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9話 言葉は通じずとも

 イドキとゲイル。


 見つめ合う彼女と彼は、互いの言葉も分からぬままに自己紹介を終えるとゆっくりと立ち上がろうとする。

 するとゲイルは何かに気付き、背中をイドキの側へ回した。

 おんぶをしようという事らしい。


「え、なんで?」

「◆◆◆、◆◆◆」


 しかし、当のイドキは背中を向けられても、コテンと訳の分からない様子で疑問を深く考える。

 超演算を使用しても答えが出ないなんて、人付き合いとはなんて難問なのだろう。


 呆れた目付きでゲイルはイドキの足元を指差した。

 釣られて下を見てもそこには何時もと変わらず、スカートからチョコンと出る足首があるばかり。

 特に折れてもいないし、変質もしていない。敢えていうならばそこに『水気』があるという事くらいか。

 失禁の跡である。

 それでは気になって、マトモに歩くのも難しいだろうと判断してゲイルは背中を向けた訳だが、イドキは別なように捉えた。


「もしかしてスカートユニットが気になるのかな。じゃあ取り外して……って痛いなぁ」

「◆◆◆!」


 スカートを取り外そうとするや否や、持ち手を急に押さえられて脳天に軽いチョップを落とされた。

 何時の間に身体を回したかは兎も角、彼の顔はやや羞恥。大部分に呆れの色が強い。


 少し考え、立ち上がる。

 イドキは両手でスカートを下ろす動作だけして、両手でバツの字を作り、ゲイルの顔を見る。ドッと緊張が抜けたのか、口調が結構馴れ馴れしい。

 腕を組んでいた彼は頷いて肯定の意を示す。


「◆◆◆!」

「それならそうと言ってよ。言葉分からないけど」

「◆◆◆、◆」


 イドキの一言をゲイルが理解している訳はない。

 しかし目の前の小娘が、何やらイラッとする事を言っている事は何故か分かった。

 苦虫を噛み潰したような顔を浮かべて、彼はイドキを背中に無理やり乗せると、愚痴を呟きながら森を歩く。

 革製のトレンチコートだけあって背中に湿り気を感じないのがせめてもの幸いだと感じていた。


「まあ、よく分からないけど元気出しなよ」

「◆◆◆」

「うんうん、きっとそう」


 意思は通じるが、言葉の通じない会話がダラダラと続く。

 尚、何故スカートを下ろす事がいけないとは、結局イドキが理解する事はなかった。

 今まで道具として扱われてきた分、人として当たり前に備わる羞恥心がとても薄いままに育ってきたのだ。

 なので、仮にこの段階で言葉が通じたとしても、結局感性の問題に行き着き首を傾げる事には変わりなかった。

 故にイドキの非常識さがどうにかならないものかと悩むゲイルの苦労はどうしようもならなかったが、どちらにせよ、言葉が通じない彼がそれを解する事はなかったのである。


 ところでゲイルは立ち止まる。

 足元に見えるのは、口を開いて倒れ伏す大トカゲの死体だった。正直なところ、彼は此方に用があるのであって、イドキを助けたのは結果論だ。

 放っておけば野生動物の餌になってしまうだろう。だが、これを今すぐ持っていくとなると、イドキを置いていかなければいけない。

 少しボウと大トカゲを眺めて、眉間に皺を寄せた。イドキの顔を見る為、後ろを向く。


「……なに?」


 相変わらず何を考えているか分からない、やる気のなさそうな顔だった。

 ゲイルは一拍置くと、溜息と同時に大トカゲを意識の外へ飛ばす決意をした。


「◆◆◆、◆◆◆……」


 彼は人差し指を前に突き出すと、イドキに語りかける。

 恐らく道は此方で良いのかという意味なのだろうと、なんとなく分かったのでイドキは首を縦に振る。ゲイルは枝葉を踏み潰して歩き出そうと、片足を上げた。


「あ、ちょっと待って」

「◆◆」


 イドキの平手がゲイルの脳天へペチリ落とされた。

 これといって痛くは無いが、つい片足を上げたまま止まってしまう。

 その体勢のままピョコリと背中から降りると、大トカゲに恐る恐る近付いた。


 ナノマシンをフリルから放出。

 大トカゲの体表に張り付かせて生態感知システムを起動。しっかりと死んでいる事を確認し、先程襲われた事を思い出して、ごくりと息を一飲みする。

 しかし同時に、ゲイルが立ち止まった事を思いだすと、行動を起こした。


「反重力システム起動」


 張り付いていたナノマシンに命令を与えると、重力の方向が操作され、大トカゲの体重がイドキの腕力でも持ち上がる程度に軽くなる。

 故に、片手で尻尾を掴んで大トカゲをズルズル引きずった。幼女が恐竜を軽々と運ぶといった、とてもアンバランスな光景がそこに出来上がる。

 そして、ゲイルの目の前へ辿りつくとそれを差し出してみせた。


「はいコレ。なんか気になっていたっぽいから、あげる」


 そんな光景に差し出された側としてはポカンと目を見開くしかない。

 取り敢えず片手で尻尾を受け取ってみると、重さが変化している事に対して二重に驚いた。

 イドキがちゃっかりと、再び背中におぶさっているものの、もはやあまり気にならない。


「それじゃ、れっつごー」

「◆、◆◆」


 目的は達成できたし、まあ良いんじゃないかな。

 ベクトルは違うものの、そんな事をお互いに考えていた。

読んで頂き、ありがとう御座いました。

尚、次話から普通に会話するもよう。


【イドキが前の世界で極端に人間として扱われなかった背景】

イドキが元々居た世界の地球に当たる惑星(便宜上『地球』と呼称)では、資源が取り尽くされていた。

そのせいか宇宙へ開拓移民を送り、テラフォーミングした惑星から地球へ資源を送るという社会構造が出来上がる。そして地球は生身では生きられないほど汚染され、地球に住む特権階級は自らの遺伝子に手を加えて汚染された地球でも生きられるように変異していった。

その一方で、開拓惑星という勢力を宇宙で増やした開拓移民が『手を加えていない人類の遺伝子を持つ我々こそが本当の地球人なのである』と大義名分を掲げて反乱。

これによって地球対宇宙の構造が出来上がったのである。

そしてイドキは宇宙サイドで、宇宙に住む人類は遺伝子組換人間に対して人形以上の人権を与える事はないのです。

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