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花火大会で待ち合わせ

作者: 斉木凛

―――千夏


「千夏は、花火大会行くの?」


隣の席の美冬が聞いてくる。


「行くよ」


「やっぱ、先生と行くの?」


「そう」


「バレたら大変じゃね。大丈夫?」


「変装していくから平気」


この事は親友の美冬だけには言っている。

確かにバレたら大変なことになるんだろうな。

ダメな事とは、わかってはいるんだけど……。

バレなきゃいいんでしょ?




―――幸太郎


「先生は、花火大会行くの?」


授業終わりに女生徒が聞いてくる。


「行かないよ」


千夏と行く、なんて言えば、何を噂されるかわからない。

女子高で変な噂が立てば、その後の授業がやりにくくなってしまう。

授業に支障が出て、生徒の成績が落ちたりでもしたら、俺の評価に影響を与える。




―――千夏


私の通っている深瀬女子高の近くには、深瀬川という大きい川が流れている。

夏になると毎年、その河川敷で花火大会がある。

こんな地方都市では、他に娯楽がないから、地元の人間は皆、花火大会に足を運ぶ。

河川敷は芝生になっていて、誰でもそこに座って花火を見物することができる。

お金が掛からないから、高校生や中学生のデートには最適だ。

土手沿いには屋台が並び、美味しいものがたくさん売られている。

子供っぽいかもしれないけど、私はイチゴのカキ氷が好きだ。




―――幸太郎


女子高の教師をしていると言うと、皆に羨ましがられるが、そんなことはない。

深瀬女子高に赴任して三年が経ち、女子高の実態がわかってきた。

一年の女子はまだいい。

高校生になったばかりの緊張感があるし、周りに知り合いが少なく、自分の本性を出すのに抵抗があるからだ。

俺が担任を受け持っている二年生は、タチが悪い。

学校の雰囲気にも慣れ、気の合う仲間も増えて、進路への不安も薄いから、やりたい放題だ。


暑くなるこの季節、教室ではブラウスのボタンを外し、ブラジャーを見せつけるように、下敷きで胸元を扇ぐ。

さらには、大股を開き、こちらに見せパンを見せながらミニスカートをパタパタと扇ぐ。

見せパンではなく、本物のパンティを見せてくる強者もいる。

それを目の当たりにして、恥ずかしがっていては、ナメられる。

ナメられれば、授業が崩壊し、勉強どころではなくなり、俺の成績に影響を与える。

かといって、堅物教師のように怒鳴ったり説教したりしてしまえば、授業を聞いてもらえない。

そういう時は


「お、白か?俺は薄い水色が好みだな」


なんて、余裕のある大人の返しで、やり過ごす。


「先生の好みなんか聞いてねーし。ってか、それセクハラー」


このくらいのツッコミを入れさせて、笑いに変えられたら上出来だ。

パンティを見せつけてくるのもセクハラだが?

という言葉は飲み込み、何事もなかったかのように授業を進める。




―――千夏


「美冬は行かないの?」


幼稚園からの付き合いだから、答えはわかっているが聞いてみる。


「アタシはパス。暑いのも人混みも苦手」


と、はだけたブラウスの中に向けて、下敷きで風を送る。

男の先生の授業中でもパンツが見えるほど、スカートをパタパタさせながら、


「穿いてない方がいいって、先生キモーイ」


なんて言っている。

私もそうだけど、高校二年生って気楽でいいよね。

将来、何になりたいかなんて、全然考えられない。

進路の事よりも、パンツを見た男の先生の反応を面白がっている方が楽しい。

でも、私はそんなことで気を引こうとはしない。

気になる先生には、ただ、だまって見つめているだけでいい。




―――幸太郎


パンティを見せつけてくるような奴は、まだ扱いやすい方だ。

一番困るのは、

授業中、ノートも取らず、ただ、じーと、こちらだけを見つめてくるだけの奴だ。


「なんだ?」


とでも聞こうものなら、


「先生の事が好きです」


なんて言われそうだ。

過去に、女生徒に手を出した事がバレて、懲戒免職になった教師がいたらしいが、俺はそうはなりたくない。

誤解されるような行動はするなよ、と思いながら、気付かない振りをする。




―――千夏・幸太郎


そんな、いつもの日常が過ぎ去り、

いよいよ、今週の土曜日は……、


花火大会で待ち合わせ。




―――千夏


浴衣に着替えるのに手間取った。

待ち合わせには遅れそうだけど、ちょっとくらい大丈夫でしょ。

普段は長い髪を伸ばしっぱなしにしているけど、今日は束ねてアップにしている。

いつも下ろしている前髪は、ヘアピンで留めて、おでこを出している。

コンタクトを外して、家でしか使っていないメガネを掛ければ変装完了。

これで、知り合いに会っても気付かれないでしょ。

先生と一緒にいるところを他の生徒に見られると面倒だからね。




―――幸太郎


まだ、花火の開始までには時間がある。

千夏が遅れているから、露店を見てまわる。

カキ氷の屋台があった。

そういえば、千夏はイチゴのカキ氷が好きだったな。




―――千夏


何とか間に合ったかな。

先生を探すより、まずは、カキ氷の屋台だよね。

カキ氷を買い終わったところで、最初の花火が打ちあがった。

始まっちゃったけど、焦らない。

盛大に打ちあがる花火に目を奪われ、上ばかり見て歩いていたら、横から来た人とぶつかった。

その衝撃で、持っていたカキ氷が浴衣にかかってしまった。

ぶつかったのは坊主頭の高校生くらいの男子で、謝りながら手を引いて私を連れていく。


「ほんと、ごめん。

このままだと浴衣がシミになっちゃうよ。

俺んち近所なんだ。隣がクリーニング屋でさ、おばちゃん知り合いだから、今からみてもらおう」


新手のナンパ?

なんて思いながら、五分くらい手を引かれて歩いて行った先には、本当にクリーニング屋さんがあった。


「とりあえず、悪いんだが、俺のジャージに着替えてくれる?」


と、その男子の家の脱衣所に連れていかれた。

着替え終わり浴衣を渡すと、その男子は、急いでクリーニング屋に駆け込んでいった。

店は前面が、ガラス張りで中が見える。

その男子が、必死におばさんにお願いしているのが見えた。


クリーニング屋の前で待っていると、小さな女の子が近づいてきた。


「お姉ちゃーん、抱っこー」


両手を目一杯広げて、瞳をキラキラ輝かせながら駆け寄ってくるので、思わず抱っこしてしまう。

子供ってかわいいな。


「それ、俺の姪っ子。姉ちゃんの子供なんだ」


男子が店から出てきて、教えてくれた。

それから私は、その女の子に、


「いくつー?」とか


「お名前はー?」とか


聞いてみると、あのねー、なんて言いながら、たどたどしい日本語で、一生懸命に答えてくれる。

その女の子の相手をしていると、時間が経つのを忘れてしまうほどだった。


どぉーん


という大きな音で、花火大会をやっていたことを思い出した。

住宅街でも会場に近いから、普通に見る事が出来た。


ここからでも花火、見られるんだな。

先生とは会えなかったけど、ま、いっか。

実際、待ち合わせというよりは、私が勝手に会いに行くだけだし。

奥さんと子供と一緒にいる前に私が現れたら、先生が、どんな反応をするか見てみたかっただけだしね。


結局、花火大会は、その場で、男子とその姪っ子と、終わりまで見続けた。




―――幸太郎


花火が打ちあがった。

上ばかり見て歩いていたら、横から来た、同じように上だけ見て歩いて来た人に、ぶつかりそうになった。

が、ギリギリで避ける。

以前だったら、確実にぶつかっていたな、と自身の成長を感じた。

その、ショートカットの女性は、イチゴのカキ氷を持ったまま、こちらを見る。


「あ、いたー」


千夏だった。


「ごめーん。急に延長保育入っちゃって、他の保育士さんも花火大会行くみたいで、私しか対応できなかったんだ」


まあ、間に合ったし、この広い会場で出会うことも出来たし、いいか。

しばらく二人で歩きながら、座って見られる場所を探していると、前から来た女性がこちらを見て驚いた顔をしながら、


「おっ、千夏じゃん。久しぶり」


誰かと思えば、千夏の幼馴染の美冬さんだ。

横に顔を向けると、千夏も驚いた様子で返事をする。


「美冬、久しぶり!こんな所で会うなんて珍しい。

人混み苦手だって言ってなかったっけ?」


「娘が花火見たいってうるさくって、仕方なく。

夜店見てたら、旦那と娘、見失った。

あ、幸太郎君。久しぶり。なんか妹がお世話になっているみたいで」


というと、俺の耳元に寄って来て小声で、


「薄い水色が好みなのね」


と、クスクス笑う。

ということは、


「お前ら、姉妹か!」


危うく、白パンティの姉か!と叫びそうになってしまった。


「ちょっと、何コソコソ話してるのよ」


と、千夏が頬を膨らます。


「来年から、うちの娘、幼稚園だから、千夏の所でお世話になるね。

んじゃ、早く、娘と旦那探しに行かなくっちゃ。じゃね」


立ち去る美冬さんの後姿を眺めながら、千夏は


「私が保育士になったのも、この花火大会で、幸太郎にぶつかってカキ氷ひっかけられたからなんだよね。

もう八年も経つんだ。

その時、幸太郎の姪っ子と遊んだから、子供って可愛いなって、思って。

それで、保育士になってみたいなって、なったんだよ」


次々打ちあがる色鮮やかな花火を、二人で見上げながら、ぶらぶら歩いていると、


「先生、その人、誰?」


突然、目の前に現れた女の子。

普段と雰囲気が違うが、授業中、じーっと俺の事を見続けていた女生徒だ。

なんだ、急に?

とは思ったが、説明しなければ引き下がらないような、強い眼差しで見つめてくるので、


「俺の付き合っている人だ」


事情が分かれば、引き下がるだろうと思っていたが、その女生徒は、


「私、先生の事が好きです。私のこの気持ちは、その人にも負けないです」


と、告ると、瞳を潤ませ、口を真一文字にギュッと固く結んだまま、上目づかいで、じーっと俺の事を見据える。

おいおい、マジか?

と、思いつつも、

こいつは本気なんだ。

とも感じた。

俺はいつも、自分の成績ばかり気にして、生徒に対して上辺だけの付き合いしか、してこなかったのかもしれない。

こちらも本気で答えないと相手は納得しないだろう。


「俺は、八年間、千夏と付き合ってきて、こいつ以外は考えられないほどになっている。

結婚も考えている。

だから、悪いが、君の気持には答えられない」


と、そこまで言うと、その女生徒は俯いたまま小さな声で、わかりました、とだけ言って走り去った。

横を見ると千夏が、ニターっと笑いながら、こちらを覗き込んでいる。

仕方なしに俺の気持を伝える


「まあ、そういうわけだから、これから先も、ずーっと一緒に花火、見に来たいな。

とりあえず来年も……、


花火大会で待ち合わせ


しようぜ」


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