178.テイラーバードのテント
「じゃあ行くか」
「うむ」
とうとうテント納品日がやってきた。さて向こうはどうでるか。もしくはもうトンズラしてもぬけの殻か、とにかく楽しみだ。
「相変わらずこの辺りは廃れているな」
「そうだな。やっぱりテイラーバードの暮らしは厳しいんだな」
「そのようだ」
キャッキャ!わー!あははは!
外で子供達が遊んでいた。その中の二人の少年少女に目が止まる。
「おい、あの服」
「うむ、バイオレットの生地だな」
「テントの布の余った端切れで作ったんだろうけどなかなか可愛いな」
「我には分からん」
「まあお前はいつも豪華な毛皮があるもんな」
「よし、ここだ」
トントントン
ガチャ
「お待ちしていましたわ。中へどうぞ」
「は、はい」
俺は正直拍子抜けした。色々疑ってかかっていたからな。
「こちらです。お茶をどうぞ。私はお隣のお婆ちゃんを呼んできますね」
「はい」
おお!ちゃんとできてるよ!凄いじゃん。縫製も細かいしアラクネーの糸で縫ってあるし、折り畳めるかな?ここをこうして…うん!うまくたためるし袋にちゃんと入るな!よーし。いいぞ!鑑定かけてみよう。
鑑定をかけると最高品質のポップアップテントと表示された。しかも布も誤魔化してないし糸も同じくアラクネーの物。これなら問題ない。もちろん心配していた水や火にも強いのでこれなら火事の逃げ場にもなるな。まあ、魔物に丸ごと飲み込まれたらそこは責任は持てないがとりあえずタンパク質を分解するものでなければ大丈夫だ。
「邪魔するよ。来たかい。どうだい?出来栄えは?」
「婆ちゃん、バッチリだよ。あと、あまりの生地で子供服作ったのはどっち?アイラさん?婆ちゃん?」
「なんだい?余りの布をどう使おうとこっちの勝手だろ?文句つけるのかい?!」
「違うよ!出来が凄くいいからさあ、俺、ドレスも作ろうと思ってるんだけど子供服って頭になかったんだけど、今日のアイラさんの娘さん見て確か貴族の子供が5歳だか6歳になるとお披露目会やるらしいんだけどそれ用のドレスを作るのも良いかなって思ったんだよ」
「ふーんそうかい?ありゃあたしの取り分の布でワシが作ったんだよ。アイラには仕事を分けてもらったからねぇ」
「ねえ、婆ちゃんにアイラさん。怒らずに聞いてね?」
「はい?」
「この布を売ってペニーに変える事もきっとできたのに何故しなかったの?」
「あんたアホかい?こんな布売ったらすぐに足がつくし、それにそんな事したって住む場所は無くなるわ、次の仕事も家も困って逆に損する。それにねぇテイラーバードは生真面目が取り柄なんだ!神様に顔向けできないような恥ずかしい真似はできないよ!」
「私はここに越してきてやっと少し仕事を下さるメゾンに出会いました。夫は出稼ぎで遠くにいますし、やましい事をして夫が捕まったら困りますし、それに子供達に言えないような恥ずかしい人生は送りたくないのです。どれだけ貧しくとも盗みを働いてはいけないよと教えてる母親がそれでは子供に顔向けができません」
「素晴らしいですね。あの、テイラーバードの方々は皆、生真面目なかたなんですか?」
「そうさねぇ。バカな事をすれば種族から追い払われるからねえ。良いこと教えてやるよ。あたしらはねいつもみんなで協力し支え合って生きてるからこそ、絆が深く独自の掟もあって統制されているんだよ」
「そしてもし、掟を破れば簡単に追放されますから、それが何よりも恐ろしいのです」
「あたしらは一人じゃ生きていけないとちゃーんとわかってるからね」
「そうですか。なるほど。そうそう、品物ありがとうございます!すっごく良い物が出来ました」
「そりゃ良いがこんなちっこいので役に立つのかい?」
「はい。とっても!とりあえず成功報酬であと28ペニーお支払いします」
「な?!なんだって?」
「え?ペニーは頂いてますよ!」
「いえ、結構苦労したんじゃないですか?これ」
「え、ええでも、ドレスなんかと思うと楽ですわ」
「そうなんですね。じゃあ口止め料って事で14ペニーずつお支払いします。あと、できれば今後もこれを作り続けて欲しいのですが、お二人契約してもらえませんか?」
「あ?意味がわからん」
「俺、これを絶対に売れる商品にするので作り続けてもらいたいんです。しかも作っている事は内緒にしてほしい。理由は高額商品だし織物が高価なので貴方達が危険な目にあう可能性があるからです。それから余裕があるなら婆ちゃんには可愛い子供服作ってほしいな。それも絶対売れるよ」
「あんた、あたしらテイラーバードだよ?お貴族さんが獣人の作った服なんて着やしないよ」
「ここの領主は喜んで着てくれると思うよ?」
「フンッんなわけあるかい」
「そっか。じゃあ俺の私物として注文出すよ。このテントをあと50個は作ってほしい。もちろん生地も渡すし糸も報酬も同じように渡すから頼まれてくれないかな?」
「50個?!正気かい?」
「ああ、婆ちゃんのお眼鏡に叶うお針子さん集めて仕事分けても良いからさあ。ここには100人位女性のお針子さん住んでるんでしょ?」
「そうだが…みんなアイラのように小さな子供を抱える母親ばかりだよ?小さな子供のいるお針子はみんな嫌がるけど良いのかい?子供が熱出したら作業も中断して遅れが出たりするし…」
「頼むよ!ちゃんとペニーも払う。そのかわり品物と交換。流石にそんだけ人数いると何が起こるかわかんないしね。きちんと仕上げてくれるなら多少期日が遅れてもかまわないよ。それに小さな子供がいる方がペニーは特に必要だし在宅ワークなら働きやすいだろ?」
「もし、誰かに布が盗まれでもしたらどうするんだい?」
「うーん。やむをえない場合は仕方ないんじゃない?でも、一応盗まれないように努力してね」
「賠償はどうするんだ?」
「賠償責任はないよ。だってそういう契約は今のところするつもりがないから。俺はテイラーバードの可能性を信じここまで凄い才能を持ってる種族を存続させたいしやっぱりあの子達の笑顔をこの先もみたいじゃない?だからとりあえず信じてみる。んで裏切られたら、そん時は婆ちゃん慰めて」
「はっはっはっはっ!あんたはおバカな子だねぇ。だけど嫌いじゃないよ。うん、人族も捨てたもんじゃないね!それにあんたは婆ちゃんに甘えるのが上手いねえ。仕方ないね。そこまで言われたら断れないじゃないかい。だが、売れないものを作っても仕方がないが本当に売れるんだろうね?」
「売れるから大丈夫だよ婆ちゃん」
「よし!婆ちゃんに任せな」
「やった!てか婆ちゃんうまく仕事分配してね」
「誰に物言ってんだい!きっちりやってやるよ」
「じゃあ7日後にまた取りに来るからその時に支払いするね。それから婆ちゃんさ、試しに子供用でこんなドレス作ってくれない?それも別でペニー払うから」
「あんた器用だねぇこんな絵も描けるのかい?ほーこりゃ可愛いね。よし、1着作ってみるかな」
「んじゃ生地と糸はこのマジックバックに入ってるから取り出して使って」
「わかったよ。んじゃ7日後楽しみにしときな」
「頼むね」
ガチャ
「キャ!」
「ママ〜モフモフ〜!」
「モフモフ〜!」
「ご、ごめんなさい子供達がっ!」
「グリ、遊ばれてんなぁあはは!」
プイッ
「よしよし後でブラッシングしような」
「モフモフ帰るの〜?」
「こら、ちゃんとモフモフにありがとうしなさい。」
「モフモフ、またね、あーとう!」
「あーとう、あーとう」
「あっ!婆ちゃん、端切れの布で作った物は売らない方がいいかも!バレると襲われるかもしんないから!」
「ああ、わかってるよ。子供達のリボンやなんやらにするさ」
「なんならそれも買い取るからよかったら出してな」
「わかったよ」
こうしてテイラーバードという獣人と少しずつ距離を縮めたけど50個というすごい数。果たして7日後にできるか? それによっては正式雇用契約のようなきちんとしたものを結びたい。そしたら住居とか環境整備できないかな? ていうかあの土地って誰の土地なんだろ? アーロンさんに少し調べてもらおう。そして俺はマーニン島に転移した。
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