146.バース
『まもなく着くぞ。』
「あれかーバース!」
なんかすごい立派な建物があるなぁ。なんだろ?あれ。
『この辺りで降りるぞ。』
「うわぁーーー!!!急降下過ぎるだろーぅわー!!!」
「と、とりあえず、着いたな。ここも立派な城壁だな。門をとっととくぐって宿に行こうぜ。それで明日はスタッフォードとキダーミンスターの間くらいに転移して、そっからノッティンガムだ。」
・・・
あれ?反応がないぞ。ん?
「おーいタクミ!置いていくぞ。まだ、市場が開いている頃だ。急げば何か食い物にありつけるぞ。早く歩け。」
「おい!置いてくなよ〜!!!」
ゲートを何事もなく通過して街に入った俺たちだったが入ってかなり驚いた。めちゃくちゃ立派な教会が目の前にデーーーンと町を見下ろすように鎮座しているのに人の気配もなければ灯すら付いていない。なんかおかしいぞ。市場も広いのに今一つ活気もないし、どうしたんだろう?適当に市場を回ってグリにねだられたものを買って宿へと着いた。いつもと同じように中庭から従魔小屋に行き布団を敷いて宿屋の中にアーチをくぐり入る。するとやはりこちらも、人は入ってはいるがどうやらこの街の人が食事をしているようで泊まり客ではない感じだ。建物はとても立派で広々としていて、かなりの人数を収容できそうな宿屋なのに、あまり集客ができていない様子。そもそも、こんな大きな宿屋に人は埋まるのだろうか?と疑問に思う広さ。なんだろう?凄く違和感がある。カウンターへ行くと、少しくたびれた男が寄ってきて泊まりの手続きをしてくれた。どうやら予約が必要無いくらい部屋数が余っているようだ。男の後ろには、客に渡すはずの鍵が壁に掛けられていたが、半分以上かけられたままの状態になっていた。俺は手続きを終えて、部屋へと案内されてさらに驚いた。理由は物凄く広いしとても豪華な作りの部屋でつい、案内を間違えたのかと思い、そのくたびれた男を呼び止めた。
「すみません。案内する部屋を間違えていませんか?こちらはとても豪華なお部屋ですけど・・・?」
「ああ、間違えて無いですよ。ここ何年もお泊まりのお客様がとても減っていて、せっかくの素晴らしいお部屋も使わなければ意味がありませんから、気に入って頂けたらまた是非ご利用頂きたくサービスとして良い部屋にご案内しているのですよ。どうぞ、ごゆるりとお過ごし下さいませ。」
「は、はぁ。ありがとうございます。」
宿泊客が減るっていっても、限度があるよな?そこまでサービスが悪そうな感じもしないし、どうしてだろう?宿泊客がいなければ当然、旅人も少なく、街に入る収益も減る。そう考えればあの市場の活気のなさも多少わかるけど、そんなに客が減るってこの宿だけの問題じゃ無いとすると街か。うーん。ヘンリーさんが理由はわかってるって言っていたのはこの事なのかな。まあ、とにかく立派な部屋で寝られるのはラッキーだよな。とりあえずいつもの仕事しよ。俺は磁気のパッドを取り出してマーガレットさんからの報告が来たかを確認。
「おっ!来てるな。」
どうやらマーガレットさんはあのサンプルの布を見て大興奮したようだ。めちゃくちゃ褒められている。文面はこうだ。
"主人お疲れ様でございます。本日の売り上げは4587ペニーです。そして頂いたサンプルですがお手柄でございます!こんなに素晴らしい生地は見たこともございません!お手柄です!是非私もその魔物のアラクネーにお会いしたいですわ!次回アラクネーに会う際に箱に送りました本を差し上げてくださいませ。それではご機嫌よう!"
アイテムボックスから転送箱を取り出し中を見るとグランド王国で流行っている刺繍の図案を集めて作った本のようだ。しかも二冊。一冊は最近の物のようだが、もう一冊は少し古い物のようでどうやらマーガレットさんが愛用していた本のようだ。さすがマーガレットさんだな。しかも会いたいって面白い反応だよ。普通、魔物は怖い対象のはずなのに、さすがジャックさんの未来の花嫁は肝が据わってるな。感心しながら返事を磁気パッドで返してさらに、一人、お店の従魔小屋の管理をする人を雇いたいので、募集の人数を調整してほしいと送った。
「さて、こんなもんかな。」
俺は食事を取るため一階の食堂スペースに降りて席に着き注文をお願いして食事が出てくるのを待った。
「本当にここは客が減ったな。」
「仕方ねえさ。女好きの王様が教会を解散さしちまったんだからな。」
「そうだなぁ。この街は教会の観光で持ってたような街だからな。」
「領主様がなんとかしてくれりゃあなぁ。」
「はっ!領主様じゃ、何もできやしねぇさ。」
「だってよぉ、ここの領主様は庶子に落とされたとはいえ幻の皇子だぜ?それに今の女王様とも仲が良いっていうじゃねえか。」
「どうだかな?今の女王様だって先代の女王を追い落として今の地位を得たんだぜ。まあ、ブラッディメアリーが居なくなって安心した奴は数知れねえが、いつまた、兄妹で喧嘩してもおかしくねえだろ?」
「ブラッディメアリーを追い落としたのは女王様じゃねえぞ。あの女は罪も無い者を殺しすぎて自ら王位を手放したようなもんだ。大国の王子なんかと婚姻結んでこの国を売ろうとしたバカ女だ。それを取り戻したのが今の女王さんだ。悪く言っちゃバチが当たるぞ。まあ、雲の上の事は俺たち庶民じゃわからねえが、とにかく何とかして欲しいのよ。」
「そうだな。前みたいな活気が戻って欲しいな。」
なんか、難しい話してるけど、これってヘンリーさんやエリザベスさんの事だよな。ブラッディメアリーって誰だ?情報がなさすぎてイマイチわからないけど、前は活気があったんだな。この土地。
「ごちそうさまでした。」
俺はいつものように行儀は悪いが聞き耳を立てながら食事をしてポヨにお皿を渡してお茶を取り出して飲みおえ一息ついて部屋へと戻った。
ーーーーその頃
「いやー素晴らしい刺繍のドレスが美しい貴女が身にまとうことにより、さらに輝いているね。特にその袖口のレースは貴女の可愛らしい手を包み込むようにしてさらに上品に魅せてくれるね。」
「あら、相変わらずウィリアムはお上手ですこと。このドレスでこちらのレースを王都の皆様にお披露目しようと思いますの。せっかくなので本日、袖を通しましたのよ。」
「ええ、こちらのレースを身に纏った貴女がみられて、この晩餐を催したかいがあるというものですよ。」
「それに伯爵の襟元にも素晴らしいレースの刺繍。さらに伯爵が気品に満ちた姿に映りますね。」
「ここの織物をさらに我らグランド王国に広めないとね。頑張って刺繍を施してくれる民に申し訳ないからね。」
「それは有難い。では、今後の領地繁栄を願い乾杯!」
「聞いてくれよ伯爵夫人。伯爵ったら中々頑なな人でね、リッチモンドに是非一度遊びに行きたいと言っているのに許してくれないのさぁ。」
「あら?どうしてですの?」
「リッチモンドは夫人を筆頭に美しい女性が多いから僕が行ったら風紀が乱れるからって言うんだよ。全くひどい話だとは思わないかい?」
「あらまあ、風紀が乱れるだなんて。オホホホホ。一切にピンクのお花が咲き乱れてしまいそうですわね。でも貴女が去った後は悲しみの雨で洪水が起きるといけませんから、どうぞ、こちらでお力を尽くして下さいまし。」
「えええーそんなぁー!!!」
「ほら、ウィリアム。やはり君には今はまだ書類を恋人にしてもらわないといけないようだね。」
「残念だなぁ。ちょっとリッチモンドの風を感じたいだけなのになぁ。」
「ウィリアム様がいらっしゃると嵐になりますので、どうぞこちらでお仕事をお願い致します。」
「アーロンまで、そんなこと言うの?冷たいなぁ。」
「私は元々、こういう性格ですので、あしからずご了承下さい。」
「相変わらず、堅いなぁーアーロンは。」
「君が柔軟すぎるんだよ。ウィリアム。ハッハッハッハ」
「そうそう、そういえばね、特別に取り寄せた良いワインがあるんだ。是非、どうだい?」
「それは嬉しいね。頂こう。」
「アーロンもどうだい?是非味わってもらいたいな。」
「頂きましょう。」
「奥様にはこれじゃなくてね、こちらの軽い口当たりの方をお勧めするよ。こちらは女性にとても人気のあるワインさ。」
「あら?そうですの。頂きますわ。」
「君は飲まないのかい?ウィリアム。」
「残念なことに昨日飲みすぎてね、当分飲みたく無い気分なのさ。」
「そうかい?珍しいね。無理にとは言わないが。」
「ああ、今日はやめておくよ。」
「そうかい?うむ。美味しいね。もう一杯頂けるかい?」
「そんなにお気に召したのなら君にボトルごとあげようじゃないか。」
「それは、流石に申し訳ないよ。」
「ヘンリー様、そろそろ。」
「おお、もうこんな刻限か。旅でお疲れのところ初日にあまり付き合わせてはいけないね。今日のところはこれでお開きとしようか。」
「気を遣わせて悪いねウィリアム。」
「いえ、今飲んでいるボトルを部屋に届けさせよう。あいにく一本しかないので開けたこのワインしかないがよろしいかな?」
「それはありがたい。寝酒にするよ。」
「ああ、それでは素敵な夢を。」
「ああ、今日の晩餐会はとても素晴らしかったよ。お招きありがとう。料理もとても美味しかったよ。シェフに感謝しないとね。」
「そう言ってもらえたら彼は今度は喜びの涙で洪水を作るだろうね。」
「そうかい。ではおやすみ。」
「奥様も甘い夢を。」
「ええ、あなたも。」
ガチャ
「アーロン、わかっているね。」
「もちろんでございます。本日はタクミ様の特製ドリンクを飲んで明日からバリバリ仕事ができるようにぐっすりと眠るつもりです。」
「そうだね。僕もそうしよう。おやすみ。」
「おやすみなさいませ。」
「さあ、メアリー、今日だけはぐっすり眠ろう。流石に疲れてしまったからね。だが、明日からは寝かせないよ。」
「まあ!もう、ヘンリー様ったら。」
「そうだ、メアリーもこれを飲んでおこうか?ぐっすり眠れるよ。」
「え?はい。」
「さて、それでは寝室で。」
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