189.従魔小屋管理責任者
着々と温泉施設の整備が整えられ、俺も浄水槽を設置しにお手伝いに出かけたり、アーロンさんに言われた通り、新たなアイテムを登録したりと大忙し。
それにリッチモンドの新店舗の建物が、ようやく完成したとの連絡をもらった。従業員も店舗責任者クラスの人はマーガレットさんの元でトレーニング中。そんな場所どこに?と思われるかもしれないが、答えはテントだ。テントを異世界商会のバックヤードに設置してその中で店長となる人達を指導している。ちなみにエステの店長は現在ザマゼットにリッチモンドから派遣したジェーンの相方であるアリスだ。アリスはヘンリーさん一行を案内してお茶を入れてくれた女の子。彼女は研修施設でトレーニングをして、今度はこちらの建物でもまた、新人の教育に当たってもらい店長としてエステの切り盛りをしてもらう事になっている。
始めはリッチモンドの方が早くお店をオープンする予定だったのだがザマゼットの方がさすが公共事業だけあって進みが早い。それとうちの場合少しというかだいぶ変わった建物の造りで職人さんがかなり苦労したようだ。特に俺たちの住居ね。サンルームも全部ガラスだから一体何のためにあるんだと首を傾げていたと言う。とにかく、俺の居住部分が1番時間がかかり、結構遅れが出ていたが、エステ、化粧品、高級レストランの貴族、富裕層を対象とした店舗と従業員が使う部屋や託児ルームに事務所などそして冒険者や一般の人を対象とした食事処に冒険者グッズや高価なテントに風呂、トイレなどの商品に絹鎧も追加された屋上に水浴びプールを設けた店舗も全て完成しているので、転送テーブルから椅子、食器に棚や厨房機材、従業員間で注文や連絡を行うための磁気パッドに転送箱と必要な道具や家具を搬入し終え、これからどんどん研修をしていく予定だ。
そんな中、俺はある人を迎えに来ていた。
「お客人!本当にオイラみたいな獣人を迎えに来てくれたのかい?」
「はい、約束したじゃないですか?ぜひ、60日前に話した条件で貴方を雇いたいんです。そのかわりゼロからのスタートですから大変ですので頑張ってくださいよぉ〜エヘヘ」
「まさか、こんな足の不自由な獣人を……」
「貴方はとても優秀な方です。自信を持ってください!」
「しかし…………」
「では、こうしましょう。俺の商品を飲んでいただいて、貴方に自信が戻らなければ、どうぞ俺の誘いを断って下さい。それから自信が戻り他で働きたいと思えばそれでも断って下さって結構です。これはまず、貴方が俺の胡散臭い話を信用してもらう必要がありますから、無料でお渡ししますので、飲んで下さい」
「え?うーん。そうまでいうなら飲むだけ飲みますよ」
ゴクリゴクリゴクリゴクリ
ピカ────!!!
「な、なんじゃこりゃぁああああああ!!!オイラの足が光ってるべ!!!一体あんたオイラに何を?!」
「すぐわかりますよ」
光は徐々におさまり消えた。
「ん?あれ?お、お、オイラの足が!!!お客人!動きますぜ?何で?どうして?動く!自由に!ほら見てくだせえ!」
ドスン!ドスン!ピョーン ボフッ!!!
飛んだり跳ねたり一通り自分の足がどこまでどのように動くのかを確認して大喜びした獣人のおじさん。さて、返事はどうするかな?
「あの、お喜び中の所水を差してすみませんが、どうします?足が自由に動くようになったからには力仕事もできますし職にも困らないとは思いますが、できれば俺は貴方に従魔小屋の管理責任者として、俺に協力して欲しいんですが、難しいですか?」
「お客人!何言ってんだ!難しいも何もあんたは恩人だ!こんなオイラでよければぜひ働かせてくれ!ただ、管理責任者って何するんだ?そんな難しいこと俺にできるのかい?」
「もちろん!やる事は簡単です!今まで通り貴方が思うように従魔が居心地が良いように小屋の周りを整備したり、小屋を修理したり餌をあげたりブラッシングしてあげたり蹄の手入れをしたり、水浴びさせてあげたり、そしてその貴方の知識を新しく雇う人達にぜひ教え導いて欲しいのです」
「オイラ、そんな大げさな事はしてないぞ?いいのかい?」
「はい。どうぞよろしくお願いします」
「ありがとう。んじゃちと遠いがリッチモンドにはどうやって行こうかね?」
「貴方はうちの従業員になりますし俺は貴方を信頼するのでこれから見聞きする事は秘密にして下さい。守れますか?」
「ああ、お客人はとても不思議だがバカなオイラでもわかる。あんたは良い人だ。オイラはお客人…………いやご主人様を信じますよ」
「ご主人様ってのは恥ずかしいのでタクミと呼んでください」
「そんなご主人様を名前でお呼びするなんて……んじゃ、主人と呼びますよ。いいですかい?」
「はい、ではそれでお願いします。それでは目をつむって下さい」
「へ?え、ええ」
『転移・リッチモンド』
「もう目を開けて頂いていいですよ」
「おっ!景色が、あれ?ここはどこだ?」
「帰ったかタクミ」
「ん?お前はこの前の!喋れるのか?!何て利口な奴なんだ!あれ?でもここは?ん?」
「ここはリッチモンドです。特別な方法でこちらに来ました。方法は言えません。そして俺の従魔は話もできますし、鳥の姿にも獅子の姿にもなります。獅子の時はブラッシングが好きです。よかったらたまには構ってやって下さい」
「ヒェ──── 何てこったい?!俺は夢でも見てるのか?」
「いえ、現実です。嫌になりました?働くの」
「あははは、夢でもなんでも、こんなに嬉しい日は一生忘れねえですよ。だってこんな立派な魔物と話ができたし言葉が交わせるなんてオイラは……オイラは…………嬉しくて仕方がねえんです。それに従魔を大事にする主人に仕えられるのは何より嬉しい!オイラは幸せだよ!一生懸命働かせてもらいますぜ主人」
「それはホッとしました」
「うむ、よかったな。ちなみに我は馬嫌いだが月夜の話の馬には同情するぞ」
「月夜?」
「エヘヘ。月見酒に付き合ってもらったんですよ。これからもよろしくな従魔さんよ。オイラはヌーの獣人のドミニクだよ」
「うむ、我はグリだ。ドミニクよ。従魔小屋を案内してやろう。あと水浴び場もな」
「ちなみにグリは従魔小屋ではなくて俺と一緒の部屋で生活しますから基本はお客様の従魔の世話をお願いしますね」
「従魔とおんなじ部屋ですかい?主人は本当に従魔と仲良しなんですなぁ。そりゃ従魔小屋に布団を敷くわけだ」
「あはは。お恥ずかしい」
「それじゃあ、他の責任者にも顔合わせしましょうね」
「はい」
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