3発の銃弾
ここは…、どこだろう。
目の前が歪んで見える。
おそらく体が液体に浸かっているのだろうか?
そう、私はここ数日この液体の中にいる。
それに、たまに息苦しくなったりする。
「早く来て…弟君」
息苦しさの中コツコツと靴音が聞こえてきた。
目をよく見開いてみた。
「あなたは…」
線香の匂いが薫るの空間。
人それぞれ思い思い祈りを捧げる。
お香が焚かれている所に手を合わせる。
彼は、犠牲になってしまった。
美玲は、それを直視していた。
悲しみは、俺の倍近いと思う。
だが、その場では涙をこらえているようだ。
彼女、いや美玲は涙を人前で見せるタイプではない。
なので、心の中ではとても悔やんでいるに違いない。
そして、僕たちは最後に彼に別れを告げた。
僕は涙ながらにそれを見送った。
いつかは、自分の番が来る。
心では分っている。
どちらにせよ人間に生まれたなら避けられないのは死。
彼は恋愛よりも国のため、いや仕事に全うした人間であった。
誰よりも努力家で誰よりも気が利いて。
空を見ると鮮やかに広がる青い空。
そこに白い鳥が弧を描くように飛んでいった。
「ヴェスター安らかに」
ただ、それだけを口にするのであった。
しばらくして、フェイ・リーリアとカディアを交え話を車内で話していた。
「ヴェスターのことは残念でならない」
「だが、ショックを受けていてもしょうが無い」
しんみりした空気の車内ではっきりと言った。
「もう時間が無いんだ」
「この地図を見てほしい」
花咲市は完全消滅した。
あの夜の業火でね。
今居るのは私の家の側。
「さて、ここで問題がある」
「トスティアは何を企んでいるのか知らんが、都市国家を滅ぼしている」
「彼女らがここを滅ぼすのも時間の問題」
「その前に食い止めねばならぬ」
数日前、あんたらが家で落ち込んでいる間にありとあらゆる情報を集めたよ。
「トスティアの情報も・・・」
少し、含みぎみに言った。
「まず手始めに、トスティアについて」
トスティア知っての通り、香恋が所属していた組織。
そして、香恋は組織トスティアを抜けた。
トスティアはメンバーは数百人いて、上官は三人。
一人目は組織を抜けた香恋、2人目は病院にいるローラス、3人目は仮面を被った女。
香恋とローラスはいいとして後は、仮面の女を倒さないといけないわけだが。
「話がそれたね」
トスティアの正体は全員元政府直属調査班なんだ。
しかし、香恋は孤児院で拾われたから含まれないが。
ローラスは元政府直属調査班。
政府直属捜査班は、その名の通り政府直属のネラスを解明するために置かれた組織だ。
ネラスは、最先端科学で作られた物なのか?
はたまた、魔法に類義したものなのか。
真実を探るための組織なんだ。
そして、その組織の中心人物はローラスとヴェスター。
この二人は同期で、二人はライバルとしてともにネラスの事について調査を行った。
そして、ある所まで調査は進んだ。
ファイル82。
このファイルは、人間が触れてはいけないようだった物だったようだな…。
そうこのファイルは、ネラスを持たない人間に付与する力が与えられる物だ。
このファイル82には、設計図が書かれていた。
そして、その設計図を利用しようとしたのは、ローラス。
まぁ、彼は仮面の女にそそのかされて動いた用だけどな。
だが、ファイル82を奪還するべく作戦が実行された。
「そして、彼らは戦った・・・」
ー作戦当日
「ローラス貴様、そのファイルは人間が扱ってはいけない代物だ」
血相えていったのはヴェスター。
「もう遅い、ヴェスター」
「俺は、力を手に入れた」
不敵に笑い、まるで悪魔を見ているようだった。
「さあ、剣を抜けヴェスター」
「いや、国の犬」
「この剣は友を傷つけるためには使わない」
そう言って、ヴェスターは下を向く。
「ならばどうする?俺が黙って世界を支配するのを見過ごすのか?」
半笑いで彼は口を押さえる。
「いや、ここでおまえを倒す」
そう言ってヴェスターはいち早く胸ポケットに手を入れる。
パーン。
銃声が周りの静けさを消した。
「悪いなローラス」
「本当の終わりはおまえだ」
「何」
後ろから見えたのは右手には閃光弾だった。
「っく視界が」
次に目を開けると彼の拳が顔に近づいた。
ゴツッ
鈍い音が響く。
うっ、顔を押さえるが痛みは引かない。
「終わりだなヴェスター」
「冥土の土産に教えてやるよ」
「ファイル82に設計図は精霊の代わりにネラスの使い手を利用する機械なんだ」
簡潔に言うと生贄を設計図のカプセルに入れる。すると何も持たない普通の人間もネラスの能力が使える様になるってわけだ。
「貴様...」
俺は、思わず銃口を彼に向け連射する。
一発一発反動で腕が浮き上がる。
我に帰ったとき、彼を大量の銃弾で撃ち抜いた。
はずだった。
「残念だったな、ヴェスター防弾仕様のコートなんだよ」
スモーク弾を投げた。
そして、しばらくローラスは姿を消した。
その後、ローラスを見たものはいないと言う。
「それがトスティアの全容とローラスとヴェスターとの関係だな」
だから、とりあえずこの町を出ること、そして隠れ家に向かう。
「隠れ家ってトスティアのですか?」
「そうだが、問題あるか」
「あ、その前にお前さんと美玲」
「一旦、私の家の離れに泊まれ」
「なんで、今日突入しないんですか?」
「彼らは待ち伏せしているの可能性が高い」
「そんな中、俺たちが入ればどうなる」
「戦闘する事になるよな」
「命を懸ける戦いになる」
「今日1日ぐらい彼女と過ごしてやれ」
「明日、再度集まってしよう」
そして、カディアと僕たちを乗せた車はカディアの離れについた。
「これが鍵だ」
カディアを乗せた車はガレージに入っていった。
「入ろっか、先輩」
「懐かしい呼び方だな」
「先輩って呼ぶなって言っただろ」
てか最初、俺は恋愛禁止だったんだよな。
紋章=ネラス。
そう、俺は恋愛禁止。
あのスマホに映し出された文字。
忘れたわけではない。
だが、恋愛禁止は香恋によって企てられていた物に過ぎない。
香恋は恋愛禁止を錯覚させる為、美玲の記憶を消す薬を僕に飲ませた。
その為、恋愛禁止の文字に踊らされていたわけだ。
人は、文字を提示されるとそうなのかと鵜呑みにしてしまう。
それを逆手に取られたわけだ。
つまり、恋愛禁止は最初から無かった。
香恋は薄々自分のやっていることが犯罪と言う自覚があった為、命令に背く。
その後、美玲は俺の家にきたんだよな。
あのとき時は、背筋が凍る程怖い目で見つめられた覚えがある。
思い出すだけで寒気がした。
というか、あの時の美玲色々重かったよね。
「どういう意味ですか」
頬を引っ張る。
美玲はふくれっ面をしていた。
ふと、時計を見ると時刻は11時を指していた。
「昼食にする?」
彼女に聞くと少し悩みげに頬に手を置く。
「うーん」
「お蕎麦が食べたいです」
「そうか、じゃあ町に出るか」
離れの扉を閉め。
暗い細道に入る。
車から入ってきた道ではなく、最初ここに来た時の道だ。
美玲は、自然と手を差し出してきた。
「先輩怖いでしょうから、私が手を繋いであげます」
素直になればいいのに、そう思いつつ手を握り返す。
彼女の手は、少し冷えて冷たかった。
そしてしばらく歩き、大通りに出た。
大通りをしばらく歩き坂を登る。
「しかし、この坂勾配すごいな」
「何苦言を漏らしているんですか?」
「まだ、まだ蕎麦屋さんまでは遠いですよ」
「嘘やろ」
シャツが汗が染み込んでいる。
春の太陽は働き者だと思った。
体はだるい。
だが、何故だろう彼女の笑顔が一層自分の力に変わる。
そうか、これが恋なのかな?
そう自問自答していると、街から外れて山道に入った。
山道をしばらく歩くと橋に差し掛かる。
川の水は透明で川のせせらぎが聞こえる。
「まだ着かないの?」
時計の針は、12時半を指していた。
「まだですよ、あと少しなので頑張ってください」
二人は、無言のまま山道の勾配を歩いていく。
そして、とたん造りの外装をした蕎麦屋が見えた。
蕎麦屋と分かるのは、暖簾に蕎麦と書かれていたからだ。
店に入ると座敷の方に案内された。
店主は、半袖シャツを着たちょび髭を生やした人だった。
「寒くないんですか?」
太陽の日差しの上では暖かいが、屋内ではまだ冷える。
「...」
店主は無言で見つめる。
「寒いんですね」
店主はコクリとうなずいた。
「と、とりあえず、ざる蕎麦2つ」
コクリとうなずき厨房に入っていた。
「先輩、だめじゃないですか」
注文し終えたところで、美玲から指摘が入る。
「山田さんは、無口なボッチなんですよ」
「そうなんだ」
一瞬、納得したがすぐに切り返す。
「って、やめてあげて悪口は」
「ほら怒ってますよ」
そう言って厨房に目を向ける。
いや泣いてる?
目に若干水滴がついているような。
「やめてあげて、山田泣きそうだから」
そうこう話をしていると、山田さんがざる蕎麦を運んできた。
何も言わずに僕らの目の前に蕎麦を置いた。
そして、厨房に戻っていった。
この時期に蕎麦なんて、そう思うが案外悪くない。
よく冷やされた麺に絡み合う温められただし汁。
それを麺につけることによって口に広がるのは風味が出ただし汁だ。
麺をすすれば鼻に通り抜ける香りを楽しみながら黙々と食べていく。
会話なしに食べていく二人を横目に少し寂しげな顔をした山田さんが佇んでいた。
「ご馳走様でした」
そう言ってレジの方に向かう。
山田さんがレジを打ち終わり、お金を払う直前に言って。
「うちのお会計キャッシュレスのみなんで」
「嘘やろ」
これには思わず僕も声を上げる。
言っちゃいけないけど、ここ田舎なのにキャッシュレスのみって...。
その後、キャッシュレス決済をした。
店を出て行きに登った道を下り家の離れに戻った。
なんだかんだ時間は4時半を回っていた。
「これから何する?」
彼女は、いつもより楽しそうな表情で言う。
部屋の暖房がぽかぽかと暖かく、僕はうとうとしてしまう。
察したように美玲は膝を差し出す。
「私の膝お貸ししますよ」
そう言って甘えるように僕は彼女の膝で眠りについた。
彼を頭を撫でること10分。
私は気分が高揚してきた。
「…先輩大好きです」
優しくて、それでいて普段はおどけて見せる。
顔を赤らめた美玲は頬にキスをした。
「先輩...」
ー翌日
カディアが車を止めて待っていた。
「準備はいいな」
コクリとうなずき車で隠れ家へと向かった。
隠れ家に着くと全員で突入した。
しかし、無気味なカプセルとただ一人の人物しかいなかった。
「手を上げろ」
カディアの手下がそう言う。
その人物は、驚きもせず後ろを向いた。
そうそれは、仮面をつけた女だった。
その女は、不適に笑った。
そして一言。
「終わりだ」
カディアは気づいたように僕を窓の方に投げた。
窓は割れ外の道路に出た。
その瞬間、青い光がその建物を覆った。
「うぐっ」
割れたガラスから見ると、仮面の女は不適に笑っているようだった。
そして、俺は心の奥に何か静かな怒りを感じた。
心臓の鼓動が急に早くなった。
そして、僕は人格が変わったようだった。
僕の目の前は白くフェードアウトした。
しばらくして光が引いていった。
「君、よく頑張ったね」
そう告げたのは髪の長い女性だった。
「初めまして、イメルダと言います」
「ヴェスターさんとは、会ったことあるのですがあなたは初めてですね」
「あの方は、元気でいらっしゃいますか?
「...」
僕は、何も答えれなかった。
そして、思いだすだけで涙が頬をつたう。
「そうですか」
察したように彼女は言う。
そして、どこからかハンカチを出して涙を拭いてくれた。
しばらくして、あたりの様子が変わっていることに気づいた。
ハスの花が水面下に広がっている。
そして僕ら大きなハスの葉の上にいた。
「ここはどこです?」
「ここは、あなたの無意識の世界」
「つまり、簡単にゆうならば夢と天界の狭間というとこかな」
「君は、何を救いたい?」
「大切な仲間かな」
「そうですか」
「では、あなたに...」
そして、また光が満ちて目の前がフェードアウトする。
目の前は、仮面の女がいた。
「仲間を倒されてどんな気持ちですか?」
彼女は、不適に笑って槍のような武器を突き刺そうと構えた。
その瞬間、僕は体が軽くなった。
そして気がつけば彼女の腹を蹴り飛ばしていた。
彼女は数メートルだけ吹き飛んだが無傷だった。
「...ふふやるじゃない」
じゃあ、これは。
彼女はふわりとジャンプしてどこからか剣を振る。
「キイッンッ」
アスファルトに叩きつけられた剣は甲高い金属音を響かせた。
その瞬間、周りの人間は慌て逃げ出した。
間一髪ギリギリ避ける事ができた。
「っく、危なかった」
「今度はこっちの番だ」
そうして彼女を対角線上に捉えた。
「天明よ力を与えたまへ」
呪文の様な言葉を言い放つと僕の手に光の渦が発声した。
その光は僕らを飲み込んだ。
この機を逃すのまいと光の中彼女のいる方角に走った。
そして光の渦は剣を形成した。
あの時の感覚..。
そしてその剣を振りかざした。
ザック。
「やったか」
そう慢心したのもつかの間。
「パーン」
ワルサーの音が響き渡った。
硝煙の匂いがし、その後音が遅れて聞こえた。
そう思った瞬間、僕の肩に痛みが走る。
「ふふ、ごめんね私銃も使えるの」
「パーン」
そう言いながら、もう一発銃弾を僕の足に食らわされる。
痛みが苦痛へと変わり痛みのあまり声を上げる。
これ以上戦闘は、無理だと判断し逃げる体制を取った。
っく、何かいい方法はそう思って目にしたのは
隠れ家前の水路だった。
水路と言っても、小型の船が通れるまではある。
深さもだが。
「もう終わりかしら、game overmr」
そう言って彼女は、ワルサーの引き金を引いた。
パーン。
その音だけが街に響き渡った。