90.俺と浄化魔法と杖
90話と91話を誤って投稿してしまいました。
「こんばんは〜ヘンリーさんお迎えにあがりましたぁ。」
「いやぁタクミ君助かるよぉ〜。ありがとねぇ」
「いえ、では皆さんお揃いですね。行きますか。」
ぐにょ〜ん
「はい、おかえりなさい。」
「おお、もう着いてる。やっぱり転移は早いね。」
「本当です。ありがたいですねぇ。」
「あぁ、レイス退治は楽じゃないから助かるぜ。」
「本当だぜ。あいつらしつこいから寝不足になるんだよな。」
「タクミさんあざーっす。」
「いえ、皆さん今まで働きづめですよね。お疲れ様です。今日はゆっくり休んで下さいね。」
「そうさせてもらうよ。ありがとう。ところで明日の朝はもちろん水浴びするよね?ねっ?」
「は、はい。いつも同じ時間です。」
「ムフフフフフ、この出張で触れ合えなかった分、明日の朝は思いっきりふれあうんだ!」
「ジャックさん・・・ヘンリーさんが」
「いうな、タクミ。動物愛に飢えてるんだ。」
「は、はぁ。」
「そうそう、タクミ殿。次の出張にはお付き合い頂けますかな?」
「その事なんですけど俺、ちょっと寄りたいところがあって現地集合でもかまいませんか?」
「はい。それはかまいませんよ。グリ殿が飛んだ方が確実に早いですし、それは良いのですがお付き合い頂くので旅費を出そうと思っていましたが別となると先にお渡しした方が良いですね。」
「いやいやいや、そんな、大丈夫ですから。そうだ、俺が私的に行く事にします。そしたらペニーもらわなくて済みますから。それに途中で寄るところもありますしこれは私的に旅行に行くんです。」
「あなたはまた、そんな事を言って。宿のペニーは高いんですよ。そんなペニーを使わせる訳には参りません。」
「えっと、テントの布を見に行くんですからこれは商会の視察という事で大丈夫です。あとは仕入れ?とかです。とにかくペニーは頂けませんよ。」
「いやしかし!」
「アーロン、こやつは今お前達のおかげで潤っておるのだ。それに、我らは宿など泊まらんでも野宿で十分問題ない、それに野宿などせんでもこやつの転移があるゆえ別に戻ってくることもできるのだ。」
「グリ殿、んん確かに。」
「はい!決まりっ!ペニーは、いりません。それより合流場所とか教えて貰えば大丈夫ですよ。あとダンジョンの場所とか到着予定とか。それにアーロンさん、働き詰めですよね。少しは休んでください。」
「いえ、私は休んでいる訳には参りません。明日の件も話しておきたいですし。」
「なんですか?」
「明日の朝食後にさっそく浄化槽予定地にご案内しますので都合が悪くなければ製作をお願いします。」
「はい、大丈夫ですよ。あと、小さな村とかそういう所はどうしますか?」
「そちらはおいおいとなりますねぇ。」
「俺、思ったんですけど村でも領地の職員さんがいらっしゃるんですよね?」
「はい。おります。」
「だったらこんなのはどうでしょうか?俺が浄化できるマジックアイテムを作るのでそれを配って村で処理してもらうというのは?」
「ほう、なるほど。村に必ず汲み取り人はおりますし一箇所でまとめて浄化魔法がかけられれば、かなり合理的です。」
「そうですよね。たぶんここみたいな大きな街ではそれは大変ですしとんでもない量なので無理だと思いますけど小さな村や町であればそれも可能じゃないのかなって思ったんです。」
「そうですよ!その手があるではないですか!タクミ殿、浄化魔法のマジックアイテム案、素晴らしいお考えです。」
「いや、思いつきで。ただまだ作ってないんで、どんな物がいいか助言が欲しいんですよ。」
「そうですね。それでしたら打ってつけの良い物があるのですがタクミ殿、杖はご存知ですか?」
「杖?」
「はい。例えばこの杖は攻撃用の光魔法が使える杖です。」
「え?そんな物があるんですか?」
「はい、光魔法の所持者は多くはないですし、さらにノアのように攻撃のできる者というのは
かなり限られております。すると、レイスなどが出る旅ではかなりの負傷者が出ますし光魔法所持者の魔力、体力がかなり削れます。そこでかなり高額商品ではありますがこういうマジックアイテムの杖を購入して備えておくのです。」
「なるほど。永久的に使えるんですか?」
「いえ、回数制限が付いております。やはりそこまで万能ではないのです。というのも製作者の能力を付与しますので、付与魔法使いでさらに光魔法所持者というのは、ほんの一握りです。特に攻撃用なんて言う物を付与できる者など教会の司祭や大主教クラスの者くらいですね。」
「えーと、偉い人って事ですか?」
「その通りです。まあ簡単に言えば偉い人が作る杖なので鼻血が出るほど高く貴重品です。まあ、そんな事をして贅を尽くし光魔法を武器に金儲けをやり過ぎたのでヘンリー様の父王がそこに目をつけ、贅沢三昧をしていた教会から色々と没収して取り壊してしまったのです。」
「ええええ!!!!いーんですか?それ!」
「ええ、まあ、ゴタゴタがありまして、さらに色んな政治的な事情もあり結局今は同じ神を崇めていますが宗派の違うグランド教という独自の宗派を作り今までの物を壊してしまいました。
そしてその没収品の一つがこの杖です。」
「ええええ!!!」
「ヘンリー様が父王から賜った物です。」
「なるほど。」
「まだ、数本は残っていますがこれを使うのは、流石にまずいのでタクミ殿、このような浄化魔法の行える杖を何とか作ることはできないでしょうか?」
「えっ、ていうか、それがあれば浄化もできちゃう訳ですよね?」
「ええ、ですが、とても高価で・・・。」
「あの、アーロンさん。ちょっと俺の部屋に来てもらえます?」
「はい?」
「いいから、いいから。損はさせませんよ。」
「かしこまりました。すぐ参りましょう。」
この人、何か気づいたな。目が光ったぞ。すぐに部屋に向かうとグリとポヨがまったりとベッドの上で寝そべりポヨがコロコロ転がって遊んでいた。
「おお、帰ってきたかアーロン。」
「グリ殿、ただいま戻りました。明日の朝ですが水浴び、ヘンリー様と伺いますのでよろしくお願いします。」
「うむ、お前の水のあて加減はなかなかだからな。」
「お褒めにあずかり光栄です。」
「アーロンさん、さっきの杖、貸してください。」
「ああ、はいっ。」
「では少しお借りします。」
ポンッ!
「はい、どうぞ。確かめてみて下さい。」
「こ、こ、こ、これは!!!!!いったいどうなっているのです?杖が二本?!ま、まさか、タクミ殿!複製スキルをお持ちですか?」
「シーーーーーーッ!声が大きいですって。」
「あっ!失礼しました。そうですね。部屋まで来た意味が無くなりますね。これは申し訳ない。」
「これ、試してみてください。使えれば増やしちゃいます。ムフフフフフ。ちなみにこれって回復魔法は使えないんですか?」
「はい、残念ながら。こちらは攻撃などの浄化魔法のみです。」
「という事は今後レイスの襲撃も村や町を守る武器ができましたね。」
「はい。何と素晴らしい!」
「でも、使えるかな?」
「タクミ殿は光魔法の属性にスキルもお持ちですから間違いなく発動するはずです。」
「ちょっと試しに1発撃ってみましょう。」
「はい?」
「ちょっとアーロンさん付き合って下さい。」
「え?あの?」
俺はアーロンさんを有無を言わさず肩を持って転移した。そこはこの前に川掃除をした場所。思った通りすでに腐敗臭が漂っていて臭い。
「タ、タクミ殿これは?!」
「俺たちがギルドの依頼で受けて掃除した川ですけど、もうすでにこの有様です。まだ数日しか経ってないのにですよ。」
「ここまで酷いとは。おえっ。」
「ですよねぇー。早くしないとすぐに病人が出ますよ。」
「そうですね。こりゃ堪りません。」
「じゃあ威力を試してみましょう。アーロンさん、あの辺りめがけてお願いします。」
「は、はい。」
「ピュリフィケイション!」
「うわ!何だその杖?!凄い威力だな!一気に淀んだ川が綺麗になったぞ!」
「すみません、かなり酷かったのでつい、思いっきり撃ってしまいました。たぶん今の一回でこの杖の5発分くらいを消費したかと思います。」
「そんな事が出来るんですか?!ちなみに5発分って残りあと何発撃てるんです?」
「それでもあと、40発は可能です。」
「威力にもよりますがオリジナルは100発分がだいたい一本に収められています。」
「なるほど。じゃあコピーだと45発かぁ。あの、杖ってどうやってできてるんですか?単純に木に付与魔法をかけるだけですか?」
「いえ、この木も貴重な木でして折れない限りは再利用でき、魔法を使い切った杖は回収してまた、付与魔法をかけて力を込め直すのです。」
なんか、充電するみたいだな。
「という事は空になった杖ってお持ちですか?」
「はい、あっ!タクミ殿!!」
「試しにやってみても良いですか?」
「はい、ぜひやりましょう!」
俺たちは転移して城に戻り貯蔵庫に納めてある貴重な使用済み杖を、アーロンさんが取ってくるのを部屋で待った。
トントントン
「どうぞ〜。」
「失礼致します。タクミ殿。こちらです。」
「ありがとうございます。これってなんか、浄化してから入れ直すとか特に無いんですか?」
「はい、特に無いと思われますが、そのあたりは教会の上の方の者達しか知らないのです。ある意味ペニーを稼ぐ手段の一つなので、やすやすと教えてくれる代物ではないのです。」
「わかりました。とりあえず鑑定してみましょう。」
鑑定してみた結果はこれは付与魔法というより、実際はこの木の杖に攻撃魔法を込めてストックして、遣い手の微力な魔法で攻撃魔法を起動させて放つというものだった。ストック方法はいたって簡単。この杖を握って光魔法の攻撃魔法をイメージして力を注ぐのみ。え〜?本当にこんな簡単なのぉ???試しに俺は一本握って光魔法の浄化魔法をイメージすると、杖が青光りし始めた。あれ?緑色に光ったぞ。しかも青光りはもうしない。もしかして満タンか?
「アーロンさん、よくわかりませんけど、できたかもしれません。ちょっと試してもらえます?」
「わかりました。ではどこか汚れている場所へ行きましょうか?」
「あっ!それならあそこが良いな。」
俺は城のトイレの日本風でいうと肥溜めにやってきた。
「うっ!!!タ、タクミ殿、いくら汚れている所と言ってもこ、これは?!」
「うっ、アーロンざん゛早ぐじでぐだざい。ぐざい。」
「か、かしこまりました、うっぷ」
「ピュリフィケイション!」
「んん、効果有りのようですね。」
「そのようですね。でもあまり長居はしたくない場所です。」
俺はすぐに転移で外に出た。
「効果ありましたね。どうやったのですか?」
「どうやらあれ、光魔法の浄化魔法を込めるだけのようですよ。緑色になるまで貯めるだけみたいです。俺としては魔法よりも杖の方が貴重な気がしますね。」
「なるほど、たしかに杖もかなり貴重ですね。この杖はユグドラシルという特別な木から落ちた枝を使って製作されているとされています。この木というのは九つの世界に根を生やす特別な木とされておりその木自体は教会の聖地とされる土地に植わっているという事ですが厳重に教会関係者に守られているとかでその木に近づいたり触れた者や見たものはおりません。実際存在するのかも謎とされております。
ちなみに一般にはこの木は教会で育てられた木という事以外は何もわかっていないのです。あと、聖水もありますが、それもウルザブルンというこの木の根の下にある泉の水で強い浄化作用があるという事で使われております。」
「へぇ〜随分、神秘的な凄い木の枝なんですね。これ。」
「そうですね。ですから本来であればこの杖を手に入れるだけでも貴重と言いますかとても高価なのですよ。」
「それをヘンリーさんの、お父様は没収したと。あの、祟られたり呪われたりしません?」
「さあ、どうでしょう?仮にも神に仕えるもの達ですからねぇ。まあ自分達の都合のいいようにご神託とか言うエセ神父などもおりましたし、わかりかねますが今は宗派が変わって司祭達がこの国のために日夜お祈りを捧げてくれてますので問題無いと思いますよ。それに、他の国に行けば、まるで貴族のように立派な邸宅に住み豪勢なアクセサリーを身につけ、素晴らしい衣服を身にまとい街を闊歩する姿や教会の中で男色にふける者、娼婦の懺悔を夜更けに聴きながら神の血とされるぶどう酒で喉を潤わしお説教を身をもってしていたり、高価な懺悔料を支払えば誰もが救われると説う神父を目にされると思います。
おお、忘れてました、回復魔法の治療もきっとして下さいますよ。とても法外な値段でですが。」
「結構やりたい放題していたわけなんですね。」
「さあ、どうでしょうか?感じ方は人それぞれですので。ヘンリー様の父王は懺悔をして許して下さるのはペニーの量でもなければ許しを与えるのは人では無く神が行う事だと断言され目に余る行動を行なっていた力のある教会をどんどん潰していかれました。」
「凄い良い王様ですね!」
「表向きはですがね。」
「はい?」
「父王様は初めの政略結婚をさせられた王妃様と離婚したかったのですが、認められなかったので、それで教会から離脱したのです。」
「えええええええ!!!マジっすか?!」
「はい。元々は父王様のお兄様の婚約者でいらした当時、力を持つ隣国の姫さまだったのですが、お兄様が亡くなり、では弟の嫁にしよう!って事で無理矢理そうされたそうです。」
「あれまぁ。」
「そして産まれたのがヘンリー様のお姉様ですが、元々、無理矢理の政略結婚、父王様はその姫様に仕えていらしたこの国の貴族の娘で行儀見習いのために宮仕いとして王妃のお世話をしていた女性をいたく気に入り気がつけばその女性は妊娠。産まれた子供は輝くように美しく素晴らしい金髪と薔薇色の頬、そして父王が望みに望んでいらした男の子が誕生されました。その女性との関係は8年にも及び愛おしくて仕方のない存在でしたが強い後ろ盾はなく政治的にみても世継ぎには難しいという事から悩みに悩みぬかれましたが庶子として、ですが有りえないほどの富と地位をお与えになりました。さらにその女性はこのままでは良くないという事で身をひかれ生家へと帰っていかれました。国王とは愛だけでは可愛い我が子すら認められないと理解し覚悟を決めた父王様はその後強い後継者を求めましたがやはり王妃との間に成長する子は産まれず最終的には、違う女性を求めるようになり離婚という道を選ばれたのです。」
「うおっ。壮絶。もしかして、その男の子って」
「はい、我が主人ヘンリー様です。」
「ヘンリーさん。産まれてすぐから大変な人生を歩まれてますね。」
「ええ、ですからお姉様には酷く嫌われておりました。」
「うわぁ。ヘンリーさんは悪いわけではないのに。」
「貴族のしがらみとはそういうものですよ。」
「俺、庶民に産まれてよかった。」
「わかりませんよ。功績をあげたら貴族の爵を拝命する事もございますので。」
「あー。いりません。お断りします。」
「フッフッフッ、ペニーで爵を買う人もいるくらいですのに。タクミ殿は面白い方ですね。」
「俺は庶民で十分幸せですからね。」
「そうですか。では、本題です。この木にタクミ殿に力を貯めて頂くのが早いか、複製される方が早いか、どちらがよろしいですか?」
「複製の方が早いのと貴重な木でしたらそれは取っておいた方が良くないですか?ちなみに光魔法だけでなく他にもその杖って魔法とか入れられるんですか?」
「はい、もちろんです。どの種類でも入れる事は可能ですよ。」
「へぇー!!!凄いですね。さすが貴重な杖ですね。」
「では、光魔法のこの杖の複製をお願いできますか?あと大きな浄化槽とですが大丈夫でしょうか?」
「あっ、問題ないと思います。」
「では杖のお代は一本おいくらで製作頂けますか?」
「じゃあこれもお試しでどのくらい回数使えて、どれだけ綺麗になるかデータください。あと、一本その空になってる杖ください。どうですか?やっぱりまずいですかねぇ。」
「いえ、差し上げることに関しては問題ありません。この杖はとても高価な物ですが大抵みな、回数を使い切ると購入した道具屋に買い取ってもらい、道具屋はまた付与魔法使いに付与を依頼するのです。これらも火魔法や風、土、水魔法を入れたりしてこの城で使っておりました。」
「え?他の属性は付与できる人がいるんですか?」
「いえ、それがおかしいのです。その者達は本来付与魔法などできぬのですがこの杖には力を付与する事ができるのです。」
「あの、アーロンさんはできないんですか?」
「ええ、私では青光りするばかりで緑色にはなりません。」
「うーーーん。もしかしてその付与を担当してる方って魔力量の多い方ですか?」
「魔力量は普通ですが一つの属性しか持ち合わせていない者ばかりですね。」
「もしかして、その方達はその属性に特化しているのでしょうか?」
「どうでしょうか?これについては謎が多くて研究中の物ですのでなんとも。」
「うーーーん。グリに聞いてみたらもしかしたら何か知ってるかもしれません。あいつ長生きですから。」
「そうですか。ではまたわかったら明日にでも教えてください。こちらの杖は差し上げます。」
「あっ、ちなみにこれ、増やして製品なんかにして売ったら怒られますか?」
「ムフフフフ、問題ないです。」
「アーロンさん、目が光ってますけど。」
「それは目を光らせずにいられますか?タクミ殿ならば光魔法の浄化魔法の物が作れるのですよ。それを売れば攻撃用としてだけでなく浄化槽がわりにもできるのですよ。これは他の領地などにも売り込みやすいのです。さらに、その杖ですが是非この城にも卸して頂きたいです。もちろん、攻撃用として。そうすれば今後の旅がかなり楽になります。」
「ああ、そうですよね。ちなみにこの杖って、込めれる量ってそこらで売ってる杖でも同じなんですか?」
「はい。基本は同じ木ですので。販売価格はたいてい、杖の値段プラス付与魔法代のペニーで売られておりまして高い杖は新しい枝で作られた物で安い物はほとんどが再利用された物になりますね。」
「それ、使える量が減るとか違いがあるんですか?」
「いえ、ありません。ただ新しい物を購入し、使い切ったら自分専用でもう一度火魔法なり風魔法など道具屋に言えば対価を支払い付与してもらうことができるのですよ。そうすると買取してもらってまた違う杖に買い換えるよりは、ずっと同じ杖を使えますので愛着とかの問題ですかね、ペニーはそんなに変わりませんから。」
「そっかあ。まあ販売とかする時はまた、相談に乗ってもらえますか?」
「もちろんですよ。何でもお申し付け下さい。」
「では、俺はとりあえず明日までにこれを複製しておきますけど何本くらい必要ですか?」
「多ければ多いほどありがたいですが50本から100本もあれば何とかなるかと思います。ですがそんなに大量にすぐには難しいと思いますので数本ずつで結構です。」
「わかりました。ではできた数を明日お渡しするという事でいいですか?」
「はい、くれぐれも無理はなさらないでくださいね。魔力切れはかなり体に負担が出ますから。」
「わかりました!では、俺は部屋に戻りますけどアーロンさんはどうされますか?」
「はい、私はここで失礼します。では」
アーロンさんと別れた俺は転移で部屋に戻りさっそくグリに杖の事を聞いてみる事にした。
「グリ、この杖なんだけどさユグドラシルって言う木の枝で出来てる物らしいんだけど、何か知ってるか?」
「ん?ユグドラシルだと?そんな物を人族は杖にしておるのか。」
「そんな物?ってどんな物だよ。」
「あの木は神々の住う土地に生える木でその幹や根はこの地やさらに遠く離れた地にも繋がっておってな。いわばこの世界の骨組みだ。」
「なんだそれ?!この世界って木でできてるのかよ?!」
「そうだ。果てしなく太く大きな木だ。だが、それは大きすぎて誰も木とは気がつかぬだろう。そのくらい大きな物で先は見えぬはずだ。なんせ普通の種類の木とは作りも違うからな。」
「木なのに木じゃないのか?」
「言葉での説明は難しいな。そうだな。大きな木があって途中からまた太い幹が出て枝分かれしているだろう?そしてさらに上に伸びてまた枝分かれしていく。その途中、途中に国があると思え。その一番高いところに神々の住う地があり葉や細い枝がありたまにその枝が地上に落ちるのだ。」
「うーん、難しいなぁ。」
「では神の土地はこの地よりは小さく人族の住む土地の方が広いので天界のものがこぼれ落ちるという説明ではどうだ?」
「ほうほう、上層階の住人の落下物って事な。でもそれめっちゃ危険じゃん。下にいる人とか頭の上に降ってきたら即死だぞ。」
「お前、変な事考えるな。だが、天界から落ちた物は神の加護があるので全て光の結界に包まれゆっくり浮遊して落ちるからまず当たっても何ともないぞ。」
「神様パワー凄えな。」
「もともとオーデン様もユグドラシルの根の下にある泉の水を飲んで知恵と知識を手に入れ魔術を会得したと言われていてな。神様パワーというよりはその木が不思議な力を持っておるのだ。」
「つまりその木が魔法の源なのか?」
「そうでもないようだ。その木が生える地によって魔力の質も変われば属性も違うので木だけでどうこうできるわけではないようだが、我にも詳しいことはわからん。元々、興味がないからな。」
「たしかに、興味がなかったら知らないよな。でもさすがだな。そこまで知ってるって大したもんだぞ。」
「だが、そんな木を使って杖を作るとはなぁ。それでタクミは何が知りたいのだ。」
「なんかさあ、この杖に付与魔法をかけて、それでマジックアイテムとして使ってるらしいんだけど、どうも俺の考える付与魔法とは少し違ってな。」
「どう違うのだ?」
「付与魔法ってかけると魔法陣がアイテムに描かれてずっと使えるけどこれは魔力を貯めて放つだけの道具で回数が限られてるし魔法陣も描かれないんだよな。しかも話によると付与魔法をする職人さんも他の物はできないけど、この杖に自分の属性の魔法は付与して魔法を込めることができるっていうんだ。なんかおかしくないか?付与魔法使いなら永久に使える物が作れるんじゃないかと思ってさぁ。」
「なんだ、そんな事を悩んでおるのか。それは付与魔法ではないぞ。」
「ん?付与魔法じゃない?どういう事だ?」
「どういう事もこういう事もない。ただ自分の属性の魔法を込めておるだけにすぎんという話だ。」
「でもアーロンさんは出来ないらしいんだ。これを作れる職人はそんなに魔力量だって特別多いわけじゃなくて普通だしそれに属性も一つしかない人みたいだぞ。」
「魔力量が多くなくとも沢山使える方法はなんだ?」
「魔力量が多くなくともって魔力操作だろ?」
「そうだ。属性が一つしかない者はその属性を高めスキルを磨く。するとどうなる?」
「魔力操作スキルが上がって魔力も少なくて済むし使える魔法も増えて能力も変わって・・・あっ!」
「やっと気づいたか。」
「そうか!その属性の魔力操作スキルが高いから杖に魔法が込められるのか!」
「そういう事だ。アーロンはあいつは四属性とかであろう?器用貧乏なのだ。色々できるが使いこなすのが多属性持ちは難しくスキルが上がりにくい。だから杖に魔法が込められぬだけだ。それにあの木に付与魔法なんぞ出来ぬぞ。あの木は魔力を吸収するし排出する事もできるが、それ自体を変化させる事は無理だろうな。器として使うというのは上手い使い方だが永久に使えるマジックバックのような使い方をしたいのであれば違う種の木の杖に本当の付与魔法をかければ作れるのではないか?もちろん使い手の魔力が必要になるがそれも魔石をつければ使い手の魔力すらいらなくなる、まあそんな所だな。」
「なるほどなぁ〜。そういう事か。おかしいと思ったんだよなぁ。でも俺がマジックアイテムの杖作ったら商売できなくなる人が大勢出てくるよなぁ」
「まあ、そうなるだろうな。特に属性が一つしかない者はそれで生計を立てておるのであろう?きっと職をなくしてお前、呪われるかもなフッフッフッ」
「おい!怖い事いうなよ!それリアリティーありすぎて怖えよ。よし、それなら浄化魔法の杖だけ作ろう。」
「おっ?呪われるぞ?」
「そうかもしれないけど、この浄化魔法の杖を作れるのって散々贅沢三昧してる位の高い生臭坊主らしいから少しくらい個人収入減らしたって困らないだろうし、そんな罰当たりな行動してるやつの呪いなんて大して効かないよ。神様だってちゃんと見てるだろうからさあ。」
「ふんっからかい甲斐のないやつだな。たしかにお前ほどの光魔法の使い手を呪える奴などおらんだろうな。しかし何故、他の属性は作らぬ?」
「そりゃ、他の人の職を奪っちゃいけないし、それに火やら風とかは人族とか獣人とか魔物にも使えるだろ?これが人族同士の喧嘩とかに使われたら最悪だからな。でも光魔法なら攻撃魔法だって言っても通じるのってレイスとかアンデット系だけだろ?しかも彷徨ってる魂を浄化してやるならいい事じゃないかと思って。これなら乱用しても問題ないかなあと思ったんだよ。それに魔物の乱獲とかも良くないだろ?害のない魔物まで狩る奴も中には出てくると思うからそういう事をできれば避けたいんだ。」
「ほう、それなりに頭は使えるようだな。」
「お前、俺を試したな。このやろう」
「ああ、お前は悪い奴らの考えがまるで無いからな。悪用されることを示唆してやるのも大事な事だ。」
「そうですね。俺は馬鹿正直ですからねぇ〜。」
「すねるな。面倒な。」
「じゃあ、とりあえず浄化魔法のは作ってもいいかな?」
「うむ、それだけなら問題はないがもし、火魔法など作れと言われたらどうするのだ?」
「あっ?断るよ。だって嫌だもん。それに今話した事がわかってもらえないなら仕方ないから、浄化魔法で作ったマジックアイテムの杖を卸さないだけだし、まあ、変な奴に捕まったら転移で逃げるか・・・そうだな。グリ助けに来てくれよ。」
「仕方のない、世話の焼ける奴だ。」
「えへへ、よろしくお願いしまーす。じゃ、一本作ってみるか。そうだなぁ、まずはオークの木?それともオリーブの木?何にしようかな?」
「それならばワイトバーチが良いかもしれぬな。」
「ワイトバーチ?どんな木だ?」
「白い樹皮の木でこの樹が生えているところは、浄化作用が強くレイスやアンデット系は現れぬ。」
「それって木の力に浄化とかがあるのかなぁ。どこに生えてるかわかるか?ちょっと見てみたい。」
「うむ、あんな物どこにでもあるが・・・そうだな、あそこだ。お前と初めて会った湖。確かあそこにも生えておったぞ。ほれ、白く細長い木が立っておったのを覚えておらぬか?」
「あっ、そういえば林みたいになってたような」
「それだ!それ!」
「あれかぁ!よし今から鑑定しに行ってみようぜ」
「うむ、よかろう。」
俺たちは転移してマーニン島の湖に生えるワイトバーチという木の所に来た。
「これだな!よし、鑑定してみよう。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
鑑定結果
【 名前 】ワイトバーチ 白樺
樹命は70年ほどと木としては短め。20〜30メートルに成長する。
材質が堅く、木目も美しいので家具材や、家屋の内装に使われる。
また、樹皮は容易に燃え、天然の着火剤としても使われる。
春、芽吹く頃の白樺の幹に傷を付けると、大量の樹液が吹き出す。
この樹液を水場がない場所で野営する際の、炊事の水に用いられる。
樹液の成分には人の表皮を保湿する成分もあり化粧品にも使用可能。
美と強壮の治療薬として熱や胃の薬として用いられる地域もあり、
葉の煎じ薬は皮膚病や傷の治療用ポーションに使われる。
木の性質は守護、浄化で古の魔法では悪魔祓いの魔術に使われていたが、
教会の普及と共に光魔法所持者のみがアンデット系を退治できるという
間違った認識が広められ現在では使われなくなった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「なんか、昔はこの木で悪霊退治されてたみたいだな。これなら使えるかもしれない。一本切ってもいいかなぁ。」
「うむ、杖にするのであれば枯れて朽ちた物より一本切った方が良いだろうな。」
「じゃあ申し訳ないが一本切らせてもらうぞ。」
『ウィンドカッター』
ジャキーーーーーン
落ちた木を拾い上げてグリと部屋に転移した。
「ちょっと削ってみるよ。」
俺は手のひらをヤスリのイメージと音波振動のイメージを膨らませて魔法をかけ木どんどん削りオーケストラなどの指揮者のタクトのような細長い棒に削っていく。俺には技術なんて物はないから彫刻を彫る余裕なんてないので本当にシンプルかつ地味な杖だ。
「こんなもんかな。」
「ひどく地味だな。」
「仕方ないだろ?俺には削るくらいのスキルしかないんだから」
「そうだな。それにお前も地味だしな。」
「そうだよ。俺は地味男だよ。お前と違ってな。じゃあこれに付与魔法かけるぞ。」
俺は浄化魔法の付与を杖にイメージして魔法をかけた。すると杖が宙に浮かび緑光りした!
魔法陣が杖の一番下にある指でつかむところの平らな部分にそれは小さく描かれてしばらくしたらゆっくりと机の上にフワリフワリと浮遊するように降りていき、コトッと着地後光は消えた。
「これ、できたのかな?鑑定かけてみるよ。」
鑑定結果は見事成功!
回数制限もなければ属性の制限もない。光魔法所持者でなくても自身の魔力を注げばそれがこの杖により属性というのか力が変換されて放たれ浄化魔法が撃てる。
「鑑定も問題ないけど実際に試したいよな。アーロンさん、忙しいよなあ。でも試したいなぁ。」
「そんなに焦ることもなかろう。」
「いや、こっちが認められたらこれから作ろうと思ってたやつが無駄になるだろ?うーーーん。」
「では両方増やしておけば良いだろう。いらない方は売れば良いのだ。」
「そっか。それもそうだな。」
「よーし!気合い入れて複製しまくるわ。」
「うむ、まあ好きにしろ。」
「よーーーーーし!やるぞーーーーー!!!」




