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142.俺とアラクネーの女王

「あっ!蜘蛛!」


カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ


「突然すみませーん。アラクネーさんの部下の方ですか?どうか、お取り次ぎをお願いします!ほら!オーク丼、たーっぷりありますよ〜!!」


カサカサカサカサカサ、カサッ


「おい、人族、我らが恐ろしくはないのか?貴様らを食うかもしれぬぞ?」


ここにいる蜘蛛たちよりもひとまわり大きな、他とは違うドレスのような美しい服をまとった蜘蛛が言葉を話した。


「恐ろしさよりも、あなたが着ているお召し物の方が興味があります。とても素敵なドレスですね。それに、俺たちを食うより、このオーク丼の方が美味いと思いますから食われる前に沢山ご用意した物をまず、お出しします。」


「なるほど、だが、なぜ危険を冒してまでこんな所へのこのこやってきた?貴様らからは敵意が感じられない。何を企んでおる?」


「はい、ぜひ俺と契約を結んで欲しくてこちらに参りました。」


「契約?お前のその側におるような従魔契約か?馬鹿馬鹿しい。思い上がるな!」


「いえ、違います。まあ、そういう契約でもいいんですが、そうではなくて、取り引き?交渉?とでも言えば良いのでしょうか?ぜひあなた方にしかできない特別な事をしていただきたいのです。もちろんお礼は致します。」


「我らに何をさせたいのだ?聞くだけならば聞いてやろう。決めるのは私ではない。我らを統べる女王がお決めになる事だ。つまらない事であれば今すぐ貴様らを頭から食いちぎってくれるわ。」


「ありがとうございます。えっと、あなた方の素晴らしい糸を使って反物を織って頂きたいのです。あなた方の糸は水にも火にも強く、何より細いのに丈夫でしかも美しい。これ以上に美しいのに強く光り輝く糸は他では見つけられません。そんな糸を反物にしたらどれだけ強くて美しい生地になるのでしょうか?でも、その糸を反物にするのは至難の業だとも聞きまして、それならば是非あなた方に反物を作ってもらえないか?何なら洋服や俺がお願いする物を仕立てて頂けないかと思ったのです。」


「はっ?我らが貴様らの為にか?くだらぬ!なぜそのような事を!お前は馬鹿か?」


「もちろん、タダとは言いません。仕立て代や労働の対価として俺の出来うる限りの報酬をお出ししたいと考えております。その為の交渉で契約です。」


「ほう、それでは女王へ取り次ぐ報酬としてまずはお前の命をもらう!」


カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ


「行け!お前達!女王の晩餐に添える肉を狩るのだ!」


シュッシュッシュッシュッ!!!


「うわっ!」


俺たちの周りを囲むようにしていた蜘蛛達が一斉にお尻の方から糸を出しこちらに向けて攻撃をしてきた!


「フンッ、たわいもない。あやつら一歩も動く事なく3匹まとめて糸で覆ってやったわ。」


「しかし、隊長おかしくないでしょうか?」


「何がおかしいというのだ?」


「あの者達は結界を張りながらこちらへ無傷でやってきて引き返し、そして先程は突然に現れ、今はこのドーム状になった我らの糸の塊。」


「何が言いたい?」


「はい、この塊は結界を覆っているだけにすぎないかと。」


「結界も魔力が切れれば自ずと消滅する。結界がなくなれば奴らは袋の鼠。逃げる事など不可能。この無数に折り重なった我らの糸を切り、逃げられると思うか?」


「いえ、切る事は難しいかと。しかし解せませぬ。先程突然現れた者共です。決して侮れぬかと。」


「うむ。一理ある。皆の者!今一度糸でしっかりと覆うのだ。」


ーーー結界の中では・・・


「すげえ!真っ白。」


「そうだなぁ。」


「さてと、どうしようか。ポヨがこの真っ白な糸を溶かすか、転移で外に出るかどっちが驚くかな?多少、脅威に感じてもらった方が従ってくれそうな気がするんだよな。」


「脅しか?」


「うーん。でもできる事なら友好的にいきたいんだ。だってイヤイヤ仕事させられるのって奴隷じゃん?彼女達が楽しんで仕事をしてくれるようにしたいんだよな。」


「では、お前は転移で外に出て、ポヨはこの糸を溶かして我と出れば二重に相手は驚くのではないか?」


「あっ!それがいいな!よし、そうするわ。じゃあ、代わりにグリこの内側に結界頼めるか?」


「うむ、任せろ。」


ズシン!


「おお、見よ!ドームが少し沈んだぞ。」


「左様でございますね。あやつらの魔力が少しずつ切れ始めたのでございましょう。」


「違いますよ。」


「は?今、何と・・・なぜ貴様がここにおる!!!しかもしれっと私の横で茶を飲んでくつろぐでない!」


「これはすみません。あっ!飲みます?美味しいですよお茶。」


ゴクリ。


「き、き、貴様馬鹿にしおって!」


「隊長!見てください!糸のドームに穴が!」


「何?」


「おっ、そろそろ出てくるかな?早いなぁ〜。」


ゴクゴク。


「だから、何を呑気に茶を飲んでおるのだ!!!」


「まあ、一緒に見守りましょうよ。俺の従魔が出てくるところ。」


「な、何を!!!」


「ほらほら、出てきましたよ。」


「た、隊長、スライムです!スライムと鳥が出てきました!」


「チッ!何だというんだ!一体貴様らは何者だ!こんな短時間で我らの糸を切るなどあり得ぬ!!!」


「そうですかぁ〜。でも俺たち、喧嘩しにきたわけではなくてですねぇ、是非あなた方の素晴らしい力をお借りしたいのです。」


「何をたわけた事を!!!かまわん!皆の者、今度こそこやつらを・・・」


「お待ちなさい!!!」


「こ、これは女王様!!!」


うお!なんかでっかいのキター!!!この隊長とか言われてる蜘蛛より3倍くらいデカイぞ!!!マジか!しかもめっちゃ豪華なドレス着てるよ!

それにしてもめちゃくちゃ美人じゃないか?!美人が怒るとマジ怖えし。


「人族よ、これはお主がこさえた物か?」


「はい、そうです。」


「うむ、とても美味であった。この甘辛くてしょっぱいこのタレは何だ?今までに食したことのない美味なる味。」


「はい、俺の故郷の味で茶色いのがタレという物です。あと、是非お召し上がりいただきたい物がございます。これをどうぞ。」


「おや?これは美しい。なんだこの黄色の柔らかそうな物は?」


「卵豆腐と言います。鳥の卵を使った出汁で作った俺の料理です。あっさりとさっぱりしているのにコクがあり何よりタンパク質が豊富なので是非お召し上がりいただければと思います。」


「タンパク質?とな?」


「あなた方が出される糸の主であり養分になると思います。ちなみにオーク丼はタンパク質が豊富なロース肉を使いました。」


「何やらよく分からぬが、隊長、その卵豆腐なる物をこちらへ。」


「し、しかし!」


「先程の肉も美味であった。さあ、これへ。早うせぬか。」


「はっ!ははぁ。」


隊長さんに卵豆腐を渡し女王のお付きの蜘蛛に渡され、毒味でまずは、ひとかじり。


「っん!まぁ!」


「どうじゃ?良いか?」


「はい、女王様。」


「うむ、では。」


「おお!何とスルッと喉越し良くさっぱりとしかし見た目とは違い優しいしっかりとした濃い味が!うむ!美味である!」


「良かったです。」


「お主、名は?」


「タクミと言います。そして、今出てきた俺のツレはスライムがポヨで鳥の方がグリです。」


「そうか。それにしても面白いのぉ。話は聞かせてもらったぞ。我らに反物を織れとな?」


「はい、できれば仕立てなどもお願いできれば幸いです。」


「ほほう?それに見合うだけの対価とはこれの事か?」


「いえ、他にも美味いものは沢山ありますし、これだけではないのですが。」


「ほう?我らは食には全く困っておらぬのだ。何故なら我らは独自に狩りもできるし、特に飢えてもおらぬ。さらに欲しい物など無いのだ。そんな我らにどんな魅力的な対価を払う事ができるのだ?」


「そうですか。お気に召しては頂けませんか。うーん。何がいいんでしょう?あなた方は素晴らしい能力をお持ちだし、お洋服だって素晴らしい物を作る事ができる。それに住処だって立派なお家があるわけですし、困りましたね。」


「お主は変わっておるな。人族ならば力ずくで従魔にしようとするかと思ったが違うようだな。お主ならばそれもできる力を持っておるというのに。」


「そんな事はありませんよ。」


「フッ。そこの従魔は我らの糸を容易く切り、そして毒も効かぬ。それにその鳥の姿をしておる奴はキンググリフィンであろう?あの者が本来の姿をとれば、この住処などはたちまち崩れ去るであろう。何故それをせぬ?何故力で従えぬのだ?」


「そうですねぇ。武力を持って相手を従えても結局は恨みや憎しみしか湧かないし、そんな相手の為に良い物を作りたいとは思わないと思うからです。それに、せっかく言葉を交わせる相手なのだから力ではなく言葉で関係を作りたい。そう思うからです。」


「お主らを食うとは思わぬか?」


「そうですね。ここはあまり人の来ない奥地。あなた方はこの住処周辺の魔物やこの住処を狙い侵略しようとする者に糸を吐き食事をとっている様子ですからあえて人族や獣人を狙って食している感じがしなかったので、お誘いしました。それにはっきり言って俺たち人族よりも獣や魔物の肉の方が美味しいでしょうし。」


「ハッハッハッハ。お主は変わっておるな。いかにも。人族なんぞ美味くも何とも無いのだ。ここには獣や知恵の乏しい魔物がわんさかと引っかかる。あえて人族のような不味いものを食わずとも食には困らぬのだ。フッフッフッ面白い。しかし、何故我らなのだ?人族でもこの糸を織り成す事は出来るであろう?」


「それが、このグリの話によれば難しいそうです。あなた方の糸は最上級のスキルがないと織りなせないとか。」


「ほう?たしかに我らは先祖より受け継いだ神の力も及ばぬ織物の能力がある。それにより身を滅ぼしたのだがな。」


「はい、是非、そのお力をお借りしたいのです。その素晴らしい才能は多くの人に見せるべきです。あの蜘蛛の罠だってあんなに素晴らしい出来栄えなんですよ!刺繍とかでお花を描いたりレースを作ったり罠だけでなく形を残すべきです。」


「うむ、たしかに我らの織り成す物は芸術的価値があると我も思う。仕立てる能力も時を経て身につき今では高い能力をほこる。だが、それをお前達にして何とする?」


「そうですね。私は商人をしていてお店を始めます。そこでテントを販売したいと思っているのですが、それには火にも水にも強いあなた方の糸で作った生地で作りたいのです。それにあなた方の糸を使えば、今までにはない、防具服も作れますし、軽い素材のドレスやレースだって出来る!女性の多くの高価で豪華なドレスは非常に重いと聞きます。それをこの細い輝く糸を使い薄い反物を作ればふんわりと軽やかな生地もできて、それは美しいでしょうし、女性達も重い服に苦労する事なくお洒落をさらに楽しめるでしょう。だからこそ、どうしてもご協力頂きたいのです。」


「ほう?手に入れたいのはわかるが我らにメリットが無い以上は平行線だな。」


「そうですね。わかりました。諦めます。お時間をとらせてすみませんでした。」


「フッフッフッ武力では最後まで来ないのだなぁ。」


「もちろんですよ。ここまで話を聞いてくださったお礼をしたいのですが、何か望まれるものはありますか?俺たちの命以外で。」


「そうだなぁ。先ほどの卵豆腐の作り方と言いたいが材料が取れそうにないからな。鳥の卵は流石に我らの罠には引っかからぬ。あの料理を皆に振る舞いたい。大量に用意できるか?」


「はい。この、マジックバックの中に入っています。これごと差し上げますよ。」


「うむ、そのマジックバックの柄は良い図案だな。」


「ええ、知り合いの女性が作ってくださいました。」


「うむ、人族はどのようなドレスが流行っておるのだ?」


「俺は男なのであまり詳しくないのですが・・・あっ!お待ちください。」


俺はサーチで最近の貴族の女性が好んで着ているドレスやその、刺繍にレースの絵柄を検索してアイテムボックスから羊皮紙を取り出し、そこに魔法で転写した。


「これをどうぞ。」


「お主、面白い魔法を使うな。どれ、そこの者、それを受け取り妾へ見せよ。」


「はっ!」


俺は働き蜘蛛の一人に転写した物を渡し、その場で彼女はそれを広げて女王に見えるように掲げた。


「ほほう。これは面白いのぉ。それに美しい。この形も良いな。ウエストがくびれてシュッとしておる。ふむふむ、それにこの刺繍も良くできておる。さらにレースだ。かなり複雑でいてうるさくないのが良い。唐草模様が、こんなに美しく見えるとはな。」


なんか興味を引けたようだ。


「うむ、これを今度は作ってみるか。フフフフフ。おい、お主と、契約を結べばこのような織物を沢山作るという事か?」


「そうですね。あとは、俺のテントもこういう形で、ここに布を張るのですが、買い手の紋章なども入れてもらったりすると思います。」


「ほう?うむ、面白さそうだ。よし、妾の暇つぶしに作ってやろうではないか。」


「えええええ?????なんで???」


「おや?お前は反物や仕立てをしてもらいに、今まで延々と我らを口説いておったのだろ?何を驚く事があるのだ?」


「だって、女王自ら、しかも暇つぶしで作ってくださるって、そりゃ驚くでしょう?」


「そうか?我は単にお主が気に入った。それにこの図案も。我らは罠作りに誇りを持ち誰が一番美しく繊細で破れない物を作れるか競ったりするがここには我らの敵もおらぬし暇なのだ。罠を仕掛けたりする兵も居れば食事を調理する者も子を教育する者もここにはおる。この中で一番暇なのは妾じゃ。他の者は忙しくしておるゆえ、仕事を増やせばきっと負担にもなろう。妾ならば道楽でできるからな。」


「でも、結構な量になりますよ?」


「フッフッフッ心配か?妾はこやつらの能力の100倍は長けておるから、こやつら100匹に常日頃の仕事以外にお主の仕事を追加するより我が一人でやった方が早いのだ。」


「そ、そんなに違うんですか?」


「疑うならば、そこのキンググリフィンに聞いてみよ。王と、一般兵の力や能力の差をな。」


「どうなんだ?グリ?」


「100倍か。もっとではないか?アラクネーの女王よ。」


「やっと口を開きおったな。キンググリフィン。お主に問う。何故こやつの従魔に?」


「暇つぶしだ。」


「ほう?お主の契約は何が報酬だ?」


「我はこやつの作る飯だ。旨いぞ。」


「そうか、それでこやつはあれ程までに食い物をアピールしておったのか。しかし、お前ともあろうものが従魔とはな。」


「フンッ。その方が人族の街に行くには都合が良いのでな。契約しておらぬと結界石に阻まれ入る事すらできぬゆえ、こやつと行動を共にする為だけの契約だ。それに切ろうと思えば我の力があればいつでも切れるしな。」


「そうか。それもそうだな。お主なら造作も無いであろうな。」


「俺もそう思います。もしくは一口で食うか又はひとふみですね。」


「何?契約で人族を殺せないように縛らなかったのか?」


「うーん、人をむやみに殺さないと言う約束はしましたけど、特にこれと言って約束破ったら何か呪いがかかるとか罰があるとかそういうものはないですね。それに、盗賊だって悪い人族だっていますしね。」


「これは驚いた。普通は契約をもってして動きを縛るのだがなぁ。ふむ、これは面白いのぉ。」


「そうですか?」


「よし、どうせ妾も長生きで暇を持て余しておったしな。我もお主の従魔になってやるぞ。」


「「「「「えええええ???」」」」」


読んで頂きありがとうございます。

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