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5話 レガティオン:leg-at-ion

 反重力機能でゆっくり地面に降り立つと、スカートを翻して身体を回す。

 さすれば正面に、寝ても尚聳(そび)えるレガティオンの途方もなく大きなな身体が見える。


 視界を覆うそれに近付くと、柔い手で撫でる。

 その撫で方は、赤子を扱うようにとても優しい。


 金属板は生物と対極に硬く冷たく、しかし陽光を浴びて生暖かく。剥げた塗装はまるで紙やすりの様な触感だ。

 物言わぬ兵器に対し、彼女は安心させるような口調。されど視線を落として申し訳なさげに語りかける。


「改めて見ると、酷い壊れようだよね。ごめん。

すぐ直してみせるからさ。だから大丈夫だから、ね。レガティオン」


 イドキは自らが機械であることを否定している。

 しかしそれは、材質が違うだけで似たような目的の元で作られ、生まれてからずっと一緒に戦ってくれたレガティオンに対する裏切りの念を感じていたのだ。

 自分は卑怯者だと、そのような想いが次から次へと湧き上がり、せめて慰めの言葉で取り繕うしかなかったのである。


「とりあえずは『みんな』を呼ぼうか」


 「直す」と軽く言ってのけたが、この損傷は専門家の目から見れば絶望的である。

 不測の事態が起こり易い特別機や試作機等は、よく修理キットが備え付けられている。

 しかしここまで壊れていると、その程度の気休めでは元に戻す事などは無理の一言に尽きる。

 せめて動けるよう改修するにしても、工場へ運びパーツごとに分解して、別の何かに作り替えるような大規模な作業が必要だった。

 リサイクルともいう。


 しかしレガティオンは、常識を無視してソレが出来てしまう『例外』だった。

 イドキはパンパンと手を叩く。


 外部ユニットの一部ハッチが開かれて、中からヒョコリと人型の物が現れた。

 やたら上半身が大きいのは、手脚が殆ど金属フレーム剥き出しの状態で造られているから。


 小型の汎用人型ロボットだ。

 大きさは成人男性ほどで色は白く、外装は主に強化プラスチック。他にも『ミーレス』とかいう名前なんかがなくもないが、詳細は省略。

 ポイントは安いので大量生産が可能な割に手先が器用である事。

 そんなロボットが同じ形のそれ等が次々と蟻のように出てきていた。


「よしよし、みんな揃ったね」


 イドキの前にズラリと綺麗に並ぶロボット達。

 バランスの為に完全に直立という訳でもなくて、前傾気味で膝も少し曲がっている。

 彼女はその内のひとつを見上げ距離を取ると、桃色の唇がひとつの軽やかなメロディを口ずさむ。


「じゃ、動作確認といこうか。

ぱーんぱーかぱっかぱっか、ぱーんぱーかぱっかぱっか、ぱかぱか、ぱかぱか、ぱぁーん。ぱぁーっん」


 ラジオ体操の曲調だった。

 それはスーツから放出されたナノマシンによって奥にも届くように拡散されていく。


「先ずは背筋の運動からー」


 一糸乱れぬロボット達は、紡がれる曲に合わせ、手を交差させたり跳びはねたりと運動をこなしていく。

 歌いながらイドキは、僅かに目のみで微笑みながらよく観察していた。

 どこが楽しいかは本人も存じるところでは無いが、歌っていれば嫌な事に思考が向きにくいものなのだ。


 第二体操までの一通りを見送り、歌い終わると自らが踊った訳でもないのに、やり切った感じを伝える清涼感と浮遊感があった。

 納得して頷く。


「支障なし。

じゃ、作業をはじめようか」


 ロボット達は回れ右をしてレガティオンへ向かっていった。

 回収するには工場に持って行かなければいけない。しかも大型になればなるほど、既存の修理キットでは気休め程度にしかならない。


 そして生まれたのが、工場を持ち歩けば良いという発想だった。


 工場として必要な最低限の道具と、必要な人員をロボットとして外部ユニットに格納する。

 複雑な操縦は出来なくても、簡単な改修程度ならロボットでも十分なのである。

 特別難しい作業があれば超演算能力で予め割り出してプログラミングしておけばいい。

 そのように格納されている無人機は小さなものから大きなものまで種類も目的も多種多様だった。


 なので周りからは手脚の付いた戦艦などと揶揄されていたが、実のところ半分はその通りに戦艦としても使える。

 寧ろ、その無人艦載機こそが『軍団』を意味する『legion』を文字った『レガティオン:leg-at-ion』の真髄でもあるのだ。


 尤も、本当に戦艦として使うと、単独での行動にかなり特化している上に一人乗りなので、物凄く使いづらいが。


「はじめて見るけど凄い光景だなぁ」


 イドキはちょこんと体育座りで現場を眺める。

 こうも有り難い機能が付いているものの、レガティオンが損傷を負うことは稀なので、実際に使われているのを見るのははじめてだったのだ。


 外部ユニットにしまっていた単管パイプが組み合わさって、目が追いつかない間にレガティオンを囲む足場が出来上がる。

 いわゆる工事現場だ。

 それを使って小さなロボット達が改修作業を行う様は、まるで小人に囚われた時のガリバー旅行記であった。


 そして体育座りで眺めるのみのイドキは思うのだ。

 暇だなと。


「……少しくらいなら、良いよね」


 背後の樹海へ視線をやった。

読んで頂き、ありがとうございました。

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