43.グリにマタタムブ
城に戻ると大きなベッドとステンドガラスの
装飾が施された窓のある個室に案内され
俺たちは晩餐までしばしの休憩をする事に。
酒屋さんには申し訳ないが俺はさっそく
買ってきた商品を複製スキルを使って
マタタムブ酒やミイリン酒、
諸白酒を増やしていく。
横ではグリが早く飲ませろとうるさい。
「タクミ!まだか?まだなのか?」
「まぁ、待てよ。
沢山飲めるように増やしてやるから。
おまえなんかじゃ、こんな茶碗一杯分じゃ
どこに入ったかわからないだろ?」
「うむ、仕方ない。少しだけ待ってやる。」
俺はせっせと増やしていく。
日本でこんな事したら犯罪なのかもしれないな。
酒屋さん。ごめんなさい。
働いて自分でお金を稼ぐようになったら
必ず大量購入します。
そんな事を胸に浮かべながら倍々で
どんどん増やして大きな壺に移し替え
またさらに増やしてと50杯分くらいの量を作った
もちろん一気に飲ませるつもりはない。
これはストック用だ。
空になってる空き瓶は、
こんなにあっても邪魔なのでポヨに片付けてもらう。
「よぉ〜し。グリいーぞー。
ポヨはこれ頼むな。」
「やっとか。おお!量が増えておる。
よしよし。では頂こう。ムフフフフ。」
グリがめちゃくちゃ上機嫌だ。
ポヨはすでに空き瓶を体の中にとり込んでいる。
ペチャペチャペチャペチャ
「うん。旨いな、この酒は。ムフフフフ」
「おい、もうないぞ。もっとよこせ。」
ありゃありゃ。これは相当お気に召したようだ。
少しするとグリがくねくねとくねりだして
体を床に擦り付けるようくねくねし始めた。
あらあら・・・。
まるでネコだな。
あの威厳はどこへいった。
すると部屋にあるベッドにヒョイっと飛び乗り
毛繕いをしながらくねくねして
最終的には空ビンを抱えて寝てしまった。
「どこの酔っ払いだよ。まったく。」
しかしこのベッドは有難い。
グリの事を考えてかクイーンサイズのベッドを
繋げて並べてくれてある。
一台じゃ寝返りどころかベッドに収まらない
びっくりサイズだからな。
寝ているグリの上にポヨがよじ登っていき
一緒に昼寝を始めた。
俺はその間にリスボンとロカイを
ステンドガラスの側に設置して日光浴させて
次に購入したチリペッパーを加工しようと思う。
手持ちの材料と神の錬金釜を出して
いつも通り加工していく。
材料は増やしたチリペッパーとニンニク、塩、
ハチミツ、リスボンの汁と水だが、
水はいつも入れなくても良い調子に錬金釜が
勝手に整えてくれるので水抜きでいこう。
神の錬金釜に材料をポイポイ入れて
イメージはスイートチリソースだ。
スイッチオン!
チーーーーーーン
「どれどれ?できたかな?」
神の錬金釜からジャムの容器のような形状の瓶を
取り出して中身を確認する。
『鑑定』
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【 名前 】スイートチリソース
【 用途 】ゴイクンやカオマンガイ
唐揚げなどにつける甘辛いソース
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
うん。できたようだな。
次は赤唐辛子のオイルを作ろう。
ペペロンチーノが作れるからな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
コンコンコン
「はーい。」
「失礼いたします、タクミ様。
晩餐のご用意が整いましたので
お迎えにあがりました。」
呼びに来たのは男性のピシッとした
召使いさんだ。
「それはありがとうございます。
グリ、ポヨ行こうか。」
ふわ〜っとあくびをしながら
グリがベッドから降りてきた。
「うむ、もうメシの時間か。」
「ぐっすり寝てたからなぁ。おまえ。」
「うむ、良い酒だったからな。」
「では皆様ご案内致します。」
俺達は召使いさんの後について
昼御飯を頂いた食堂へと通され
そこにはすでにヘンリーさんやアーロンさん
ジャックさんやノアさんジョージ君と
それに恰幅の良い派手な舞台衣装のような
衣服をまとった男性が席についていた。
「タクミ様をお連れ致しました。」
「タクミ殿、さぁこちらの席へどうぞ。」
俺はヘンリーさんとアーロンさんの間の席に
座ることとなった。
俺の後ろ側には絨毯が敷かれそこでグリとポヨが
くつろげるようにセッティングされていた。
なんとも有難い心遣いだ。
「では、料理を運んできてくれ。」
派手な男の人が召使いさんに指示を出すと
続々と昼と同様に肉料理がテーブルの上を
占拠していき、ほんの少しだけ野菜料理も
テーブルの片隅に置かれている。
あくまで主役はお肉のようだ。
たしかにお肉は嬉しいが、俺は野菜も大好きだ。
「さてリッチモンド公、
彼を紹介していただけますかな?」
「そうだね。スタンリー殿
こちらはタクミ殿。私の命の恩人だよ。」
「タクミ殿、こちらはヘンリースタンリー殿。
私と名前が同じでね。私は彼をスタンリー殿と
呼んでいるんだ。」
「お初にお目にかかるタクミ殿。
私はこのマーニン島を統治するため王家より
派遣された代官職を預かるヘンリースタンリーだ。」
「初めまして、俺はタクミでこっちが
従魔のグリとポヨです。1日お世話になります。」
「色々と話は聞いているがやはり君のような
若者があの地帯で生きていられるとは驚きだ。
よく無事だったな。ここの島民もあのエリアは
危険で盗賊すら近寄らない所だぞ。」
えぇえぇ、そうでしょうね。
人さらいとかに遭わないようにあえて
そういうエリアを神様と相談して
選びましたからね。
魔物より人間の方が俺には恐ろしいよ。
「そうですか。
俺はきっと運が良かったんですね。」
「まぁ、そうだろうな。
お主の実力もあるだろうが運も味方につけねば
やはりあそこは命がいくつあっても足りない
場所のはずだからな。」
「え、えぇ。そうですね。」
「あそこではろくな物も食せなかったであろう。
この城には多くの肉やハーブ、スパイスに
うまい高級な酒も取り揃えておる。
遠慮せず食すが良い。」
「は、はい。ありがとうございます。」
そうそう。こんな感じ。
貴族ってこういう感じだよね。
たぶんヘンリーさんも貴族なんだろうけど
あの人が丁寧でフランクなんだよな。きっと。
しかしこの人の服装、派手だなあー。
気になるのは襟巻きトカゲみたいな主張の強い
襟とこれでもかと肩幅を広く見せる肩パッド。
ごついだろ!重くないのか?あれ。
そのくせウエストシェイプ。
ちらっと見えた靴はなんだか尖ってるし。
その上タイツはだいだい色。
これぞまさに中世の貴族って感じの格好だよな。
イケメン軍団は三銃士みたいなスタイルで
革製の上着の色は茶色や黒の服。
下はタイツではなく
ぴったりとはしてるけどパンツスタイルだな。
なんか本当に中世と近世がごちゃまぜになってる。
俺から見ると不思議な感じがするけど
こっちではこれが普通というか好み?とかか?
服を作ってもらう時にデザイン画のような
絵を見せられたんだけど、このおじさんみたいな
ピエロ?サーカスのおじさん?のような
襟巻きと肩パッドごつめのウエストシェイプで
お尻辺りから太ももにかけてかなりふっくらした
カボチャパンツ?台形スカート?みたいな
パンツにタイツだよな。あれ。とにかく
俺から見るとなんとも滑稽なスタイルから
ロビンフットやピーターパンみたいなスタイル
それからスナフキンみたいなスタイルに
イケメン集団が着てるシックな色の、上の服は
革製のベストとピタッとしたパンツスタイル。
襟首まである袖付きのジャケットみたいなのを
ジャックさんは着てるな。
どうやらふわっとした膝下くらいの
ハーフパンツ的なスタイルや
広がってない物とかもあるようだ。
中に着るシャツはみんな首元が空いた
白いシャツで袖もとはふんわりしている。
ベストや上着も短めの物から腰くらいの物
それから膝下くらいまでの長い物と色々だ。
靴はおじさんが履いてるような先の尖った
ヒール付きの派手な装飾が施された物から
膝近くまであるブーツなどなど。
俺にそのデザインを見せるという事は
貴族だからこれを着用しなきゃいけないとか
農民だからこれ!とかはないんだろうな。
あとは経済的な問題だけなんだろう。
アーロンさんは一切値段は教えません。
遠慮されると困りますからとか言って
教えてくれなかったんだよな。
だから俺は単純に好みで選んだけど
いったい、いくらする事やら。
俺が選んだのは白いシャツと革製のベストに
ピタッとしたパンツと膝近くまであるブーツだ。
上着もジャックさんみたいな襟元まである
袖付きの物も一枚用意してもらっている。
俺が一番抵抗なく着れる服装なんだが
よくよく考えるとこのおじさんを見る限り
きっとピエロスタイルは高価な洋服なんだろう。
それとも正装とか何かかな?
ヘンリーさんは今はおじさんほどではないが
襟巻きのついた綺麗な青色のジャケットに
カボチャパンツみたいなバルーンのハーフパンツ
これも上と同じく青色で足元は膝下までの
ロングブーツを履いている。
おじさんのタイツにハイヒールという
スタイルとは少し違うがやはり顔がいいからか
かっこよく見える。
そんな事を思いながら肉を食べていると
ピエロおじさんが酔っ払いながら何か言ってる。
「しかし君は本当に幸運の持ち主だな。
あの森で生きていてさらに高貴なリッチモンド公
ともお近づきになれたんだからな。
庶民では到底近づく事も許されぬような方だと
いうのに恩人とまで言われて、さらにあの従魔。
あの美しい毛並みに凛々しい姿、そうだ。
あの従魔、譲る気はないか?
きっと君よりワシの方がいい餌もやれるだろうし
あの従魔も喜ぶんじゃないか?
リッチモンド公もそうは思いませんかな?」
「たしかに彼は幸運も持ち合わせているけど
実力もあるしさらにとっても素晴らしい人だよ。
なぁアーロン」
「はい。その通りです。
それに従魔のグリ殿がタクミ殿以外には
契約はなさないでしょう。
あの美しい姿を見ては誰もが虜になるとは
思いますがそれにしてもスタンリー殿。
彼はヘンリー様の大切なお客人です。
素晴らしい美酒で、よもや
お忘れになってしまいましたかな?」
「いやいや、たしかにそうですが
こちらの食事は王都に負けないほどの
料理だと自負しておりまして従魔の食べっぷりを
目にしたらよほど美味しかっただろうと
そう思ってついね、その、あのぉ、」
おじさんが脂汗かいてるわぁ。
立場的にはヘンリーさんが上なんだろうな。
「そういやぁ、タクミ殿。
貴殿の作る料理は美味かったなぁ。
いつかタクミ殿が作るオークの料理とかも
食べてみたいなあ〜。」
「ノアさん、そうっすね!
俺はあのカリッとしてるのに中フワッとな
赤いソースをつけて食べる
黄色い食べ物がもう一度食いたいっす!」
「お前もか?ジョージ。
あれ美味かったよなぁー」
「それだけじゃないだろ?
俺は生の魚に感動したしデザートも
美味かったよなぁ〜。
あの雲みたいなのも美味しかったし
上にかかってた茶色のやつも美味かったなぁ。」
「茶色の飲み物も美味かったぞ。」
「な、なんですと?生の魚に雲みたいな物?」
「みな、美酒に酔ってしまったようです。
そろそろお開きに致しませんかヘンリー様?」
「そうだねアーロン。よろしいかな?
スタンリー殿?」
「そ、そうですか。いやはや私も少し酔いが
まわったようですな。リッチモンド公。
明日は早朝よりのお立ちとか。
お見送りができませぬが、どうぞお気をつけて」
「どうぞお気遣いなく。
長い間世話になったね。ありがとう。」
「いえ、いつまでいて頂いても構いませんが
きっと奥様がリッチモンド公のお帰りを
首を長くしてお待ちでしょうから引き止めたい
思いをしまいこんで旅路の安全を祈っております。」
「そうか。ありがとう。」
「はい、では私はお先に失礼します。」
「あぁ、美味な食事をありがとう。」
「いえ、では。」
ピエロおじさんは少しバツが悪そうに席を立ち
いそいそと食堂を出て行った。
「タクミ殿、不愉快な思いをさせてすまないね。
彼は仕事は敏腕なのだが昔ながらの貴族でね。
気位が高くて身分をやたら区別したがる人なんだ。
でもみな、そういう人間ばかりではないので
今晩は大目に見てくれないかい?」
「大丈夫です。全然気にしてませんから。
それに俺、庶民ですし貴族の方がああなるのも
必然ではないですか?
むしろヘンリーさんが変わってるんですよ。
ヘンリーさんって貴族なんですよね?」
「そうかい。すまないね。
私かい?まぁ一応貴族だね。でもそれだけだよ。
私一人じゃ何もできないんだから。
領民が一生懸命、汗水流して働いてるおかげで
私は今こうして肉や酒にありつけるわけであって
貴族が偉いのではなく働いてる人が偉いんだよ。」
「タクミ、ヘンリー様は謙虚なんだ。
ヘンリー様はちゃんと仕事してるぜ。
彼らの為に日夜働いていたんだけどよ
病にやられたのさ。
俺は働き過ぎたと思ってたぜ。」
アーロンさんやノアさんジョージ君みんなが
首を縦に振ってウンウン頷いてる。
「そうかなぁー。普通だよ。貴族の義務だよ。
だって領民のみんなに日々の糧をもらってるんだからね。」
「まぁ、戻ってもほどほどにしてくれよ。
また、倒れたんじゃ意味ないぜ」
「そうだね。気をつけるよ。」
「あの、他の皆さんも、もしかして貴族ですか?」
「えぇ。出身は皆貴族ですが次男であったり
三男であったりするので家督は別のものが
継ぎますから実質今は庶民と同じです。
男子の後継のいない親戚などの家に養子で
入ったり、婚姻などで養子に入る事もありますが
私達は現在、爵はもっておりません。
古来より貴族の子供は自分の家より格上の家に
行儀見習いなどでお仕えするのが
我が国の習わしなんですが
私は三男の為、幼い頃よりヘンリー様の元に
仕えてそのまま今に至ります。」
「そうなんですね。
皆さん幼い頃からずっと共に歩んで来てるんですね。」
「そうだね。
ジャックは私の兄のような存在だし
アーロンがいなかったら私の領地経営は立ちいかないだろう。
それからノアやジョージは弟のような存在さ。
皆、私にとってかけがえのない人達だよ。」
なるほどなぁ〜。命がけで護衛するはずだ。
やっぱりジャックさんは兄ちゃん的な存在なんだな。
「よし、そろそろ明日も早いしお開きにしよう。
タクミ殿、ゆっくり休んでね。
明日は早いから」
「はい、ありがとうございます。」
俺は部屋に戻る前にトイレにいった。
このトイレに俺は面食らった。
だって椅子みたいなのに穴が空いてて
そこから果てしなく深いところに落ちていく音がする。
しかもたぶん真っ直ぐに落ちているのか
臭いがね。すごいのよ。
ボットン便所だよな。これ。
気休めかもしれないけど除菌の魔法かけとこ。
あとクリーンもね。
イケメン集団が俺の家でトイレや風呂に
感動するわけだよな。
毎回この臭いを嗅がないといけないんだから。
やっぱり下水とかないんだろうな。
ヘンリーさんの結核の原因ってやっぱり
空気の汚い所で生活していたのも
関係してるんじゃないのか?
薬ももちろん必要だけど、環境改善も必要だよな。
「悪い、待たせたな。グリ、ポヨ。」
「おい、今日は水浴びはできそうにないか?」
「そうだなぁ。風呂場がないからな。
ポータブルシャワー室くらい作ってこれば
よかったかもしれないな。」
「ポータブル?なんだそれは?」
「あっ。すまん。そうだなぁ。
アイテムボックスの部屋に小さな風呂を作るんだよ。」
「では、扉を持ってこればよかったではないか。」
「まぁ、それも考えたんだけどさぁ。
風呂くらい城とかならあるかなって
思っちゃったんだよ。」
「ふんっ。間抜けな奴め。」
「別に今からとりに帰ってもいーぞ。
それか風呂に入りに家に戻るか?」
「いや、今日は問題ない。
明日の朝、出かける前に水浴びしたい。」
「んじゃ、俺が水魔法のシャワー担当で
ポヨは汚れ取り係な。」
ポヨ〜ン
「よし、じゃあ今日はクリーンかけて
ブラッシングして寝るか。」
「ふむ。寝酒に〜」
「まだ飲むのかよ。
明日早いんだから今日はおしまい。」
「チッ」
「はいはい戻るぞ〜」
こうして俺たちはグリのブラッシングをして
用意してくれた特大ベッドで仲良く一緒に寝た。
読んで頂きありがとうございます。




