74.メアリーさんのお茶会
あれから1カ月が立ち俺はマーガレットさんと相談を重ねて店舗デザインや内装も全て決まりすでに
店舗改装に職人さん達が着工してお店が出来上がるのを待つだけとなった。
お店の看板とも言える木の玄関扉には
グリフィンの姿を描いたマークをつける事にした。
内装は俺の作ったシャンデリアや灯台で明るく照らされた店内に左の壁際にはガラスケースを設置して商品を飾る。
そして玄関扉に近い右隅には精算カウンター。
そしてお客様との接客スペースは中央にカウンターを配置して内側に店員、外側にお客様用の椅子を並べゆったりと過ごしてもらう。
さらに奥にはバックヤードを設けてデスクや詰め替え用スペースを確保し、在庫は全てマジックバックに入れて保管。
そうそう壁は漆喰でお店の中は白を基調に清潔感を出す。
そして従業員となるマーガレットさん以外の女性はマーガレットさんが厳しい面接を行い素晴らしい人材が揃った。
こうして気がつけば7日後には店舗が出来上がる
目処もたち、マーガレットさん率いる女性軍団は毎日研修も行なっているのでオープンまでには必要なスキルもなんとか身につけて間に合いそうだ。
という事でメアリーさんにお茶会を開いてもらう。
と言ってもかなり前からメアリーさんが美しくなったという噂はそこら中で広まっているらしく
もしかするとお茶会を開かなくても良いレベルなのかもしれないがどうして綺麗になったのかを
きちんとお知らせするためお茶会を開いてもらう。
俺としては身内以外の反応に少しドキドキしている。
ちなみに改装費とデザイン料で1667ペニー。
手持ちが足りてよかったよ。
グリとワイバーン に感謝だ。
店がオープンしてしまえばあとはマーガレットさんに丸投げなので俺はやることが無くなるので
今度は冒険者ギルドの依頼を受けようと思う。
グリやポヨにストレス発散させないとな。
「タクミ様、よろしいかしら?」
「はい、メアリーさん。」
「これお茶会のリストなんですけどこの日は
貴族の奥様を5名ほどご招待しようかと思って
おりますの。
それから別の日にこちらの5名ですわ。
合計10名ですけどお譲りする化粧品を少し
ご用意頂けるかしら?
もちろん私がそちらの料金をお支払い致しますので。」
「そんなの、こっちが宣伝してもらうので
ペニーなんていりませんよ。10名ですね。
とりあえずどれが必要になるかわかりませんので
その日は俺も城にいるようにしますね。
お肌のタイプを聞いてそれぞれの化粧品を
用意しますよ。」
「ありがとうございます。タクミ様。
でもペニーはお支払いしますわよ。
タクミ様の悪い癖ですわ。
商人なんですから、小分けにする手間賃を
さらに取るくらいでないと、やっていけませんわよ。オホホホホホ。」
「あははは、やっぱりマーガレットさんに経営
託して正解ですね。
俺はたぶん、商人に向かないですね。」
「ごめんなさいね。無理に商人にしてしまって。
でも卸業者は待遇があまり良くないのよ。」
「いやいや、かなりありがたいですよ!
お世話になりっぱなしで。」
「あら?全然、お世話させてくださらないじゃない?
始め、主人は資金提供もする気満々でしたのよ。
断られた時は寂しそうでしたわ。
貴方らしいですが私共はいつでもどんなことでも
貴方の力になりますから遠慮せず言ってくださいまし。
水臭いですわ。
それに、もし、あのままうちの旦那様が病で
亡くなっていたら今頃私、尼にでもなっていたはずですのよ。
こうやって楽しく大好きな旦那様と暮らせるのも
貴方のおかげですの。
たまには頼ってくださいましね。」
「は、はい。なんだか、面と向かって言われると
照れくさいですね。」
「面と向かって言わなければ伝わりませんわ。
特にあなた様の場合、人が良すぎますからねっ。」
「あはははメアリーさんには敵いませんね。」
「そうですの?オホホホホホ。
私は旦那様と暮らせて本当に幸せですの。
その感謝をしっかり販売のお手伝いをして
表現いたしますわ。ウフフフフ」
この人が商売したらきっとギルマスのキャサリンさんよりやり手になるような気がする。
「ではお手数おかけしますがよろしくお願いします」
「お任せください。ウフフフフ
あと、タクミ様の従業員の女性もお借りするわね。うちの侍女を使うより経験も増えるでしょうから。」
「ありがとうございます。
マーガレットさんに伝えておきます。」
「ああ、明日の朝来て下さるから私から
伝えておきますわ。」
「何から何まですみません。」
「いいのよ。ついでじゃない?
それにマーガレットとはもう、お友達なの。
ウフフフフすっかり意気投合してしまって
朝のメイクの時間が毎日楽しみなの。
マーガレットは大変だと思うけどこの一ヶ月
とても楽しい朝を迎えられたわ。
今後はさらに忙しくなるから朝のメイクは
お願いできなくなるけどお友達として
仲良くしていこうと思っているのよ。」
「それはありがたい事です。
俺、不思議なんですけど普通貴族って
庶民と友達とかになったりするんですか?
ヘンリーさんといい、メアリーさんといい
気さくだなって思いまして。」
「そうねえ、元々マーガレットは商人でも
かなり裕福なお家のお嬢様だから
学校も貴族の通う学校の商人コースを出ている人だしそんなに不思議なことではないわよ。
はっきり言ってお仕事しなくても暮らしに困るようなお家ではないのよ。
でも彼女の場合それじゃ、つまらないのね。
貴族の女性は結婚して屋敷の中を取り仕切ることが多いけれど彼女のお家は弟さんもいらして家は安泰。結婚も以前は縁談が多くあったそうだけど
怪我のせいでそれも無くなったらしいのよ。
でも、怪我が治ったら縁談の嵐らしくて
それに呆れて「当分、結婚なんてしませんわっ!」て息巻いてたわね。ウフフフフ。」
「そんな状況なんですね。マーガレットさん。
全然知りませんでした。
でも怪我があったとしてもとても素敵な女性ですけどね。
世の中見る目がないんですねぇ。」
「そうよね。彼女はとても頭の回転も早いし
お話もお上手で誰からも愛される人よ。
そんな方とお友達にならない方が不思議でしょ?」
「なるほど、そうですね。」
「貴族だと、商人と付き合うのって利害関係も
出てくるから難しい場合もあるけど
マーガレットはそういう事を感じさせない程
魅力的な女性なのよ。」
「そっかぁ。人それぞれってやつですね。」
「そうよ。それに貴族って搾取する側に見えるけどけっこう騙されたりとかもするから用心してないと領民に迷惑をかけたりするのよ。」
「えええ?!そうなんですか?」
「そうよぉ〜。うかうかしてるとあっという間に財産取られちゃうわ。
だから経営も学ぶけど人を見る目も養うのよ。」
「へぇーーーー。貴族って一族安泰だと思ってました。」
「いえいえ、そうでもないわよ。
政敵に悪事を画策されてはめられるなんてよくある事よ。」
「おお、ドロドロな臭いがする。」
「そう!もう、ドロッドロ。そんな事する暇があったら領地をより良く運営していなさいっ!て
思うのだけれど、領地持ってない方とかだったり
するのよね。ウフフフフ。あとは権力争いとかかしら?
うちの場合、旦那様のあの対応力とアーロンの頭脳でたぶん安泰だけどいつ、どうなるか先はわからないのよ。」
「そうなんですか?そんな風には見えませんが。」
「そうねぇ。例えばエリザベス様のお母様は
ヘンリー様のお父様の妃の地位を手に入れたけど
最終的に政敵によって死刑になって一度は庶子に
落とされているし、私の父もその辺りから
不穏な空気が流れて最終的には投獄されてしまったわ。」
「ええええええええええ!!!!!」
「貴族なんて、紙一重なのよ。
いくら権勢を一時期欲しいままにしていようとも
それは一生続くことはないわ。
父もはめられて苦労した一人だし、その姿を
目の当たりにしているから私は自惚れないように
気をつけているのよ。」
「なんか、壮絶ですね。」
「そうね。でも仕方ないわ。
私の父は投獄されはしても死刑にされた訳ではないし。
それにエリザベス様が王に即位されてからは
以前と比べるとかなり暮らしが良くなったわ。
以前はちょっと宗教の問題で色々とね。
だからますますこの国は発展していくと思うわよ。」
「貴族って思ってたより仕事量もすごい多くて
朝から忙しいし責任も重大で気がついたら騙されそうになるわ、なんだかめちゃくちゃ大変な仕事ですね。
もしかしたら冒険者が一番気楽なのかもしれないな。」
「あははは、冒険者は死とすぐ隣り合わせだし
それぞれ大変な事はあると思うわ。
与えられた役割をいかに楽しく過ごすかが人生を
悲観せずに暮らす鍵かしらね?」
「そうですね。」
「私はそう考えたら本当に幸運だわ。
あんなに素敵な旦那様と一緒にいられて、
生活も今の所は安定しているし健康な体もある。
それにいざとなったらタクミ様のお店で雇ってもらえば良いんですもの。ウフフフフ」
「いや、まだ始まってもないし、儲かるかどうかもわかりませんよ。」
「何言ってるの? あのマーガレットが経営するのよ。それに私達が気に入った化粧品が売れないわけないわ! 自信を持ってね」
「ありがとうございます。正直ドキドキして
落ち着かなかったんですよ。
少し安心しました。」
「あらあら、大丈夫ですわぁ〜。マーガレットに任せておけばそれこそ安泰ですわよ。ウフフフフ」
「はい。」
ーーーーーーーー3日後
「メアリー様?今日という今日は白状して頂きますわよ?」
「そうですわ。いったいどちらのお化粧品を使っていらっしゃるの?」
「ぜひ私たちにも教えてくださらない?」
「その美しく輝くお肌にしかも自然な透明感のあるお肌。羨ましいですわぁ。」
「そうですわぁ〜。ぜひ教えてくださいなぁ。」
俺はお客さん達から見えない角度の所から
メイクモデルを担当してくれた使用人さんと
従業員となる女性にマーガレットさんと
こっそり話を聞いていた。
大勢で盗み聞きだ。
「あらぁ、内緒にしていてごめんなさいね。
実は懇意にしている方の新商品でまだお店も
オープンしていないのでお教えする事が出来なかったのですよ。」
「あら?そうなんですの?
そのお店はどちらの方がなさいますの?」
白粉ベタベタの真っ赤な口紅をつけたふくよかな
女性がゴリゴリ質問している。
「一ヶ月ほど前に特許状を授かった方ですわ。」
「ああ、ありましたわね。そんな事が。」
「その方が新しい白粉を販売されるのですか?」
「そうですわね。でも従来の白粉とは少し違いますのよ。」
「あら?どう違いますの?」
「蜂蜜や蜜蝋をベースに塗らずにお肌に良い
お水やクリームをつけてそして白粉の代わりになるお粉やクリームを使ってお化粧しますの。
最後に必要な方は白粉を塗りますのよ」
「蜂蜜や蜜蝋を使わないんですの?」
「ええ、そのおかげで私、暖炉に近づいても
お化粧が崩れませんの。」
「それは素晴らしいわ!」
「それに日焼け止めクリームもあるんですの。
最近ではあの仮面をつけてお散歩する事も
無くなりましたわ」
「それは羨ましいですわ!暑い季節はお顔が蒸れますのよね。あれ。」
「その通りですわ。それに、メアリー様?
シミが一つも見当たりませんが失礼ですが
そこまで赤子のようにシミひとつないお肌で
いらっしゃったかしら?」
「いえ、以前はシミも沢山ありましたけど
このお化粧品を使い出して今の状態になりましたのよ。」
「なんと素晴らしい!ぜひその商人をご紹介頂きたいですわぁ。」
「そうですわ。ぜひご紹介下さいな。」
「独り占めだなんてねぇ、皆さん」
「あら?独り占めだなんて酷いわぁ〜。
せっかく皆さんに少しお分けしようと思いましたのにぃ〜」
「な、なんですって?!」
「あら?お節介でしたかしら?困りましたわ。
わたくしとした事がご足労頂いたお礼にお土産で
ご用意しようと思っていましたのに。」
メアリーさんがしおらしく困り顔になる。
名演技だ!女優でもいけるぞ。あの人。
「あら、そうならそうと仰ってくだされば
ねぇ〜皆さん。」
俺は小声で
『あのふくよかな女性は何者ですか?
メアリーさんって公爵夫人ですよね?
随分、ゴリゴリしてますけど。』
マーガレットさんも小声で
『あの方は侯爵夫人で旦那様の立場はヘンリー様より下なんですが奥様のご出身がお隣の国の公爵家の方なんです。
このリッチモンド領はお隣と近いのでそういう方もいらっしゃるのですよ。』
『どうりで』
『あと、あの方は見た目もあれですから
あの方の顔がうちの商品で美しくなれば
他の方も飛びつくと思い、今回はそういうお客様をご案内しております。』
『あぁ、なんて答えたらいいか困る説明
非常にわかりやすくてありがたいです。』
たしかに今日のお客様、みんなメアリーさんとは違ってお金持ちなんだろうけどヒキガエルのようなお顔の素晴らしい二重アゴをお持ちの奥様に
豚さんのようなお顔にほっそりとしたお目々。
それからかなり肌荒れの酷い奥様にヒキガエル夫人の取り巻きの奥様やはりこちらもかなりふくよかだ。そして最後の女性はとても美しい方なのだが、どうやらかなり念入りに鉛白粉を塗り込んでいるらしく表情が読み取れない。
とりあえず今回のお客様はそれぞれに権力も
お持ちのようで一人一人かなり自慢してくれそうなので、宣伝効果に期待だ。
「・・・お店はもう少ししたらできあがるようなんですがお店に商品を買いに行くシステムなんですのよ。」
「あら?届けてくれないの?わざわざ行かないといけないの?」
「そうなんですの。新しいスタイルで
画期的なんですのよ!」
メアリーさんが笑顔で押し切った。強え。
「でも、面倒ですわね。届けてもらった方が楽ですわ。」
「そうね。商人に来させれば良いわ。」
「あら、残念ですわ。そういう形式では販売しないそうよ。」
「どうせ、庶民の商人なんですからこちらが
強く出ればそのうち折れるんじゃないかしら?」
「それもそうね。」
「どうかしら?特許状をもらってる商人さんだから無理を言うとお化粧品が手に入らなくなるんじゃないかしら?下手をすると営業の妨害で罪になりかねませんわよ。オホホホホホ」
「そういえば・・・」
まるで歯ぎしりをする音が聞こえてくるようだ。
お茶会ってこんなに怖いものだったんだな。
「とにかく皆さん一度お試しになってはいかがかしら?」
「そうね。そうしましょう。」
メアリーさんはすぐ近くにいる事を知っているが
あえてマジックベルを鳴らして従業員を呼ぶ。
『マーガレットさん、お願いしますね。』
『任せてください!』
握りこぶしを作り小声で話すマーガレットさん。
俺はその雄姿を見守る。
これはお茶会と言う名の戦場だとようやく理解した。
読んで頂きありがとうございます。




