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大学生と少年

「ついに辿り着いた……」

今年大学生になったばかりの坂下小読(さかしたこよみ)は袋小路にある寂れた一戸建てのラーメン屋……の隣にあるラーメン屋よりもはるかにボロボロな家の玄関の前に立っていた。

隣のラーメン屋から香る醤油の香ばしい匂いを吸い尽くすかの如く、小読は大きく深呼吸をした。

「ここが噂の陰陽師探偵の事務所……」

小読が意を決して、インターホンを押すと辛うじて聞こえるくらいのか細い呼び出し音が鳴り響いた。



―――1週間ほど前。


小読の通う大学の新聞部部室にて



「都市伝説・陰陽師探偵ってなんですか!?」

今の今までスマートフォンを触っていた小読は気になる単語が聞こえた途端に目を輝かせ、男2人の話に割って入った。

一方の男2人は今までなんの興味もなくスマートフォンを触り続けていた部員が急に大声を出して興味を示してきたことに驚きの表情を浮かべた。


「坂下さん。毎回言ってるけど、急に大声出すのはやめてほしいな……」

片方、メガネの男が苦言を呈する。


「そんなことはいいからいいから!陰陽師探偵ってなんですか!?」


小読はそんなことお構いなしに子供のように無邪気な表情を浮かべて2人に催促する。

そんな様子にもう片方の無精髭を生やした老け顔の男が「はぁ」と小さくため息をついた後、口を開いた。


「最近ネット上で少しだけ話題になってる都市伝説」


「へぇー!陰陽師ってことは式神とか!なんか、こう!りんぴょーとーしゃー!!って必殺技を使うんですか!!!?」

小読は目にも止まらぬ速さで九字を切りながら言った。


「そこまでは知らん」

無精髭の男は無表情のまま答えた。


「では、お二人はなんで急にそんな話をし始めたんですか!!!?」


「あ、ああ……なんでもその都市伝説を初めて流した人物ががこの大学の学生らしいんだ」

メガネの男が小読の勢いに気圧されながら答える。


「えっ!!?ってことは第一発見者がこの学校にいるってことなの???!!!!」


小読は更に声のボリュームを張り上げた。

甲高い声が部室内に響き渡る。


「そう……だからその人物を探して、校内新聞のネタにしようと思っててね……」


メガネの男が気圧されたまま答える。


「ほうほうほう!」


小読はワクワクとした表情をこれでもかというくらいに表出させて話の続きを求める。


「まぁ詳しいことは最初にその噂をSNSに投稿したアカウントのURL送るから後で自分で調べて……」


「なるほど!!それでその記事を私に任せたいってことなんですね!!!取材は任せてください!最初に噂を流した人物と今からコンタクトとってきます!!!!!!!!」


「いや、別に任せたいってわけじゃ……」


メガネの方が否定しようと言葉を発するも、小読はそれを全く意にも介さずに自分のスマートフォンで該当のSNSアカウントを検索する。


「あった!ありました!二週間前呟いてますねー!! あ、しかもこの学校の図書館の写真だ!なるほど!!先輩方はそこから推理して、ここの学生が第一発見者ってことを割り出したんですね!!」


さながら徹甲弾のマシンガントーク。言葉の圧と息をつく暇を与えぬ連続トークで周りが言葉を発する隙を全く与えない。


「あ、『今授業だるい』って呟いてますよ!てことは今学校にいますよ!!!いろんな写真から推察するに女の人ですね!!!!あ、しかも前の時間リプで他の人にマクロ経済の話をしてるから経済学部の人の確率がかなり高いですよ!!! 早速メッセージを送ってコンタクト取ってきます!!!!!!!!!!!!!!!!」


小読は足早に新聞部の部室を出て行った。

その後、しばらく新聞部の部室にはまるで嵐が去ったあとの静けさのような静寂が、否、沈黙が場を支配した。


「……おい、あいつの前でオカルトネタは話すなって前言ったじゃねえか!!」


イラつきが頂点に達したのか無精髭の男がメガネの男に向かって大声で言った。


「だってスマホに夢中で聞いてないと思ったんだよーッ!」


第一の嵐が去ったあと、部室で第二の嵐が発生しようとしていた。



か細い呼び出し音が響いておよそ十分。

坂下小読はただ玄関前で突っ立っていた。

待っている間、誰からの返事もない。


「……聞こえてないのかな?」


首を傾げる小読。

更に十分。まだ返事はない。

もしや聞こえてなかったのかと思い、もう一度インターホンを押す。

か細い音が響いても、それに対する返事はない。

もう一度。

ピン……ポーン……ピン……ポーン。

ピピピン……ポーン。ピピピピピピピピピン……ポーン。

か細い音がビートを刻み出した。


ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ


「うるッッッッッッさい!」


か細い音のビートを掻き消すような大声と共に、和装束を着た身の丈五尺程度の少年が扉の向こう側から現れた。


「あ、やっぱり聞こえてなかったんですね、たくさん鳴らしてよかった~」


小読はそう言ってにこやかな笑顔を見せた。


「いや、留守と思えや!」


和装束の少年はビシッと小読に向かって指をさす。


「え?でもいるじゃないですか?」


小読はきょとんとした表情を見せ、首を斜め45度に傾ける。


「居留守しとったんじゃ、居・留・守!」


「あ、なるほど。お父さんもお母さんも今はいらっしゃらないんですね。また帰ったら来ますね」


小読はそう言って、すぐに踵を返さんとした。


「わしを子供扱い!?過去1番失礼な客だな!」


「あ、ところで、ここ陰陽師探偵の家であってます?」


踵を返そうとしたところで、ふと思い出したのか、捻りかけた体を勢いよく元に戻し、小読は少年に質問を投げかけた。


「人の話を聞く気はないのかな?」


少年は自由すぎる小読の言葉に対し、声に圧を込めて言った。


「ここ陰陽師探偵の事務所であってますか?」


対する小読も言葉に圧をかけ、更に一歩踏み出して言い直す。


「…………陰陽師の子孫が住んでいるところではあるとだけ言っておく」


少年は圧力に屈した。


「よし!やっぱり合ってた」


小読は小さくガッツポーズをする。それを見て少年は大きくため息をついた。


「……出てまったからには聞くけど、用件は?わしゃ、眠いから手短にせぇよ」


少年は明らかに早くなった口調で言った。


「え?御両親に伝えてくれるんですか?」


「わしがその陰陽師じゃい!」


「えー、子どもじゃないですか」


「…………だったら証拠見せたるわ」


少年は懐から一枚の人型のお札を取り出した。


「おー、それっぽい」


小読が目を輝かせ、お札を見つめる。

ちょっとそれに気をよくしたのか少年は少しだけ口角を吊り上げた。


「来たれ屍鬼、急急如律令!」


瞬間、閃光が弾けた。


「わっ……!」


あまりのまぶしさに小読は目を閉じる。

それから間もなくして目を開けると、目の前には身の丈九尺はあるであろう巨大な『鬼』のような何かが静かに佇んでいた。


「すごい、鬼だ!!」


小読はそれをペタペタと触って如何なるものか、と確かめる。


「これでわしが噂のそれであることがわかったやろ……!」


「おお、すごい胸筋!」


小読は少年の言葉に耳を貸さず、鬼の胸筋を跳ねながらぺちぺちと叩いていた。


「……屍鬼、部屋に戻ろう」


屍鬼と呼ばれた鬼は無言でうなずき、家の中へと入っていった。


「あー、待って、取材させて!」


「取材?」


「おっと、申し遅れましたね! 私は坂下小読。実は私は新聞記者なのです!」


小読はあらゆることを端折った自己紹介をした。


「なんと、記者さんでしたか!」


当然、少年は盛大な勘違いをしてしまった。


「ふふふ、ええ! 風の噂をつかんで調べて調査して! ようやくこの居場所をつかんだ私は突撃取材へと敢行したのです!」


小読は胸を張り、鼻を鳴らして言った。


「そうだったのか……、ならば取材を受けるのもやぶさかではない」


「ということは!?」


「事務所で茶でも飲みながら話すとしよう。屍鬼!お茶を頼む!」

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