16.俺とグリフィンと食肉植物
パームの所から歩く事15分、植物が生い茂るエリアに差し掛かる。
普段なら、魔物とすれ違うなり遭遇して攻撃されるなりしている頃なのに、まったくと言って良いほど感知に反応もなければ、襲われる事も姿を見る事すらない。
一体どういう事だ?
「なぁ、この辺りは魔物がいないのか?」
「そんな事はないぞ。我らが通るときに、ただ向こうが避けておるだけだ」
「そうなのか?」
「当たり前だ。お主は強い相手がおっても平気でその場を通ろうと思うか?」
「そっか。お前が一緒にいるからか」
「今頃気がついたのか、鈍い奴め」
「それは、すみませんねぇ」
俺は口を尖らせながらも密かに感謝する。
歩き始めて周りの景色はどんどん見たことのない、植物ばかりになってきた。
しかも植物の色がショッキングピンクだとか、明るい紫だとか、ものすごくカラフルで毒々しい色をしている。
正面にはなぜか綺麗な色でカラーリングされた、階段のように段になっている、水の吹き出ていない噴水のような場所があった。
水飲み場だろうか?
「こんな所に水飲み場があるんだな。誰が作ったんだろう。島の住人か?」
「フフフ、あれはな魔物や動物、人を食う植物だ。お主のように水飲み場と思わせ誘い込み、その穴の中に落とす」
「えぇ────!食虫植物か!」
「しょく?なんだそれは」
「す、すまん。えーっと水に見えるのが、実は獲物を溶かす液で相手が逃げようとしても、落ちたら最後、逃げられない作りになってる。そういう草とかの事を、俺の住んでた所では食虫植物って呼んでるんだ」
「うむ、その通りだ。小さな物は虫であったり、大きなものは蛇やネズミも溶かす。あの大きさであれば小型の魔物だけでなく人族の子供も溶かすやつだな」
「うひょ────こえぇ」
「知っていれば、なんて事はないものだが、この辺りはどうやらそういう植物が多そうだ」
「わかったよ、ありがとう。気をつける」
あぶねぇー。
グリフィンがいなかったら、やたらめったら近づく所だったよ。
そうして周りを見渡しながら歩いていくと、見慣れた果実を見つけた。バナナだ。
その下には見たことのない、美味しそうな赤い実のなった木がある。
どちらも数メートルはあるだろう。
とても手を伸ばして採れる高さにはない。
先程の食虫植物の事もあるし、今回はこっそり鑑定してみる。
すると出てきたのは意外なもの。
一つはお馴染みのバナナだ。
赤い実は、なんとコーヒーの果実だった。
この赤い果実の中に二粒の種子があり、それがコーヒー豆だそうだ。
俺はてっきりコーヒーっていう、豆のなる木かと思っていたよ。
この果実も赤く熟していれば、甘くて美味しいらしい。
だが問題がある。
木の下に、ヤケに綺麗な色をした、黄緑色の葉っぱが生い茂っている。
実はこれ、食虫植物らしい。
くっついて離さないタイプのようだ。
きっと、上のバナナやコーヒーチェリーを採りにくる者を狙って、ここに生えてるのだろう。
鑑定をかけて正解だった。
バナナやコーヒーは暴れる事はなさそうだ。
さて、どうやって採ろうか。
「う────ん」
「何を悩んでおる」
「いや、あの実を採りたいんだが、下に生えてるやつ、あれさっき話してた食虫植物みたいなんだよ。くっついてそのまま食われるみたいなんだ」
「お主なら容易いのではないか? 草の上に結界を張り、触れぬようにしてしまえば良いではないか」
「そうか!その手があったか!」
「あとはどう採るかだよな。俺は飛べないし、かと言って木は傷つけたくないし」
「それであれば我がお主を上に運んでやろう。お主は我の足を掴み、もう片方で摘み取りすれば済むのではないのか?」
「えっ?良いのか?」
「うむ、そのかわり、あの美味いビートとやらを食わせろ」
「わかった!助かるよ」
するとグリフィンの体が光り輝き、次の瞬間には銀色と金色の鷲の姿になっていた。
何度見てもその姿は息を呑む美しさだ。
すると、さっそく翼を広げ、バサバサと羽ばたきグリフィンは宙を舞う。
「それ掴まれ」
俺はグリフィンごと結界をかけ、自分の結界の中に招き入れた。
さらに手に身体強化もかける。
通常の俺の体力じゃ、きっと上まで昇っても手の力がなくなるはず。
そこで持久力を上げるための身体強化だ。
ちなみに結界の中に招き入れたのは、そうしないとグリフィンを弾いてしまうからだ。
さてそんな事を思ってる間に、赤いコーヒーチェリーが摘みとれる程の高さまで来た。
「この辺りでよかろう」
「あぁ、ありがとう。沢山摘めそうだよ」
俺は赤く熟した実だけをとって、アイテムボックスにどんどん入れていく。
「よし、そろそろ赤いのは無くなったから、次の果実に行ってくれるか?」
「あいわかった」
バサッバサッと翼を羽ばたかせて上へとゆっくり上がっていく。
すると今度はバナナが沢山実っている。
「よし、この辺で採るよ」
「うむ」
元の世界のバナナは一度実を採ると、後は枯れていく草らしいが、この地のバナナは枯れないみたいだ。
それならばと食べる所だけ採取する為、ウォーターメスを使って、どんどん付け根を切り落とし、アイテムボックスの中に落としていく。
「沢山採れたし、このくらいでいいかな」
「そうか、では降ろすぞ」
「あぁ、頼む」
グリフィンとの連携プレーで、簡単に美味そうなバナナとコーヒーチェリーが採れた。
これはマーニンビートをたっぷり奮発しないとな。
研究中のマーニンビートは、数がないから複製しないといけないな。
そう思っていると、グリフィンが大きな翼を広げ、何の揺れもなく風船や傘でスーッと天から舞い降りるように、地面へ降りていき地面近くでバサッバサッと優雅に翼をはためかせる。
そうする事で、俺はゆったりと地に降り立つことができた。
こいつ、細やかな気配りができるやつなんだな。
見た目や話し方からは尊大に感じるので、やる事が大雑把なんだろうと思っていたが、俺はどうやら思い違いをしていたようだ。
「よし、今度はあっちの木の実を取りに行こう」
さっきバナナを取っている時に、オリーブがなっているのが見えて、鑑定したらやはりオリーブのようだ。
この世界の植物は、あまり季節の概念がないのか、もしくはこのマーニン島特有のものなのか、元の世界では全く季節の違う果物が、普通に熟した状態で実っていて驚いた。
だが温度の違いはありそうだ。
俺の住んでいる場所との植物とは、天と地ほどの差がある。
こんな食虫植物というか食肉植物はなかった。
歩いていた時に小型の魔物が引っかかって、半分体が溶けていた。
「ヒィ────! エグっ」
「お主もこうならぬようにな。フッ」
モザイクが必要な光景に思わずひるむ。
だが、俺にとっては宝の山だ!と自分を奮い立たせて前に進む。
そんな姿を隣でふんっと鼻を鳴らしながら、呆れたように見つめるグリフィンがいる。
正直、思っていた以上にグリフィンの存在は頼もしい。
強さはもちろん長生きの分だけ物知りだからな。
「よーし、今度はこれだ。また、お願いできるか?」
「うむ、世話の焼けるやつだな」
またグリフィンの足を持ち、上に舞い上がってもらいオリーブ採取だ。
今回は、木の枝の下の方にアイテムボックスを平たく広げ、オリーブのついた小枝を持って1つずつ手摘みしていく。
枝を軽く揺すって落ちるものもあるので、もいだり揺すったりしてかなりの量が採れた。
さすがにこれだけ採ると、時間もだいぶかかり、辺りは夕陽に染められて、ここにきた時とは違った景色をしている。
「グリフィン、今日はこのくらいにするよ」
「うむ、では降ろすぞ」
「ありがとう、頼むなぁー」
この森? ジャングル? の木は剪定とか、人の手が入ってないからか樹高が凄く高い。
俺の知ってるオリーブのイメージは、脚立で上がったら手の届く高さなんだが、ここのは10メートルくらいある。
とても脚立レベルじゃ届かない。
グリフィンさまさまだ。
またバナナの時のように優雅に地に降り立つ。
なかなか気分が良い。
「さて、今日の所は切り上げて明日また来よう。長いこと付き合ってくれてありがとうな。ちょっと待っててくれよ。今、ビートだすからな」
俺はアイテムボックスから、ビートを取り出して複製のスキルで数を増やしてからグリフィンに渡した。
「お主、便利なスキルを持っておるなぁ」
「あぁ、これか。これがなかったら俺はきっと今頃飢え死にしてただろうな」
笑顔で答える。
「回復したビートは食べ過ぎとかで、副作用とか出ても困るから、とりあえずこの二種類にしたけどいいか?」
渡したのは魔力を込めたものと、水魔法で育てた物だけにした。
「うむ、味はこれと変わらんから良いぞ」
どうやら魔力を土に込めたものと、回復魔法のものは味が変わらないらしい。
これまた発見だ。
「じゃ、俺はそろそろ行くよ。本当に色々と助かったよ。ありがとうな」
「お、おう、そうか……」
「ん? どうかしたか? 」
「……うむ、いや気にするでない」
「そうか、じゃ元気でな。もしまた怪我でもしたら、ビートやるから俺の所に訪ねてこいよ。今日みたいに念話はできるんだろ?」
「ふんっ、我は怪我などそうそうするものかっ」
「たしかにそうだな。余計な心配だったな。じゃ、元気でな」
そういうと俺は転移で家に帰る。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「────うむ、行ったか……我も行くか」
グリフィンは空に舞い上がり、眩しい光を放ち元の姿へと戻る。
最近のねぐらにしている場所への帰り道、グリフィンは今日一日、共に過ごした人族のことを思い出しながら、夕焼けに染まる赤い光の大空を、誰に邪魔されることなく、銀色に輝く美しい大きな翼を広げ、優雅に空中散歩をしながら帰っていた。
人族にしてはなかなかに面白いやつであったな。
人などと話したことはないが、無謀にも我らの巣に忍び込む力無き、こそ泥程度にしか思っておらなかった。
それが奴はどうだ……。
金銀財宝になびくどころか、食えないからいらないという。
永遠ともいうべき途方も無い時の中で、相対した者とは明らかに違う不思議な空気。
どこか温かで居心地の良い……。
記憶の彼方に眠る、気の遠くなるような昔に、幾度となく死線を共にくぐり抜けた懐かしき友。
その多くは時と共に寿命を迎え、安らかにこの世を去った。どれほど強く美しく尊いものであっても、時の流れには逆らえぬし、それが命ある者のさだめだ。
我は魔力が強くその為、寿命が同族の誰よりも恐ろしく長い。
そして、他を寄せ付けない圧倒的な強さ。
この二つは王としての立場と存在を示すまでに、さほど時間はかからなかった。
我の事を信頼し慕う者は多くいる。
だが、次第に友と呼べるものは居らなくなり、いつしか種族の繁栄のためだけに時を費やすようになった。
その間、苦悩がなかったわけではない。
だが、満ち足りた日々を過ごせていたと思う。
しかし、その、時の運びは長過ぎたのだ。
子孫を残し若い者を育て、やることがほぼなくなった時、我は気がついてしまった。
知らず知らずのうちに湧いた孤独感という奴だ。
仲間は多くいる、だがそれはどちらかといえば、友ではなく部下という存在であり守るべき者だ。
いつからこの感情が湧いたのかはわからない。
上に立つ者であればきっと皆持ち合わせている感情かもしれない。
しかし、一度それに気がついてしまうと、厄介な者で我の心に居着いてしまいおった。
我は細かい事を考えるのは得意では無い。
そんな時であった。
神々にお知恵を頂いたのは。
地上で時間を過ごすのも悪く無いと。
特に友や仲間を見つけるつもりはなかった。
我には帰る場所も仲間もいる。
ただぶらりと息抜きの旅をするつもりであった。
魔物を猟り、好きな時に大空を舞い、気に入ったところで寝る。
それは何者にもとらわれない安らかな時間だ。
趣味も見つけた。
地上の食べ物だ。
我ら魔物の多くは別に食わなくとも死にはしない。
魔力を大地や空気から吸い生きておる。
だが、他の魔物や大地に育つものを食う事で、さらなる力となり強くなる。
それゆえに多くの魔物は他の魔物や動物を食らう。
我も始めこそ口にしなんだが、一度食してみると、これが案外いける。
美味かったのだ。
それから我の食の旅が始まった。
多くのものを喰らい味わった。
さすがにゴブリンは食わんがな。
見るからに不味そうだし臭いが悪い。
そうして有りとあらゆるものを欲しいままに食っていった。
するとある日、嗅いだことのない、芳しい香りを放つ人族が現れた。
興味を注がれた。始めは香りに。
だが我にしてみればほんの一瞬の事だが、今日一日、居心地がよかったのだ。
まるで友と居たあの時のような。
しばしの間あやつと共に時間を過ごすのも悪くないかもしれぬ。
どうせ人族の一生など短い……。
そんな事を思っていると、ねぐらのすぐそばに来ていた。
「我は何を馬鹿げた事を……。ふんっ、まぁ良い。フフフ」
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