40.俺とバリェと城
「じゃあ行くか。」
「はい。グリ頼む。」
「うむ。」
パカラパカラパカラッパカラッパカラッ
パカッパカッパカッパカッ
ドスドスドスドスドスドスドスドスドスドス
「おーい
横を見てみろ〜
ここがさっきの空の港だー」
「おぉーーーっ!でけぇーーーー」
『お主舌を噛むぞ。』
『怖い事言うなよ。念話できないんだから
仕方ないだろ?』
『人族とは不便な者だな。』
『そうでもないさ。
道具を使って美味い料理が作れるだろ?』
『ふんっ。そう言う事にしておいてやろう。』
俺たちは道沿いにまっすぐ走り
左横にある空の港を通過して
その城壁の横を沿うかのように
途中、バリェへ向かうであろう一団を
追い越しながら素早く駆け抜け
城塞都市バリェの城門に到着した。
行きによった町の2倍から3倍の規模があり
この島でも大きい街だそうだ。
城門ではまた列をなす中央の門ではなく
さっきの街よりかなり豪華な門で
身分証の確認をして先へと進む。
どうやらここのチェックは他より厳しいのか
危険物の持ち込みがないかも
確認しているようだ。
職業的に必要な人たちもいるため
冒険者や旅行者の場合は一時預かり
住人などの場合は許可証の確認があるらしい。
やはり規模が大きいだけあって先ほどの町よりも
防犯が厳重で人も多く活気がある。
俺たちの目的地はここから数分行った先に
あるようだ。
街並みは先程とそんな大差はなく
石畳の道だがさっきは目にしなかった
赤レンガ造りの建物もある。
ここでもやはり日用品を多く取り扱っている、
露店や商店がある。
野菜や果物、花、雑貨類、性別や体型に関係なく
洋服や下着がズラッと並び、スカーフやストールも
所狭しと並んだ店が多く軒を連ねる。
俺たちは人混みをかき分けながら
足早に街中を進み川の手前までやってきた。
目の前には大きな橋がある。
この橋は可動橋で今は降りているが
夜間などは板部分は上に上がっているそうだ。
大きな船が上流で停泊できる港もあるそうだ。
遠目に見えるお城があるんだが、
そこへの物資の納入に欠かせない港らしい。
大口の取引先みたいなもんだよな。
ここの橋を渡る時はまた身分証の提示が必要で
検査を受ける。
やはり城から近いからだろうか。
ここのお城にはこの島を治める王室から
派遣されたお代官様が仕事をしたり住んでいる
お城らしい。
基本的にこの島の統治は
その代官が執り行っているといっても
過言ではない。
その分、王室からの信頼を厚く受けた優れた人が
派遣されているのだとか。
ここは立地条件が良いので長い歴史の中で
他の国から攻められ奪われそうになった事が
しばしばあり、反対側にはプルト城という
守りに特化したお城が建てられているとか。
俺たちは検査を済ませて長い橋を渡り
お城の目の前の道にやってきた。
お城は高い城壁で囲まれていて
その周りは道になっている。
中は上の部分しか見えないが
かなり重厚感あふれる石や煉瓦造りの建物だ。
「でっけーーーー」
「タクミは城を見るのは初めてか?」
「はい。絵とかでは見たことあるけど
実物は初めてだよ。」
「そうか。じゃ、楽しむといいぞ。」
パカパカ進んで行くと
お城の出入り口の
1つの門の前でジャックさんが足を止める。
そしてそこにいた衛兵さんに話しかけて
な、なんと、城に平然と入っていくではないか?!
「ちょっちょっと?!ジャックさん?!」
「どうした?タクミ。ついてこいよ。」
「えぇーーーーーーー?!
いやぁだってここ、偉い人の城ですよね?!
俺なんか・・・」
「まぁ〜いーからいーから。」
「は、はいぃぃぃー。」
マジかよぉ〜なんだよこの人?!
ていうか、どうなってんだ?
もしかしてお貴族様だったりするのかよ?
今までの無礼な態度とか不味いんじゃないか?
ヤベ!百叩き?指切り?足に石とか乗せられたり?
ま、まさかギロチン???
俺が真っ青な顔をしていると
「どうした?具合でも悪くなったか?」
相当心配した表情で
俺の顔を覗き込むジャックさん。
「い、いえ特に何もありません。
だ、大丈夫です。」
「おい、あっ!もしかして
なんか勘違いしてないか?
タクミは俺らの恩人だっつったろ?
そうビクビクしなくても大丈夫だって
あははは、お前グリ殿と一緒にいるんだから
俺らが100人束になってかかっても
お前に近づくことすらできねぇよ。
なぁ、グリ殿。」
「ジャックとかいったな。
こやつはな小心者の阿呆でな。
気にすることはない。
ただ圧倒されておるだけだ。」
「そ、そうですか。すみません。」
その後、ジャックさんは乗ってきた馬を
衛兵さんに預けて場内へと進む。
すると廊下から光が差し込んでいて
先へ進むと中庭が見えてきた。
「すげぇー広〜い!」
色とりどりの草花やハーブや石造りの立派な
彫刻やら井戸水だろうか?
水飲み場のような物もある。
美しく整えられた中庭を横目にしながら
さらに奥へと進み石造りの急な階段を登る。
そしてさらに進んで行くと
いくつか部屋がありその1つの部屋の扉を
ジャックさんがノックした。
ガチャッ
中から迎えてくれたのは
アーロンさんだった。
「タクミ殿を無事連れてきたぜ。」
「お疲れ様でした。中へどうぞ。」
「おう。入るぜ」
「タクミ殿、グリ殿、こちらの不手際により
ご不便をおかけして申し訳ない。」
「いえ、アーロンさん
途中、街の風景とかも見れて楽しめましたよ。
沢山のお気遣いありがとうございます。」
「いえ、そんな大したことではありません。
さ、中へとお入り下さい。」
「はい、失礼します。」
中へ入るとそこには豪華な絨毯が敷かれ
壁紙のような布だろうか?
装飾が施された部屋に暖炉と
美しい彫りの装飾が施された年代物の家具が
設置されていた。
見るからに高そうだ。
そしてひときわ立派な
書斎にありそうな机と椅子が部屋の奥の
暖炉の近くに設置してある。
どうやらこの奥にまだ1つ
続きの部屋があるようだ。
ジャックさんがそちらの扉をノックして
中の人と話をしている。
その扉からよく知った二人が出てきた。
ヘンリーさんとノアさんだ。
「タクミ殿、すまなかったね。
報告は聞いてるよ。
私的にはこの城の屋上にでも
グリ殿にきてもらおうと思っていたんだが
周りに反対されてね。」
「いえ、謝らないでください。
俺達、みなさんのおかげで
普通の旅人よりかなりスムーズに
ここまで来れたと思います。
門を通る時とか特別待遇で驚きました。」
「ははは。その位はしないとね。
こっちもかなり譲歩したから。
それにグリ殿の事で失礼な態度をとった者が
いたという事も聞いたよ。
申し訳ない。許してほしい。」
「いえ、ヘンリーさんが
謝るような事はないですよ。
その後あの人ジャックさんに
やり込められて顔面蒼白になってましたから。」
「そうかい。ジャックは怒ると怖いからねぇ。」
「ジャック、良い仕事してくれたね。
ありがとう。」
ジャックさんはニコッと笑顔で返す。
「さて、ではまずはゆっくりお茶でも飲んで
疲れを癒してもらおうかな。」
するとアーロンさんが静かにお茶を
持ってきてくれた。
グリにはローズヒップとオレンジジュースを
ミックスしたものを用意してくれた。
さすがアーロンさん。抜け目なし!
「ありがとうございます。
いただきます。」
だが、俺は驚いた!
「これ!緑茶!」
「うん?君はこのお茶を知ってるのかな?
このお茶はグリーンティーと言ってね
ある小国の名産品なんだよ。」
「それってヤポーニアですか?」
「そうだね。よく知ってるね。」
「はい、ちょっとした知り合いがいて。
人族ではないんですが・・・。
いつかそこにも行きたいと思っていて。」
「君ならあり得る話さ。
そうかヤポーニアねぇ。
あそこの食文化はこことは異なるけど
たしかあそこも生魚を食べる人たちが
いたような気がするな。
寒い時期だけらしいけど。」
「そ、そうなんですか?
あのそこから調味料とか、
白い粒々した、粘り気のある食べ物って
入ってきたりしませんか?」
「あぁ、ライスの事かな?
あれは小麦よりも高級品でね。
一部の特権階級の者しか食べないから
この辺りでは手に入らないかもな。
手に入れるなら現地か王都だろうねアーロン?」
「はい。そうですね。
ここではスパイスや砂糖、ライスや
グリーンティーなどは手に入れるのは
難しいかもしれません。
それらは主に富裕層しか買いませんので
こちらのような場所では
一般的な物しか調達できないですね。
たぶんですが、高級品はこの城で
消化しているだけかと思いますので
ここに無い物はこの島にも流れていないかと。」
「このグリーンティーも
召使いに持たせてきたもので
ここの物では無いんですよ。」
「そうなんですね。
でもヤポーニアにあると
わかっただけでも嬉しいです!
今後頑張って仕事をする気になります。」
「そうか。それは良かった。
ではお茶を飲みながら聞いてくれるかい?」
「はい。」
「まず、この後アーロンが君の洋服選びをして
着替えてもらったらお礼の品の確認を
アーロンとしてほしい。
色々あるけど気に入らなかったら
物を交換してより良い物にするから。
ちなみに僕たちがみんなと相談して
普通の人にならそんなに喜ばれないが
君なら喜んでもらえるのでは?
と思った物を選んだから
気に入らなければドンドン言ってほしい。
すぐに交換変更するからね。
アーロン、あとの説明頼めるかい?」
「はい。かしこまりました。
そしてその後、ランチを召し上がって頂き
街を少し観光。
そして欲しいものがあればまた、
そこで調達し戻られましたら夕食。
その際にここの代官を紹介致します。
その後は各自部屋でおくつろぎ下さい。
そして明朝一番で船に乗り
グランド王国のヘイシャムという小さな港まで
約8日かけて移動する事になります。
身の回りの物はこちらでご用意させて
いただきますのでご入用の物や
足りないものがございましたら
何なりとお申し付けください。」
「アーロンありがとう。
どうかな?ヘイシャムの後の事は
船の中でも時間がたっぷりあるから
道々で話をするよ。」
「はい、何から何まで
ありがとうございます。
なんとお礼を言えば良いのか
俺みたいな庶民。
ヘンリーさん達は一体何者ですか?
今までの手配といい、このお城といい
とても俺のような人族が接して良いような
方々とは思えませんけど・・・」
「君は僕たちを身分なんかで
助けたわけじゃなく
親切で助けてくれたんだろう?」
「えぇ、まぁそうですが。
俺は特に何も。
グリが動いてくれただけなのと
ただたまたま、薬を持っていたというだけで
大した事は何も・・・。
できる限りの事をしただけですよ。」
「私たちは君が考える以上に
感謝しているし大変な事をしてもらったと
考えているんだ。
それにそんな謙虚な人柄の君が
僕はとっても好感を持ってるし
それにお礼とは身分に関係するものかい?」
「いえ、そのぉ・・・。」
「私はね、私のできる限りの
お礼をしようと考えているだけさ。
何も無理をしているわけでは無いし、
君の望みを叶えられない事ももちろん
あると思うんだ。
だから君が私たちをできる限りの力で
助けてくれたように、
私達もできる限りのお礼をさせてもらう
それだけさ。
君が遠慮したり申し訳なく感じる必要は
何も無いんだよ。
それにこれは私のわがままだ。
やりたいからやっているだけさ。
迷惑をかけてすまないね。」
「め、迷惑だなんてとんでもないです。
ただあまりにも凄すぎて・・・。
でも有り難く甘えさせて頂きます。」
「ふんっ。くれると言ってるんだ。
素直にもらっておけば良いのだ。
お人好しめっ。」
「ちょっ!グリ〜」
「グリ殿のいう通りです。タクミ殿。
受け取って頂けないなら
受け取ってくださるまで
地面を這いつくばりずっとあなたの足元で
頭をこすりつけながら拝み倒しますよ。」
「アーロンさん、それ普通に怖いです。」
「私、相手の苦手そうな事を
考えつくのが得意なもので。
フフフフフフフ。」
この人、怒らせたら一番いけないんじゃないかと
俺の脳裏をよぎる。マジこえぇし。
「では、お疲れのところ申し訳ないですが
さっそくお洋服を見て頂きましょう。
こちらへ。」
「あっ、はいっ。」
俺は案内されながら部屋を出て
違う部屋に通されるがまま部屋に入った。
するとまた素晴らしい調度品で設えられた
部屋には四人の女性が反物をひろげて
ニコニコしながら待っていた。
「君たち、よろしく頼む。」
「かしこまりました。」
「それではまず、採寸をさせていただきます。
よろしいですか?」
「さ、採寸ですか?」
読んで頂きありがとうございます。




