187.抜き打ちテスト
「皆さんお疲れ様です。今日ですが夕刻にマーガレットさんと護衛の方をお招きしてマッサージとエステを受けてもらいますので準備をしておいて下さい。今日は視察でお疲れだと思いますので念入りにお願いします」
「「「「「「「「「「「「かしこまりました」」」」」」」」」」」」
一応これでお出迎えできるスタンスではいてくれるだろう。ただ、相手は領主夫妻とそのお付きの方々。しかも爵はないにしろ皆さんご出身は伯爵家以上のお家の方ばかり。さて、どうなるかな?
────夕方
「失礼、私、異世界商会のマーガレットと申します。こちら護衛のジャック様ですがエステ部門のジェーンを呼んでもらえますか?」
「はいよ。ちょっと待っておくれよ」
磁気パッドを使って管理室のおばちゃんがエステ部門へ連絡をしてすぐに右手の扉がガチャッと開いた。
「お疲れ様です、マーガレットさん、ジャック様。ご案内いたしますのでこちらへどうぞ」
扉を開いたジェーンは久しぶりに会うマーガレットに人懐っこい笑顔を見せ中へと招き入れた。
「ジェーン元気そうでよかったわ!主人の事だから不備はないとは思うけど、何か足りない物とか無い?」
「くすっ。も〜マーガレットさん、大丈夫ですよぉ〜。高待遇過ぎて逆に驚いてます。これならリッチモンドを離れてこちらでずっと働いてる方が良い暮らしができますわ」
「え?それはどういう?」
「お部屋をお見せできないのが残念です。あれを見たら説明なんて必要無いんですけど、簡単に言うと部屋の設備がめちゃくちゃ画期的でしかもベッドだってフッカフカの最高級のお布団付きなんです。それから、ここについてる共同のお風呂もとても広くて浄化槽がついてるのでお湯もとても綺麗でさらにお風呂の脱衣所には異世界商会の基礎化粧品が置いてあって使い放題です。もちろん高級な物は置いて無いですが獣人のテイラーバードの皆んなも大喜びで、石鹸とかシャンプーとか全部備え付け。普通男性が備品とかまで用意しないじゃないですか。それが主人は痒いところに手が届くというか、なんというか。呆れるほど従業員を大事にしてくれてますよ」
「そうなの。それじゃリッチモンドには当分帰って来てはくれないのね。でも楽しんで仕事をしてくれていて安心もしたし、とても嬉しいわ!」
「はい!これからも異世界商会のために一生懸命、微力ながら力を尽くすつもりです」
「お互い、頑張りましょうね。ジャック様すみません。放置してしまって」
「かまわねーよ。仲間が遠くに行って心配するのは当然だからな。よかったな」
「はい、ありがとうございます。」
「それでは遅くなりましたが、ご案内します。こちらの小部屋へどうぞ」
「はい。これが噂の小部屋ね」
「はい」
「では参りましょう」
ぐにゃーん
「おお、すげえな。まるでタクミの………」
「はい、ジャック様、そこまで」
「そうだな」
「マーガレットさんはご存知だと思いますがトレーニングルームのみ来客も入れるようになっておりますが、それでも主人か責任者の私が引率している時のみ作動するようになっているとのことです。一体どんな魔法なのかわかりませんけど主人はとにかく凄い商人ですよね」
「そうね。でも少しは自重も覚えるべきかもしれないわ。これは凄すぎるんですもの」
「でも、そのおかげでここの従業員は生活を救われた者もいますから私は主人には大活躍してもっともっと生活困窮者の救済をしてもらえればと思いますよ。さて、ここからはお客様となりますのでお二人共、どうぞ厳しい目で従業員のチェックをお願い致しますね。では」
チリンチリン
「「マーガレット様、ジャック様お待ち致しておりました。お手荷物をお預かり致します」」
「悪い、剣もか?」
「はい。大変申し訳ございませんが武器等の持ち込みはこちらまでとさせて頂いております。大変素晴らしい剣をお預けになるのは少々気の進まない事とは存じますが防犯の為にも是非ご協力をお願い致します」
「わかった」
「ご協力感謝申し上げます。ではご案内いたします」
「マーガレット様はこちらへどうぞ」
「ありがとう。それではジャック様また後ほど」
「ああ、しっかり癒されてこい」
「はい」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「それではジャック様、まずはお疲れの所やお体に痛みなどある所はございますか?」
「いや、特に気になる所はないな」
「左様でございますか。プランとしましては、ハンド、フット、上・下半身、全身とございまして、マーガレット様は全身コースを体験して頂く流れとなっておりますので、全身コース以外のコースですと、待合室にてお待ちいただく形となりますので宜しければ全身コースを施術させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「そうだな。よろしく頼む」
「かしこまりました。ではまずこちらの三つのオイルの中でお好きな香りを一つ選んで頂けますか?」
「おおっ、これはサッパリとした爽やかな香りだな。これが良い」
「かしこまりました。こちらはグレープフルーツのオイルです。こちらは気分を爽快にして体に溜まった余分な水分を排出してくれる効果のある香りです」
「そうか」
ポチョン
「それではこちらへ足を入れて頂けますか?足を入れられますと水流で足を包み込みマッサージを行います」
「おっ?おお」
チャポン
ボコボコボコボコ
「おお、これは中々気持ちがいいな。それに良い香りだ」
「ありがとうございます。それではまずハンドマッサージを行います。お手を失礼致します」
「うむ」
グリグリグリグリモミモミモミモミニギニギニギニギ…………
────五分後
「それでは、足をこちらへ出して頂けますか?綺麗に拭かせていただきます」
「うむ」
「それでは足元から温めましたので本日は足から順に心臓に向かうようにマッサージを行なってまいります。うつ伏せで寝てください」
「うむ」
「リンパに沿ってマッサージを行います。痛ければ仰ってください」
「わかった」
モミモミモミモミモミモミ
「力加減はいかがでしょうか?」
「うーん、気持ちいいなぁ」
「ではこのまま続けて参ります」
モミモミモミモミモミモミグリグリグリグリモミモミモミモミグリグリグリグリモミモミグリグリ
「思っていたより気持ちがいいなぁ」
「だいぶお疲れのようですね」
「そうか?」
「足がだいぶ浮腫まれておいでのようです。知らず知らずの間に疲れが蓄積されたのでしょう。お仕事お疲れ様でございます」
「確かにそうかもしれないな…うっそこ…」
「力が強かったでしょうか?」
「いや、もう少しその辺りを頼む……」
「かしこまりました」
──── 一方マーガレットは…
「ではこちらにお着替えをお願い致します」
「わかったわ」
「では、お手伝いをさせて頂きます」
「ええ、お願い」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「それではまず、こちらのフットバスでケアを致します。お好みの香りをお選び下さい」
「ではこれを」
「かしこまりました。こちらはラベンダーの香りでリラックス効果と美容効果を持つオイルでございます。こちらでまず香りを楽しみながらお嬢様の足元を温めさせて頂きます。こちらへ足を入れて頂きますと…………」
「わかったわ」
ポチョン
「それではどうぞお入れ下さい」
ボコボコボコボコ
「まあ、とても良い香りが広がるのね。それにこの水流はとても心地よいわ。質問ですけど温泉でもこれを使うのかしら?」
「はい。店舗の方でも汲み上げた温泉にお好きなオイルを選んで頂きこのように使用いたします。本日はくるぶしまでの物を使用いたしておりますがフットマッサージのみのプランのお客様にはこちらのような魔道具の膝下までの物を使用しリラックスして頂きます」
「そう、でも温泉から上がってすぐだと体も温まっているから不要なような気もするけど、そこの所はどうなのかしら?」
「はい、温めながらこちらの水流で足の裏やふくらはぎを包み込み、細かい気泡・噴流を足にあてることで、脚全体の血行を良くする効果が生まれ、さらに柔らかい泡や勢いの良いジェットが直接肌にあたる心地良さからリフレッシュ効果も得られますしお好みのオイルを使う事にさらにリラックスをして頂きながら足のケアも行えます」
「つまり体を温めるだけでなくこの水流がマッサージを行うという事かしら?」
「はい、その通りでございます」
「なるほど」
「それではハンドマッサージをオイルを使って行わせて頂きます」
「はい」
「こちらのオイルはグリークナットオイルとラベンダーのオイルを使用しております。もし力加減の強弱のご要望がありましたら何なりと仰ってください。それでは始めさせて頂きます」
クイクイクイクイ
「そんなに力は入れないのね」
「はい、オイルの滑りを利用しながらリンパの流れをよくして滞っている所を正常な流れにし疲れの原因になる物や体の中にある毒素の排出をお手伝い致します」
「うーん……良い香り。それに夢心地だわぁ〜」
「とてもお疲れのご様子ですね」
「そうねえ、毎日書類とにらめっこしながら日々疲れ度合いが増してるわね」
「少しでもそのお疲れが癒されるよう、心を込めて身体にオイルを塗布してマッサージを行います。深い精神的リラックス効果をもたらすと共に、体液の流れを促進しながら、お肌からオイルの良い物を体内に浸透させることで、高い効果を心身に取り入れることができます」
「そう、ありがとう」
「それでは足をお拭きいたしますのでこちらへ」
「ええ」
拭き拭き
「それではこちらのベッドへガウンを脱いでうつ伏せに寝そべって頂けますでしょうか?その間私は退出致しますのでお支度が整いましたらお声がけください」
「わかったわ………………いいわよ」
「失礼致します。それでは足から順に施術を行って参ります、力加減のご要望がありましたら何なりとお申し付けください」
クイクイクイクイ ギュー クイクイクイクイ ギュー ゴリゴリ
「なんだかゴリゴリしているわ」
「はい、今日は沢山歩かれましたか?リンパの流れが少し悪くなっているようですので、このゴリゴリは悪い物が留まっている証拠でございます。優しく流して参りましょう」
「そうね。今日はとても沢山歩いたわ」
「それはお疲れ様でございます。お声が弾まれておいでですね」
「そう?」
「はい、とても楽しい1日でいらしたとお見受けします」
「そうね。とても良い一日でしたわ」
「それはようございました」
「あっそこ、気持ちがいいわ……それからなんだかポカポカしてきたわ」
「はい、血流が良くなってきておいでなのでしょう」
「ちょっといいかしら?」
「はい?」
マーガレットは施術した足とまだ行っていない足を触った。
「まあ!硬さが全然違うわ!施術された方の足は柔らかい!」
「はい、少し浮腫んでいらしたようですね」
「ごめんなさい、続けて」
「かしこまりました」
────その後
「こんばんは」
「これは主人……と領主様?!はっ!いらっしゃいませ」
「ごめんね、団体連れてきたんだ。全員いるかい?」
「はい、もちろんでございます。まずはこちらへおかけください。すぐにハーブティーをご用意致します。皆さま施術でよろしいでしょうか?」
「飲み込みが早くて助かるよ」
「では、しばらくお待ち合わせ下さい」
「タクミさん、こちらは凄いですわね!すでにお店になっているじゃないですか?」
「はい、本格的に練習するには同じ間取りに同じ内装の方が店舗が変わってもスムーズに仕事ができると思って作りました。もちろん温泉はありませんけどね」
「そうですのね!凄いわ。それにこの音魔法はなんですの?聞いたことのない音楽ですが心が落ち着きますわ」
「はい、オイルの香りの嗅覚だけでなく聴覚からも癒しを堪能してもらおうとアイテムを作りました」
「マジックアイテムで音楽が聴けるんですの?」
「失礼致します。お茶をお持ち致しました」
「ありがとう」
カチャ
「メアリーさんその通りです。音を溜め込むイメージと鳴らすイメージで10曲ほどですが取り込むことができ再生できるこちらの箱です」
「あら?本当に小さな箱につまみが付いているわ」
「メアリー様、よろしいですか?」
「はい、アーロン」
「これはどのようにして使うのですか?タクミ殿」
「はい、この1〜10のダイヤルを矢印のところに合わせると一曲流れて、11は全曲流れ最後の曲で止まります。12は順番をシャッフルして0に戻すまで流れ続けます」
「それは凄いですね。ただこれからは音がしませんが?」
「はい。リンク魔法で音をこちらのような箱に流してこれ本体はならないようになってます」
「では、この箱は今はなぜなっていないのですか?」
「こちらの受信側も1にすると……」
ポロンポロン ポロンポロン ポロンポロンポロンポロンポロン ポンポンポン ポンポンポン ポロンポロンポロン…
カチッ
「と、このようになるのです」
「「「「「「「「おお!」」」」」」」」
「皆さま、お待たせ致しました。ご案内致します」
「楽しみですわ!ね?みんな?」
「「「「「「「はい」」」」」」」
こうして新入従業員全員が貴族出身の接客と施術を担当した。さて、どういう反応が出るかな?
読んで頂きありがとうございます。




