14.俺と魔物と海
俺は今、海にいる。
眩しい日差しが照りつける、まるで南国にでもきたかのようなスカイブルーの空にキラキラ輝く砂浜。
岸の方にはヤシの木が沢山生えている。
そう、ここはこの島の北部にある温度が高いエリア。
年中最低気温は20℃を下回ることはなく、最高気温は33℃ほど。
気温が普段いる場所とは違うため、生えてる植物や魔物もまるで異なる。
どうしてこんな所にいるかというと、それは遡ること1時間ほど前────。
「おい、お主 何やら美味そうな匂いがする。なんだその匂いは…」
わからないと告げると…
「隠し立てするならば今すぐお前を頭から食らうぞ」
と、脅され心底ビビりながらも思い出した魔物の好物、マーニンビートの異変種を取り出した。
「この匂いですか?」
すると
「その匂いに近いがそれはこの地に生えておるものだ。我の求めるものは今までに食したことのない、もっと強く惹かれる香りだ」
「あ────っ!もしかしてっ」
家を出る前にマーニンビートの品種改良をしていた事を思い出し、研究中の 魔力を注いだ物と 水魔法の物と回復魔法の三種類の異変種マーニンビートを取り出す。
「これですかね?」
「うむ、見た目は変わらぬが香りがあきらかに違う。お主、我に頭から食われたくなければそれをよこせ」
と言われ俺は少しためらった。
「まだ、実験中の野菜なんですけど体に害はないと思いますが何かあるといけないので…どうしたものか」
「そんな小さな食べ物一つで我の身体に害をなす事など不可能だ。良いから早くそれをよこせ」
こいつ、さっき俺にそう急くなとか言ってたくせに随分食いしん坊だな。
「では、もしよければこのマーニンビートと食べ比べて味の感想を聞かせてもらえますか?」
この地に生えているマーニンビートと研究中の三本を腕に抱えて言うと…
「仕方がない。我は長生きなのでグルメだ。味を述べてやろう」
そう偉そうに言って器用に前足でつかんで、デカイくちばしの中に放り込んだ。
「これはこの地だけに生えるものだ。我らの好物であり、肉しか食わぬ者どもも、これだけは食う不思議な物だ。それから、これを食って育った魔物はなぜか肉が旨い。だから我もこの地に来ては狩をするのだ」
そう言うと次に魔力の注いだ物を食べ
「香りが良く柔らかくて大きいのぉ。あれは旨いが我からすれば小さすぎる。味はさっきの物とは話にならぬほど、これは旨い」
「じゃあ次のはどうです?」
次は水魔法で育てたものだ。
「これも先ほど食べたものと変わらず旨いが、これの方が水分が多くて喉を潤すのに良いな。この地の水は旨いが他の地はすこぶる水が不味い。そういう地では水分の多い木ノ実を食うのだ」
感想を聞いた俺はこの地の水が旨い事を知る。
魔物でも水魔法とか使える奴もいるだろうに自分で飲んだりしないんだろうか。
ついうっかりタメ口で聞いてしまった。
「なぁ、水魔法で飲んだりしないのか?」
「うむ、そういう者もおるが、我はこの美しい羽があるだろう。水魔法で出しても羽が落ちて入るので自分で出しては飲まぬな」
あっぶねー。でもこいつ、しっかり話を聞いて答えてくれるし言葉遣いとかたいして気にもしてないし、実はいい奴かもしれない。
しかも羽自慢したり、ちょっと不器用な所とか可愛くなってきたぞ。
「そうですか。では、最後の物もお願いできますか?」
「うむ、よかろう。食ってやろうではないか」
前足でつかんでパクっとクチバシに放り投げた。
バリバリバリ。
すると急に魔物の体が光った!
「な、なんだ!お、おい、大丈夫か?」
「おぉ! なんという事だー! 我の脚が! おい、人族!これはどういう事だ、何なのだ!」
「え? あ、脚? 何か脚におこったのか? 痛むのか?」
物凄い勢いで怒鳴られ、めちゃくちゃ圧倒されてまたしても腰が抜けそうになったが、もし体を害したなら、食わせた俺の責任だから治さなければならない。
すると急に魔物は笑い出した。
「そうではない、そうではないのだ! フハハハハハ! 我の美しくたくましい脚が治っているのだ!」
「ん? おい、どういう事だ?俺にはさっぱり……」
「うむ、よかろう。話してやろう。我は300年ほど前にエンシェントドラゴンと少しやり合ってな。その時に油断して、もちろん負けはしなかったが、奴が死ぬ間際に脚をかまれてな。それからずっと元のように大地や空を風のように駆け抜ける事が叶わなかった。それがお主のビートとやらを食った途端、我の脚が元に戻ったのだ」
「お前、怪我が治ったのか?」
「そのようだ」
「そうか。俺はてっきり毒か何かかと思ったよ。とにかく治ったなら、よかったな」
「うむ、お主に何か礼をせねばな。よし、褒美をやろう。何か欲しいものあるか?」
「いや、いーよ別に。偶然治っただけだし。それに味も聞けたしな。効果もなんとなくわかったし」
魔物でも礼とかするんだな。
「我は誇り高く、義理堅い崇高なグリフィンの王だ。それが何も礼を尽くさぬとは恥となる。何でも良い。何か言え。どこか行きたい所でも良いぞ。その短い手足では我のように大空を舞う事も大地を駆け抜ける事もできまい」
「悪かったな、短い足でよ。えー行きたい所? う────ん」
「早く言え、さもなくば食うぞ」
礼をするってやつの言う言葉じゃないよな。
う────ん。
「あっ!おまえさぁ海とかいけるか?」
「我を誰だと思っておる。そんな所すぐに行けるに決まっておろう」
「本当か?じゃあ海に連れてってくれよ」
「お主、そんな所に行きたいのか?金の財宝の山とかではなく、海で良いのだな?」
「ん?財宝?そんな所、おまえ知ってんの? でも俺、海がいいな。財宝なんて食えないし使い道が今の俺にはないからさぁ」
「ふむ、お主なかなか面白い事を言うのぉ。よし、気に入った。しばしお主に付き合ってやろう」
「ん?海に連れてってくれるのか?」
「そう言っておる。早く背に乗れ」
「いや、こっから馬で飛ばしても最低1時間はかかるぞ!大丈夫なのか?」
「お主、あんな下等な馬ごときと一緒にするでない。あんなものは我の餌にすぎん。速さを比べるなど愚の骨頂だ」
そうでした、そうでした。
あなた、馬の魔物丸呑みしておいででしたよね。
あら、なんかめちゃくちゃ怒ってらっしゃる。
ま、何言ってるかよくわからないけど、とにかく大丈夫なのね。
「わかった。じゃあ、海までひとっ走り頼む」
「よし、では背に乗るが良い。人族で我らの背に乗ったものなど未だかつておらん。さらにグリフィンの王の中の王。この我の背に乗れる事を有り難く思え」
「はいはい。わかりました、わかりました。ありがとうございます〜」
グリフィンが頭を低くして金色に輝くクチバシを地面につけてくれたので、そこにちょこんと乗った。
するとグリフィンが首をひねり銀色に輝く美しい背中にクチバシをつけ俺を運んでくれた。
硬くしっかりとした羽だがチクチクしたりはしない。
羽の中に埋もれるような状態になった。
「おい、どこ持ったらいーんだ?これじゃ俺、たぶん飛ばされるぞ」
「何?世話の焼けるやつだな。ではこれでどうだ?」
魔物が魔法でくちばしの根元に輪っかを通した金色の手綱のような紐を俺によこした。
「おっ!サンキュー。これなら安心だ。お前便利な魔法使えるんだな」
「我をなんだと思っておる! 我はグリフィンの王だ。魔法くらい使えるに決まっておろう。まぁ、よい、しっかり掴まっておれ。飛ばされても、そこまで責任はもたん」
「お、おう。怖いこと言うなよ。とりあえず落ちない程度に手加減してくれよ」
力強く大地を蹴り出し、湖を覆い尽くすかというほどの息を呑むほど美しい大きな羽をバサッ バサッ と羽ばたかせ、砂煙の舞う大地を後にした。
「ゆ、ゆれる────────!」
俺は必死に手綱を握った。
もはや、しがみつくような状況だ。
ハリウッドセレブが使うようなビジネス機やプライベートジェット、もしくはダブル連結したトラックやトレーラーにシートベルトも椅子も屋根もない丸裸の状態で乗ってるわけだから揺れるのは当たり前。
に、してもだ。
俺は結界があるから風圧になんとか耐えてるが、もしこれが結界が無ければ…………考えたら恐ろしい。
しばらくすると飛行機の離陸と同じように身体がフワッと浮く感覚がして揺れはおさまり、晴れ渡る大空をものすごいスピードで飛んでいく。
「お────い、なんか揺れなくなったけどぉ──なんでだぁ────?」
俺が大声で叫ぶように聞くとなんと念話で話しかけてきた。
『うむ、我は風魔法を操り飛行する。それゆえ、さほど翼をばたつかせなくとも広げておるだけで優雅に舞うことができる。どうだ、快適であろう?』
「お前すごいなぁ──。しかも念話で話せるのか──?俺も使いたいぃ────!どうやってやるんだぁ──?」
『適性さえあれば使えるはずだ。我と話す意識をしながら念じてみよ。』
意識しながら念じる?こうかな?
『どうだ?聞こえるか?』
『ほう、適性はあるようだな。』
『凄い!これなら大声出さなくてもすむ!』
『そうか、前を見てみよ。まもなく着くぞ。』
『えっ?まだ、5分くらいしか経ってないぞ?』
グリフィンにしがみつきながら念話する事に集中していたので周りの景色を見る余裕など微塵もなく促されるまで、ひたすら手綱とグリフィンの首元しか見ていなかった。
顔を上げると俺たちの前に太陽に照らされたターコイズブルーの海が広がっている。
『うわぁ──、綺麗だなぁ──。じゃあ、浜辺で降ろしてくれるか?』
『うむ、あいわかった。』
すると急にグリフィンは首を下げ獲物を狙うかのように急降下しだした!
「う、うわあぁぁぁぁぁぁぁ────」
俺の悲鳴が虚しく晴れて澄み渡った青空に響き渡る。
するとあっという間に浜辺の砂が見えてきた!
「ぶ、ぶつかるうぅぅぅぅ────」
すると地面ギリギリのところでふわりと体勢を整え、バサッ バサッ とゆったり地面に降り立った。
周りに砂煙が舞う。
俺はジェットコースターの急転直下を思い出し息を吐き出した。歯を食いしばり息つく間など全くなかった。
「すぅ──はぁ────」
「死ぬかと思った」
「そんなわけがなかろう。これしきの事で軟弱なやつだ」
「悪かったなぁ、軟弱で」
────こうして俺はこの地にたどり着いた。
読んで頂きありがとうございます




