96.黒いメェがやって来た。
俺はグリとポヨにお留守番してもらって一人で、グランド王国教会にやってきた。荘厳で重厚な建物の教会の扉を開くと数名お祈りを捧げる人がいたり正面にはオーデン様風の神様の姿を模した像等が飾られていた。キョロキョロしていると白いくるぶし程まである長いローブを身にまとった男性が小声で静かに声をかけてきた。
「失礼ですが冒険者ギルドの方でいらっしゃいますか?」
俺も極力お祈りの邪魔にならないように静かに返事をする。
「はい、依頼の件でこちらに伺いました。」
「さようですか。ではこちらのお部屋へどうぞ。」
俺は男性の後について部屋へと通された。
「どうぞ、おかけください。改めまして私はこちらの教会で司祭を務めておりますハンスと申します。よろしくお願いします。ところで依頼を受けて下さったのは、あなた様お一人でしょうか?他に冒険者の方が見当たりませんが。」
「はい、俺一人です。」
「そうですか。やはり光魔法所持者は冒険者であっても希少なのですね。」
「俺は良くわかりませんけど、できる限りのお手伝いをさせて頂きます。」
「ありがとうございます。ご存知かとは思いますが死者も出ておりますので、非常に危険な依頼です。依頼者の私共がこのような事を言うのはおかしいと思われるかもしれませんが、無理はしないようにお願い致します。内容は浄化した後、黒羊の捕獲をそちらでお願い致します。もし、浄化が失敗した場合、速やかに撤退、避難をお願いします。恥ずかしながら、こちらがあなたを守りきれる程の余裕はありませんので、ご自身の判断で避難をお願いします。」
「わかりました。ところでその浄化の時ですけど、俺も参加させてもらえますか?」
「できれば安全をきして浄化した後に合流して、捕獲をした方がよろしいかと思いますが?」
「ご配慮ありがとうございます。ですが捕獲の際に浄化後すぐのタイミングで捕まえたいので、状況をすぐ近くで見守りたいんです。」
「かしこまりました。ではそのように致します。」
コンコンコン
「入りなさい。」
「失礼致します。」
「こちらあなた様と行動を共にするチャーリーです。」
「よろしくお願いします。タクミと言います。」
「チャーリーです。よろしくお願い致します。」
「ではさっそくチャーリーと現地へ向かって下さい。くれぐれも無理はなさらぬように。」
「はい。では失礼します。」
俺はチャーリーと名乗る男性と共に用意されていた馬車に乗り移動を開始した。馬車の中は俺たち以外にも動きやすい服装の黒い服装に身を包んだ男女が硬い表情で座っていた。この人達がエクソシスト部隊なんだろうか?しばらくガタゴトと馬車に揺られながら終始無言で張り詰めたような重い空気の中30分ほど経過してようやく目的地に着いた。人が亡くなっている以上ああいう空気になるのも当然なんだろう。馬車から降りるとテントが張られて、皆硬い表情で杖の手入れや配置の確認、食事を取る人もいる。
「タクミさん。我々も食事を済ませましょうか。」
「はい。」
俺たちは食事を配っているテントの前に並び、スープとパンの乗ったおぼんのようなお皿?を渡されてその横に並べられているテーブルの上に皿を置きベンチに腰掛ける。大勢の人がここで食事を順番に取るようだ。俺はアイテムボックスからコップを出して水魔法でコップに水を注ぐと周りから凄く視線を感じた。俺、なんか変なことしたか?
「タクミさん、あなた、光魔法所持者なんですよね?」
「はい、そうですけど。」
「それに加えて、空間魔法と水魔法も使えるのですか?」
「ああ、そういう事ですか。はい、珍しいんですよね。光魔法以外も持ち合わせてるのって。」
「はい。かなり珍しいですね。」
「俺、基本の火、水、風、土属性と光魔法が使えるんですよ。」
「では、かなりスキル上げに苦労されたんでしょうね。」
「いや〜そうでもないですよ。もともと使えないものと思ってやってたので、こんなもんなのかなぁーって感じで、あと生活環境が魔法使えないと生活するのに難しかったので、生活の中に取り入れたら人並みに使えるようになりました。」
「そ、そうですか。どんな生活環境で過ごしたらそんな風になるんでしょうねぇ。」
「あ、人のいない魔物だらけの森の中です。」
「な、なんと。そうでしたか。それなら納得できますね。それにあなたがお一人でギルドから派遣されたのも何となくわかる気がいたします。それだけの能力をお持ちの方ならば我々と致しましても心強いです。」
あー。なるほど一人で来やがって何ができるんだ?なめてんのか冒険者ギルドめぇー!って思ってたのね。皆さん。あはは空気読めなくてごめんなさいね。
「森の中で生活していたので生きて行くために、魔法で捕獲しながら狩をしていたので、きっと俺が選ばれたと思います。」
「そうでしたか!それならばさらに安心です。ここだけの話ですが冒険者ギルドからも、見放されたと思っておりましたので。」
「そうではないと思いますよ。ギルドマスターは亡くなられた方の事やそのご家族の事についても心配されてましたから。」
「そうですか。ありがとうございます。今回亡くなったのは、逃げ遅れた教会の者で、エクソシスト部隊ではないのですよ。抵抗されて攻撃をされたんですがそれを弾いたら、そこに運悪く逃げ遅れた食事の世話などの担当をしていた者がおりまして黒い炎に包まれて亡くなりました。」
「そうだったんですか。」
「エクソシスト部隊が亡くなることも少なくないのですが今回は部隊のものではないので悲しみがより深いのです。エクソシスト部隊に入ればその時点で覚悟を持ちますが、食事係などはやはり戦地にいるとはいえ、まだ、安全だという認識の甘さがこちらにありまして安全性の見直しがはかられております。」
「まあ、どなたが亡くなっても悲しむのは当然ですしできる限り亡くなる方はいない方が良いですからね。残念な結果になってお気の毒ですがその方のためにも浄化をして黒羊を解放してやりましょう。」
「そうですね。」
「ところであの遠くに見える華やかな色のテントは?」
「あっ、あちらですか?大商会の方が討伐の見学をなさりたいとかで、同行していると聞いていますが我々もよくは知らされておりません。」
「そうですか。」
怪しい・・・。本当の依頼主なんじゃないのか?
ーーーーーその頃
「本当に教会は役に立たん!エクソシスト部隊だとかなんだとか知らんが、浄化を失敗して、どれだけ時間がかかっておるのだ。しかも浄化したら討伐させろとか馬鹿なことをぬかしよって、あの羊がどれだけペニーを産むと思っているんだ!価値のわからん馬鹿者どもめ!おい!冒険者ギルドからは何人来たんだ?」
「はい、一人と報告がございました。」
「ひ、一人だと?!ギルドめっ。チッ。」
「報告によりますと光魔法だけでなく水や空間魔法も使えるマジックボックス持ちと聞いております。」
「ほう?まあ良いわ。なんにせよ大人しく捕獲して羊さえ手に入れば問題ない。おい!もっと肉をよこせ!足りておらぬぞ!早くしろ!」
「はい、ただいまお持ちいたします、ご主人様。」
「本当にどいつもこいつも役に立たん!」
ーーーーーー2時間後
すっかり夜もふけ灯がともされリッチモンドに続く道に待機していたエクソシスト部隊からの連絡を皆じっと待っていた。すると一人の女性が走ってきて報告が入る。
「パッドフットが現れました!まもなく交戦となります。」
「タクミさん、我らも参りましょうか。」
「はい。」
俺とチャーリーさんは交戦する予定の場所に急いで向かいパッドフットが現れるのをエクソシスト部隊からは少し離れた所で待つ。するとなんと到着してすぐに交戦が始まった!青白い光が空に向けて放たれ俺はパッドフットの姿を目視することができた。
「あれ、本当に羊かよ?!牛くらいの大きさがあるぞ?!」
「元の姿よりもかなり大きくなるのがパッドフットの特徴です。」
真っ黒い炎に似たモヤのような物で覆われた、あれは・・・羊?牛?は多くの光魔法の的となり、かなりの攻撃を受けているようだ!
ンメ゛〜 メ゛メ゛メ゛〜!!!
「喰らえ!!!ホーリーアロー!!!」
ンメ゛〜!!!
「ホーリークロス!!!」
ンメ゛メ゛メ゛メ゛〜!!!
「これはどうだ!ホーリーボール!!!」
ンメ゛〜
「チャーリーさん、なんかあんまり効いてませんね。」
「そうなんです。かなり強力な呪いなのか。あまり効果が見られないのです。」
しかもあの鳴き声、バリトンボイスの羊のメェ〜って違和感半端ねぇぞ。ていうか、あいつは、あのまま捕獲した方が早くねえか?
「チャーリーさん、今のうちに捕獲してもいいですか?」
「いや!え?」
「捕獲した方が早くないです?逃げ回ってるから、当たる回数も少ないし。」
「ですが、できますか?」
「やってみないとわかりません。それに別にここから動く必要もないですし、まぁ見ててください。」
『ホーリーシャボンボール』
フワワ〜ン
「うん、上手くできたな。よし行ってこ〜い。」
フワワ〜フワワ〜フワワ〜
しばらく飛んでいたホーリーシャボンボールは、暗闇の中に紛れて見えなくなった。
「タクミさん、あれは?」
「光魔法で作った柔軟性のあるボールです。あれで包んで捕獲しつつ浄化する作戦です。」
「そんな魔法聞いたことないですよ!しかもあなた、無詠唱じゃないですか?!」
「あ、はい。俺独自のアレンジ魔法なんで、俺しか使ってないと思いますよ。というか俺も初めて使いましたし。あと、無詠唱なのも俺のスタイルです。」
「は、初めて?!スタイル?!」
「はい、まあ使えるものは試してみないと。」
「そ、そうですね。」
しばらくするとピカーーーーーッと青白い閃光が走り、あたりを明るく照らしてしばらくすると、青白い光に包まれたパッドフットの姿が見えた。
「どうなっているんだ!」
「あれはなんだ?!」
「誰が放った魔法だ!」
怒号が飛び交う中、俺は捕らえたパッドフットの呪いを解くために、ホーリーシャボンボールの中に、浄化魔法をさらに強めてかける。するとじわじわと、まるで炎が鎮火されるように、どす黒い炎にも、モヤにも似た黒い姿が消えていき、しばらく待つと黒い羊のモフモフした毛が現れてきた。
「あともう少しだな。」
俺はさらに力を強めて浄化魔法をかける。
すると・・・
メェ〜メェ〜
バリトンボイスだった鳴き声は通常の羊の声に戻っていた。
「よし!成功だ!」
俺はチャーリーさんに伝言を頼むことにした。
「チャーリーさん、ギルドマスター からの伝言です。羊の受け渡しは冒険者ギルドで行うので羊の欲しい方は自ら受け取りに来るようにと言われました。あと教会関係者ではない方も是非お越し下さいとの事です。」
「え?それはどういう意味でしょうか?」
「さあ、俺もよくわかりません。」
俺はそれだけ伝えて時間経過のあるアイテムボックスをパッと開き、一気に羊を包んだシャボンボールをアイテムボックスに引き入れて、そのまま転移した。行き先はもちろんギルドマスターの部屋だ。
「うわっ?!ビックリしたじゃねえか!お前、転移まで使えたのかよ!」
「あっ、カミルさん、黒羊捕まえましたよ。結局、浄化も俺がして、そのまま持ってきちゃいました。」
「な?!なに?!よくやった!見せてみろ!」
俺はアイテムボックスを開くと中から黒羊が顔を出した。
「メェ〜」
「こいつかぁ〜パッドフットに取り憑かれた羊は」
「メェ〜」
「そうみたいですね。牛くらいのサイズでしたよ。」
「へぇー、お前悪いけど・・・」
「ンメェ〜、メェ〜」
「ちょっと預かっててくれないか?こいつ。」
「ええ、それは構いませんよ。」
「メェ〜」
「俺は今から教会と話つけるわ。お前、俺が呼ぶまで隠れとけ。」
「はあ、わかりました。」
「メェ〜」
「ドッグタグが光ったら俺んとこにまた・・・」
「メェ〜」
「戻って・・・」
「メェ〜」
「・・・おい、そいつうるせえから少し、しまってくれ。」
「羊ちゃん、ちょっと待っててね。」
「ンメッ」
「ゴホンッ、とりあえずだ、ドッグタグで呼び出しかけるまでは隠れててくれ。」
「あの、距離が離れていても大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない。」
「わかりました。では、俺はこれで失礼します。」
俺はすぐさま城に転移してグリとポヨを掴んで、すぐにマーニン島に転移した。
「なんだ!タクミ急に!」
「悪い悪い、ちょっと隠れてろって言われたからさぁ。」
「パッドフットは捕まえたのか?」
「うん、捕まえて浄化して今アイテムボックスの中にいるよ。」
俺はまず家の周りに外に出られないように結界を張ってアイテムボックスを開き黒羊を外に出してやった。
「悪かったなぁ〜。よしよし。お前の毛は脂でギットギトだな。」
「おい、こいつと念話で話してみたか?」
「あっ、そうか。」
『羊さん、捕まえて悪かったなぁ。』
『メェ?言葉がわかるメェ?』
『わかるぞ。痛くなかったか?』
『かなり痛かったメェ。でもあんたの光は心地よかったメェ。助かったメェ〜ありがメェ〜。』
『腹は減ってないか?』
『メェ〜。ここの草食べていいメェ?』
『いいぞ、ちょっと暗いけどそれとも家の中に入って食べながら休むか?』
『メェ〜そうするメェ〜』
俺はみんなを家に入れてエントランスで話をする。
『どうしてあんな事になったんだ?』
『気がメェたら黒いモヤに包まれてああなってたメェ〜』
『そっかあ。災難だったな。ところでお前仲間はいないのか?』
『繁殖期だから旅をしていたメェ〜。我らの種族は繁殖期は散り散りになって相手を探すメェ〜。でも全然見つからないメェ〜』
『そうなのか。じゃあ相手探しの手伝いもするから、もうしばらく俺たちと一緒にいてくれるか?』
『わかったメェ〜』
『ちなみにここの森は、他の魔物が多いから結界から出るなよ。出たいときは俺も一緒に行くから言ってくれ。』
『メェ〜』
「グリありがとう!話がついたぞ。」
「そうか。」
俺はグリに今まであったことを全て話して、少しの間マーニン島に居ないといけないかもしれないという事を説明した。
「まあ何でもいいが、のんびりマーニン島で過ごせばいいのだ。明日になったら久々に元の姿で水浴びできるし、我は問題ない。ポヨも同様だ。」
「そうか。んじゃ今日は俺も疲れたし風呂入って寝るか。とりあえずこの羊はメェメェ鳴いてるから、名前はメェだ。メェは悪いがアイテムボックスの中で寝てもらうぞ。明日の朝になったら外に出してやるからな」
「メェ〜」
「また、安直な名前を・・・。」
「いいんだよ、数日しか生活しないし。それに俺はぴったりな名前だと思うぞ!」
「フンッ、センスのないヤツめ。」
「じゃあお前はなんてつけるんだよ?」
「そうだな。たわしだな。」
「お前だってそのセンスはどうなんだ?!」
「お前よりはマシだと思うぞ。あの丸みを帯びた姿、まるでたわしに細枝を4本さしたように見えるだろう。」
「言われてみればわからんでもないけど、いーよメェで。とりあえず風呂入るわ。」
読んで頂きありがとうございます。




