そんなことを言うからには、言うまでもなく俺は女である。
何故そこまでチ●コが欲しいと、もっと言えば男になりたいと思っているのか。気になる者もいるだろう。
例えば家を引き継ぐのは男子と決まっていて、能力はあるのに認めてもらえないとか、そんな理由だろうと思う者もいよう。
だが違う。俺がチ●コを求める理由は、お世辞にもそんな立派なモノではない。
事の発端は、いわゆる俺の前世にまで遡る。
それはもう、今よりずっと力も威厳もあった頃に……。
肩で息をするのはいつぶりだろうか。腕、胴、足、ありとあらゆる切り傷から噴き出る血が、我が体力を奪い続けた。
その原因となった敵を半数程度斬り捨てはしたものの、まだ目の前に残り半数の敵が残っている。ここでもうひと暴れして今いる敵を更に半数ほど血祭りにあげても良いが、それでも奥で指揮するあの男には届くまい。
既に配下たちは皆殺されたか投降した。我が生涯をかけて略奪した財宝も、かどわかした女達も今頃は奴らの手中となっていよう。ああ勿体ない。まだ味見をしていない女も山ほどいたというのに。
今、我が手元にあるのは愛用している大剣と、我が最大の成果たる秘宝のみ。
「もはやこれまでか」
敵は自分たちの背後で指揮する男の命令を待ちながら、槍を向け続け我を取り囲んでいる。ここから逆転する方法は、我が武勇をもってしても存在すまい。
故に、この生涯はこれにて終いと認めねばなるまい。だが、ただで死ぬつもりは毛頭ない。懐に潜めていた物が熱を帯びているのを感じる。どうやら条件は揃ったようだ。
「……これが何か、分かるな?」
「! 貴様……!」
懐から取り出した我が最高の秘宝を見て、奥にいる男が動揺を見せる。だが目の前にいる敵兵には何が何だか分かっていないようだ。美しく光るその秘宝に目を奪われる者ばかりである。
この生涯はこれにて幕を閉じる。それは認めよう。
だが、我が野望に終止符を打つつもりはない。そしてそれを叶えるのが、この秘宝が持つ力である。
「あらゆる願いを聞き届ける禁呪を秘めし秘宝よ! 今こそ我が願いを聞き届けよ!」
これぞ所有者の願いを叶える大いなる力を持つ秘宝『クランプフ』。しかし発動には条件がある。それは願う者の死が直前まで迫っていると秘宝に認識させることである。
我は既に多くの血を浴びたと同時に、自らの血も流しすぎている。今の我が体には、生命を保つギリギリの血しか残っていないが故に、秘宝が願いを聞き入れる条件が揃ったのだ。
男が部下にとどめを刺すように号令をかける。無数の槍が我が体を貫くが、それでも我が口は閉じることなく願いを綴り続ける。我ながら驚くほど淀みなく言葉を発しているが、これもこの秘宝の力やもしれん。
「願いは一つ! 我が新たなる生を受けし時、我が記憶と人格を丸ごと継承せよ!」
死の直前にのみ願いを聞き入れるという性質上、願いが叶う頃には自らは死んでいると思っていい。故にこの状態であれば目の前にいる敵を根絶やしにせよと願い、相打ちにまで持っていくのが定石だろう。窮鼠とはよく言ったものである。
だが、それではつまらない。そこで終わってしまう。
ならばどうするか。ここで我が生涯が幕を閉じるなら、来世にて続きを楽しめば良い。その為には、これまで培った我が記憶と人格の継承が必要だ。
それ以外は不要である。初めから全てが手に入っていては面白くあるまい。
「我が生まれ変わりし時、再びこの世を混沌の渦に巻き込んでくれよう! 奪い、壊し、犯し尽くす世は今一度訪れる! その時を楽しみにしているがいい!!」
我が口から血が噴き出る。ここまで淀みなく叫んで見せたが、どうやら限界が一気に来たようだ。もはや喋ることもできなければ立つこともできないらしい。膝をつき、地に伏し、やがて視界が黒に染まる。
最後に、直前まで輝き続けた秘宝の光が収まったのが見えた。我が願いは聞き届けられたということだろうか。いずれにせよ、これにてこの体による我が生涯は終わりを告げた。
――かつて、国と呼べる規模の盗賊団を統べる者がいた。
――その時代の者たちは、畏怖を込め彼の者を『盗賊王』と呼んだ。
――盗賊王はありとあらゆる村、町、そして国に押し入っては蹂躙を続けた。
――盗賊王はその時代の恐怖の象徴であり、ある意味で暗黒時代の英雄だった。
――盗賊王が最期に残した宣言は、彼の死後も人々を恐怖に陥れ続けた。
都立病院の産婦人科に、一組の夫婦が受診のために訪れていた。お腹の中にいる赤ん坊の様子を見るため、そしてそろそろ赤ん坊の性別が分かりそうな時期なので、それも調べてもらうためだ。
妊娠7か月の女性の腹部に、エコー検査のための器具があてられる。しばらくして検査によって映った映像の一部を写真として渡されることになる。
「ご安心ください。赤ちゃんの状態には全く異常は見られません。そしてこちらをご覧ください。どうやら、赤ちゃんは女の子のようです」
「あら本当ですか? 名前は何にしようかしら」
「そうだなぁ、色々候補はあるんだけど……」
幸せそうな夫婦の声が、診査室で弾む。
――奪い、壊し、『犯し尽くす』世を今一度。
――伝説の盗賊王による新たなる野望は……
――生まれる前から頓挫しようとしていた……
お前が女であるなら問おう。チ●コが欲しいと思ったことはあるか? 俺はある。
生まれた直後に股間の感覚に違和感を覚えた時から、そう思っていたとも……。
特にチートとか無双とかする話ではないです。