15.グリフィンと俺とマーニンパーム
「んーー!よーし、始めるかぁーー」
ずっとグリフィンの背で手綱にしがみついていた、俺の身体は力の入れすぎでカチコチに固まっていたので、軽くストレッチをして身体をほぐし少し休憩をとっていた。
グリフィンに頼んでまで海に来たかった理由。
それは海水だ。
海水、つまり塩水である。
塩水を煮詰めると、御察しの通り塩ができる。
通常は砂と塩を分離するために、煮たり遠心分離機にかけたり〜とか…色々あると思うが、俺は神の錬金釜を持っている!
つまり海水さえ入れれば瓶詰めの塩が手に入るのだ!
オーマイゴット。
この一言につきる。
目をウルウルしながら神様に感謝する。
さっそく、結界の範囲を少し広げて、砂場で座り込み海水で作ったウォーターボールを神の錬金釜に優しくうつす。
これって本来、攻撃魔法なんだよな。
水汲みとか罠とかにしか使ってないな。
そんなことを思いながら、精製されたミネラル豊富な塩をイメージして神の錬金釜のスイッチを押す。
……チーン
「お主、変わった物を持っておるな」
忘れてた。こいつも居たんだった。
「あーこれか。錬金釜だ」
「うむ、人族が持っておるものだな。しかし奴らが持つものより上等に見える」
「そ、そうか?」
神様からの頂き物なんて言えないからな。
適当にはぐらかしておこう。
「お前は目利きでもできるのか?」
「我らは代々神に仕え、神々の宝を守護する役目を担っておった。それゆえ価値のある物を見分けるのは造作もないことだ」
「神様たちに仕えてるのか?お前、こんな所で油を売っていていいのかよ?」
「なに、案ずることは無い。我は守護職を若い者へ譲り、今は自由に時を過ごしておる」
「なんか隠居生活みたいだな」
「我を年寄り扱いするな。我のやる事はもう済んだのでな。群れを守り子孫を残し次なる世代が育ったのだ。最強の我が残っておれば新たな王が産まれぬ。我の次に力のあるものに座を譲り後世まで強い者を育てるためのはからいだ」
「てことは、今はグリフィンの王じゃないのか?」
「それも少し違うな。これまで王座は前の王を倒すか強き者に挑み群れに力を認めさせればその群れの王となるが、我は強すぎるため挑みにくる者はおろか我の力を上回る者など皆無だ。これではいたずらに時を過ごし老いていくばかり。そこで神々にお知恵を賜り今のような過ごし方をしておる」
「へー。それで王の中の王なんだな。どのくらい王様として神様に仕えていたんだ?」
「そうだのぉ、軽く千年といったところか?」
「えっ?そんなに長いこと生きてるのか?しかもそんなにずっと仕えてたのか?!お前いくつだよ?」
「我か、千と五百といったところか。今までなら王の座は百年ほどで交代しておったが我は種族の中でも特別強くての。寿命も他と比べるとどうやら長いらしいのだ」
「長いらしいって」
「神様が鑑定をしてわかったことだ。神々の鑑定は我らやお前達が使うレベルの物とは質も威力も見える物も、どうやら全てが違うらしいからな」
「その口ぶりだとオーデン様と会っていたのか?」
「もちろんだ。お主もしや加護持ちか?加護持ちは下界のものであってもお姿を拝むことができるからな」
「そんな事まで知ってるのか?お前やっぱりすごいんだな」
「あっ! 忘れてたけどもうできてるはずだ。俺の塩! できたかな? どれどれ」
神の錬金釜の蓋を開け中を覗く。
よし!できてる!
こっちは塩でもう一個はにがりだな。
こいつの前で鑑定使うのはどうだろう。
悩んでいると
「ほぅ、それは人族が金貨や銀貨でやりとりしているものだな。海からできるのか。以前似たような香りを岩場で嗅いだことがあるぞ」
「それはきっと岩塩だな。それもすごく貴重なものだぞ。うらやましい」
「あんなもの食っても喉が乾くだけではないか」
「人族は調理に使うんだよ。そのまま食べるより煮たり焼いたりするとさらに旨くなるものもあるんだよ」
「そんなものか。まぁよい。終わったか?」
「いや、まだまだ時間がかかりそうだ。他にも貝殻とか砂とかも集めたいからな」
「ふんっ、おかしな奴だ。そんな物集めて何になるというのだ。まぁよい。我は木陰で一眠りして参る。終わったら念話で伝えよ」
そう言い残してドスンドスン音をさせ、砂煙を舞わせながら歩いてこの場を離れていった。
「迎えに来てくれるって事だよな。あいつ面倒見が良くて顔に似合わず優しいな」
よし、さっさと終わらせよう。
────1時間後
『お────い。グリフィーン聞こえるかぁ?
ここは終わったぞ──』
俺はお目当てのものを土魔法で作った壺にたっぷり納め、アイテムボックスにこれでもかと詰め込んだ。
しばらくすると
『うむ、わかった』
グリフィンから念話が入る。
すると遠くの方からグリフィンが近づいてくるのが見える。
やはりデカイ。
近くにいるとデカすぎて生物って感じがしない。
アリが人間に対して思う感情なのかもしれない。
バサッバサッと降り立つグリフィンに吹き飛ばされないようしっかり結界をはる。
「終わったか、では帰るか」
「すまん。俺はもう少しここにいて、あそこに見える木の実を採ったり、熱帯エリアで他にも何があるのか探したいんだ」
「ほう、パームの実か。お前も物好きだな。あれを採るのは人ではしばし骨が折れるぞ」
「ん?どういう事だ?」
「あそこに生えておるパームは、他の地に生えるものとは異なる。元は他の地から流れ着いたものだが、ここに来てどうやら変化したらしく獰猛なやつだ。だがその分、他の地のあれから取れる水分はなかなかに旨い」
獰猛って何だよ?ここからだと見た目普通のヤシの木だぞ?
「────つまり、あれは魔物なのか?」
「まぁ、そういう事だ」
そっかぁ。でも欲しいんだよなヤシの実。
あれがあれば色々加工できるんだよ。
「なぁ、どんな風に獰猛なんだ?」
「ふむ、あいつは自分の実を投げつけて攻撃してくる。その身をまともにくらえば人族なら死ぬな」
「ま、マジか!いや待てよ。それを拾う事は出来ないのか?」
「奴が投げると勢いが強く大抵の物はその場で割れるな」
「じゃ、割れてるやつを拾ってくるのもありだな」
「拾えればの話だ」
「ん?」
「拾っておる所を狙い撃ちで実を投げつけてきたり、体をしならせ鞭のようにして攻撃されるのだ」
「なるほど。それなら方法があるぞ。よし、行ってみるか。教えてくれてありがとうな」
「ふむ、どうするのか興味がある。我も付いていこう」
「えっ?いいのか?時間取らせて悪いな」
「まぁ、暇つぶしだ。お前の足は短くて遅い。我の背に乗れ」
また頭を低くしてクチバシを地面につけてくれた。
「おう、ありがとう」
そうして俺はグリフィンに乗せてもらい、15分はかかるであろう砂浜をサクッと移動し、ヤシの木の射程距離に届かない
ギリギリの所で降ろしてもらった。
さてと、俺はさっそく水魔法と風魔法をミックスした魔法を心の中で念じて目の前いっぱいに広げ、それをどんどんヤシの木に近づけていく。
水の壁のような物が宙に浮いてる感じだ。
すると思った通りヤシの木が実を投げつけてきた。
よし!きたっ!
投げつけられた実はその壁を通り抜けフワフワと浮かび、俺が広げたアイテムボックスの中にどんどん吸い込まれていく。
「お主、一体何をしておるのだ?」
「あーこれか?水魔法と風魔法を混ぜて板状にしたものをイメージしてそこに物が入ったら水魔法と風魔法の膜で包んでアイテムボックスに入るように操作してるんだ」
そう。このイメージはシャボン玉。
水魔法の膜で包むだけだと湿気ってしまいそうだし、勢いがうまく殺せなさそうだし、風魔法だけだと膜が上手く作れるか自信がない。
だから二つ合わせて挑戦してみたんだ。
「これなら、簡単に手に入るだろ?しかもパームだっけ?を傷つけなくて済むし」
「ほう我ならば一撃で倒して刈り取ってしまうが弱い者の知恵というやつか」
「そうだな。それに刈り取るとせっかくの実が採れなくなるだろ?もったいないからな」
「ふんっ変わったやつだ」
せっかくだし飲んでみるか。
一応こっそり鑑定してっと。
【 名前 】マーニンココパーム Dランク
高さ40メートル程で葉の長さは8メートルほど。
果実は熟すと50センチほどになる。
他の地域の物より獰猛で危険。
【 用途 】貿易で利用される船の建材や葉は屋根を葺き。
あるいは繊維を編んで敷物やカゴなどに加工される。
果実は硬い殻を破ると、果肉と液状の汁が入っており、汁は一つの実から2リットル近くとることができる。
清潔な水の得られない地域にとって非常に重宝される。
果肉はそのまま食べられ料理にも使われる。
加工しミルクにしたりバターや、乾燥させオイルを取り出したり石鹸の原料にするなど様々だ。
果実の皮からは繊維を取り出しロープにしたり、たわしにする等加工できる。
よしよし。間違いなくヤシの実だな。
汁に虫とかも居なさそうだな。
たまに虫とか入ってるやつあるもんな。
「いただきまーす」
うん、清涼飲料水のかなり薄い味って感じだな。
あいつも飲むかな?
「なあ、お前も飲むか?」
「いや、我はよい。先程三本なぎ倒して飲んだ所だ」
「そ、そうだったのか、流石だな」
「次は熱帯地域に行くけどお前はどうする?」
「お主、我がおらねば帰れぬであろう。最後まで付き合ってやろう。我は律儀で誇り高い崇高なグリフィンの王だからな。最後まで面倒は見てやる」
「いや、問題ないぞ。俺、転移が使えるから」
「何?転移だと?お主ごときが生意気な」
「まぁ、行ったことない所には使えないけど、家に帰ることはできるからさぁ」
「……」
ん?もしかしてこいつ、付いてきたいのか?
しょうがないな。
「もし、お前が一緒に来てくれるなら心強いけど、手間を取らせるのも悪いから…………」
「そうであろう、そうであろう。我がおれば心強く頼もしく有難いであろう。仕方のない人間だ。我が共に行ってやろう」
こいつ、寂しいのかな。なんか可愛い。
「でも待てよ。俺が探してるものって大きなものもあれば小さな物もあるんだよ。お前が歩くと踏み潰しそうだよな。困ったな」
「なに、案ずるな。こうすれば良い」
そう言い終わるとグリフィンの体が眩しいほどの光を放ち、俺は目を開けていられなくなった。
「うわっ!なんだ?眩しいっ!」
目を開けると、そこに俺の半分くらいの大きさ、背丈?1メートルくらいだろうか、デカイ鷲が目の前にいた。
よく見ると金色のクチバシに銀色の羽をしていて、その美しい姿は見覚えがある。
まさか?!
「おい、何をほおけておる。まさか我がわからぬのか。この美しい羽と翼を見ればわかるであろう」
そう言うと目を奪われるほど美しい翼を大きく広げどうだと言わんばかりに見せつけてきた。
二メートル、いや、三メートルはあるかというあまりの大きな翼に息を飲む。
「お前、グリフィンだよな?」
「いかにも」
「変身とかできちゃうの?」
「あぁ、我ぐらいになるとこういった事も可能だ。普通の者では無理だがな。他にも我の後ろ足の姿にもなれるぞ。どれ陸を歩くにはこちらの方が良いか」
「えっ?!何?」
また、グリフィンの体が眩しく光り俺は目をつむる。
目を開けると今度は金色の艶やかな毛並みと立派なたてがみをもつ見た目はライオンになっていた。
見た目だけ。大きさが動物園にいるやつより全然デカイ。
サイズ感でいうなら虎よりでかいぞ!
俺が普通に乗れるサイズだよ。
この世界のライオンってこんなに大きいのか?
「おい、鳥の時も思ったけど、なんかでかくないか?」
「そんな事はない、みなこれくらいだ」
なるほど。もういいや。考えるのよそう。
とにかくわかったのは、やっぱりこいつが凄いやつって事だ。
んじゃさっそく行くとするか。
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