197.ドレス受け渡し
あれから皆目まぐるしく働き、とうとう始めの注文のドレスが続々と仕上がりナターシャのお店、テイラーバードの乙女の衣にはドレスを受け取りに来る召使いの方々で大賑わいであった。
その様子を他のメゾンが見て一体あの店に何が起こったんだ?と一躍噂になったようでお店に問い合わせが入るようになったとか。もちろん、今回は一部の貴族の方にだけしかドレス販売をしていないので、この受け渡しが終わればこの賑わいもなくなるが、今まで大手のメゾンからのおこぼれをもらうような形で仕事をしていた乙女の衣に、なぜこんなにも貴族の立派な馬車が店の前に止まるのか?なぜ店に入るのか?店主のナターシャと何を話しているのか?全ての行動が気になって仕方がないようで何とか店を覗こうとしたり御者に探りを入れたりとあの手この手で情報をつかもうとしているのが見て取れた。
「いらっしゃいませ」
「〇〇家の使いで参りました。こちらが引き換えのタグです」
「はい、確かにお預かり致しました。では、ご確認をお願い致します」
「ベルライン1着と普段着用2着でデザインは……」
「はい、確かに。結構ですわ。お嬢様も来ると言ってお聞き入れなさらないほど楽しみにしておられましたの」
「それは光栄ですわ。こちらでは小物なども取り扱っておりますので又宜しければお店にお嬢様と遊びにいらしてくださいませ」
「そういえば、こちらのボタンがとても素晴らしいと聞いておりますが、販売はされていますの?」
「はい、こちらでございますわ。1つ1ペニーと少々お値段はしますがヒビが入る事も割れる事もそうそうございませんし他にはない新たな商品な為このボタンを着けているだけでも新しい物を取り入れたお洒落に敏感な紳士、淑女と評判になる事でございましょう」
「ウフフ。そうよね。こちらを7つ貰えるかしら?旦那様がザマゼット公のボタンを目にされたそうで、素晴らしい物ですねと声をおかけになったらこちらの物だと教えて頂いたそうなのよ」
「はい、ザマゼット公にもこちらのボタンをご愛用いただいております」
「素晴らしいわね。こちらは普通の糸で縫いつけても大丈夫かしら?」
「はい、もちろんでございます」
「では頂くわ。ありがとう」
「はい、またのご来店お待ち致しております」
「あっ!そうだわ。お嬢様にいつからオープンなのかと聞かれたのよ」
「はい、皆様にドレスを本日から三日間かけてお渡しを致しまして一週間後からオープンとなります」
「わかったわ。リメイクもこちらでお願いできるのよね?」
「はい、何なりとお申し付け下さい」
「わかったわありがとう」
「本日はありがとうございました」
ガチャ
「あら?これは〇〇お嬢様のお付きの方ではございませんか?私いつもご贔屓頂いておりますメゾンドミッシェルの者でございますわ!本日はこちらにどのような御用で?」
「あら、奇遇ですわね?お店はもう少し先ではなかったかしら?」
「はい。少し買い出しに出ておりまして今帰りでございます」
「そう」
「ところで何をお買い求めになられたのですか?こちらの店舗はよくメゾンドミシェルから仕事を出したりしていたので店舗も改装してどうしたのかと思っていたのですよ?経営も芳しくないようでしたし」
「あらそうなの?でも本日は買い物ではないのよ。ただの受け取りだから。お嬢様がお待ちなのでこれで失礼」
「はい、これは失礼しました。どうぞお気をつけて」
「ええ」
「何だろう?買い物じゃないって…」
「あら、あんたも気になる?」
「これはメゾンドブルタンの…」
「それにしてもこのお店どうなったのかしら?前は軒先に袋とか庶民用の靴下とか置いてあったのに、今じゃ豪華なガラスを使ったこのお店よ?」
「本当よね一体どうしたのかしら?」
「ここの店主じゃお貴族様に見初められたって感じはしないしね」
「フフ、それは無理よ。だってあのゴツい腕じゃへし折られそうよウフフ」
「ほう、あんたらの腕もへし折ってやろうかい?」
「こ、これはナターシャさん!」
「ご、御機嫌よう」
「次のお客様が見えるからあんたら邪魔だよ。どきな!でないと…」
「「し、失礼しました〜!!!」」
「フンッ!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「フー。今日も一日終わったね。あと二日頑張るよ」
「ナターシャおばちゃん、へばってられないよ。今日で噂が噂を呼んできっとオープンは大変な事になるよ!」
「そうね!ワクワクしちゃう!みんな嬉しそうにありがとうって言ってくれるの!」
「そうだね。小物も随分今日だけで売れたし、こりゃ主人に相談して追加しないとね」
「婆ちゃん達きっと喜ぶよ!」
ガチャ
「こんばんは。どうでした?初日は?」
「噂をすればだね。クスッ」
「本当だね」
「噂?ですか?」
「ええ、ちょうど主人と相談しないといけないと話していたんですよ」
「そうでしたか」
「ええ、今日の受け渡し分は滞りなくお渡しできまして、ただこちらに置いておいた小物もかなり売れたので追加をしたいと思っていたんです。オープン前からここまで売れると思っていなかったのでできれば追加をお願いしたくて。明日の分はあると思いますが明後日やオープンしてからの小物の在庫が無くなりそうです」
「そんなに売れたんですか?やっぱり婆ちゃん達はセンスありますね!」
「それもそうですが、皆さんこの装飾品のラインストーンがとても美しいと言って購入されますね」
「そうそう、輝きがただのガラスとは全然違うし形も可愛くて宝石の装飾品より軽いからってとっても人気でしたよ!」
「それからレースの生地を使ったリボンも人気でしたわ」
「そっかぁ。婆ちゃん達と相談してこれも正式な商品として置いた方が良いかな?」
「そうですね。まだ、どの程度売れるかはわかりませんから今回も前回と同じくらいの量を作ってもらうというのでどうでしょうか?」
「そうですね。じゃあちょっと婆ちゃんと話し合ってナターシャさんが発注できるようにしましょうか」
「ペニーの支払いはどうしますか?」
「以前のように卸してもらう感覚でお店に来てもらうようにして下さい。買い物のついでとかによって貰えばいいと思います」
「そうですね。わかりました」
「基本俺はお店には顔を出さないようにしますから、後はお任せしますよ」
「「「はい!」」」
こうして俺は寮に向かい婆ちゃんと話をしてリボン4個で1ペニーを支払う契約をして、発注が来たら順番に仕事を回してもらうことにした。テントづくりが入ってくるとかなりキツくなるかもしれないと話すと、人数がいるから全然問題ないし、何ならテント作りは他に回して婆ちゃんとアイラさんがリボンを担当してくれる事となった。納品は転送ボックスで行うが支払いだけはクリスタロスが必要なのでお店でやらなければならない。
そして話を終えて今度はエステ、マッサージ部門の見学にトレーニングルームに顔を出す。
「みんな、どう?」
「はい、まもなくオープンなので、どうも落ち着かなくて温泉の店舗で動きの確認とか掃除とかして戻ってくるとここでみんな自主練習するんですよ」
「そっかぁ。あと数日だからね。始めはお客さんも来ないかもしれなけど、必ず来るようになるからそれまでモチベーション維持しながら頑張ってね」
「はい」
「よし、じゃあ家に戻るか」
「今日の飯は何だ?」
「今日はチキンライスのオムライスにするか」
「ムフフフ楽しみだ!」
こうして今日も忙しい一日に幕を閉じた。
遅くなりました




