表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/199

53.ルサールカは美人妻

朝靄かかるロンカストラの街を後にして

俺たちは次の目的地ケイトンに馬で行くと

思っていたのだが・・・。

違った。

また船に乗るようだ。

この街に入る際に渡った

あの川を使って移動するらしい。

馬で行くよりも安全だからという事で

急遽切り替えて馬ごと船に乗せて次の目的地も

上陸せず通過したり乗り換えたりして

どんどん進んでいくらしい。

約7日間船に乗って移動して

後は陸路で進むそうだ。

スピードとしては馬とそんなに変わらないらしく

ヒッポカムポスと比べるとかなりゆっくりだが

俺たちの体力はかなり温存できる。

もちろん船の中での寝泊まりだし、

前の船のように豪華でもなんでもなく

普通の船をチャーターしているため

乗り心地や設備はあまりよくない。

ちなみにこの船は魔物ではなく

普通の木で作られた船だ。

他の旅人などがいない分、一般の船旅と思えば

かなりリッチではあるが。

7日後の目的地は今いる場所と最終目的地の

ちょうど中間地点の所らしい。

なぜ初めから船にしなかったか。

それは、臭いだ。

有りえないほど臭い。

生活排水から何から何まで

川に流しておいでのようで、まー臭い。

大変な思いをしてでも馬で行きたかった

というのも理解できる。

比較的小型な船で海とは違い川のためか

揺れもほとんど無い。

臭いさえなければ快適なのが非常に残念。

とりあえず俺は日課のリスボンとロカイの日光浴のために日の当たる場所に倒れないようしっかり

設置、固定して結界をかけておいた。

川の水しぶきがかかるのはなんだかちょっとね。

そしてすぐさま室内に戻り深呼吸。

あー臭い。

グリもこの臭いに耐えかねたのか、


「おい、タクミ。我は少し散歩してくるぞ。

飯までには戻るっ。」


とかいってさっさと逃げ出した。

マジでこの国、浄化槽を備え付けて頂きたい。

せっかくの川の美しい風景も台無しだ。

ちなみに室内は結界を張っていて

臭いを遮断している。

こういう使い方もできるんだな。

とはいえ室内は狭いのでグリ的には

空を飛んでいた方が快適なようだ。


「すまないね。グリ殿にはやはり狭いよね。」


「いえ、気にしないでくださいヘンリーさん」


「流石にこの臭いではここでは水浴びも

してくれないだろうなぁ〜はぁ〜。」


「そ、そうですね。ちょっと・・・。」


もしかしてこの人が馬で行きたかった理由って

グリとのふれあいタイムの為だったのか?

いや、流石にそれはないか。


まぁ盗賊に会う事もないし安全だから我慢だな。


「タクミ殿、急遽、船に乗り換えたため、

少しお願いがありまして。」


「なんでしょうアーロンさん。」


「実は夜はレイスが出る可能性がありまして

この船の結界は実はその為の物なんですが

宜しければ夜にタクミ殿の結界を二重に

かけて頂けるとありがたいです。」


「かまいませんよ、お役に立てることがあるなら

喜んでお手伝いしますよ。」


「助かります。

まもなく、森の中に入りますので

魔物も襲ってくる可能性があります。

だいたいはEランクのゴブリンアーチャーが

多いそうです。」


「ゴブリンアーチャーですか?」


「はい、火矢を放ってきて船を燃やしたり

矢に紐をつけて岸に手繰り寄せ

船に乗船して荷を奪い乗組員を殺すそうです。」


「なるほど、それで船員さん達は

みんな筋骨隆々な方々ばかりなんですね。」


「えぇ、壁がなければ川移動も命がけですから。」


ゆっくり進むし、的がでかいから

狙いやすいだろうな。


「それでノアさんやジャックさんは

仮眠を取ってるんですね。」


「そうです。昼間は比較的安全ですが

危険がないことはないので

私とジョージが昼を担当して

夜はレイスもいますのでノアとジャックが

夜の警護をします。

もちろん船員も警護しますが

ヘンリー様に何かあってはいけませんので。」


「そうですね。」


「タクミ殿は夜はゆっくりお休みください。

慣れない長旅ですので疲れも出るでしょうから」


「俺だけ良いんですか?」


「はい、もちろんです。

それに結界を張って頂けるだけありがたいです。」


「わかりました。」


こうして俺たちは臭い川もとい、

ロン川をゆっくりと進んでいった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




昼に一度戻ってきたグリは昼飯を食べたらまた

どこかへお散歩。

あいつ一体どこにいっているのやら。

ポヨは俺らが食べた食事の器などを

綺麗にしてくれたり船内をズルズル動き回って

掃除に大忙し。

船員さんは始めは


「うわ!スライムだ!」


とか言って驚いていたけど

俺の従魔で掃除していることが分かると

次第に慣れてきてお疲れさん!とか

声をかけている。

いつのまにか船が綺麗になってピカピカだ。

あいつ、潔癖なのか?

夕陽が差し込んできたあたりで俺は

ロカイとリスボンをアイテムボックスにしまい

室内に戻るとジャックさん達が起きてきていた。

そろそろグリも戻ってくる頃だろう。

そう思っていたらバサバサと羽の音がして

グリが空から舞い戻ってきた。


「おかえり。グリ。

何か変わりはなかったか?」


「うむ、この先でゴブリンが何やら

悪さをしようとしておったので

退治してきたぞ。」


「マジか?!お前ってすごいな!

ありがとう!仕事が早いなぁ!」


「うむ、当たり前だ。」


「どうやって退治したんだよ?」


「空から風魔法の竜巻の中に我の羽を込めて

飛ばしてぶつけてやったのだ。

あの竜巻を食らえば羽根が中で突き刺さったり

体を細切りにしていくから生きてはおらぬであろう。」


「ブフォッ。ゴブリンのミンチかよ。不味そう。」


「旨くはないだろうな。」


「あとは問題なさそうか?」


「あぁ、川の中は知らんがな。」


「そうだな。水も汚れすぎてて全く見えないし

ヘドロとか凄そうだよな。」


「そういう物を好んで住む魔物もおるが

ここはどうであろうなぁ。」


「うぉっ!こえっ!」


「ふんっ。小者め。」


「あーそうだよ。小者だよ俺は。強がって

死にたくないからな。素直なのは良いことだ!」


「開き直りおって。」


「さてさて、少し早いですが

食事にいたしましょう。

夜に備えませんと。」


「はい。」


俺たち一行は早めの食事をとりそれぞれ

持ち場についた。

ヘンリーさんやグリ、ポヨは船内。

俺は一旦外に出て結界を全体に張る。

そして結界の中を浄化魔法で浄化して

空気を綺麗にする。

始めからこうしておけばよかった。

皆口々にあれ?臭くねぇぞとか、

臭いが消えたぞ。とか言っている。

これからは昼夜関係なく結界を張って浄化

しようと心に決めた。


そうこうして日は沈みわずかな月明かりしか

ささない暗闇の川をゆっくりと流れていると

何やら美しい歌声が聞こえてきた。

気になって外に出てみると河岸の木のところが

月明かりに照らされて人影が見える。

何故あんなところに?そう思って見ていると

そこは少しひらけているのか月明かりがその人を

まるで舞台のスポットライトのように

明るく照らし、その姿がよく見えた。

女性?五人?

髪はシルバーブロンドからエメラルドグリーンに

グラデーションになっていて腰まである長い髪。

肌は月のように輝き透き通った白い肌。

どの女性もそれは美しくまるでこの世のものではないようだ。

ん?この世のものではない?

いやいや、あんな綺麗なレイスなんていないでしょ。

そんな事を思っていると


ーーー 警告 ーーー

ルサールカ 五体


接近中


ーーーーーーーーー

次第に船が岸に近づいている。

え?なんで?

すると女性は船員達に笑顔を振りまき手招きしている

ではないか?!

ちょっと待て。そんなうまい話あるわけない。

だって、なんでこんな河岸の森の中に

あんな若くて綺麗なお姉さん達がこんな夜中に

五人もいるんだよ。

警告が出てなくても

どう考えてもおかしいだろ?

この船乗りはあれか?

もう美人しかみえてないのか?

これはまずい!

そう思った時ノアさんが光魔法を空に向けて撃った!


「ピュリフィーレイン!」


青白い閃光が船の真上に放たれ光の雨が

降り注ぎ船全てが光に包まれていく。

すると船乗り達は我に返り、ハッとして

すぐに進路の修正を始めた。


「ノアさん、この魔法と彼女らはいったい?」


「あぁ、タクミ、起こしてしまったか。

悪かったな。なに、大したことはないんだが。」


「はぁ。」


「あいつらはな、レイスのような魔物だよ。」


「レイスのような魔物?」


「あぁ、ルサールカと言ってな。

川周辺の若くして死んだ花嫁や

水の事故で死んだ女性、

洗礼を受ける前に死んだ赤子が

あぁなっちまうって話さ。

実際太陽が昇ると消えちまうから

正体はわかってないんだよ。

ただ寒い冬には川の中、暑い日や夏には森や

木の上によく出るというのはわかってるんだ。」


「そうなんですか?!

あんな美しい人が魔物?!」


「あぁ、そうさ。

やつらは森ん中では、月の明るい夜に歌や踊りで

若い男を魅了してその男が気がついた時には水の中に

引きずり込まれて・・・。

目撃者の話じゃそのまま見えなくなったって

そんな話だったぜ。」


「まぁ、あんな綺麗な人がこ〜んな森の中で

しかも夜に手招きなんて美味しい話

あるはずないですよねぇ〜。」


「まぁ、そうだな。

だけど光魔法を使えない者は何故か

引き寄せられてしまうんだ。

きっとおかしいとか思考する力を削ぐ能力も

あるんじゃないかな?

あの美しい歌声、お前も聞いたろ?

あれ実は魔法の類なんじゃないかな?」


「あー音魔法とかありますよね。」


「そうだ。暗示や催眠をかけて誘惑して

そのまま引きずりこむのかもしれないな。

それに対して俺が打ったやつは心の浄化をする

魔法をお前の結界に組み合わせたのさ。」


「ヒィーーーーー。誘惑!怖いね、それ!

それにしても光魔法って凄いですね。

暗示まで一気に解いて心を綺麗に

浄化しちゃうなんて。」


「まぁな。

レイスとかのアンデット系には強いな。

そのかわり通常の魔物には弱いから

どっちがいいんだかな?

光魔法は特殊でな。

タクミみたいに光魔法も使えて通常の属性も

持ってるやつは本当に少ないんだぜ。」


「そうなんですか?」


「あぁ、まれに全属性もいるけど

そういうやつは他のやつより魔法操作が

難しいからものにするまでに相当な修練が

必要で、結局、素質はあるが全属性を

使いこなす事が出来ずに終わることが多いな。」


「魔法操作ですか。確かに難しいですよね。

はじめの頃なんて全然使えなくて

コツコツ毎日、地道に練習しましたよ。

そのおかげで魚がうまくウォーターボールで

獲れるようになりましたけど、いざ戦闘となると

役に立つのかどうか、いまいちわかってないんです。」


「なに言ってるんだ。あれだけできたら

戦闘も大丈夫さ。」


「おっ、お姫様方の前を通るぞ。」


「うわぁ〜。本当に美人ばっかりだなぁ。」


「そうだな。でもみんなきっと旦那持ちだぜ。」


「えっ!人妻ですか?」


「あぁ、ヴォジャノーイって言う旦那がいるそうだ。

まっ、噂だけどな。」


「へぇーそんな噂が。」


「あぁ、川や湖の魔物で特に人族を嫌っててな。

見た目はカエルの顔に緑のヒゲを生やして

手は水かきがついてる魔物なんだ。」


「カエルの魔物ですか。あんな美人の旦那さんが?!」


「だけどよぉ、あの美人も怒ると本来の姿を

現すそうだぞ。」


「本来の姿?まさかカエルですか?」


「カエルじゃないらしいが

青い顔した半魚人だそうだ。」


「青い顔・・・」


「あぁ、それで炎を投げつけてくるとか。

ほら、あんな風にな。」


ノアさんが指をさした方向を見ると

そこには変わり果てた姿の元美人たちがいた。


「うげっ!なんだあれ?!

みんな足はあるけど水かきついてるし!

全身真っ青!しかもせっかくの美人が!!!」


「だろ?」


「は、はい。」


「ほら、くるぞ。結界頼むぞ。」


「は、はい!」


それから俺たちは怒りにまかせて攻撃してくる

美しいご婦人方のお相手をしてノアさんが

手際よく浄化し五人を倒した。


「ホーリーアロー!」


呪文を唱えるとノアさんの手には

蒼白く光る弓が現れ光の矢で続々と五人に向けて

その美しい光り輝く矢を放つ。


シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!


なんと5発とも鮮やかに命中し


「ギェーーーーー」


と叫び声をあげた後、憑き物が取れたかのように

穏やかな表情で美しい姿を取り戻した女の人達が

スーッとにこやかに微笑みながら消えていった。


「ノアさん、手慣れてますね。

よく遭遇するんですか?」


「まあな。旦那の方が多いがな。」


「カ、カエルですか。」


「あぁ、やつらはカエルとは限らなくてな。

人間の姿をとることもあるんだぜ。」


俺たちとは逆方向からジャックさんがやってきた。


「俺が遭遇したのはよぉ、緑色の髪した老人や

全身を苔に覆われた巨漢だろ?それから

意味不明なんだけどよぉ、裸の女とか大魚だ。」


とジャックさんが話し続けてノアさんが


「さらには話によると犬や海老に巨人まで。

小さな翼で飛行する木の幹とか、

色々な姿を見せては人族を翻弄するそうだ。

時には、緑や白など様々な色へ変色する

巨大な髭の爺さんを見たやつもいたな。」


「なんか犬とかはどうなんですかね?

小さな翼で飛ぶ幹とかありえないですね。」


「あぁ、だけど犬が川で溺れてたら

助けようとするだろ?

そう言う善意の心を踏みにじって

川の中に沈めてくるんだよ。」


「あぁ、たしかに。ということは

全裸の女性も?」


「まっ、そう言うことだな。でもよぉ、

さすがに人族の女が全裸で溺れてるなんて

まずないから逆にそれはひっかからねーな。」


「へぇーそう言うもんですか。」


「あぁ、あとは見た目の問題だな。」


「見た目?ですか?」


「あぁ、タクミはでっぷりと太った

ガマガエルのような顔をした全裸の女を

何も疑わずに助けるか?」


「ブフォッ。クオリティ低っ!」


「まっ、そう言う事だ。あと、巨人説は

川のトロールの見間違いじゃないのか?って

言われてるからなんとも言えねーな。」


「そうなんですね。

変化が得意なやつなんですね。」


「その通りだ。

ヴォジャノーイは川や湖、池でよく遭遇する。

特に水門や水車の側に多くて水中には奴らの住処が

あるとされてるんだ。」


「へぇ。住処ですか?

アナグラとかなのかな?」


「いやいや、

カエルだと思って甘く見ちゃいけねぇよ。

その住処の城は水晶で出来てて、

災害やらなんやらで沈んだ沈没船や

奴らが沈めた船からごっそり頂いた金や銀、

魔法石なんかで装飾されてるそうだぜ。

魔物のくせに豪勢なこった。」


「へぇー金や銀に魔石ですか?豪華ですね!」


「そうだよね。まるで川や湖の海賊さ。

昼間はその城に潜んでいて夕方になると

城を出て活動を始め浮上してくるらしい。」


「なんでまた、水車なんかに?」


「ああ、それは奴らは人が水の流れを制御することを

嫌って水門の土手を壊そうとするかららしいぞ。」


「そうなんですね。

じゃあ水車とかを利用する人は気をつけないと

危険ですね。」


「あぁ、あいつらは隙をついて人族を

水中へ引きずり込んで奴隷にするそうだ。

だが気まぐれで嵐の時には漁師や水夫を

助けることもあるらしくてね。

イマイチよくわからん奴らなんだ。」


「え?たまにいいやつじゃないですか?」


「そうなんだよな。

だけどよ、そういう助けられた漁師や水夫は

時たま、供え物とかしてるらしいから

もしかしたら共存できる奴もいるかもしれないな。」


「うーーーん。魔物は謎ですね。

そいつも光魔法が効くんですか?」


「あぁ、

ありがたい事に光魔法が効く魔物なんだよ。

もしかすると旦那も出てくるかもな。

ちなみに俺たちは供物なんか備えてないし

よそ者で嫁さんを浄化しちゃったからなぁ、

こりゃ狙われて奴隷にされちまうだろうな。」


「こ、怖すぎる冗談やめてくださいよぉ〜。」


「はっはっは。タクミの結界があれば平気さ。

さっ、お前は寝ていいぞ。

後は俺達で見張るからよ。ありがとうな。」


「はい、でも結界あんまり効果が

無かったんですかね?

あの美人さんに吸い寄せられちゃうなんて。」


「いや、あれでもかなり

結界はきいていたはずだ。

もしタクミの結界がなかったら近づく程度では

済まずに川に飛び込んだりする奴が出てきて

大変だったと思うぞ。」


「そ、そうなんですか?!」


「あぁ、それだけ音魔法以外にもやはり人族は

結界があっても美人に弱いって事だな。

人の心にまでは結界は張れねえからな。」


「な、なるほど。」


「さあ、ゆっくり休め。おやすみ」


「はい。それではお言葉に甘えて

おやすみなさい。」


「おう!おやすみ。」


「ゆっくり休んでな。」


俺は船内へと戻った。


読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ