30.病持ちと部下と謎の青年
私は、ある望みを持ち、部下と共にこの不思議な
青年の家にやってきた。
私の名はヘンリー。
ポーションでも治らない不治の病に蝕まれた
哀れな男だ。美しい妻もおり未だ子はできないが
いつかこの妻との子供が欲しいとも思っている。
だか残念なことに、この病の唯一の手立ては
空気の綺麗なところでの療養。
これしか私に残された道は今はまだなく
迫り来る死と戦いながら日々の仕事に
追われる月日を過ごしていた。
そんな時、私の妹であるエリザベスから
所有する別荘にて少しの間、静養してはどうかと
即された。
きっと彼女から見ても私の衰弱ぶりは
酷く痛々しいものに見えたのであろう。
さらに私たちの住むところは、
あまり空気の澄んだところではなく
病は悪化を辿る一方だった。
そこで仕事は山積みだが信頼の置ける部下に任せ
少しの期間、内密に静養の時を
このマーニン島にて送る事となった。
ゆったりとした時を送り仕事を忘れ
この澄んだ空気の中で幾分か体も楽になった。
そんなある日の昼下がり、思わぬ吉報を得る。
なんと、病が治るかもしれないと言うのだ。
このマーニン島は他の地とは異なり、大地の
魔力量が多いためか他では育たぬ植物や魔物、
薬草などがあり、独自の進化や
変化をしている物がある。
この島の村で不治の病とされていた者が
この島唯一の山であるスネッフェルに
特別な薬草が生えており、それを煎じて飲んだら
立ち所に病が治ったというではないか。
だが、そんな与太話はいくらでもあるし
商人の金儲けの一つの手段であったりする。
さて、どうしたものか。
だが、もしも治るのであれば・・・。
藁にもすがる思いで少数精鋭の部下を引き連れ
私は山へ行くことにした。
馬で休憩を挟みながら4時間かけ麓の
街にやってきた。
ここで宿に泊まり明日の朝一番で山に向かい
薬草探しをする事にしている。
ただ麓と言っても山まではここからさらに、
4時間はかかる道のり。
その間、街はおろか休憩できる小屋などもない。
小屋などあればすぐさまゴブリンの家に
されてしまうからだ。
この山の付近には湖と川、そして二つの森がある。
そこには魔物や危険な植物が多くあり、
街や村などはこのエリアを避けて囲むように
作られている。もちろんこの森を通る人や
山に行くものなど通常の民であれば
足を踏み入れない場所だ。
そんな所に行くのだから当然、宿など
期待できるわけがない。
だが野宿は流石に危険な為、早朝より馬を駆け
昼までに探しそして宿に戻るという慌ただしい
スケジュールにならざるおえない。
日が暮れてしまっては魔物に喰われてしまう。
できれば滞在したい所だが、部下の命を
預かる以上、そんなわがままを言うべきではないのだ。
こうして山へやってきたが目当ての物はなく
宿へと戻り、翌日、山から少し足を延ばして
グレンの森を探索する事になった。
だが、それが間違いだったのだ。
ここの土地は魔力量が多い。
当然、ここに住まう魔物は魔力量が高く
他の地の魔物より強いのだ。
その事が危うく我々の命取りとなる所だった。
ここの魔物のレベルを甘く見ていた。
弱いはずのものでも力が強いもの、粘り強いもの
しぶといもの。
そんな魔物達を相手にしていた我々は
いつも以上に魔力、体力を消費しついには
普段あまり遭遇することのない
Aランクのオークジェネラルと死闘を
繰り広げる事となった。
なんとか部下のお陰で倒すことができ
私たちは命を取り留めたが、
その代償は大きいものであった。
部下のジャックが大怪我を負った。
死闘の後で唯一光魔法を得意とする
ノアの魔力は度重なる戦闘のせいで枯渇し
回復魔法をかけられるほどの力は残っておらず
またポーションも底をつきジャックの命の灯火は
今にも燃え尽きてしまいそうな
危険なものとなっていた。
なんとか命を繋ぎとめねば。
そんな願いにも似た感情を抱き安全な場所へと
撤退していた我々に悪夢は音を立てて忍び寄る。
上空から大地に砂煙を立て嵐のような
風を吹かせる絶対的捕食者。
それは我々の頭上にやってきた。ロックバードだ。
陽のあたる大地に
その巨大な翼で影を落とす忌まわしき存在。
必死で生きようと灯火を燃やすジャックを
頭上から狙い喰らおうとする魔物。
普段はBランクだが、今の我々には太刀打ちは
難しい相手。皆、言葉にはしないがこれまでかと
心の中で覚悟をし始めた時、救いの光は突然訪れた。
青光りした風の刃がロックバードの翼にめり込み
さらに翼と胴体を切り離し
我らは二度と拝むことはないだろうと諦めていた
眩い陽の光を瞳にうつして生きる希望を胸に抱いた。
しかし風魔法の術者が目に入ると
それは落胆へと変わる。
またしても魔物だ。
しかもロックバードよりも恐ろしいほど強く
また、その姿は銀色に輝く大きな翼と
陽の光を浴びて黄金にきらめく逞しい体躯を持つ
それは神々しく美しい魔物だった。
もう皆立っているのもやっとの疲労困憊した姿。
私のわがまま、生への執着により有望な未来ある
青年達の明るい明日を私は奪ってしまう事を悔いた。
みな、すまない。
言葉には決して出せない。
私が諦めの言葉を吐くわけにはならない。
だが、心はすでに謝罪の念と後悔しか
存在していなかった。
すると神々しい魔物が言葉を発した。
どう言う事だ?すると、驚くべき事に
人族が魔物の頭部から降りてくるではないか。
彼は回復魔法を使い治療をすると言う。
これは渡りに船。喉から手が出るほどに
有難い申し出であった。
だが、ノアはそれを許さない。
今までの死闘でそんな甘い話はあり得ないと
疑心暗鬼にかられているのだろう。
それは仕方のない事。ジャックは瀕死の重傷で
今も傍に死神が今か今かと鎌を振り下ろそうと
しているのだ。
すると青年はポーションを差し出してくれた。
こんな田舎のポーション、
効果は少ないかもしれないがないよりは
幾分かマシだろう。
すると魔物が怒りをあらわにする。
そんな事を言っている間に仲間は死ぬぞと。
たしかにその通りだ。
私は慌ててポーションを受け取りジャックに
飲ませる。
すると奇跡が目の前で起こったのだ。
あれだけ息をするのも辛そうで苦しんでいた
ジャックの呼吸が整い、
傷を負ったとは到底思えないほど怪我は回復し
通常のポーションなら傷跡が残るはずなのに
跡形もなく消えていた。
これは一体?
こんなポーションは王都の最上級ポーション、
もしくはそれ以上の効果だ。
こんな平民のしかもこのような森の中で・・・。
まさか、あの噂の薬草だろうか?
いや、そんな事を今考えるべきではない。
とにかく救ってもらった仲間を安全な場所へ
連れていかなければ。
我々も体力を回復しないとならない。
戻るにしても乗ってきた馬はもういないのだから。
すると青年は私たちに自分の家へ来ないかと
誘ってくれた。
だがそこまで世話になるのは流石に申し訳ない。
とはいえ、ここで申し出を断っても
あるのは茨の道だけだ。
ここは、恥をしのんで甘えさせて頂こう。
必ずこの恩はのちに返さなければ。
そうして彼の家にお邪魔させていただく
話がまとまると魔物は飛び立ってしまう。
どうやって彼の家まで戻るのかと不安が湧き上がる。
すると青年は我らに肩を持てと言う。
言われたまま従うと景色が歪み気がつけば
王都で一流の彫刻家があしらえたような
優美な曲線で作られた大きな水飲み場と
それには似つかわしくない小さな小屋があった。
まるで子供が砂遊びで作った山に
穴を開けただけのような簡素な小屋。
この中に我々の5人と彼が入れるのだろうか。
贅沢は言えないが青年に迷惑ではないだろうか?
それにしてもあの一瞬で移動した魔法。
あれはなんだったのだ?
アーロンが古の魔法だというが、なぜこんな
辺鄙なところに住まう若き青年が。
この者一体何者だ?
謎は深まるばかりだか、
とにかく案内されたので申し訳ない気持ちと
やはり捨て去ることのできない
この旅の目的である薬草の話を
聞けるかもしれないという淡い期待を胸に
簡素な小屋へと進んでいく。
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