182.お針子住宅
従魔契約だけ済ませ、一旦テントを引き取りに戻って来たがテントを受け取ったら今度は加工しなければならないが、とりあえず倉庫にしまって急遽アーロンさんを訪ねなければならない。
宿に転移で戻ってグリとポヨを連れてテイラーバード達の元へ向かった。
トントントン
「こんにちは〜」
「来たかい!50個できてるよ!確認するかい?」
「一応、チェックさせて下さい」
「もちろんだとも。さあみんな出しとくれ!」
こうして婆ちゃんの家で5個ずつテントを広げて鑑定しチェックをしていき、全て素晴らしいテントが出来た事が確認できた!
「はい!ありがとうございます!んじゃ支払いお願いしますね」
流石に100人もいると支払いが時間がかかるし大変だ。やっぱりちゃんと雇用契約なり組織を作らないと厳しい。みんなスキルが高いので是非全員雇用したい。
「フゥー。これで支払いは無事済んだな。あとは婆ちゃんに頼んだドレスだけどできてる?やっぱりテントとドレスはきついかな?」
「あたしはテントを一度作ってるからね4日で今回はできたのさ。だから今回は8ペニーでテント分はいいよ。そのかわり2日でドレスを仕上げたからあと4ペニーはおくれ」
「いや、いいよ。テント半分で14ペニーの出来高制でプラスドレス分って事で今回はいいからさ」
「いや、悪いだろ?」
「悪くないよ。今回はとにかく受け取って。きっと間に合わなそうな人の手伝いとかやり方とかみんなに教えてくれたんでしょう?」
「いや、それはそうだが、当たり前の事をしただけだから余分にもらうわけにはいかないよ」
「いいから。50個正直できないと思ってたんだ。これだけ人数がいたら間に合わない人も出てくるだろうって思ってたけどいなかったという事は必ずフォローした人がいるはず。そういう助け合いのできる優しい人が俺は大好きなんだ」
「しかし…」
「婆ちゃんにはこれからも働いて欲しいし特別手当にしといて。婆ちゃん実はここのボスだろ?婆ちゃんにお願いがあるんだけど、みんなと正式に雇用契約できないかな?別に他の仕事もしていいし俺の仕事が入ったらこっちを優先してもらいたいけど、どうかな?」
「だが、こんなに沢山の仕事はそうそうないだろ?」
「そうだね。たまたま今回は在庫作りの為の大口注文。だけど定期的に売れると思うんだよ。だから作れる人が必要になるし、あと後々ドレスのリメイクとかも注文が入ると思うんだ。そうなると婆ちゃん達の力が必要になる。それからサイズ直しとかも注文くると思うんだよね。あと、若い子とかで接客できる人がいればさらに嬉しい。どうかなぁ?」
「他の仕事もやっても良いというなら契約しても良いが契約の形態はどうするんだい?」
「正直出来高制にしてもらえるとありがたいんだ」
「本当は年間契約したいんだけど、50人契約するのさすがに俺にはデカすぎるし、まだ少し時間が欲しい。だから店がオープンしてしっかり売り上げが出るまでは出来高制にしてもらいたい。その代わりと言ってはなんだけど、家賃をタダにする事ができるんだけどどうかな?」
「は?家賃をタダ?」
「うん。そのかわり引っ越してもらわなきゃいけないけど、新築の長屋を用意したんだ。しかも共同風呂だけど男女別の風呂もあるし、ちゃんとトイレもあって汲み取りとかしなくて良いやつだ。それから作業部屋や、倉庫、子供達用の遊び場もある建物なんだ。ちなみに俺の商会の研修施設としても兼ねてるんだけど、どうかな?」
「それはどこにあるんだい?」
「この先の道を行った奥のところだよ」
「そういや最近、急にでっかい立派な建物が建って何やらビーバー大工が沢山入って行ってるね」
「そうそう。ビーバーの獣人さんは腕がいいって評判だったからお願いしたんだ」
「ふーん。そうかい。見学できるかい?決めるのはそれからだよ」
「そっか。じゃあ婆ちゃん今から行こうか」
「ああ、わかったよ」
こうして婆ちゃんと歩いて数分で建物についた。
「すみませーん、家主ですけど、出来てる部屋を見せてもらっても良いですか?」
「おっ!タクミさん!いつも差し入れありがとうな!どっちがいいかい?仕事部屋かい?それとも住居かい?」
「両方いけますか?」
「ああ、仕事部屋の方はまだ時間がかかるが見るには見られるぜ。住居は二階の部屋ならいけるぞ」
「ありがとうございます」
「じゃあまずは婆ちゃんが住むかもしれないお家を見よう!」
「そうかい」
「ここだよ。どうぞ」
「な!なんだいこりゃ?ちゃんとした木の板じゃないか?」
「ああ、漆喰の壁と木のフローリング。あっ!材料は俺が出してるから余分なペニーは払わずに済んだんだよラッキー」
「随分豪華だね」
そっか。アイラさんや婆ちゃんの家は床は踏みならされた土間で藁を編んだものを敷いていたんだったな。確かにフローリングを見たら豪華に感じるわけだ。
「おや?部屋は随分と明るいね。ん?こいつは…なんだいこりゃ?!ガラスじゃないかい?」
コンコン
「しかもかなり丈夫そうだし透明度も高くて上等なガラスだね…信じられない…ただのテイラーバードにこんなガラスの窓だなんてお貴族様の家にだって高価なガラスがこんなふんだんに使われているだなんて…でも炉が見当たらないね…かまど税をけちったんだね…」
「あっ、炉はねこの家には使ってないよ。その代わりにキッチンにこれをつけたんだ」
「ん?なんだいこりゃ?随分立派な暖炉だね。だが普通のものは石造りだが…アイアンかい?」
「ああ、色々考えたんだけどこっちの方が良いかと思って薪を使う暖炉コンロにしたんだ」
「ん?」
「婆ちゃん、これはね暖炉になるんだけど、料理もできるんだ。ここは薪を入れて…」
俺は婆ちゃんに暖炉コンロの使い方を説明した。その都度婆ちゃんは目をまん丸にして驚きながらも、しっかりと使い方を聞いては驚き説明が終わる頃には笑顔になっていた。
「というわけで、この熱は壁の中を通って部屋全体を暖めるから寒い思いをしなくて済むし、それに炉みたいに木が爆ぜる事もないから子供が火傷をする心配もなければ煤で部屋が真っ黒になる事もないよ。本体に触っても水石で作ってるから熱くならないしね」
「あんたは凄いものを作ったねぇ」
「本当は簡単に火のつく魔石を使ったのにしようかと思ったんだけど、こっちの方が薪代はかかるけど婆ちゃん達は火の扱いに慣れているだろうし、それに部屋も暖まって余分に暖炉をつけなくて済むからこっちにしたんだ。ここらは夜は凍えるように寒いからね。一応漆喰の壁だから熱も逃げないし暖炉の火を落としても最低8時間は熱が逃げないはずだから寝る時に暖炉の火を落としても暖かいし火事になる心配も少ないよ」
「おやおや、そんな事まで気遣ってくれてるのかい?凄いねぇ」
「いや〜。みんなの家見て煤が凄いなって思ってたのもあるし火事になったら大変だからね。それに家の真ん中に炉があると邪魔だからさ」
「そうさねえ。それが当たり前だったから、そんな風に思った事はないがこう見るととてもリビングが広く使えるねぇ」
「あとこの箱は保存庫ね。マジックボックスになってるから作った料理はこれにいれとけばそのまま温めなおさなくてもすぐ食べられるからね」
「そんな物があるのかい?しかし見たことないよ!しかもとんでもなく高価な物じゃないのかい?」
「いや、これも俺が作ったものだからタダ」
「タダ?!」
「フフフ。それからこっちは寝室ね」
「おや?なんだいこの取っ手は?」
「引き出してみて」
ガラガラガラガラガラガラ
「なんてこった?!こりゃベッドかい?しかも寝具がもうセットしてあるじゃないかい?」
俺は寝室に折り畳みベッドならぬ壁面から引き出せるベッドをセットした。理由ははっきりいうと狭いので、少しでも空間を有効活用できればと思ったから。クローゼットも反対の壁につけてある。ここの庶民の暮らしはリビングと寝室の2部屋の生活が当たり前なんだそうで、寝室は分かれておらず家族みんなで休むのが一般的なんだとか。だから基本の部屋はこの形にした。あんまり逸脱してもダメかなと思ったし、それに正直そこまで広い土地でもないから間取りは一般的にせざるをえなかった。
「これは随分と高価な布団だねぇ。あたしは死ぬまでにこんな布団で寝られる日が来るとは思ってなかったよ」
「喜んでもらえたら嬉しいけどクリーン魔法で綺麗にしてやってな」
「もちろんさ!大事に使うよ」
俺は一通り部屋の説明をして風呂のことについても清潔にすると病にかかりにくなる事も説明して共同風呂の事も説明した。
「悪かったよ」
「は?何が?」
「あたしゃてっきり部屋に閉じ込めて奴隷のように働かせられると思ってたんだよ。そんなうまい話なんてあるわけないってね。だがあんた、ここ作るのに相当ペニーを使っただろ?しかもとんでもなく快適な環境だし、作業場も子供部屋も用意してみんなの健康まで気遣った風呂まで…どうしてここまでしてくれるんだい?」
「うーん。もし仮に婆ちゃん達が不真面目でスキルもなくてダラダラしてたり遊んでいて不遇な扱いを受けてるなら仕方がないかもしれないけど、婆ちゃん達はその真逆だろ?それにせっかく素晴らしい力があるのにそれを発揮できないのはもったいないし、その力を認めない理由が獣人だからという理由なら俺は認めない側に問題があると思うから、それを少しでも認めさせる手伝いができたら良いなと思っただけだよ。それに俺には婆ちゃん達の力が必要だからな。俺としては将来的にはテイラーバードの服が一番!と言われるような世の中にして独立してもらえたら嬉しいよ」
「だがそれじゃあんたは儲からないじゃないかい?」
「うーん。俺、それまでにめっちゃ儲けるから大丈夫。それに色々登録してるから先では不労所得が入るし問題ないよ。それにペニーを溜め込んでもしょうがないからね」
「なんでだい?贅沢できるだろ?」
「うーん。俺としては無いものは自分で作るからそんなには困ってないんだよな。あっでも、今は稼ぐよ!稼がないとお店作れないし、広い土地も買いたいから!」
「広い土地が欲しいのかい?」
「うん!グリがさあ自由に飛び回っても走り回っても大丈夫な土地で俺以外の人族は入れない土地が欲しいんだ。そしたらグリが魔物狩り放題じゃない?」
「あんたは魔物びいきな子なんだね。それに優しい子だね。ありがとうよ…ありがとう…」
「あはは。お人好しとも言われるけどね」
「そうだね。よし、契約と引っ越しの件あたしがみんなに胸を張って勧めるよ」
「ありがとう。あと、気になったのは随分と男の人を見かけないけどみんなの旦那さんは?」
「出稼ぎさ。テイラーバードの男は殆どが船やら遠方の城塞に住み込みで働いて男物の繕い物の担当として雇われてるのさ。今は目立った戦も無いが盗賊とかの襲撃もあったり、小競り合いもあるからすぐ衣服が破れるんだよ。そんな男だらけの所に女を放り込んだら大変な事になるだろ?しかもそんな男どもが自分で繕い物なんてできないし、それで安くて繕い物も上手く勤勉で従順なテイラーバードの男どもが重宝されるのさ。だから旦那達が家族と離れて辛い思いしながらも僅かなペニーを稼いでくれるから何とか飢えずに凌げてるのさ」
「なるほど、それで男達を見なかったのか」
「ああ、だがここらはまだ良いけどね。他の地域じゃあの長屋のような所にすら入れない貧しい者もいるんだよ。旦那が怪我して働けなくなっちまったりと色々さね」
「そっかあ。俺ができるのは本当に気休め程度にしかならないからな」
「そんな事はないさ。一滴の水を投じて波紋は広がる。だが誰もその一滴を落としてくれなかったんだ。そういう他の地域の者にもきっと良い傾向が生まれるさ」
「そっか。じゃあ尚更の事頑張らなきゃいけないな。話は変わるけど、婆ちゃんさぁ商品チェックの担当してくれない?俺が毎回チェックするのはしんどいし婆ちゃんが指揮してくれると助かるんだけどな。もちろん日当払うからさ。どう?」
「こんなババアでも役に立つならやるけど一人じゃすぐに代替わりしなくちゃならなくなるから何人かでやってもいいかい?」
「あはは。婆ちゃんは長生きするよきっと。でもそうだね。婆ちゃんがその辺はまとめてよ」
「わかったよ。これだけ良い家に住まわせてもらえるならしっかり働かないとねぇ」
「よろしくね婆ちゃん!あっあと、これ一個お願い!注文入ったの!」
「おや、これは領主様の紋章じゃないか?あんた一体何者だい?」
「うーん。俺もなぜこうなったかはイマイチわかんないあははは」
「何だいそりゃ。あははは…まあ良いさ。またアイラと試行錯誤しようかね。あの子はなかなか上達が早いんだよフフフ」
よし、これでお針子さんは大丈夫だな。
読んで頂きありがとうございます。
 




