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11話 トモダチ

「うわっ、ホントに鉄の城が建ってら」


 広がる平野、ゲイルは修理中のレガティオンを見上げていた。

 前もってイドキからナノマシンで作った立体映像を見せられていたので、易々と受けいれる事が出来たのである。

 未だ背中におぶさるイドキは、再びペチンと痛くもない平手を加えた。

 目標はまた彼の脳天だ。


「むぅ、違う。城じゃなくてレガティオン」

「そういやそんな名前だったか。しかし、だとしたら城との違いってなんだい?」


 そう言って片手で丁寧にイドキを抱き、背中から正面に持っていく。

 彼女は顎に手を置いて、難しく高速思考を回すものの、出てくる答えは戦いに関するものばかり。

 では「戦える」と答えるべきなのかと思うも、それは否定したかった。

 彼女はどうしてもこの巨体と自身を重ねる癖があるが故に、自身をそういったものだと認めたくないエゴがあったのだ。


 悩むイドキを見て、ゲイルは申し訳なさそうに笑った。


「はっは、ゴメンよ。

でも取り敢えずは、お城としての機能は備わっているんだろう?お客さん迎えたりさ」

「……うん」


 下を向いて顔を赤くして答えた。

 一応、単独で行動する大型機ということで、キャンピングカー並みに小さなシャワーや簡単なキッチンが付いている。

 だが本来一人乗りのレガティオンに通常の戦艦よろしく『客間』などという空間は無いのだ。


 ところが、彼女は今回の改修に当たり、図面を引き直す時に、まだ見ぬ異邦人をもてなす自分を想像してつい、外部ユニットに無人機や武装を詰め込む空間が在るのをいい事にそれらのキッチンやシャワーなどを拡張し、操縦室を核として、『客間』を作ってしまったのである。

 呼ぶべき客が来なかった場合はまるで不要の長物だというのにだ。


「ならば良し!ん、どうしたのかな。そんな顔しちゃって」

「な、なんでもないっ!」


 イドキはゲイルの手を力いっぱい取ると大股で進む。

 そんな途中途中でゲイルは手を振る。作業を続けるミーレスに挨拶をしているのだ。

 そんな様に微笑ましくなり、つい、手を振り返すという動作を加えさせた。


「お疲れ、ゴーレム諸君。君たちも主人の為に頑張るねぇ。おお、手を振り返すとは、良いコじゃないの」

「うん……。私の大切なトモダチだから……」

「あっはっは、妬けちゃうな。扉はこれかな。色は燈色と華やかだけど、デザインは結構ストイックなんだね」


 と、いったやりとりがあったもの、二人はコックピットハッチとは別に、新たに作った客間へ続く扉の前へ立っていた。

 ゲイルの言う通り、扉は装甲を切り取って軽く手を加えただけのシンプルで飾り気のないものだ。

 感想を聞いて、今度はもう少し驚かせるような芸術性も加えてやろうと決心した瞬間である。


「まあ、内装は結構凝ってると思うから、見てみてよ」

「そうかい。ではお邪魔しまして……おっと、コイツで中を汚しちゃいけないか。ちょいと外に置かせておくれよ」


 ゲイルは大トカゲの死体を扉の横へ置いた。

 大切なものではなかったのかと思っていたイドキは、少し驚く。


「ああ、平気平気。ゴーレム諸君がいっぱい居るからな。きっと猛獣からも守ってくれるさ」

「ちょっと信用し過ぎじゃないかな」

「だってイドっちゃんの友達なんだろう?じゃあ、イドっちゃんを信じる俺は信じてみせるさ」

「調子いいなぁ。まあ、良いんだけどね。じゃあ開くよ」


 ナノマシンから発された波動によって扉が機械式に開かれた。途端、外へ溢れるシャンデリアの光がゲイルの顔の包帯を照らすも、眩しそうな素振りは見せず、遠慮せずに入っていった。

 かくして作りかけの内装へ、はじめての客が招かれる。そんな彼は、肩と顔の力を抜いて、腰に片手を当てて周りをゆったりと見回していた。


「良い部屋じゃないか」

「そ、そうかな。……ありがと」


 内装は核となる操縦室に合わせて、ヴェネツィア調をモチーフとしたものだった。

 赤いソファに赤絨毯など、基本的には赤いが、その割に壁や床はシックで落ち着いた色の『木材』を使っていた。尤も、足から伝わる感触が本当にゲイルの知る木材かと聞かれると少し違和感があるが。

 天井から垂れる大玉のシャンデリアや扉の金具などへ微妙に使われる金も、主張し過ぎず丁度いいバランスが保たれる。

 『ゴシック』や『スチームパンク』とも呼ばれる空間である。


「しかし、こんないい部屋なのに迷いの森に居るなんてもったいないねぇ」

「それは大丈夫。レガティオン、その内動く予定だから」

「ほう、動くとな」


 レガティオンは宇宙で動き回る為、背面に強力な反重力スラスターが付いている。

 どのくらい強力かといえば、100パーセントの力で全力を出すと光速で空を飛ぶくらいには強力だ。

 さて、現在レガティオンは仰向けで寝そべった状態であるが、ならばその出力を後ろではなく下へ回し、『反重力ホバー』として扱う。

 起き上がれないままにレガティオンを『陸上艦』として改修しようというプロジェクトだ。


「……て、事を外の工事ではやってるんだ」

「おお。よくわかんないけど凄いじゃねぇか。正に、『陸上戦艦』だな」

「むぅ、兵器じゃないもん。レガティオンはレガティオンだもん」

読んで頂き、ありがとう御座いました

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