33.怒らせてはいけない魔物グリフィン
シューシューシュー
シャーーーッ
シャッシャーーー
ポトポトポトポトポト
ガチャッ
「うん、これこれ。」
俺は今、昨日訪れたイケメン集団と
グリやポヨの朝食を作っている。
今日のメニューは
コンソメの野菜スープと
ミネストローネ。
トマト、レタス、サラダ豆のサラダ。
玉ねぎとゆで卵入りのポテトサラダ。
バターを乗せて焼いた食パンに
マヨネーズで和えたゆで卵を挟んだ
トーストサンド。
ただのトースト。
お好みで塗ってもらうように
バターとオリーブオイルに
ラズベリージャムを用意した。
ボイルしたウインナーにケチャップ。
ハーブで焼いたロックトラウト。
マーニンチャードのバター炒め。
マーニンビートのピクルス。
フルーツもラズベリー、パイナップル、オレンジ
グレープフルーツを用意。
飲み物はアーモンドミルクと
オレンジジュース。
トマトジュースに
グレープフルーツジュース、
コーヒーとリスボン水とローズヒップティー。
ホテルの朝食バイキングをイメージして
作れるものを作ってみた。
コンソメスープは昨日無くなったので
今かまどで煮込んでいるところだ。
正直、何が好みかわからないし
とりあえずパンがあれば
なんとかなるだろうと
最終手段のシンプルなトーストだ。
昨日の感触では問題ないと思うが念のためだ。
こうしてドタバタと朝食の支度をしていると
グリとポヨが噴水で朝風呂に入っていたようで
外から戻ってきた。
「うむ、今日も良い香りだ。」
「グリ、ポヨおはよう。
アーモンドミルク飲むか?」
「あぁ、風呂上がりにはミルクだな。」
こいつ、俺の影響で風呂上がりの牛乳を
覚えたか?渋いグリフィンだな。
まぁ、今はライオンの姿だけど。
飲み終えた器をポヨが綺麗にしてくれている。
「ポヨ、生ゴミの処理頼むな。」
ポヨーンッ
了解!って事なんだろう。
いそいそとゴミ箱の中に飛び込む。
「風呂上がりに悪いな。」
たぶん魔物の中でスライムが一番綺麗な
魔物ではないかと勝手に思っている俺。
基本的に自分以外のものは全て吸収する魔物。
汚れも吸収するし、いらなくなった日用品や
ゴミだってすぐに分解して吸収する。
風呂なんて入る必要も無いはずだが
気分だろう。ポヨは風呂が大好きだ。
そのおかげで噴水の水はいつも綺麗に
保たれている。
一応、ろ過装置ついてるけどいらないかもな。
よくよく考えてみたら、もしかすると
スライムって最強なんじゃないか?
何でも吸収するわけだし・・・。
まぁ、細かいことは気にするのはよそう。
ここは異世界。俺には分からない事だらけ
だもんな。
そんな事を考えながら
できたものをアイテムボックスにしまい
グリとポヨに朝食を出す。
「はい、熱いから気をつけて食べろよ。」
「うむ、頂くとしよう。」
「俺はお客さんの所に行って
朝食出してくるな。」
ガツガツガツガツ
「ふむ、ふぁかっふぁ。」
わかったって言ったのね。
口の周りにケチャップつけて。
お客さんが見たらドン引きされますよ。
キッチンを出ると皆さんが身支度を済ませて
爽やかイケメンスマイルを俺に向けた。
やめろ。そんなキラキラした笑顔で見られたら
なんだか化石になりそうだ。
この自分の場違い感がなんとも切ない。
俺、人生でそんなキラキラ放った事ないぞ。
破壊力が半端ないよ。
「やぁ、おはよう。」
おう、しまった。つい呆けてたよ。
「おはようございます。ヘンリーさん。
皆さんもおはようございます。」
「「「「おはようございます」」」」
「朝食をお持ちしましたので
召し上がってください。」
「それは有難い。昨日からすまないね。
また美味しい物が食べられるなんて
私たちは幸せだなぁみんな?」
「はい、こう言ってはなんですが
王都の食事より美味しくて
つい期待してしまいます。」
「そうだな。俺は野菜は普段食べないが
あんなに美味いもんだと思わなかったぜ」
「たしかに、肉ばかりより野菜も食べた方が
胃がもたれないし、それに美味でした。
あの赤い野菜。観賞用だとばかり
思っていましたが食べると美味ですね。」
「俺、あの赤い野菜、好きっす!
カリカリしたパタタも旨かったっす。」
「喜んでもらえて光栄です。
今から並べますので、少しお待ち下さいね。」
昨日の評価は上々だな。
俺はアイテムボックスを開き手早く
飲み物や食事を並べていく。
「お好きなものをご自由に召し上がって下さい」
「うーん、いい香りだ。
どれもとても美味しそうだね。」
「パタタに使ってあるこのソース。
これは何でしょう?とても美味です。」
「この赤いスープうめえな。
塩味も程よいし豆やパタタがやたら旨くなってるぞ。」
「チャードも添え物と思っていたが美味いな。」
「わぁ!赤いやつのジュースがあるっす!」
ゴクゴク
「うまいっすぅーーーーーーーー!」
みんな思い思いに食事や飲み物を手に取り
楽しんでいる。
よし、俺は一旦引き上げるか。
「それじゃ、俺はキッチンに戻りますね。」
「あぁ、すまないね。ありがとう。」
俺はエントランスを出てキッチンにもどる。
以前なら浄化槽に魔法をかけたりしていたが
魔石のおかげで必要なくなり
今日はお客さんもいるので
家でまったり過ごす事にした。
それにヘンリーさんの体調もある。
一日経って副作用とか出ないのか気になるのだ。
食後に体調をチェックさせてもらおう。
「おいグリ、ブラッシングするぞぉーーー。」
「うむ」
ーーーーー1時間後
「「「「「ご馳走様でした」」」」」
「皆さん、お口に合いましたか?」
「えぇ、とても美味しくいただきましたよ。
ところでこれらの食材は全て
この土地にあるものなのかい?」
「いえ、俺が住んでいたところの物も
混ざってますよ。赤い野菜はトマトと言います。
魚やチャードやビート、ハーブや果物は
こちらの物を採取して調理してます。」
「そうか。珍しい野菜に調理法と
高価な砂糖をふんだんに使った料理に驚くが
とても美味しく頂いたよ。ありがとう。
ところで君はいったいなぜこんな所に?」
まずいな。転移したなんて言ったら
大事になるよな。
うーん。何て言おうかな。
「あ、あのぉー。鳥の魔物に捕まって
何とか逃げられたんですが
ここがどこだかわからず、金とかも
持ってないですし右も左もわからないので、
こうしてここで生活しています。」
「それは災難だったねぇ。
その時グリ殿とは一緒にいなかったのかい?」
「はい、グリとポヨとはこの島で行動を
共にするようになりました。」
「そうか。よくこの森で今まで生きてこれたね。
君の知識や変わったスキルを思えば不可能ではないな。」
「あ、あのぉ。俺、森や川、湖で魔物や
薬草とかを獲って食べたりしてますけど
もしかしてこの国の法律とかに
引っかかりますか?
密猟とかになりませんか?」
「それは大丈夫だよ。ここは保護区でもなければ
狩り場でもないからね。
もし保護区や狩り場だと罰金や刑罰があるが
それでも君の状況を考慮すると
きっと情状酌量、もしくは罪には問われないだろう。」
「そ、そうですか。安心しました。」
「食材からして熱帯地域にも足を運んでいるようだが・・・」
「はい、グリと初めてあった時に
連れて行ってもらったんです。
それまでは手持ちの食材と近くに生えてる物や
勇気を出して川に向かいサルビーフッヘンを
獲って生活してました。」
「そうだったのかい。
それにしても、よくグリ殿のような魔物を
従魔にできたねぇ。
タクミ殿はグリ殿が人族や獣人の間で
どのような扱いを受けているか知っているかい?」
「い、いえ。俺は世俗に疎くて・・・。」
「はは。グリフィンという魔物はね
別名神の戦闘兵や古くは空の獣神
知識や金鉱の守護者とも言われているんだよ。」
「神の戦闘兵に守護者ですか?」
「あぁ、神様同士の戦い
とでも言うのだろうか?
その時に神々の乗る戦車を引くのが
グリフィンだと言われている。
空の獣神とは今日では
ドラゴンとされているが遠い昔は
グリフィンとされていたそうだ。」
「神々の戦車ですか。
今はドラゴンの方が立場が上なんですね。」
「そうだね。グリフィンは昔はよく
地上にいたそうだが今は目撃される事が
ないんだ。ヒッポグリフは沢山いるがね。
それで本物を確かめることができない為に
移りゆく時代の中でヒッポグリフと見間違えた
と言う説やヒッポグリフの異変種の仮説が
実しやかに囁かれるようになり
今では絶対に怒らせてはいけない
伝説の魔物と考えられているんだよ。」
「へぇーーーー。
グリってそんなすごい存在だったんですか。
絶対に怒らせてはいけない魔物?
まぁ、どうりで強いわけだ。
空飛ぶのだってめちゃくちゃ速いし
それに人の言葉も話すし何より変身もするし
なんか魔物にしては変わってるので
おかしいとは思ってましたが
もう家族なので特に気にしてませんでした。」
「家族か。君は良きテイマーだね。
私達もなぜ怒らせてはいけないかまでは
わからないのだが、言い伝えでは
怒らせると恐ろしい不幸が
訪れると言われているよ。
君はそんな魔物をどうやって
従魔契約したんだい?」
「おい、そんな事お主になんの関係がある?」
扉の横には機嫌の悪そうなグリが座っていた。
「これはグリ殿。ただの興味本位ですよ。」
「ほう、そうか。では話す必要はないな。
おいタクミ一々話す事などない。」
「グリ、いいじゃないか別に。」
「ではなぜグリフィンが
姿を現さなくなったかを知っておるか?」
「いいえ。以前には多く地上にいたと
されていますが。
居なくなってしまった理由までは・・・。」
「ほぅ、ではヒッポグリフは
どのように誕生したかは知っておるか?」
「それは、その言い難いですが・・・
グリフィンは雄の馬は食べ
メスの馬は犯して孕ませヒッポグリフを
産ませると聞いておりますが・・・。」
「お主らはそのような光景を目にした事はあるか?」
「いえ、グリフィンを見たことすらないので」
「では、お主らは自分たちの食らう魔物や
家畜と契りを交わそうとする生き物か?」
「フッ、そんなバカな」
「そうか?笑うことか。
ではなぜグリフィンが捕食対象である
馬などと契りを交わすと思っておる?
我らはゴブリンなどの下等な魔物ではないぞ?」
「そ、それは・・・。」
「ではグリフィンとはどういう魔物だ?」
「そうだね・・・
誇り高く気高き魔物であり
巣には金銀財宝を持つとされていると・・・。
爪には病を治す力があるとか。
戦闘力・魔力は共に高いが騎乗するのは難しく
グリフィンだけは何があっても
怒らせてはならない魔物だと。
私の知っているというか我ら人族と獣人に
伝えられている話はこんなところかな。」
「ほう、それで?
なぜそのような事を知り得たのだ?」
「それは遥か昔、
グリフィンを戦に使えないかと
研究していた者がいたそうですが
その者の国に災難が訪れ
研究は途中で終わってしまったが
それだけの情報は残されたと聞いております。」
「その研究者の国のおとぎ話があるよな。
ーーある時この世の空は漆黒の闇に包まれた。
しばらくして天高くに灰色の雲が現れ
ある小国の空高くに不運にも雲は渦巻き
次第に大地に轟音が鳴り響くと最悪が訪れた。
大気を震えさせた青白い光と轟音は瞬く間に
光の鉄槌となり空を二分し豪雨の如く
大地めがけて降り注がれた。
大地には無数の火柱が立ち上り業火となって
その土地、全てのものを飲み込んでいった。
その後、静けさを取り戻した大地には
多くの炭とフルグライトしか無く
人も魔物も草の根すら
生えていなかったという。
一説には神のごとき所業を行い
天空に住まう神々の怒りに触れ
その地は焼き尽くされたとも
聞いたことがあるな。」
「ほう、我等の種族にも似たような話があるぞ」
「へぇーどんな話だ?」
「うむ。
その昔、あるこそ泥が我らの巣に忍び込み
あろう事か卵や抜け落ちていた爪を
盗んで行ったそうだ。
爪などは取るに足らぬ物ゆえ
気にもとめなかったそうだが問題は卵であった。
弱肉強食の世界では卵を奪われたり食われたり
する事は当たり前のことだが、
そのこそ泥は卵を温め孵化させた。
その後、産まれたての我が同胞に
従魔契約をしき馬のごとく手足のように
使おうと仕込んだそうだ。
だが、元々誇り高い種族ゆえ従魔契約をしいても
そのこそ泥は扱い難かったようだ。
そこで考え抜いたコソ泥どもは
無理やり雌馬に種を植え付けさせ交配し
神の如く馬と掛け合わせた
新たな魔物を誕生させた。
当然産んだ雌馬はお産で死ぬ。
そもそも卵で産まれる者を
卵ではなく、形ある姿まで腹で育て産むのだ。
無理があるに決まっておる。
そして産まれた新しき魔物は馬のように
家畜の扱いを受けしつけを施された。
しかし馬のようにならなかったそうだ。」
「というと?」
「うむ、
産まれた魔物は下半身は馬の姿をしておったが
性格は気位が高くグリフィンよりは
獰猛さはないが、だからといって馬のように
容易に奴等に懐く事はなかったそうだ。
さらに強さも馬よりは強いが
親の教育も受けていないグリフィンから
作られた魔物だ。強いわけがない。
潜在能力は高くとも狩りの仕方も知らぬ
温室育ちのグリフィンでは
教育を受けたグリフィンと比べると
天と地ほどの差が出る。
そんな血筋と馬の交配だ。
それに寿命も短く100年程しか生きぬそうだ。
当然受け継がれた魔力も大した事は
ないのであろうな。」
「魔力量が多いと長生きしますからね。」
「あぁ、そうだな。
それでもコソ泥どもは新たな魔物が誕生した事で
空を占拠できる魔物が手に入ったと喜んだ。
そして愚民どもはさらなる金に繋がるとふみ
富を求め決死の覚悟で巣を探しては
卵と爪を狙うようになった。
爪は病を治すからとからしいが。
そこで当時のキンググリフィンは
産まれ来る同胞を守るため
巣を荒らす者は食うか八つ裂きにし
巣のありかを秘密にした。
そして連れ去られた我らの同族だけを助け
そのコソ泥の国にはキンググリフィンが放った
怒りの稲妻が落ち、その国もろとも消失したそうだ。
だがその新しき魔物が今もいるという事は
その時にはすでに売られるなどして
他国にも広がっていたのだろう。」
「それってもしかして
ヒッポグリフの事か?」
「さあなぁ。どうであろうな。フッフッフ」
「その話を聞くと我等や獣人たちの間で
おとぎ話として古の頃より伝え聞かされて
いたのは販売していた者たちや関係者が
怒りを買うのを恐れ詳細は隠しながらも
絶対にしてはならないルール
"グリフィンを怒らせてはいけない"
という事だけを後世に残したのでは
ないだろうか?」
「さあなぁ。
その後、その新しき魔物は誇り高い魔物ゆえ
人にあまり懐く事がなく飼育が困難で
結局手に余るようになり時の流れの中で
逃げ出し野生化したとも捨てられたとも
聞いておるがな。」
「そんなことが・・・。」
「まあ、それゆえに我等の住処は
秘密となっており人族や獣人に
姿はあまり見せぬ。
お主らが我等を見かけぬのはそうした事が
あったからであろうな。
だがな、我等は恨みを持つような
了見の狭い種族ではない。
しかし子孫や同胞を守る為あまり他種族とは
関わらなくなったという話だ。」
グリ、それなのに・・・。ありがとうな。
「我がタクミと共におるのは
こやつが、そんなくだらない真似をしたならば
即刻契約を解除できるほど我に力がある為だ。
我はグリフィンの中でも特別だからだ。
グリフィンを従魔契約しようなどとは
思わぬ方が貴様らのためだぞ。」
ーーーーーゴクリ。
みんな真剣な顔してるな。
少し打算もあったのかもしれないな。
でもヘンリーさんだけは違った。
「そんな事は考えてませんよ。
グリフィンの存在や巣すら伝説と
されているんです。
まず探すことが大変ですからね。
興味本位でしたが
不躾でした。謝罪します。
申し訳なかったタクミ殿、グリ殿。」
「わかれば良い。」
「あっ、なんかすみません。
俺もそんな事は全く知らなくて」
「いえ、助けて頂いた恩人に申し訳ない。
それにヒッポグリフの事も謎に包まれていた
理由が納得できたよ。おとぎ話の事もね。
なぜか史実によればその国が滅びたとされる頃と
グリフィンやヒッポグリフの
研究が禁忌として、扱われるようになったのが
同時期だと考えられていてね。そして何故か
禁忌とされる理由が記されていないものだから
余計に謎めいてグリフィンは架空の魔物では?と
真意を捻じ曲げられて実しやかに囁かれる
原因の1つになったようだよ。」
「そうでしたか。」
「グリ殿、貴重なお話ありがとう。
ちなみに皆んな分かっていると思うが
この話はここだけの話としてくれよ。
大変な大発見だが新たなコソ泥を
作るわけにはいかないのでね。」
「ははっ。俺は雷雨で死にたくねえからな。
口が裂けても言わねぇよ。」
「かしこまりました。ヘンリー様。」
「もちろんですとも。こんな事が広まれば
無謀な冒険者の八つ裂きの死体が
増えるだけです。」
「はいっす。ヘンリー様。」
よかった。
皆、納得してくれたようだな。
読んで頂きありがとうございます。




