49.レモラはフライが美味いんです
パチパチパチパチ
「うん、いい音がしてきたな。」
俺は今せっせと油のたっぷり入った大鍋で
下処理したレモラを揚げている。
使っている油はピーナットオイル。
さーて、そろそろいい具合かな?
黄金色に綺麗に上がったレモラ。
お味の方はどうだろう。
まだ揚げたてアツアツなので
味見をしたい気持ちをぐっと抑えて
揚げ上がったものをどんどん大鍋から
すくい上げていく。
あぁ、キッチンペーパーが欲しい。
ないものは仕方がないので
できる限り油を切って器に盛っていく。
キッチンのドアのところでは俺の様子を
いぶかしげに見るコック長。そうだよね。
油で揚げる調理法はあるようだが
レモラを調理するなんて前代未聞らしいから。
それにここの指揮権は全てあの方のものなのに
俺が今占領してるわけだし、そりゃ自分の城を
ぶんどられたみたいで、嫌だよな。
ごめんなさい。コック長さん。
グリが付いてくると聞かなかったが
キッチンに毛が舞うといけないので
なんとか押しとどめてキッチンには入れてない。
一番最初に食べさせるからと約束して
今はあと部屋でお留守番のはずだ。
よし、これで全部だな。
「すみませんでした。終わりました。
ありがとうございます。」
「おい、あんた、使用料で1匹それ、置いてけよ。」
「あっそうで・・・」
「ほう?コック長、お主いつからそんなに偉くなったんじゃ?」
「こ、これは船長!」
「タクミさんや、何やらいい匂いがしてきたから
つい、覗きに来てしもうたわい。」
「船長さん。お疲れ様です。」
「コック長、このお方は客人だ。
お主はお客人より偉い立場だったのかのう?
もし王が乗船されても同じようにするのかい?
わしゃーそんな恐ろしい事、よーやらんわ。
お主、肝が据わっとるのぉ。」
「い、いえ、その。あまりにも香ばしく
美味しそうな香りで1匹頂けたら嬉しいなと
思いまして。」
「そうか。
じゃあ頼み方っちゅうもんがあるわのぉ。
あんたはグランド王国の人間じゃないから
知らんかもしれんがの。
ヘンリー殿は王家とはかなり近しく
切ってもきれん、ゆかりの方じゃ。
気をつけんとお主の首と胴体が離れるかもしれんぞぉ。」
「ひっ!」
「えっ!ヘンリーさんって
そんな凄い人なんですか?!
普通じゃないとは思ってましたけど。」
「おや、歳をとるといかんのぉ
つい口が滑ってしもうたわい。
こりゃ秘密にしといてくれよ。」
「は、はい。」
「あっ!できたもの、夕食の時に
コック長さんのご飯と一緒に出しても
かまいませんか?」
「そりゃ嬉しいわい。
どんな味がするか気になるからの。
もちろんえぇじゃろ?コック長。」
「は、はい。お客様。もちろんでございます。」
「ありがとうございます。
では俺は個室に戻って従魔を呼んできますので」
「おぉ。後ほどのぉ。」
別に1匹くらい俺はかまわなかったんだけど
規律があるんだろうな。
それにしても船長のあの脅し。
年の功なんだろうけどすごく優しく
諭すように微笑みながらも
目は笑ってなかったな。
あの人怒らせたらマジで怖そうだ。
コンコン
「グリ、入るぞ。」
「うむ、できたか?」
「あぁ、まだちょっと熱いからもう少し・・・」
パクッ
「アチっ!」
「グリィ〜熱いから後でって言おうとしてるのに
おまえってやつは・・・。」
ハフハフハフハフ
「はふいが、うまひほ。(熱いがうまいぞ。)」
「何言ってんのかわかんねぇーけど
美味いんだな。」
「ほふだ。」
モグモグモグモグ
ゴクリ。
「うむ、美味いぞ。もっとよこせ。」
「あとは夕食に皆んなで食べよう。
もう少し待てよ。」
「なに?我は今食いたい!
食わせろ食わせろ食わせろ!」
「あーもう、仕方がないな。
コピーするからちょっと待ってろ。
他の人も食べたそうな感じだったから
全部、お前にやるわけにいかないんだよ。」
「ふん。しのごの言わずにさっさと増やせ。」
「はいはい。」
そうして沢山あるレモラのフライを
複製スキルでコピーして
グリの分をたっぷり用意した。
「ふむ、うまい!
やはり調理とやらをするとうまいなぁ!」
そろそろ冷めたし俺も一つ食べてみるか。
パクッ
「う、うめぇー!」
これはフライにして正解だ!
身はふわーっと軽くて
たっぷりあった脂もちょうどいい感じだ。
これならどんどん食えるぞ!
塩加減もバッチリだ!
「プハーーーーッ。食った食った!」
「あの量をもうたいらげたのかよ?」
心なしかグリの腹がいつもより膨らんでいる気がする。
「まぁ、久々の魚で美味かったからな。」
「たしかに肉ばかりじゃ飽きるよな。」
「毎日同じではなぁ。芸がないわ。」
さすがグルメ担当、辛口だな。
まぁあと二、三日だ。
もう少し出されたものを食べて船旅を楽しもう。
「俺は夕飯食いに行くけどお前どうする?」
「うむ、我は腹がいっぱいだからもう良い。
どうせ、代わり映えのない肉だろうからな。」
「んじゃ、ポヨだけ連れてくぞ。」
「うむ、我は部屋におる。
おい、マタタムブを置いていけ。」
「はいはい。悪酔いすんなよ。」
「余計な世話だ。ふんっ。」
「じゃあこれな。」
「ムフフフフ。これだこれ。」
「じゃあ行ってくるなぁー」
俺とポヨはサロンへと向かい皆んなと合流した。
「タクミさんや、待っておったぞ。」
「すみません、お待たせしました。」
「おや、グリ殿はどうされました?」
「はい、レモラを腹いっぱい食べて
今は酒盛りしてます。」
「なに?酒盛りとな。
タクミさんの従魔は幸せじゃのぉ。」
「あははは。
早速ですがこちらどうぞ。」
「滅菌処理して炙ったレモラと
油で揚げて作ったレモラのフライです。」
「なに?!生魚じゃと?!」
「はい新鮮なもので
滅菌処理していないと食べられませんが、
こちらは処理してありますので食べても大丈夫です。」
「ほお。そうか。滅菌処理とな。」
「船長、彼の料理は美味しいよ。
さっそく頂いてもいいかい?」
「はい、もちろんです。
召し上がってください。」
「いただきまーす」
パクッ
「う、うまーーーーーい!なんじゃこりゃ!
わしゃぁー長いこと船乗りをしとるが
こんなうまい魚は初めてじゃ。
生の魚とはこんなに旨いものなのか?!
こりゃ、一杯やりたくなるわい。」
「こちらもどうぞ。」
「この黄金色のやつもレモラか?」
「そうです。食べてみてください。」
カリッ
「うぉーーー!なんじゃこれは!
うまいぞ!外はカリッとしているのに
中はふわっとしていて臭みもなく
しかも脂の甘みがまたうまい!」
みな、それぞれ感想をもらして
刺身もフライもあっという間になくなった。
「レモラがこんなに旨いとは思わなんだ。
あいつらを剥がすことは今までできんくての。
とにかく倒して船を進めて
途中で死んだあいつらを剥がして掃除する作業を
昔はよくしたもんだ。
今は結界を張る時代でそういう事も減ったがな。
災難に出会ったと思っていたが良い収穫になったわい。」
「タクミ殿、一体どうやってこれ程までに
綺麗な形を残して剥がしたんですか?」
「これはレモラの生態が関係していて
うまく説明できないんですけど
レモラって自分が離れたいときは
船より速く前方向に進んで吸盤を収納して
剥がすみたいなんですよ。
だからレモラを剥がそうと船を速く進めば
進むほど引っかかるような形で
どんどんくっつくみたいなんです。
そこでレモラをウォーターボールで包んで
その中に水流を起こし前進させて
船から剥がし、すぐにウォーターボールの温度を
一気に冷たくして仕留めたんです。」
「なに?温めたのではなく、冷やしたじゃと?」
「はい。魚はあまりにも冷たい水の中に入ると
鮮度を落とさず仕留めることができるんです。
暴れたりして怪我をすると血が流れたりして
生臭くなるんですけど、そうなる前に
温度をぐっと下げて氷水にして仕留めるんです。」
「なるほどのぉ。
それなら早く剥がせるし
こうして食料にもなるか。」
「そうですね。」
「しかしお前さん、そんな技どうやって?」
「俺、マーニン島で川から魔魚獲って食料に
してたんですよ。」
「なるほどのぉ。生活の中の知恵か。
うむ、素晴らしいのぉ。」
「いや、そんな大層な事じゃないですよ。
始めなんて自分自身を囮にして
川から陸に飛びついてきたやつを
氷水を張った落とし穴に落として
漁してましたからね。」
「ほう!そりゃ傑作だ!
タクミさんは面白い経験を沢山しておるようじゃ
色々話を聞かせてほしいわい。
なんだか年甲斐もなくワクワクしてくるわい。」
こうして賑やかに楽しく晩餐を過ごした。
あと船旅は残すところ3日だ。
読んで頂きありがとうございます。




