立ち籠める曇天の空、詰め寄る漆黒
前回の続きです。
「うん、ここは」
僕はとても大きなベッドから目を覚ましてみる。
いわゆる、お嬢様のベットを想像してもらうと早い。
すると、広がる景色は豪華絢爛の家具の数々。
「そうか、昨日ここカディアの家に泊まったのか」
そう言って、ベッドから降りて個室の部屋を開けた。
すると、開けた先の対面のドアが開いた。
そこから出てきたのは、姉こと香恋だった。
「あ、弟君おはよう」
何も言わず抱きついてくる。
「ちょっと、お姉ちゃん」
「あ、」
「今、お姉ちゃんていった?」
「やっと、弟君は私のことをお姉ちゃんって認めてくれたんだね」
そう言って、僕に抱きついてくる。
大きな胸元が僕の体にふわりと密着する。
良い匂い、って俺は変態か。
そして、香恋は上目遣いで言う。
「ねぇ、お姉ちゃんってもう一回言って」
「ねぇ、いいでしょ」
「ほら、say sister」
そういって、押しつけるように胸部も僕の体にひっついてくる。
「ねぇ、いいでしょ」
香水の香りが頭の中まで溶け込む。
「良い香りだ」
「もぅ、弟君変態なんだから」
「でも、そんなとこも好きよ」
「好き…」
ガチャッ
音がすると対面の横の部屋の扉が開いた。
「…」
無言で出てきたのは、美玲だった。
「…」
無言の圧力が怖い。
そして、無言で僕の頬をつねる。
「痛い、痛いから」
その後、俺は頬が赤くなるほど引っ張られた。
「あれぇ?美玲ちゃん、嫉妬しちゃった?」
香恋はにやけながら煽る。
「殺されたいんですか?」
朝から彼女らのやる気「殺す気」は満々だった。
そう、この場は修羅場と化していた。
「先輩は、私の彼氏です」
美玲はそう言って腕をつかむ。
「弟君は私のものよ、そうよね弟君」
香恋は僕に向けてそう言った。
「ねぇ、どっち?」
美玲と香恋は同時に言った。
「本当は仲良いでしょ二人とも」
「仲良くなんか無い」
そう言って僕は、2人にびんたを食らわされた。
そうこうしていると、横にある階段から降りてきたヴェスターが慌ただしい仕草でこちらに向かってきた。
「3人とも至急、応接間まで来てくれるか?」
そう言って僕らは言われるがまま応接間まで足を運んだ。
部屋に入ると、薄暗い部屋にぽつりと置かれたテーブル。
そして、そのテーブルに置かれていたものは今日の新聞だった。
「これを見てほしい」
ヴェスターはそういって新聞を差し出した。
僕はそれを手にして新聞に書かれた1ページ目を見た。
その記事に書いてあったのは「花咲市制圧?」
「ヴェスター、これって」
「そうここに書いてあることを私が目にした時、それは驚いたよ」
「この町の隣が制圧されているからね」
「それって、誰か分るのですか?」
そう僕が問いかけるとヴェスターは言った。
「一人しか居ないだろう、これを実行する犯人」
「ローラスに違いないさ」
「写真で写る限り、ネラス能力は…」
「武器は、連射系のガトリングのようね」
「それに、ネラス能力は装填時間なし」
「つまり、銃がオーバーヒートしない限り永遠に撃つことが可能」
そう割り込むのはミカルダだった。
「それより詳しいんですね」
「そりゃ、創造主ですから」
そう言って胸を張る。
「それより隣に写るのは誰でしょう」
仮面で顔は覆われておまけにフードまで深く被っている。
しかも、体のラインがマントに隠れて女性なのか男性なのかも分らない。
ゴホッ。
ヴェスターが少し咳き込んだ。
「大丈夫?」
「ああ、大丈夫さ、それよりこの後ちょっと私室まで来てくれるか?」
「へぇ、弟君そんな趣味があったなんて」
「いや、俺そんな趣味無いから」
そう言ってヴェスターの部屋に向かった。
「ここに来て貰った理由は一つ」
「君はこれ以上、この件に首を突っ込むのは止めた方が良い」
思わず何でと言いたくなるが、ヴェスターはその隙すら見せない。
「いや、こういう言い方の方が良いかな」
「君たち三人は」
「この事態を収束するのは俺、政府直属調査班が受け持つ」
「つまり、君たちは調査班迎えの車に乗ってくれ」
「でも」
僕はとっさに言葉を放とうとするが、ヴェスターがそんなことをさせなかった。
「話は以上だ、出て行ってくれ」
そう言って部屋の外に出された。
「…」
僕は無言のまま、その場を立ち去った。
このとき涙が少しこぼれた。
「…」
ヴェスターの部屋は2階なので、階段を下り1階に降りた。
僕の部屋に着くと2人が待っていた。
2人というのは香恋と美玲だった。
「何かあった?」
「部屋に入って話そう」
そう言って僕は二人を部屋に入れた。
「何かあったの弟君?」
心配そうに顔を伺ってきたのは香恋だった。
美玲もまた心配そうに言った。
「私に悩み事なら話して、彼女としてあなたの役に立ちたいの」
二人は心配そうに見つめてくる。
「実は…」
部屋の出来事を香恋と美玲に話した。
数分後…。
「嘘、だよね」
「私たちは用済みって事」
「ちょっと落ち着いて美玲」
香恋は珍しくなだめる。
「政府の直属調査班だか知らないけど、私たちも役に立たない事は無いでしょ」
「ヴェスターにとって、俺たちはお荷物でしかないんだよ」
「だから、普通の高校生に戻れそういうこと」
「もう、良いんだ」
僕は悲しみにくれながらもそう言う。
話が終わると、カディアとリーリアが部屋に入ってきた。
「おまえさんたち、お迎えが来て居るぞ」
そう言って部屋の窓の外を指さす。
すると、黒服の外に立っていた。
見覚えの無い、がたいのいい黒服の人がずかずかとカディアの家に入ってきた。
「お迎えに上がりました、香恋さんと美玲さんそして先輩ですね」
「なんで俺、先輩という名で通っているの??」
「えっと、ヴェスター様がそう呼べと仰せつかっていたので」
「気に障ったでしょうか?」
「いえ、あはは」
思わず苦笑いする。
こんながたいでかいのに敬語って、人は見かけによらないってこう言うことか。
「では、こちらへ」
カディアとリーリアの見送りを背に車に向かった。
あの路地を抜け、大きな通りに出た。
すると、高級そうな外車が止まっていた。
「こちらです、どうぞ」
そう言って、観音開きのリムジンのような車に乗った。
その高級車はとても高そうな車だった。
革張りの白いシートに、 全面にはテレビが配置されていて車さながら家のようだった。
「では、出発します」
そう言ってがたいのいい男は補助席に座り、車はゆっくりと動き出した。
車内の空気は以前、凍り付いていた。
それもそのはず。
俺が二人の意見を無視して勝手に元の生活に戻ると選択したからであろう。
俺も別にヴェスターを見捨てたわけではない。
そう、仕方が無かった。
戦いのお荷物になるくらいなら無理矢理参加しない方が良いからだという考えだからだ。
そう思いながら、車窓を見つめていた。
そして3時間がたち、僕の家の前で下ろされた。
がたいがいい男とね。
結局、美玲とは口をきけずに、車を後にした。
監視役兼護衛は家まで同行してきた。
「おやすみ、弟君」
そう言って、彼女らは車で帰っていった。
その後、香恋や美玲は俺のように監視兼護衛が付いてきた。
そして家に入った。
部屋に入ると部屋の充電器を刺した。
「…ここから始まったんだよな」
そう、口から言葉が出る。
「それは違いますよ、先輩」
って、がたいのいい男が言った。
「トスティアは、あなたを操るためにスマホをジャックして、あの四文字を出した」
「そして、紋章をつけた人物はおそらく創造主ミカルダ」
「しかし、彼女は能力を与えたのに過ぎない」
「そしてトスティア、いやローラスはあなたの記憶の改ざんを行った」
そう、先輩が香恋と触れた時、あなたは紋章とが原因だと判断したのですが、それは違います。
「このとき香恋さんは、まだローラスとともにファイル82を使って能力を保持していました」
「しかし、今は違うようですよ…」
「今、ローラスは…」
一方、香恋は自分の家に乗っていた車で帰った。
「ふぅ、久しぶりに帰ってきた」
そう、ここはとあるホテル。
私がローラスと出会う前、家代わりに使っていたのだ。
お金はどうしたのかって?
身内に同情されて、多少はお金を貰っていたの。
変わらないホテルの部屋に、心を落ち着かせていた。
しかし、昔と違うのは護衛兼監視が居ること。
「私のことは、お気になさらずくつろいでください」
護衛兼監視のヴェスターの監視役がそう言う。
「落ち着けるわけ無いよ」小声で呟いた。
ガシャンッバリバリバリッ
不意に窓の方から音がしたと思えば、監視役兼護衛が倒れていた。
「…久しぶりだな、香恋」
「あなたはローラス」
「何のつもり?」
「私は組織から脱退したはずなのだけど?」
「ふふ、おまえ何も知らないようだな」
「まぁ、いい」
カチャッ、パーン。
夜の夜景に銃声が響き渡った。
ここまで、お読みくださりありがとうございます。
次回もお楽しみに。