第21話 勇者
薬を飲んだゲイルの表情は、顔半分が隠れているのに分かり易いものだった。
口を大きく開けて、舌を出し、歯を見せながら、ゲップに似た苦々しくて大きな声を出す。
「不っ味ぅ〜〜、コガネムシみたいな味するぅ〜〜。喰った事ないけど」
意味はよく分からないがもう食べたくはない味だという事がよく分かる。そんな表現を、リリーナへ伝えた。同時にこれは薬に効果があったという証明である。
彼女は「やれやれ」と溜め息をついて呆れる。
「よくやるわ。でも、これで取り敢えず効果がある事の証明は出来たわね」
一泊置き、次の一言から本題を口にする。
「……で、アンタの本当の狙いは何?そんな身体を張っちゃって。
只の英雄願望とか、そういうのいいから。
アンタはイチかバチかに人生をかけるほど、甘い人間ではないでしょう?」
「しかし」とゲイルは首を横に振り、苦笑いを浮かべて天井を見た。
そこには客間の天井に取り付けられた、そして彼等にとっては未知の代物である照明が埋め込まれている。
眩し過ぎでもなく、弱すぎでもない人工光は、キノコで作ったカンテラとも、最近錬金術によって作られた電球とも原理は違う。
「ま、敢えて言うなら、この物凄い『何か』が俺たちの敵ではない。
それを証明したかった。それじゃダメかな」
「……敵、ねぇ」
「ああ、イドっちゃんが言うにはコレは兵器でないらしい。
しかし周りはそうだと考えないかも知れない。
そこでどうしたものか……俺としては『新手の錬金器具』。そんな流れでどうだろうかな。永久名誉錬金術ギルド長・リリーナ殿」
楽しそうな顔で見下ろす彼に、リリーナはやっと「ハッ」とした表情で言いたいことに気付く。
つまり、このレガティオンとかいう未知の城だか機械だかよくわからない物に対して「これは兵器ではありません。錬金術ギルド長が保証する新手の錬金器具です」と、一筆保証書を書いて欲しいのだというのだ。
「くっだらな。でも、まあ良いや。
アンタがやろうと思えば力ずくで薬だけ持って、この『錬金器具』を放置してどっか行っちゃう事も出来たし……」
「はい羊皮紙」
「準備良いな」
何処からともなく取り出されたカルテ用の羊皮紙と木製バインダーへ万年筆を以てスラスラと保証書を書き、最後にサインを入れて完成である。
これさえあれば、仮に陸上艦として修理の完了したレガティオンが、関所か何かで止められたとしても、錬金術ギルドが後ろ盾になって守ってくれる筈だ。
「ま、辛いことがあったら何時でも来なさいな」
「ないから大丈夫」
そして彼の顔には、無言で拳がめり込まれていた。
◆
数日後のことである。荒野を陸上艦レガティオンが駆けていた。
なんだなんだと物珍しさで騒ぐ関所にて手続きをしているのはゲイルだ。
彼はコックピット兼客間に戻ると、イドキから飲み物を貰って喉を潤す。
そうしている最中の事だった。
「ゲイルは結局、何のために私にこんな良くしてくれているの?」
「んあ、そうだなぁ。ぶっちゃけなんとなくだ。
なんとなく、『コイツに飯で美味いと言わせたいな』と思っただけさ」
「そうなの?」
ゲイルはコップから唇を離して、ニカリと笑った。
「ああ。楽しいという感情を知らなかった昔の俺がそうだったように、な」
◆
むかしむかしあるところに悪い魔王と強い勇者がいたそうな。
ただ、どんなに『悪者』を倒しても表情筋一つ動かさなかった彼は、とうとう『魔王』を倒し周りからは『勇者』と称えられる中、物凄い後味の悪そうな顔だったそうである。
その後の勇者が何処に行ったかは誰も知らず。
ある人の話では、魔王を倒したその技で人々を救う旅をしていると言われているそうな。
これにて終わり。
読んで下さった皆様、ありがとう御座いました。




