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174.ドレスとお面

 ドレス注文を出してから数日経ち、俺がバイオレットに注文したドレスが転送クローゼットに送られてきた。

 かなり良い出来だ!さてとまずは俺が個人的に出した注文のドレスはグラデーションのエメラルドグリーンのドレス2着とスカートがお花たっぷりのピンクのドレス2着、そして白のシンプルなIラインの胸元をビーズ刺繍をあしらい袖は刺繍レースで作ったドレスでメアリーさんとは違うデザイン1着だ。もちろんパニエも用意した。


 ちなみにこちらのサイズは2着作った物の1つはメアリーさんに宣伝用として着てもらう為のプレゼントなのでメアリーさんサイズ、もう1つのサイズはマーガレットさんが平均身長だと言うのでマーガレットさんの身長の丈で後ろはフリーサイズにするため紐である程度サイズ調整ができるように編み上げにしてもらったドレスだ。

 このドレスを化粧品店のガラスケースにマネキンに着せてガラスケースに飾っておこうと思ってる。

 もちろん他のデザイン画も飾るがやはり実物があるのと無いのでは大違いだからな。

  次に確認したのはメアリーさんのドレス。

 ちゃんと届いているかの納品チェックは大事だ。

 よし、問題なくあるし、あとは着用してもらってほつれなどがないか本人にも確認してもらって納品だな。


「メアリーさん、タクミです。お届けの品をお持ちしました」


 ガチャ。


「ありがとうございますタクミ様中へどうぞ」


「はい、失礼します」


「タクミさん、まだ5日しか経ってませんわよ? とてもお仕事が早いのですわね」


「お褒めに預かり光栄ですが、まだ他に注文がないので早いんですよ」


「そうですの? それにしても早いですわ」


「では、そこも売りになりますね。では早速チェックをお願いします」


「ええ、では。まあ!!! なんて素晴らしいの! 絵では分からなかったこの光沢にこのボリューム! 素晴らしいですわ! 早速着てまいりますわ! 」


  お付きの侍女さんやお供の方々が足音もなくサササササーっとドレスを運び優雅にお茶を飲み終えたメアリーさんが奥の部屋へと入っていき一人残ったお付きの方が美味しいお茶を入れてくれた。ハーブティーでとても良い香りがする。


 キャー !!!


「え?!」


「大丈夫ですわタクミ様、あれは喜びの悲鳴ですから」


「え? ええ、はい」


  ガチャ。


「タクミさん! 素晴らしいですわ!」


  顔を赤くして目をウルウルさせながら興奮気味に部屋を出てきたメアリーさん。


「よくお似合いですね。とても素敵ですよ」


「嬉しいですわ! 鏡を見て驚きましたのよ! 足がとても長く見えますしとってもゴージャスでエレガントで…ああ! 幸せですわ! こんな最高のドレスを着られるなんて! しかも思っていたより軽いのです。このパニエのおかげもあるのでしょうけど生地がいつも着ているものより軽いのですわ! それにこのキラキラした装飾品もとても品があるしほら、見てください! 回った時にこんなに優雅で軽やかにステップが踏めますの! その時に光が当たるとキラキラと…ああん素晴らしいわ! ヘンリー様にすぐにでも見ていただきたいわ!」


「お気に召して頂けて良かったです。それから着心地や肌触りはどうですか?」


「もう最高ですわ! 始め見た時はとても重そうな感じがしましたけどそれもなく肌触りも今までのどの絹よりも優しくて肌を包んでくれていますのよ」


「そうですか。それは良かったです。あと、よければお茶会用のドレスも着て確かめてもらえるとありがたいのですが、よろしいですか?」


「もちろんですわ!そうそう、あとこちらのドレス着るのもとても簡単でしたのパニエをパッと下から穿いて上から被せてもらう着方はとても簡単ですわ!」


「パニエのドレスはそれが楽だと思います。パニエをドレスにセットして下から上に引き上げて着る方法もありますがそれだとドレスが重いですし持ち上げる時にお肌を装飾品で引っかいてしまう恐れも無きにしも非ずですしそれに上から被せる方が着せる方が一人でできます。下から引き上げる方法だと重いドレスは二人は必要になりますから」


「そうねえ。たしかにふくよかなご婦人は二人は必要になるわね」


「ですので上からかぶるスタイルをお勧めしましたが下からでも問題ないですよ」


「わかりましたわ、では次はシンプルなドレスを着てまいりますわ」


「あと、こちらもお持ち下さい。これは宣伝用にお使い下さい」


「まあ! こ、これは!」


「はい、お花のドレスと、グラデーションのドレスです」


「た、タクミさん! 私、絶対売ってみせますわ!」


  ヤバイメアリーさんの目がギラギラしてる。


「いえ、いいんですよ。これは日頃の感謝も込めてますので」


「オホホホホ。では遠慮なく頂いて勝手に宣伝致しますわ!ね? 皆さん?」


 後ろのお付きの方々が目をギラギラさせている。

 メアリーさんを綺麗にすることに喜びを感じている方々だからだろう。有難いなぁ。

 こうしてドレスの試着をしてほつれなどもない事を確認し全ての納品が完了した。

 メアリーさんの話では明日にバースに住む子爵家の奥様からお茶会のお誘いがあるそうで、まさかドレスが間に合うとは思っていなかったがせっかくなので参加するそうだ。


「実はここの子爵は没落寸前のところだったのですが裕福な商会の娘さんとの婚姻により没落を防いだそうなのですが、この奥様はなかなかの浪費家のようなのです。ただご実家からお小遣いをもらっているそうなのでとにかく着飾り方が凄いとか」


「へえー。豪勢ですね」


「ええ、良いお客様になるかもしれませんわ。新たにお友達を増やしたいようで色んな奥様に声をかけているようなのです」


「貴族にお嫁入りってなんか大変そうですね」


「マーガレットのような方なら問題ないのですが、どのような方か気になりますし、もしその浪費というのも実はお家の繁栄のためにしている浪費かもしれませんから一度会って様子を見てみようと思っておりましたの」


「なるほど、もしただの道楽ならばどうするのですか?」


「道楽でも経済が潤いますから問題はありませんわ。ただ娘さんを見ればご両親がどんな方かも想像がつきますから、それによっては少しアーロンに調べさせるつもりです。良い方ならば良い物をお勧めしてお付き合いをしますわ」


  つまり娘の人柄が悪ければ悪徳商売の可能性があるからアーロンさんに調べさせるってわけね。メアリーさんも出身は宰相のお家の娘さんでお嬢様だけど、めちゃくちゃ頭が切れる人だからそういう点で奥様方から情報収集して色々とヘンリーさんをサポートしてるんだな。


「やはり、女性はどんどん表に出て仕事をするべきですね」


「タクミさん。確かにそういう女性もいますがサポートに回る方が得意な女性もいますからそれぞれですわよ。ウフフ。私みたいなタイプは表だっているよりお飾りの奥様をしながら影でコソコソこうして動くのが好きなのです」


「そうなんですか?」


「ええ、私は容姿も普通ですし生まれが恵まれているだけですわ」


「そんな事はありませんよ、可憐で知的な女性だと思いますよ」


「ありがとうございます。でもカリスマ性とかは持っていないのです。もし、生まれがあまり良くなかったら、きっと今以上に嫉妬の嵐にあって大変でしたわ」


「嫉妬?」


「ええ、生まれが良くても多少の嫉妬はありますのよ。あれだけ素敵な旦那様を持つとそれなりに苦労しますのオホホホホ」


「確かにそうですよね。ヘンリーさんみたいに格好いい方なら女性が放っておかないですよね」


「ええ、家柄の良い娘さんで容姿端麗な方はいくらでもいますから。でもヘンリー様はお優しいから父が失脚しても離縁せずに変わらぬ愛を注いでくれましたの。あの時もかなり色々なお嬢様の紹介があったようですけど全てお断りになって。今でも続いているようですけどね」


「え?それ、かなりメアリーさんに失礼じゃないですか?」


「オホホホホ良いのですよ。それだけカリスマ性を持つ素敵な旦那様なのですわ」


「メアリーさんは大丈夫なんですか?」


「はい。だって私を毎日可愛がって下さいますし、それにいくら綺麗な方が寄ってきても内緒ですけどお顔を覚えていらっしゃらないのよ」


「え?それはどういう?」


「うーん、なんていうのかしら?女性だけでなく男性もあるそうなんですけど下心のある方はなぜか白いお面をつけているような顔に見えるらしくて同じ顔に見えるそうよ。あと、敵意のある方とかも」


「え?!それって凄いスキルじゃないですか?」


「まあ、そうとも言えますわね。でもこれがなかなか大変なんですのよ。商人なんてみんな下心はあって当然ですし、貴族でもそんな方ばかりですから人と会うお仕事は基本アーロンがそばにいないとままならないし、社交の場は私が付いていないと中々難しいのですわ」


「確かに大変ですねそれ。みんな毎日毎回同じ服装、髪型じゃないですからね」


「そうなんですのよ。ヘンリー様は声などで判断したりするそうですが爵の低い方は上の者から声をかけないといけないのでお一人では難しい時もありますのよ」


「そうなんですね。でも敵意のない人材を選ぶ事ができますね」


「そうね、まあ途中からお面に変わる人もいるみたいですから難しいわよね。例えば前任の代官は途中からお面になったらしいわ。それですぐに調査を始めたとか」


「メアリーさん、俺にそんな大事な事話して良かったんですか?」


「タクミさんは大丈夫よ。だって下心出す必要ないじゃない?」


「え?」


「だって自力でペニーも稼げるしむしろ取り込みたいのはこちら側でそのスキルがもしタクミさんにあったら私達の方が仮面をつけているはずよ。ウフフ特に私なんて真っ白!」


「え?そうなんですか?」


「そうよ!だってタクミさんと一緒にいたらさらに素敵なドレスのデザインが見られるんですもの!それにきっとアーロンもそうよ。ウフフ。税収!って書いてある仮面を付けてるはずよ」


「プッなんか想像できますね。しかも嫌じゃないですそれ。アーロンさんって税収!って言ってますけどその収益を貧しい地域にいかに効率よく分配しながら立て直すかって事しか考えてないですからね」


「そうなのよね。贅沢は敵だ!とか言ったりするところも面白いわ。タクミさんのシャツだって宣伝する事で税収入るし何年も着れるし命も守れるからこんなお買い得商品はないって言っていたわ」


「なるほど。でもそうすると後々売れなくなりますね」


「他の貴族はデザインや刺繍とか変えればすぐ買い換えるわよ。大丈夫。それに貴族の見栄がある限り大丈夫ですわ」


「そんなもんですかね」


「あっ、でもこれは秘密ね。当家以外の者は知らないから」


「ええ、でも…」


「ああ、うちで年数長く働いてくれている人はある程度知っているわ。もちろんお付きのジャック達も。流石にそれはバレるからウフフ」


「そうですよね」


「だからヘンリーさんは初めから俺を信頼してくれたのかな」


「そうかもしれませんわね。ウフフ。さてと明日が楽しみですわ。成果を待っていて下さいね」


「はい」


  俺はメアリーさんと別れてマーガレットさんにドレスを届けるためリッチモンドへと向かった。

読んで頂きありがとうございます。

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