55.ケルピーとトロール
船が出航して奥に進むとどうやら山と山の間の
谷間を進んでいるようであたり一面緑の世界。
岩肌のところもあるが多くは緑が生い茂っている。
船は豪華な船になり安全面もグンと向上したけど
念のため結界を張っておいた。
川の匂いは人里が近くにない為か気にならない。
順調に風魔法の風を使って進み船旅は快適そのもの。
アーロンさんが美味しいお茶を淹れてくれたりして
危険とは無縁の世界にいるんじゃないかと極楽気分を
味わっていた。
すると、そんなうまい話はあるはずもなく感知に反応が
出てしまった。ムムムム
ーーーーー警告ーーーーーー
水中にてケルピー 接近中
ーーーーーーーーーーーーー
「あの、ノアさん、ケルピー が
接近してるみたいですけどどうしますか?」
「近づいてるだけなら放置しても平気だと思うよ」
「何?馬か。タクミ、我は少し出てくる。
良いよな?」
有無を言わさぬこの言い方。グリ、狩る気だな。
「あぁ、いいよ。ほどほどにな。」
「久しぶりのイキのいい馬だ。ムフフフフ
タクミに調理させたいところだがな、残念だ。
では、行って参る。」
「おう、気をつけてなぁ〜。」
グリはそのままワシの姿で外に羽ばたき
空で元の姿に戻ると水夫たちが巨大な魔物が!と
口を揃えて叫び腰を抜かしてる。
ありゃりゃ。しまったな。グリもウキウキで
頭の中は生きたケルピー を丸呑みする事しか
頭にないのだろう。
好きだよな。馬肉。まぁ馬刺し旨いもんな。
この世界の人が聞いたらきっと泣くだろうな。
馬好き多いし、特にジャックさん。
口が裂けても言えない。
すると騒ぎを聞きつけたアーロンさんが
皆を静めて業務に戻るようにと冷静に指示を出してる。
「すみません、お騒がせしまして。」
「いえ、問題ありませんがグリ殿こそ
どうかなさいましたか?」
「アーロン、ケルピー が近くにいるらしいんだ。
グリ殿が退治してくれるそうだ。」
「ほう、なるほど。お食事という事ですかな。」
「はい、すみません。」
「いえ、ありがたい限りですよ。
船の者には従魔という認知を徹底して
今後慌てさせないようにいたします。
失礼いたしました。」
「いや、アーロンさん、そんないいですよ。
謝らないで下さい。
あんな姿見たら誰でも驚きますから。ね?」
「ありがとうございます。
そうだ、グリ殿が戻られた時に
水浴びできるように用意をしておきましょう」
「えっ?いいんですか?」
「はい、ヘンリー様にもお伝えしなくては」
「そうですね。あっ、すみません。
あとポヨの事も皆さんにお知らせお願いします。
掃除しながら徘徊するので」
「あぁ、その件につきましては認知済みです。
先に従魔という事を連絡しておりまして、
乗船後すぐに船員がお世話になりまして。」
「はい?」
「実はポヨ殿、乗船してまもなくのことですが
ある部屋に入ったようでして。」
「ある部屋?」
「はい、船員の寝起きする部屋なんですが
どうやら、そこは汚れが溜まっていたようで
ポヨ殿があっという間に部屋を綺麗に
掃除して下さったそうなんですよ。
たまたま、そこに船員が居合わせておりまして
目を丸くしながら大喜びしておりました。」
「そういえば、ポヨはいつのまにか
居なくなってたな。
お前、そんな事してたのか。」
ポヨーンポヨーン。
俺はポヨを膝に乗せてなぜなぜしてやる。
プライバシーの侵害で怒られそうだが
喜ばれているようなので今回は撫ぜておこう。
今後は目を離さないようにしないとな。
それにしてもあれから警告が出ないという事は
グリがケルピーを仕留めたのかな?
そう思っているとまた警告が出た。
ーーーー 警告 ーーーー
森トロールの巣 接近中
ーーーーーーーーーーー
「すみません、森トロール?の巣が
接近中って出てるんですが大丈夫でしょうか?」
「森トロールの巣ですか。
もしかすると攻撃を仕掛けてくるやもしれません
結界を強め迎撃体制に入ります。」
おお、なんか凄い事なんだな。
俺にはさっぱりわからんぞ!
船内は慌ただしくなりみなそれぞれの配置につき
両サイドの森を警戒していると俺とは反対側の方から
叫び声にも似たうめき声が聞こえてきた!
その直後、空から大岩が降ってきた!
どうやらトロールが大岩を持ち上げ
こちらに向かって投げつけているようだ!
船を沈める気か?
だが、反対側で警護していたジョージ君が応戦!
「トルネーーーーード!」
ジョージ君が放った風魔法で竜巻が起こり
船の真上にあった大岩を巻き込み
飛んできた方向へ弾き返した!
ドゴーーーーン!!!
「グォーーーーー」
大岩が森に落ちたのだろう。
墜落の衝撃で地響きが起こり船が揺れる。
だが、大岩の攻撃はまだ続きどこから
狙っているのかわからない。
森にいる事は間違いないはずなのに。
俺も反対側に回り敵を探す。
『サーチ、トロール』
すると俺の見えている範囲の地形のマップが
表示されて、そこにトロールが赤く光る。
俺たちは大きな過ちをしていた!
対岸にいると思っていたトロールはなんと
山の中腹から投げてきていた!
「みなさん!対岸ではなく山の中腹の森を
狙ってください!
対岸には何もいません!」
「そうか!それで手応えがなかったっすね!」
「中腹か?よし!」
「アースウォール!」
ジャックさんが魔法を唱えると
突如、山の中腹がせり上がり土の壁が
出来上がっていたが、なんとそこにトロールが
姿を現した!
「グェーーーーー!」
「ギェーーーーーー!」
「ウギャーーーーーー!」
遠く壁の上から悲鳴が聞こえてくる。
一体何が起こっているんだ?
「どうだ?反応はあるか?」
「え?あっ!赤い点がどんどん消えていく!
何が起こってるんですか?」
「あぁ、トロールは太陽の光に弱くて
陽の光を浴びると体が石化するのさ。」
「それで壁を使って地面をせり上げて巣ごと
陽の光を浴びせたんですか?」
「そうさ、壁も使い方次第では攻撃になるんだぜ。」
「あいつら、きっと日影から狙ってきてたんすね。」
「そのようですね。攻撃は止みましたが
まれに太陽の光を浴びても石化しない異変種が
いますから警戒はこのままで行きましょう。」
「はいっ。」
ーーーーー1時間後
「もう警戒を解いても良い頃でしょう。
みなさん通常通りでお願いします。」
「おう!」
あの後、追撃はなく怪我人もでずに
ここまで進んで来れた。
せり上げた壁もジャックさんが魔法を解いて
元の位置まで土を戻し、そのままトロールも
土の中に埋まったようだ。
石化していなかった者も中にはいたかもしれないが、
あれを食らってはひとたまりもないだろう。
「みなさん、お食事の用意が整っておりますので
サロンへどうぞ。」
あの後、警戒体制の中も平常心で
料理を作ってたのかよ?!
コック長やるなぁ!
バサッバサッバサッバサッ
ん?上を見上げるとグリが急降下して
くるりと体を翻し甲板に降り立っていた。
「グリ、遅かったな。おかえり。」
「うむ、ケルピー が思いのほか沢山いてな。
良い飯になった。我は腹がいっぱいだから
晩飯はいらんぞ。」
「かしこまりました。グリ殿。
水浴びの支度は整っておりますよ。」
「うむ、アーロンお主は気がきくのぉ」
「いえいえ、グリ殿も我らの恩人ですからね。
それに、ヘンリー様が唯一近づいても大丈夫な
モフモフいえ、失礼しました。
癒しの魔物様ですので大切にいたしませんと。」
「お前、心の声がダダ漏れだぞ。
だが、悪い気はせぬ。
我の美しさを理解するのはやはり高貴な者が
多いのであろうな。フフフフフフフ」
なんかあいつ、癒しの存在って思われるのが
嬉しいのかな?不思議なやつだな。
まぁ、打ち解けた事は良い事だからな。
「グリ、俺たち飯だから食ってから
水浴びでもいいか?
それとも今からポヨと入るか?」
「ヘンリーとやらに背中を流させるから
待っていてやろう。」
決定事項なんだな。
すると
「グリ殿、ありがたき幸せ!
私の食事よりもグリ殿の水浴びを先にしようか?」
「ヘンリーさん、みんなお腹空いてますし
コックさんも準備してくれてますから
後でやりましょ。」
「いーよな?グリ」
「うむ、待っていてやる。
お主が食わねば他の者が食えぬであろう。
周りの者が哀れだ。それにせっかくの水浴びを
急かされたくないからな。
先に飯を済ませて来るが良い。」
「グリ殿、わかったよ。
ちゃちゃっと食べて来るね!」
ヘンリーさん、子供かっ?!
じゃあ、グリまたな。
「うむ」
俺たちはサロンに向かう。
するとサロンではテーブルいっぱいに肉料理が。
あぁ、お貴族様のお食事だ。
俺、野菜も欲しいな。
サラダ出してもいいかな?
いやぁー失礼だよなぁ。
すると・・・。
「おや?野菜がありませんね。
どういう事でしょうか?
野菜の調理もお願いしたはずですが?
コック長を呼んできなさい。」
「かしこまりました。」
「何かご用ですか?お客様」
「野菜の料理をお願いしたはずですが
なぜ、テーブルにないのですか?」
「あっすみません。冗談だと思いました。
お貴族様が野菜を食べるなんて今まで
聞いたこともなくて」
「だから作らなかったと?」
「えぇ、本気にしたのかと笑われるかと
思いましたので。食材を無駄にしたくなかったものですから。」
「ほう?面白い言い訳ですね。
雇い主がオーダーしたものをあなたは
笑われるから作りたくなかったと
おっしゃるんですね。たしかに食材は貴重です。
だからこそプロのあなたを雇っているんですよ。
それに食べない野菜を積みませんし仕入れもしませんよ。」
「はい、おっしゃる通りです。」
「次からは野菜料理もきちんと出してください。
まさか、野菜料理は作れないという事は
ないですよね?
貴族の需要がありませんので
それならそれで致し方ない事ですから
おっしゃって頂いて結構ですよ。」
「そうですね。
美味しいスープなどはもちろん沢山ありますが
庶民料理と言いますか田舎料理と申しますか
洗練されたものではないかと思われます。
味は保証できますが・・・その・・・。」
「それで構いません。
きっとそうではないかと思っていました。」
「そうだね。一般的に貴族に野菜を出したら
中には怒る人もいるだろうから品を出すのに
勇気がいるよね。
私は野菜スープや炒め物なんかも大好きだよ。
健康にとってもいいと聞いて積極的に
食べているんだよ。
君の作る野菜の美味しいスープや料理を
是非食べたいな。」
「はい、勝手な振る舞いを
どうぞお許しください。
本日のディナーに間に合わせるのは難しいですが
明日の料理には必ずお出し致します。
大変申し訳ない事を致しました。」
「いえ、どうぞよろしくお願いします。」
アーロンさん。
めっちゃ笑顔だけど目が笑ってない。
ヘンリーさんの健康管理の為の料理だもんね。
怒っちゃってるよね。
でも、それほど貴族って野菜食べないんだな。
たしかにマーニン島の城ではほぼ肉だったもんな。
「あのぉ・・・タクミ殿。
大変、申し訳なく図々しいお願いがありまして
もしよければタクミ殿の野菜料理を
何か出して頂けるとありがたいのですが
甘えさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「俺なんかの料理でよかったら
是非召し上がってください。
じゃあ今日はサラダとミネストローネにしましょうか?」
「おお!トマテですね!はい!
ありがとうございます!」
「え?これトマテなんですか?」
まだ側にいたコック長さんがミネストローネに
食いついた。
「そうですよ。トマテですよ。」
「飾りではないんですか?」
「えぇ、トマテはとても美味しいですよ。
煮込んでもいいし焼いてもいいし、とても
万能な食材です。」
「そうですか。覚えておきます。
では、私はキッチンへ戻ります。」
「はい。」
「ありゃ、研究するなぁ。」
「するね。」
「何の事です?」
「かなり興味津々だったから
貴族が食べるトマテの野菜スープとか言って
売り出しそうだなと思ってね。」
「それはいいことですね。
トマテが広まればカルロスさんが喜びます。」
「ん?カルロスって誰だよ?」
「トマテをくれたおじさんですよ。
故郷の野菜だそうで飾りにするなんて
もったいないって言ってたんですよ。
できれば野菜って事を広めて欲しいって
頼まれたんです。」
「なるほど。じゃあトマテのレシピも
商業ギルドで登録するといいよ。
登録すると他の人が閲覧する際には
お金が必要なんだ。
そのお金が登録者に支払われる仕組みに
なってるから、お金も稼げるし
トマテを広める良い手段だと思うよ。」
「いや〜見る人なんていますかねぇ?」
「大丈夫さ。ちなみに私の家のコック長は
見てもらうつもりだから最低うちのコックは
閲覧することになるねぇ。
その後パーティーでも出すようになったら
宣伝効果抜群だよ。」
「そんな、大した料理じゃないですから。」
「あははは。そうかい?
君はそう思っていても私は好きだよぉ〜。」
「ありがとうございます。」
商業ギルドかぁ〜。色々楽しみだな。
読んで頂きありがとうございます




