この星に一番近くて遠い星
宜しくお願いいたします。
一人称語尾改変ご自由に。
アドリブは相手との空気を読んで行いましょう。
性別改変なども黙認しております。
マスター:♂ ベテランのバーテンダー
店員:不問 お店のバイト
どうやらこの星ではない別の星からやってきたらしい。
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マスター・店員「「ありがとうございました」」
マスター「また来てくださいね」
間
マスター「しかし君が来てからちょうど半年か。時間が過ぎるのは本当に早いね」
店員「そうですね」
マスター「どう、仕事には慣れた?」
店員「一通りは覚えました。
ただ、お客様との会話はすごく難しいですね」
マスター「そうだね。ぼくも上手く会話をするのには時間がかかったよ」
店員「マスターがですか?意外ですね」
マスター「意外なものかい。
誰だって最初は新人、苦労してようやく半人前だよ」
店員「誰だって最初は新人…苦労してようやく……メモしないと」
マスター「そんなことメモしなくていいよ。体で覚えていくんだから」
店員「はい」
マスター「それより、また例の話の続きを話してはくれないかい?」
店員「例の話ですか?」
マスター「君が遠い星から落ちて来たって話」
店員「あぁ、面接の時の話ですね」
マスター「そうそう」
店員「いいですけど営業中にいいんですか?」
マスター「あぁ、それもそうだ。
よし、お客さんも居ないし今日は閉めよう」
店員「大丈夫なんですか?確かに今はお客様は居ませんけど」
マスター「大丈夫、うちは個人店だしマスターの気まぐれだと許してくれるさ」
店員「随分と楽観的ですね」
マスター「僕の取り柄はそれくらいしかないからね。さっ、聞かせてほしいな。お酒がないと語れないって言うんだったらパパッと作っちゃうけど」
店員「大丈夫です」
マスター「そう?」
間
店員「僕が遠い星から落ちて来たというのは面接で話したと思うんですけど、それには訳があるんです」
マスター「というと?」
店員「僕が居た星は、僕のような生物が数え切れないほど住んでいて、社会を形成しているんです。家族が居て、仕事があって、みんなが夢を持っている、そんな星です」
マスター「まるで、この星みたいだね」
店員「とても近いと思います」
マスター「それだけ聞くと普通に良い星だと思うんだけど……訳ってことはなにかあったんだ」
店員「はい、その、僕は恥ずかしながらその当時は夢がありませんでして、来る日も来る日もバイトに明け暮れてたんです」
マスター「ふむ」
店員「その星はある一定の年齢までに夢を持って、行動に移さなきゃいけないっていう法律があって、間に合わなかった僕は警察から逃げるようにこちらに落ちて来たという訳です」
マスター「その法律を守らなかったらどうなるんだい?」
店員「公然の場で貼り付けにされ『こいつは夢のない可哀想な奴だ』と白い目を向けられます、それでも夢を持たなければ独房に入れられ定期的に監察官が来て夢とは何かと延々と語りに来ます」
マスター「凄い星だね、それは」
店員「ですから驚きましたよ、コンビニの店員さんに、夢は何ですかって聞いたら『店長が変わって欲しい』なんて答えるもんですから」
マスター「夢というか……それは、愚痴だねぇ」
店員「それを聞いた僕は、何故か貧しいなって思ったんです。夢の無い僕が言える立場では無いですけど、この星にはそれっぽっちの夢すらも叶わないのかと」
マスター「この国はね、凄い窮屈なんだよ。夢見ていたものが何だったのか、忘れてしまうくらいにはね」
店員「僕はマスターに出会って、この星の、この国が好きになりました。あの星では夢ができなかった。……でも、この星に来て夢ができた。だからこの国でこの国のためになる何かをしたいんです」
マスター「この国のために何かをしてあげたいだなんて良い夢をもったじゃないか」
店員「ありがとうございます。でも、具体的にどうすれば良いのか分からなくて……」
マスター「ふふっ、そうなのかい?だったら、まずはここに来たお客さん全員に喜んでもらうなんていうのはどうかな?」
店員「お客様全員に……喜んでもらう」
マスター「そう、バーテンらしいだろう?」
店員「そうですね」
マスター「そうしたらぼくは引退して君にお店を預けようかなぁ、なんて」
店員「タチの悪い冗談はやめてくださいよ」
マスター「ははは、ごめんね。安心して、ぼくの今の夢は死ぬまで現役だからね。これからも頑張るよ」
店員「そうしてください。僕はマスターに教えてもらいたい事がまだまだあるんですから」
間
店員「マスターは、どうして信じてくれたんですか?」
マスター「ん?」
店員「僕がここから遠い星から落ちて来たって話です」
マスター「あぁ……その話をする前に、飲み物を作っても良いかな?」
店員「いえ、僕に作らせて下さい!」
マスター「そうか、じゃあ頼むよ」
(お酒を作っている)
マスター「ウイスキーにアマレット……ははっ、実に君らしい」
店員「お待たせしました『ゴッドファーザー』になります。
こちらのカクテルは1972年に作られた有名な映画を記念してつくられたお酒でして、強い度数に反した甘い飲み口は、その映画の主人公の二面性を表しているような味わいになっております。そしてこちらのカクテル言葉は『偉大』僕がマスターに贈るお酒はこれしかないと思いました」
マスター「うん、良い香りだ。流石、僕が直接卸しているお酒達だ」
店員「ははは、敵いませんね」
マスター「さて、どうして信じたか……だったね?」
店員「はい」
マスター「僕はね、若い頃は小説家になりたかったんだよ。しかもSF小説さ」
店員「SF小説ですか?」
マスター「あぁ、その世界では未知の可能性を大いに膨らませることが出来るんだ。
(手のひらを店員に向ける)
そして君はまさにSF小説の人間そのものだったのさ。
君の話を聴いて、僕が遠い日に描いた世界が、迎えに来てくれたのかと思ったよ。『今までよく頑張ってきたね、ご褒美をあげよう』って、神様からのご褒美だとも思ったさ」
店員「神様からのご褒美……」
マスター「頑張れば、どんな形であれ夢は叶うんだってね。嘘でも構わなかった。ただ、昔の自分を信じて君を信じたのさ」
店員「マスターに出会えて……本当に良かったです……」
マスター「ははは、君が泣くことはないだろう」
店員「だって……だって……」
マスター「仕方ないな。君が僕にお酒を贈ってくれた様に、僕も君にお酒を贈ろう」
(お酒を作る)
マスター「『ジン・バック』
君の心にはいつも正義の心を…君の未来、どんなことがあるか分からない。それでも君の心には正義を持って行動して欲しいそう願っているよ」
店員「ありがとう、ございます」
マスター「これからは若い人達の時代だ。どんな価値観でも、受け入れなければいけないね」
店員「そうしていただけると、嬉しいです」
マスター「さて、今日はもう片付けて帰るとしようか」
店員「そうしましょう」
マスター「明日は予約のお客様が来てくださるそうだよ、なんでも数年来の友人にドッキリを仕掛けるんだとか」
店員「それは面白い事を考えますね」
マスター「そうだね、いいネタになりそうだよ」
店員「小説のですか?」
マスター「いいや、これからのトークのかな」
店員「今日の話も使ってくださいよ」
マスター「それは遠慮しておこう、これは僕と君2人だけの秘密さ」